国際関係論 -第6章 国際機関-

Japanese translation of “International Relations” edited by Stephen McGlinchey

国際関係論についての情報サイトE-International Relationsで公開されている教科書“International Relations”の翻訳です。こちらのページから各章へ移動できます。以下、訳文です。

第6章
国際機関
シャゼリナ・Z・アビディン(SHAZELINA Z. ABIDIN)

前章で取り上げたように、私たちは法律の世界に住んでいます。主権国家が主要な法的主体である一方、国際機関は私たちが世界を統治するのを助けるために重要性がますます高まっています。今日の国際システムは、さまざまな声と利害の不協和音で構成されています。国家に加えて、非政府組織、多国籍企業、すべての異なるカテゴリーを組み合わせたハイブリッド組織もあります。

飛行機から外国の土地に踏み出すところを想像してみてください。あなたは飛行機を降りると、移動中に来たかもしれないメッセージをチェックするために、電話の電源を入れます。あなたは、空港の出口へと向かう標識に沿って進み、入国審査をクリアし、指定のコンベアで荷物を受け取ります。その後、「申告なし」の緑の線に従ってまっすぐ進むと空港から出ます。そのような日常的な行動であっても、あなたは少なくとも4つの異なる国際機関の活動に関与しているでしょう。あなたが搭乗した航空機は、国際航空運送協会(IATA : International Air Transport Association)の監督する多くの飛行機の1つであり、国際民間航空機関(ICAO : International Civil Aviation Organization)によって定められた基準によって規制されていました。あなたが電話を使ってメッセージを確認することができたのは、国際電気通信連合(ITU : International Telecommunication Union)の仕事のおかげだったでしょう。税関手続きを簡素化するために世界税関機構(WCO : World Customs Organization)が採択した京都規約により、通関手続きが容易になりました。

これらは、国際機関が私たちの日常生活の不可欠な部分を形成する方法のほんの一部です。これらの組織は、国連人間居住計画のように貧困者の家を建てようと努力しているかもしれませんし、世界保健機関(WHO : World Health Organization)のように全ての人の健康の基準を確保しようと努力しているかもしれませんが、国際機関から逃れることはできません。今日では、国家の声だけが重要な声であるような国際的なシステムを想像することがますます困難になっています。

国際政府機関

政府間組織とも呼ばれる国際政府機関(IGO : international governmental organisation)は、国家だけが参加資格を持つ組織です。この機関は、通常、条約または多国間協定に基づいて設立され、3つ以上の国家で構成されています。加盟国は、組織の運営方法を決定し、組織内で投票し、資金を提供します。

国連(UN : United Nations)は、第二次世界大戦の終結後の1945年に設立され、ほぼ普遍的な参加資格を持つ国際政府機関の代表的な例です。国家のみが国連のメンバーになることができ、加盟国には主権の国際的承認が授けられるため、加盟には価値があります。2017年現在、193の国連加盟国が存在しますが、少数の国家は加盟国ではないことに注意することが重要です。例えば、台湾は繰り返し加盟を要求していますが、この要求は中国によって阻止されています。これは、中国が台湾を主権領土の一部とみなし、独立国家として認識していないためです。もちろん台湾は、国連への加盟は国際社会が主権を完全に受け入れることを意味するため、国連加盟を望んでいます。台湾の例は、中国が国連の中の最も強力なメンバーの一つとして国連内で果たしている主要な役割のために、何十年もの間、未解決のままです。

国連には6つの主要機関があります。ある国家が加盟国であるならば、その国家は自動的に国連総会のメンバーになります。総会は国がどれほど大きくても小さくても、豊かでも貧しくても、各国家が1票を持つ最も民主的な機関です。またそこでは、毎年9月に国連の紋章がはっきり見える暗緑色の演壇の後ろから、世界の指導者たちが国際社会へ向けた演説を行っています。他の機関は、安全保障理事会、経済社会理事会(ECOSOC : Economic and Social Council)、信託統治理事会、事務局、国際司法裁判所です。最も強力な機関は、15カ国のメンバーを持つ安全保障理事会です。中国、フランス、ロシア、英国、米国の5つの国家が安全保障理事会常任理事国です。他の10カ国は、2年間の在任期間のために総会で投票されます。安全保障理事会は、国家に制裁をかけたり、ある場所、地域、または国の平和を保つために、国際社会の代理として軍隊を展開したりできる唯一の機関です。国連自体は独自の軍事力を持っていませんが、加盟国の貢献によって軍隊や警察の要員を招集することができます。これらの国連平和維持部隊は、その目印の青いヘルメットによって区別され、「ブルーベレー」というニックネームがつけられています。

