上海にできた「未来のスーパーマーケット」から考えたこと

2015年2月に上海に駐在して、早4ヶ月が経とうとしています。

予定では8月後半の帰国になるため、残りあと2ヶ月しか残されていませんが、実際に住んでいるからこそ体感できる上海のIT事情を、数回に分けて綴っていこうと思います。


今から遡ること約1ヶ月、自分の住む学生寮の最寄り駅前にO2O精品生鲜超市「CeCeLife食理洋尝」というスーパーができました。

駅自体は上海の中心地から地下鉄で15分ほどの「金沙江路」という小ぢんまりとした駅(東京でいう代々木程度の規模感)なのですが、

駅に巨大なデパート(伊勢丹の3倍以上?)が併設されており、そこに行くためにはこのスーパーの前を通る必要があるため、かなりの好立地です。

目の前を通るたびに、小洒落たスーパーだなぐらいにしか思っていませんでしたが、先日 「ChinaStartupNews」編集長の家田さんがTech Crunch Chinaの視察に来られた際に、「O2O」という単語に反応した家田さんに連れられ、覗いてみる機会に恵まれました。

これがまさに、近未来を予感させるスーパーマーケットだったのです。

今すぐに普及するかどうかは別にして、店内には目新しい光景(まさしく近未来のスーパ内の光景?)が広がっていました。

まずは、その様子を簡単にご紹介します。


「未来のスーパーマーケット」の内部

まず、大前提として、ユーザー(買い物客)は、微信API連携した専用アプリをダウンロードする必要があります。

「微信」は、Lineのようなメッセンジャーアプリで、Mikan CEO 宇佐美氏の「Tech Crunch Chinaレポート」に詳しく書かれていますが、中国では圧倒的な存在感を示します。

(SNS機能も併せ持つため、日本でいうFacebook、Twitter、Lineの3つの役割を全て「微信」が担うといったイメージ)

さらに、店頭でのスマホ決済のツールとしてもかなり普及しており、「微信での決済OK」との記載のある店をたびたび目にします。

「微信」がすでにダウンロード済みであると仮定すると、ユーザーは、専用アプリをダウンロードした後、お店をブラブラしながら欲しい商品を探し回ることになります。ここは従来のスーパーと変わりませんね。

もっとも大きな違いは、購入を決めた商品を自分で持ち歩く必要がないところにあります。

というのも、購入を決めた商品を手に取り、カートに入れる代わりに、⑵商品に貼られているバーコードをスマホで読み取っていき、

買い物がすべて完了したら、⑶レジ(上の写真)に行きスマホをレジにかざすだけで決済が完了するという仕組みになっているからです。(一種類の商品を複数購入したいときは、スマホ上で操作可能)

でも、肝心の購入した商品はどうやってもらうの?というと、

並行して、店員さんが店舗に併設された倉庫から商品を出して、袋に詰めておいてくれるので、⑷レジで決済が終わり次第、レジ袋を受け取り颯爽と帰宅という流れになっております。(スマホから得られる情報・機能と実店舗から得られる情報・機能がインターネットで相互に繋がり合い購買に繋がるという、まさにOnline to Offlineの構造)

他にも、

・地区は限定されますが、22時までの時間帯であれば、当日配送も可能。

・個体差のある生鮮食品は、ズバリそのものを購入することも可能。(このバナナは熟れすぎているから、こっちにしようとかありますよね)

のようなオプションもあるようです。

以上をまとめると、ユーザーは、

⑴「微信」API連携した専用アプリをダウンロードする

⑵購入したい商品に貼られているバーコードをスマホで読み取る

⑶レジに行きスマホをレジにかざして決済する

⑷決済が終わり次第、レジ袋を受け取り颯爽と帰宅

という流れで、買い物中手に商品を持つことなく、キャッスレスで快適な買い物が実現できるというわけです。


店舗側のメリット・デメリット

店舗面積の削減、人件費の削減といったわかりやすいメリット以外にも、

ログ解析からユーザーに最適化されたプッシュ通知を出したり、ECに誘導したり、CRMツールとして使ったりと、データを加工してどうにでも利用できそうです。

ただ、店舗の場所が都会でスマホ保有率が高いこと、「微信」が日本でいうFacebook+Line+Twitterレベルのインフラになっていると考えても、ユーザーを微信のAPIを使ったアプリをダウンロードしている人に限定してしまうのは、リスクが高すぎるのでは?と思ってしまいます。


