Yield Space: 利用できないリザーブの仮想化

Bakuchi
Dec 12, 2022

資本効率の改善

内容

  • Yield Spaceでの流動性提供
  • プールの初期化
  • なぜ利用できないリザーブが存在するのか
  • どのくらい利用できないリザーブがあるのか
  • 利用できないリザーブの性質
  • 利用できないリザーブとLPトークンの総供給量の関係
  • まとめと結論

Yield Spaceでの流動性提供

Yield Spaceでは流動性提供資産ペアとして、DAIとfyDAI(ゼロクーポン債トークン)を用いますが、流動性提供の仕組み自体は、Uniswapとの違いはありません。

  • すでにプールにあるDAIとfyDAI(ゼロクーポン債トークン)に比例してDAIとfyDAIを預け入れ、同じ割合で新しく発行されたLPトークンを受け取 る。つまり、プール内のDAIとfyDAIの数量がm倍になるなら、LPトークンの総発行量のm倍のLPトークンが新規発行される。
  • 誰でもプールに流動性を追加できる。

プールの初期化

プールを新たに作成する際には、プールに同量のDAIとfyDAIを預けます。初期状態ではゼロクーポン債の市場価格が1、金利が0%なので、ゼロクーポン債トークンを売って、目標となる金利になるまで変化させます。
金利とプール内のアセット量の関係式:詳細 やさしいYieldSpace

なぜ利用できないリザーブが存在するのか

通常、1 fyDAI(ゼロクーポン債トークン)が1DAIを超える価格で取引されることはないです。プロトコル側(Yield Protocol側)で常に1DAIを預けることで、ゼロクーポン債を発行できるため敢えて市場で購入する理由がないためです。

よって、fyDAIの価格が1 DAIを超えないことを前提とすることができます。価格が1を超えることをコントラクトレベルで禁止することによって、プール内のfyDAI(以下、fyDAIリザーブと呼ぶ)がDAIよりも常に多いという強力な保証ができます。

言い換えると、プール内のfyDAIの一部は全く使われないので、流動性提供者はそもそも預ける必要すらありません。この預ける必要すらない(利用できない)リザーブのことをVirtual reserve(仮想的なリザーブ)と定義します。流動性提供者は実在するfyDAIリザーブに比例するfyDAIを提供するだけで済み、資本効率を改善することができます。

まず、t -> 1、すなわちプールの初期化の単純な場合を考えてみましょう。
アリスが1000DAIと1000 fyDAIでプールを初期化するとします。初期化時のfyDAIの価格は1DAIなので、1000 fyDAI全てが仮想的なリザーブにでき、実際にはアリスはDAIのみを流動性提供するだけで済みます。そして、1000シェアのLPトークンが発行されます。

どのくらい利用できないリザーブがあるのか

より一般的な場合で、流動性提供者がどのくらいfyDAIを預けなくて済むかを考えてみましょう。(手数料ゼロとする)

満期までの時間がtのとき、買うことができない(利用できない)プール内のfyDAIの数量はfyDAIのとれる価格範囲の最大値1DAIでスワップしたときにプールに残るfyDAIの数量と言い換えることができます。

図の灰色の部分が利用できないfyDAIリザーブに相当します。

これを式で表すと、

ここで、

は利用できないプール内のfyDAI数量, x_startはスワップ前のDAIリザーブ, y_startはスワップ前のfyDAIリザーブです。

この式を仮想リザーブについて解くと、

となります。分子の部分はスワップの前後で不変であることを踏まえると、スワップが発生しても、利用できないfyDAIリザーブが変化しないということは合点がいきますね。(手数料抜き)

fyDAIのリザーブのうちどのくらいが利用できないリザーブとなっているかを以下に図示します。
横軸のインプライドフォワードレートは満期までHODLした場合のfyDAIのAPY、縦軸はfyDAIリザーブのうち仮想化できるものの割合を表します。10%程度の現実的なインプライドフォワードレートではfyDAIリザーブのうち95%以上を仮想的なリザーブにでき、流動性提供者は本来預けるべきfyDAI量の95%を削減できます。

利用できないリザーブの性質をまとめる

  1. 式の分子は不変量なので、スワップ前後で利用できないfyDAIリザーブは不変である。または、手数料の分増加する。
  2. 流動性が提供されると、すでにプール内にあるDAIとfyDAI, LPトークンの総供給量と同じ比率で利用できないリザーブも増減する。
  3. プールが初期化されたとき(t = 1のとき)、預けられたDAIと同数量のLPトークンが発行される。初期化時の利用できないリザーブはこの時発行したLPトークン量に等しい。
  4. 時間の経過とともにfyDAIの価格が上がるので、利用できないfyDAIリザーブは満期に近づくにつれて単調増加する。

これらの性質を満たすので、利用できないリザーブはLPトークンの総供給量以上になるという関係が成り立ちそうです。(プールにfyDAIを寄付するなどは除く)

厳密な証明はYield SpaceのWhitepaperを参照してください!自分も読みましたが、ミスが多いので注意してください。

利用できないリザーブとLPトークンの総供給量の関係

最後に、具体例を見てみましょう。
以下の図は、トレーダーが各時刻でfyDAIの売買や流動性提供すると、リザーブやLPトークンの供給量がどのように変化するかを示しています

グラフから以下のYield Spaceの性質も確認できます。

  • fyDAI価格は概ね時間の経過とともに上がる。
  • インプライドレートはスワップが起きた時のみ変化する。
  • インバリアント(ここのインバリアントは冪乗和をsで割っている)はスワップと流動性提供で不変である。(図から読み取りづらいですが時間の経過とともに微増しています)

まとめと結論

Yield Spaceは利用できないリザーブを仮想化しました。インプライドレート75%未満なら流動性提供者が本来預けるべきfyDAI数量の75%以上を削減します。

今回は単純化して話を進めるために、手数料をゼロとしたり細かな部分は省いています。実際にはスワップ手数料を設けたり、プールにfyDAIを寄付する行為などを対策するために式が微妙に変わります。

YieldSpace: An Automated Liquidity Provider for Fixed Yield Tokens

YieldSpace[public]

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