国連は、包括的であるためにいくつかの会議への市民社会グループの参加(参加であり、加盟ではないことに留意)を歓迎しましたが、最も重要な安全保障理事会の会議では決して受け入れていません。それらの組織は、総会のオブザーバー、あるいは、例えば国連経済社会理事会での「諮問的地位」を持つ組織として話すことができます。軍縮から海洋の騒音汚染、精神保健から難民まで、すべての問題に関わる市民団体が存在します。特別な国連会議での講演に招待された個人もいます。そのため、心を締め付けられるような性的虐待、拷問、差別の直接の証言を目撃することがよくあります。そのような証言は、国際社会を活性化する力を持っています。しかし、これらの証言がどれほど強力であっても、最終的には行動の道筋を決定するのは加盟国の責任です。国連を率いる事務総長を含む事務局は、単独で行動することはできず、加盟国に「何かをする」ことを促すことができるだけです。このため、国連は紛れもなく、決定的なまでに国家間の政府機関であり、国家以上の権威ではありません。

ここで、IGOを記述するために使用される別の名称 — 「政府間組織」 — は、「グローバルな統治」(IGOが国際システムにもたらすもの)と「グローバルな政府」(現在は存在しないもの)との違いを理解するのに役立ちます。実質的にすべてのIGOは政府間のものです。これは、組織の権限が、その組織ではなく政府(加盟国)にあることを意味します。国家は自由に組織を離れることができ、場合によっては組織を無視することもできます。通常、それらの両方の行動にはその影響がありますが、極端な場合であっても、つまり国連のような組織が国家に対して制裁を科す、あるいは戦争を認める場合であっても、国際政府機関は国家を支配しません。このような懲罰的措置は、国連安全保障理事会のメンバーが合意に達し、その提案に同意し、国家の同盟が資金調達に同意し、その活動に参加する場合にのみ可能です。したがって、権力は国家そのもの、特により強力な国家に支配されており、その国益にそぐわない時には、一定の行動方針を拒否する国家の例が定期的に存在します。ここでは、2011年以来、数十万人が殺害され数百万人が難民となったにもかかわらず、シリア戦争への協調した対応を国際連合が確立するのに失敗したことを念頭に置いています。

あるIGOが、上で説明したような政府間のものでなければ、それは「超国家的」という珍しいカテゴリーに入るでしょう。超国家的権限を持つということは、組織が実際にメンバーを統治し、加盟国からある程度独立していることを意味します。このように重要な組織の唯一の明確な例は、欧州連合(EU : European Union)です。その理由から、欧州連合はしばしば sui generis またはそれ自身として「独自の」ものとして記述されています。欧州連合は、国連や他の国際政府機関とは違い、加盟国が超国家レベルに移行することに合意した特定の分野において、法律の制定力を介し加盟国に対してある程度の主権を行使する、と実質的に言える点において独特なものです。それはまた、独自の通貨を持っており、このことは他の能力と合わさって、ともすれば国家でしか見られないようないくつかの力を与えています。これについて欧州で論争がないわけではなく、欧州連合の増大する力に対する高まる不満や、より多くの権力を国家に戻すためにこの組織を弱める、あるいは解体する政治グループの願望が存在しています。2016年の国民投票で英国の国民が欧州連合を離脱することを決めた際の「ブレグジット(Brexit)」の議論は、これらの問題の多くを提起し、超国家主義が挑戦を受けているという考え方の興味深い事例となっています。