ユーザー側のメリット・デメリット

決済が簡単、ポイントカード、クーポン等を別で管理する必要がない、買い物中荷物を持つ必要がない・・

正直僕にとってはスマートにスーパーで買い物をしているという自己陶酔感が最大のメリットになってしまうくらい、これといったメリットが感じられませんでした。

また、慣れてしまえば問題にならなくなるのでしょうが、スマホで一個一個バーコードを読み取り、数量を指定するという行為は想像以上に煩わしさを伴います。

自分の場合は、アプリの使い方がわからなかったことに加え、言語での意思疎通ままならないため、買い物を開始してから決済が完了するまでの間、一人の店員さんにずっと付き添ってもらうという始末。。


「未来のスーパーマーケット」の帰り道に考えたこと

この日は、配達機能は使わず、そのまま商品を受け取って、帰ってきました。

この「未来のスーパーマーケット」は本当に普及するんだろうか?という疑問符を頭の上に浮かべたまま。

寮までの帰路の途中、ふと「スーパー」で買い物をしてきたという感覚が全くないことに気づきました。むしろ服屋で買い物をしてきたといったイメージに近いかもしれません。

なぜかなと思ったときに、初期の顧客獲得期というのもあるでしょうが、明らかに店舗をうろうろしながら話かけてきてくれる店員さんが多いんですね。

他にも、営業時間中に品出しの必要がほぼなく、レジも上の写真のようにすっきりしているため、スーパー特有のガヤガヤとした雰囲気がなかったという点も大きな要因なのでしょうが、店員さんが自分から話かけてきてくれる!(話かけてきてくれるだけの余裕がある)ことが、僕にとっては後になって真っ先に浮かぶ光景でした。

倉庫からものを出して袋詰めするまでのプロセスまでは見れませんでしたが、同量の商品量を扱う一般的なスーパーに比べて、一店舗全体としてみたときに必要とされる労働力は明らかに少ないはずです。

このテクノロジーの力で要らなくなっら労働力を、現時点では、各店員さんに再分配することで、僕が普段感じている感覚では考えられないほどの人間味のある接客が実現できてるわけですが、今後、この浮いた労働力をどこに分配していくのかが見どころだと思っています。


向かうべき「未来」の方向性

メタップス CEO 佐藤氏はご自身のブログの中で、お金、感情、テクノロジーのベクトルの和の方向が、「未来」の方向性であると述べています。

例えば、他人の感情を無視して経済的な拡大だけを求めていって崩壊していく様を私達はこれまで何度も見てきました。
反対に、多くの人が共感してくれるようなプロジェクトもそこに関わる人達の生活を支えられるだけの経済的価値を生めなければ、長期的には人は離れていってしまいます。誰でもまず最低限の衣食住が必要なためです。
同様に、テクノロジーも、倫理を無視したものは実現可能であってもなかなか世にでることはないです。経済的・社会的価値が見つからなかった研究は予算が削減されてしまうことは日常茶飯事です。

そして同時に、この3つは単体で見ても複雑なのに、それがさらに相互に依存した関係性を持つため、「未来」の方向性を予測することは、容易ではないと続けています。

しかし、以下のように3つの内のどれか一つ(特に感情)が他の2つを圧倒し、補ってしまう場合があるとも述べています。

私は『執着は損得を超える力がある』と思っています。一見矛盾しているように聞こえるのですが、執着(感情)は磁力のように他のリソース(お金・技術)を引き寄せて、足りていない要素を埋めてくれる場合がよくあったからです。過去を振り返って見れば、うまくいったことは実は3つの要素がしっかり噛み合っていた気がします。

今回例に挙げた、上海の「未来のスーパーマーケット」の例でも、お金・技術の至らなさ(店舗側の経費が思ったほど削れない・ユーザーに思ったほどの利便性を提供できない)を、感情(普段感じている感覚では考えられないほどの人間味のある接客)が引き寄せて、足りない部分を埋めていく可能性があるのでしょうか。


向かうべき「自分」の方向性

自分は、現在、アパレル製品を取り扱う商社で働いています。繊維業界は、ファストファッションの台頭によるコスト競争は激しさを増す一方、びっくりするくらいアナログな部分を堅持しており、その競争に労働集約的な方向で真っ向から挑んでいくため、生産現場は疲弊しきっています。

(もちろん、アナログが残っているというのは、デザインや細かい縫製等のその道のプロにしかできないところでではなく、紙で手書きの請求書が来るとかファックスで手書きの発注書を一枚一枚送るとなどという類のものです)

この問題を解決する際に、お金、感情、テクノロジーのベクトル和を見て、適切なタイミングで、事業を立ち上げるのか。それとも感情(執着)に導かれるままに進むのか。

「未来のスーパーマーケット」から様々なことに思いを巡らせた夜でした。