ビットコインと日本円は何が違うのか?

Mitsuta
8 min readDec 17, 2017

ビットコインやブロックチェーンほど、その意義や用途に関して異なる意見が並行して存在する例は他に無いと思う。
ビットコインとブロックチェーンの発明は単に「新しい技術が生まれた」だけでもなく、「新しいお金が生まれた」だけでもなく、ましてや「新しいババ抜き装置が生まれた」だけでもない。人は新しい物を目の当たりにしたとき、既に持っている知識から近しい物に置き換えて理解しようとする習性があけど、ビットコインは既存のどの領域からも少し距離がある場所にある。ビットコインによって生まれた「何か」は非常に捉えづらいけど、本当に新しいと感じている。
この一年以上の間、寝ても覚めてもビットコインについて考えてきたけどまとまった文章にはしてなかったので、ここで一度自分なりの解釈でビットコインとブロックチェーンについて言語化してみようと思った。

ブロックチェーンの発明はサイコロの発明に似ている

ブロックチェーンの発明はいくつかの点でサイコロの発明に似ている。

・関与する者全員がその意味を理解している必要がある
・関与する者全員が意味を理解しているので結果が意味を持つ
・その原型になるものは発明前からあった

サイコロを使ってゲームをするときは、参加者全員が「出る目を恣意的にコントロールできない」ということに納得していないと成り立たない。誰でも一度はサイコロを振ったことがあるので、確かにこれは偶然の結果なのだということはすぐに体感できる。いかさま師が恣意的にコントロールできるようなサイコロを作ったら、それはもうサイコロとしての役割を果たせない。
もし目が出た後に結果を反故にしたらそれは契約違反になる。出る目は誰もコントロールできない偶然の結果だということをサイコロを振る前に納得していたことは、誰の目にも明らかだったはずだからだ。

ではブロックチェーンの場合はどうだろうか。
PoWの場合、次のブロックで有効なナンスを見つけるに至るまでに大量の数値計算を繰り返したことが客観的に見て取れる。次のブロックで有効な値を見つけるハッシュ計算は不可逆だという数学的な特性はサイコロの目ほど直感的ではないけど、よく調べれば納得することができる。その他、電子署名の仕組みなんかも、複雑ではあるものの同様に納得することができる。

参加者全員が納得している約束は「合意」と呼ばれている。元々の英語の単語はconsensusだ(agreementではない)。consensusでググったら語源のラテン語では「お互いに同様に感じる」という意味らしい。こっちのほうがニュアンスが近い。

ビットコインのネットワークの参加者は「ブロック生成に必要なハッシュ計算は不可逆だ」という数学的な特性にも「合意」し、ブロックチェーンの仕様上の取り決め(データ構造やデータ一貫性のための制約)にも「合意」している。PoWだけでなくPoSの場合も同様に「その通貨建てで多くの資産を保有している者はその通貨にとって不利益になる選択をすることはない」という行動経済学的な考えに「合意」している。

ビットコインのネットワークに接続したり、ビットコインを保有するということは、その中で前提とされている約束事について暗黙的に契約を交わしているようなものだ。インターネットに分散して存在する参加者同士で合意を取る仕組みがブロックチェーンとも言える。(分散合意という言葉はデータベース同士の同期を取る時に使われることもあるけど、この意味は今は忘れてほしい)

そしてサイコロもビットコインもその形状や技術的特性について多くの人が知っている状況の中で、敢えて意味付けを行ったことでこの世に登場した。

「合意」をもっと深掘りする

ブロックチェーンによる「合意」が仮想通貨を生み出したことを一番強く実感したのはビットコインキャッシュが誕生した時だ。

ビットコインキャッシュは2017年8月にビットコインをハードフォーク(合意内容を互換性なく変更すること)して生まれた。8月1日にハードフォークが予告されたが、最初のうちはブロックはなかなか作られなかった。ブロックチェーンをベースにした仮想通貨において、ブロックが作られないことは通貨としての死を意味する。それでも、ビットコインキャッシュの売買機能を提供する取引所が存在し、存続の確信のない通貨が売買されるという状態になっていた。