欧州連合や国連のような大きな組織を除くと、国際政府機関は、典型的にはより特定的であり、たいてい1つの特別の問題または特定の地理的領域に対処します。彼らがしている仕事は、国際捕鯨委員会(IWC : International Whaling Commission)や国際刑事警察機構(INTERPOL : International Criminal Police Organization)など、しばしばその名前から明らかです。これらは特定の問題をもとにした組織であり、そのメンバーは世界中にいます。そして、東南アジア諸国連合(ASEAN : Association of Southeast Asian Nations)やアフリカ連合(AU : African Union)などの特定の地域の国家の組織があります。これらはしばしば欧州連合の要素を真似していますが、(まだ)超国的権能を特徴とするものはありません。他の組織は地理的に制限されておらず、単一の問題にも限定されていません。例えば、イギリス連邦は、英国の旧植民地に限られた成員を持つ組織です。1949年以来、イギリス連邦政府にも独自の常設事務局があります。BRICSは、独自の固定事務局を持たない国際政府機関であり、各加盟国の経済的および財政的な問題の利益に焦点を合わせた5カ国(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)のみの政府間組織です。覚えておくべき点は、ある組織が国家や政府(政府機関を含む)のみで構成されている限り、それは国際的な規範に従って活動する国際政府機関です。

これらの国際政府機関は国連の外部にありますが、ほとんどの場合、何らかの形で国連に結びついています。いくつかの場合では、これらの関係は、その機関を設立するための文書に明示されています。他の場合では、少なくとも接点を有するだけだとしても、その機関の仕事が適切なものであることを保証するという単純な目標が、それらの機関を国連に結びつけます。例えば、国際原子力機関(IAEA : International Atomic Energy Agency)を見てみましょう。この機関の設立法は、義務を履行しない国に対して安全保障理事会が措置を取ることができるように、国連に報告書を提出することを義務付けています。これは、一方では国際原子力機関が原子力技術の使用を監視し、他方では国連安全保障理事会が原子力の安全および安全保障を国家が確実に遵守するための措置を実施するという形をとることによって、国際社会にとってうまく機能しています。

国際的な非政府組織とハイブリッド国際機関

国際的な非政府組織(INGO : international non-governmental organisation)は、国際レベルで機能する、あるいは国際的なメンバーを持つ非政府組織です。国際的な非政府組織は、政府間、企業体、テロ組織ではない組織(Davies 2014, 3)として最もよく記述されるような、寄せ集めのものです。現在活動している国際的な非政府組織の正確な数はわかりません。国連は4,000以上を諮問機関として挙げていますが、それは真の数字のほんの一部に過ぎません。

一部の国際的な非政府組織によって、劇的で報道の見出しを飾るような抗議活動が行われています。グリーンピースの抗議者たちが船に鎖でつながれている画像や、反グローバル化の抗議者たちが街路を塞いでいる画像は、通常、メディアで十分に報道されています。これらは、懸念されている問題に関する一般市民の意識を高めることを使命とする組織です。脚光を浴びないところで自分たちの使命を果たしている人たちも、同様に効果的です。例えば、マーシー・コー(Mercy Corps)は、世界中の国々の災害被災者を支援しています。メディシン・サン・フロンティア(Médecins Sans Frontières、国境なき医師団)は、危機に対処するための高度に熟練した最初の対応者であることが多く、オックスファム(Oxfam)は世界中のさまざまな貧困撲滅プログラムの最前線にいます。元国連事務総長のコフィ・アナン(Kofi Annan)は、これらのグループを国際社会の「陰の英雄たち」と呼びました。

ハイブリッド組織とは、国家と市民社会の両方のメンバーで構成されている国際機関のことです。国家は、政府の省庁によって代理されることがあります。市民社会は、これまで見てきたように、誰でも、どんな組織でも構いません。そのようなハイブリッド国際組織の1つは、環境保全を主な対象とし、フィジーやスペインなどの国の政府機関や世界のあらゆる場所の非政府組織が含まれている国際自然保護連合(IUCN : International Union for the Conservation of Nature)です。個々のメンバーはしばしば専門家であり、IUCNの6つの委員会の1つに所属しています。ハイブリッド組織の数は、国家と市民社会の間でより多くのパートナーシップが築かれるにつれて増加しています。政府、非政府組織、および多国籍企業がすべて発言権を持っているハイブリッド組織は、そのようなグループが用いることができる到達範囲、専門知識および資金のために、非常に効果的であるという理解があります。

