誰一人取り残さない: なぜ障がいをもつ人のインクルージョンが重要なのか

アルニー・リマニー博士、タイ身体障害者協会、教育・雇用アドバイザー Association of the Physically Handicapped of Thailand (APHT)

タイの津波避難訓練には全生徒が参加し、身体障がいをもつ学生のために、避難経路が車いす利用可能かどうか確認作業が行われました。写真:パキン・メディア/ UNDPタイ

世界で最も災害が発生しやすいアジア太平洋地域には、6億5千万人の障がいをもつ人が暮らしています。障がいをもつ人は、災害で死亡する可能性が4倍高いと言われています。彼らの具体的なニーズに基づき、標準的なサポートと特別なサポートの両方を提供する必要があるのです。

しかし残念ながら、防災計画の過程において障がいをもつ人の参加が欠如しており、支援がニーズに対応できていないのが現状です。場合によっては、障がいをもつ人は、防災訓練やその他の災害の準備アクティビティにも参加できていないのです。

写真:パキン・メディア/ UNDPタイ

タイ王国は、第11条で障がいをもつ人も含めた防災について言及されている障がい者の権利に関する条約(CRPD)を批准していますが、障がいをもつ人の完全参加は広く実践されていません。

この問題を解決するため、政府、民間機関及び市民社会組織(CSO)が改善に向け努力を行っています。学校や地域コミュニティでは認知向上キャンペーンや防災プログラムが実施されていますし、障がいをもつ人のニーズを適切に把握している障がい当事者や障がい当事者団体(DPO)等に参加をしてもらい、災害事前準備計画の策定が進められています。

障がいをもつ人々の完全参加を実現するには、年齢、身体的な特徴、障がいの有無に関わらず、全ての人がアクセスでき、理解でき、利用できる環境を作り出す必要があります。ユニバーサルデザインとして知られているこのコンセプトは、特別な条件ではなく、災害や緊急事態が発生した時の情報、交通アクセスなどに関する普遍的な権利なのです。

写真:グラゴッド チャムガモン/ UNDPタイ

簡潔にまとめると、早期警戒システム及び緊急時に流される情報は、感覚障がいをもつ人(聴覚障がいをもつ人、視覚障がいをもつ人、視聴覚障がいをもつ人)、知的障がいをもつ人、精神的障がいまたは行動障がいをもつ人、または年齢により何らかの制限をもつ人等、全ての人がアクセスでき、理解できるものでなくてはなりません。

写真:グラゴッド チャムガモン/ UNDPタイ

移動手段については、障がいをもつ人の避難、健康状態に関わる非常に重要な要素です。避難計画を立てる際には、障がいをもつ人がどのように安全な場所まで移動できるかを事前に特定する必要があります:徒歩、バン、普通自動車、その他の交通手段;また誰が避難を援助するのか。さらには、女性・女児のグループに対する配慮や、女性支援キットの適切な提供等も考慮する必要があります。

現在実施されている一例をご紹介します。地方自治体等の政府機関は地域社会の障がい当事者団体(DPO)から情報を入手し、防災マネジメント計画を行うため密に連携を取り合っています。地区行政機構(タイ語では「オーボートー」と呼ばれている)や県行政機構(タイ語では「オーボーチョー」と呼ばれている)は県内の障がいをもつ人々の情報をもっているため、コミュニティレベルの防災において重要な役割を果たしています。これらの地方の事務所は、学校、病院、障がいをもつ人々を代表する団体等と協力し、地域でサポートネットワークを構築しているのです。

写真:パキン・メディア/ UNDPタイ

国レベルでは、障がい者エンパワメント局 (Department of the Empowerment of Persons with Disabilities) が国の障がい分野の中心であり、災害防止軽減局は防災マネジメントの担当です。これらの2つの政府機関は、障がいをもつ人の防災のため非常に重要な役割を担っています。彼らは災害準備とマネジメントのため互いに連携を取り合っています。

タイ国のパンガー県では、国連開発計画(UNDP)と日本政府の支援を受けて行われた津波避難訓練中に、全ての関係者がどのように包括的災害準備を可能にするかが実証されました。訓練には全生徒が参加し、身体障がいをもつ学生のために、避難経路が車いす利用可能かどうか確認する作業が行われました。高学年は低学年のサポートができるよう訓練を受け、教員は障がいをもつ学生を支援するための指導を受けました。地域社会、地方の災害管理当局、赤十字のような国際機関からの支援は、誰一人取り残さない、を実現する一歩となりました。

写真:パキン・メディア/ UNDPタイ

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