予告された時刻から6時間かかってやっといくつかのブロックが作られたが、これだけでは存続するとは言い切れない状況。数日間は本当にどうなるか分からなかった。ブロックが作られるたび、ブロックが作られれば通貨として存続できるという合意内容を確かめるかのように価格が維持されていった。ビットコインなら10分に1回のペースでブロックが作られるので、普段から存続を心配することはないのだけど、重要な何かを確かめ合うプロセスだったのだと感じた。

売買される場があるとなるとブロックを生成する動機が生まれ、マイナーが集まってくる。その後も価格が上昇していったことで、ハッシュパワー(費やした時間あたりの計算リソース)でビットコインに肩を並べるような瞬間もあったほどだ。

合意は通貨の基礎になる。
日本円も保有した時点で価格の変動リスクを負うことに合意し、中央銀行への信頼という形でリスクを取っている。普段意識することはないけど、「中央銀行がその通貨の価格を大きく変動させるようなことをしないはずだ」ということにも合意している。保有と同時に何かに合意しているのは世の中の全ての通貨に共通していることだ。

日本円とビットコインの根本的な違い

本題の日本円とビットコインの違いに話を進める。利用者の視点だと早くて安くて便利ならどっちも違いはないかもしれないけど、一番根源的な違いはこれまで説明してきた合意の根拠だと思っている。

日本円の発行体である日本銀行は、物価を安定させるという義務を負うと同時に、独自の裁量で発行数を調整したり、紙幣を偽造したら処罰できるといったような権力を持っている(実際に処罰するのは警察や裁判官だけどここでは主権国家という意味で同じ主体として考える)。

このように市民と国家の間で暗黙的に結ばれている契約は社会契約と呼ばれている。主権国家の正当性の根拠を表す重要な言葉だ。

一方でビットコインにはこの社会契約が無い。あくまで参加者同士の合意があってこそ生き残れる存在だ。

そして重要な点として、ビットコインの合意の根拠は技術的なものを拠り所にしているので、技術によって拡張可能なのだ。日本円の運用で制約になるのは日本円の利用者と日本銀行の間で結ばれている社会契約上アリかナシかという点に基づくものだけど、ビットコインは技術が制約になる。このようなお金というのは歴史上存在していない。そういう意味でブロックチェーンは決してバズワードではないと思っている。

仮想通貨に関わるエコシステムでは非中央集権的なことが重視されるけど、それは単に国家が信用出来ないというアナーキーな思想によるものだけではなくて、非中央集権的にしないと合意の根拠がどこか別のところに移ってしまうということ。非中央集権的にしておくことで、技術的に拡張可能な余地を残せるとも言える。

最後に

この一年間で徐々に自分の中で消化出来てきた考えを文章にしてみた。ここに書かれているようなことは、ひょっとしたらビットコインの開発コミュニティに昔からいる人達には共通認識としてあるのかもしれないけど、あまり言語化されてないように思う。

最後にブロックチェーンについての一つの記事を紹介する。
内容はかなり尖った表現なので一部抜粋しておおまかに要約すると。

第二次大戦中、太平洋の島々の未開の地の住人たちは日本兵の持っている様々な最新の技術を目にする。

日本兵の技術は住人たちにとっては神様による力と区別がつかない。

日本兵が引き上げたあと、住人たちは木で無線機を彫って会話を試みるが動かない。

そして住人たちは日本兵は神様と特別な関係にあったのだと解釈した。

“Blockchain Technology” — I Don’t Think it Means What You Think it Means

https://99bitcoins.com/blockchain-technology/

本当に新しい物は理解の外にある状態で現れる。ビットコインもその一つだと思う。今ある言葉で最も近しい表現が「新しいお金」なだけで正確には「お金」でもないのかもしれない。事細かに説明して、もっと明確にしてみたいけど、今はこの分量で。

共感してくれる人が一人でも増えたら嬉しい。

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