Bitnationの謎 ~1_思想と設計のギャップ~

Bitnationとは

2014年にスタートした、ブロックチェーンを利用した世界初の分散型ボーダーレス国家, Decentralized Borderless Voluntary Nation(DBVN)。

政府が提供するサービス(国民ID発行,紛争解決、安全保障、保険)をブロックチェーン等のテクノロジーによってリプレイスしようとしている。

詳細は前回のブログを参照

「Bitnationの謎」の趣旨

私が初めてBitnationを耳にしたのは2014年半ばのCointelegraphの記事だった。少なからず興味を唆る試みであり、サイトやニュースを貪った記憶がある。然しながら調査を進める中で、いくつか気になる箇所を見つけ、特にコミットもフォローもしていない状態が続いていた。自身の理解に間違いがあるかもしれないので、整理も兼ねて、久しぶりに疑問点を「Bitnationの謎」と題して、一つずつ紐解くことが本連載の趣旨だ。

以下の流れで記事を進めていきたい。

  1. 本記事の問い
  2. 問いの答え
  3. Bitnationの主張
  4. 識者のBitnationへのコメント
  5. 所感

本記事の問い

~1_思想と設計のギャップ~

ボーダーレスな社会を目指すBitnationの思想と、Bitnation内でユーザーが国家を作れる設計には乖離があるのではないか?

記事やサイトを通して多くの「borderless」という単語が出てくる為、

  • 「世界をボーダーレスにしたいのに、なぜユーザーがオリジナルの国家を作れる(サービスリンク)?
  • ボーダーがより増えるんじゃないのか?
  • 所謂コスモポリタニズム(全人類を自分の同胞と捉える思想)ではないのか?

という疑問が生じていた。

今回はこの疑問を謎と称して、彼等の思想やビジョンを解き明かしていきたい。

問いの答え

Bitnationにとってのborderは地理的な境界を示している為、多くの国が共存するボーダーレスなBitnationは存在し得る

インタビュー記事を読み進めると、彼女にとってのborderは地理的なborderだということが理解できた。Borderが地理的境界を指している以上、タイトルの疑問に関して言えば思想と設計の乖離は存在しないことになる。

では、バーチャル国家のBorderにはどう対応していくつもりなのかというと、直接弁明している箇所はないけれど、国籍が自由市場(すべての取引が政府や権力による強制で行われるのではなく、望むものが自発的に取引を行う市場)の前提で全ての話を進めているので、自由市場である為にそもそもBorderは存在しない、とする印象を受けた。(厳密には勿論他者が存在する以上境界が存在するのだけれど、ざっくりの印象)

Bitnationの主張

  • テクノロジーによって更に安価で良質な政府サービスを提供することで、既存の政府による地理的なアパルトヘイトを解消していく
  • 国家の寡占状態は、グローバリゼーションによって自然と淘汰されていくだろう。我々はそのプロセスを早めているつもりだ。ただ、問題はその後に何が起こるか。私は、国連の様な一つの組織が全てを兼ねる形態でリプレイスすると思っている。このリプレイスは、欲求に身を任せて生きたい人々同士の永久的な戦争に発展する。Bitnationはそんなディストピアに準備して、誰もがフォーク・利用可能なオープンソースな国家モデルを提供する
  • 我々は国家政府や国連の様な組織に対して、より安価・安全・良質なDIY政府サービスを提供する
  • 地理的国家を廃止し、分散化されたオプトイン可能な国家にリプレイスする
  • ジョン・ペリー・バーロウA Declaration of the Independence of Cyberspace (サイバースペース独立宣言) に影響を受けた
  • 評価システムは紛争解決のインセンティブメカニズムとして機能する
  • もしも我々が異なる法を持つ場合、我々にはある法と紛争の仲裁人に準拠するインセンティブが働く。もしあるグループが紛争解決を拒否した場合、彼等の評価へと反映される。更に、もし人々が不要な紛争を発生させた場合、それらも彼等の評価に反映される。

識者のBitnationへのコメント

  • 異なる独立国家システムに属する二者間の紛争を如何に平和的に解決するかは議論の余地がある
  • Bitnationは、安全保障や法機関を完全にブロックチェーン上にホスティングするビジョンを掲げ、政府サービスプロバイダーとしての国家を技術的プラットフォームによって打ち負かそうとしている。然しながら、現代民主国家において、民意の反映は既に一定の成果をあげている
  • 個人的には、純粋な国家を持たないとするBitnationのリバタリアン思想よりも、リバタリアン社会主義の方が好ましい
上記に対するSusanne Tarkowski Tempelhofの反論
右派リバタリアニズムか左派リバタリアニズムかという議論は論点からずれている、自由市場においてどちらの経済モデルが好ましいかで選択されるべきである
  • 法とは、不完全な知識を有する不完全な人間同士の、曖昧で予測不可能なややこしい関係を示すものである。其のような関係は簡単に事前プログラムが出来るものではなく、多くの法律家の仕事は、事実の歪曲を踏まえて、法を解釈していくことである。其のような政治的なネゴシエーションから逃れる為のシステムを構築するというのは、聞こえは良いけれど、結局柔軟性のないテクノクラシー(技術国家)を招くことになる。
Susanne Tarkowski Tempelhofの反論
技術は柔軟性のないものであり、常に人間に適用する訳ではないということを認識するのは重要。我々は必要以上には事前にプログラムするべきでない。
むしろ、全ての法が自由市場で競争するべきであり、人々・国家・共同体と同様の評価を受けるべき。人々は自分にとってその状況における最高の法を選択が出来る

所感

Susanne本人も認めているが、本質的に大事なのは、国籍が自由市場になっていないことだと思う。最終的に国籍が自由市場になった際に発生しうるディストピア(ユートピアの逆の社会、「北斗の拳」の世界観)を危惧してBitnationを起ち上げたと言っているが、まず如何に国籍を自由市場にするかを考えるのが妥当ではないだろうか。

グローバリゼーションが国家の寡占状態を崩壊させるというロジックは、一見正しそうに見えがちだが、実態とは異なる。トランプ大統領が誕生したことに顕著だが、グローバル化が進めば進むほど、我々は国家という足枷をはめられていたと再び認識するはずだ。

彼女の意見に賛同する部分がありつつも、全体として納得出来ないのは、大きく分けて、地理的国家に対する思想プラットフォームベースの解決策、という2点だ。

地理的国家に対する思想

地理的要因を全て排除した国家群に世界をリプレイスするというアイデアは、どこでもドアが発明されたら可能だが、我々人類が土地に縛られている以上、国家という集団が土地に帰属し、国家同士が相互に国境を設定するというのは当然の帰結だと思われる。

プラットフォームベースの解決策

プラットフォームを提供すれば、皆がその上で何かを作るという発想・進め方はあまりうまくないと思っている。ビットコインもそうだったように、まずは皆が熱狂するようなバーチャル国家が必要とされてるのではないだろうか。その後に、ライトコイン、イーサリウム、ライトニングの様なプロジェクトが続々と立ち上がってくるのだと思う。

いま世界から必要とされているのは、思想のプラットフォームではなく、一見狂気の様な純度の高い思想のはずだ。

参考

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