国際機関はどのように私たちの世界を形作っているでしょうか

世界の中で注目される国際的な非政府組織の1つは、国際赤十字と赤新月運動です。今日、赤十字は人道危機の被害者への仕事の代名詞ですが、その設立以前は戦争や紛争から生じる人道的懸念のためのガイドラインやそのような作業を実行する組織はありませんでした。1862年、スイスのビジネスマン、アンリ・デュナン(Henry Dunant)は、彼が直接経験した1859年のソルフェリーノの戦いの影響を述べた本を出版しました。彼は、戦闘が終わった後でも、兵士が何の治療もされずに負傷したまま戦場に残された様子を書きました。デュナンは、病気や負傷者を支援するために地元の人々を組織しました。多くの人が彼の説明に心を動かされ、1863年にデュナンは国際赤十字委員会を設立しました。デュナンの努力は、紛争の場にとらわれた負傷兵および一般市民に助けを差し伸べることを目指していました。これは、ジュネーブ条約の始まりであり、それ以来すべての国連加盟国がこれに批准しました。ジュネーブ条約は、戦争や紛争から生じる人道的懸念を管理する国際法の一部を成し、国際的な非政府組織(この場合は赤十字社)が後に国際的な規範と基準に発展する運動をどのように始めることができるかの証拠となっています。

国家は、かつては国際的な事項に関連するすべての行動の裁判官、陪審員および執行者でした。国家主権の建前の下で、その国土と国民が関係する限りにおいて、国家は責任を問われることなく行動することができました。国際的な非政府組織を通じて増幅された外部の利害関係者の圧力が国家の免責を侵食しているために、こうした時代は実質的には終わっています。国際的な人権に関する規範の発展は、他のどの分野よりも大きな飛躍がありました。かつては、君主、大統領、首相、および他の国家指導者は、権力を握っている間はあらゆる種類の刑事訴追から免責を受けるのも当たり前でした。それもいまでは変わりました。ハーグにある国際刑事裁判所は、今や、様々な犯罪の責を負う個人に責任を問う管轄権を持っています。国際連合は、1950年代に国際刑事裁判所の考えを簡単に議論しましたが、凶悪犯罪のための世界の法廷というビジョンを実現するためには、自分たちのことを国際刑事裁判所のための連合と呼ぶ、国際的な非政府組織の連合体の努力が必要とされました。1997年、この連合はようやく政治的意思を獲得し、その後の数年で裁判所が設立されました。今日、世界の約3分の2の国家が加盟国であり、数十人の個人が戦争犯罪、大量虐殺、その他の人道に対する罪で起訴されています。

かつては国家の道具であると考えられていた国際機関がどうやって自身の立場を確立し、国際社会における議題を設定したのかについては、多くの成功事例があります。これは、環境保全の分野でどこよりも明らかです。1992年にリオデジャネイロで開催された環境に関する重大な転機となる会議において、国家をひとつにまとめるために、発言力のある非政府組織と国連の努力が結集されました。しばしば地球サミットと呼ばれる環境と開発に関する国連会議は、地球の幸福に向けた国家の集団的責任を強調したことによって、革命的なものとなりました。地球サミットのために、各国家は、人類の有害な慣行から環境を守るための闘いにおいて重要な里程標となった国連の気候変動に関する枠組み条約、生物多様性条約、砂漠化対処条約に署名しました。地球サミットが生み出した勢いは今日でもまだ影響力があり、国々は気候変動に対抗するために、しばしば敵対的ではあるものの、引き続き緊密に協力し続けています。

一般的な市民にとって、最も重要な国際機関は、その仕事が実地で感じられるものでしょう。国連開発計画(UN Development Programme)は、多くの貧困国にとって生命線であり、絶対的貧困から人々を引き上げる助けとなっており、人々を経済的に維持可能にするプログラムを開発し、多くの開発途上国に存在するジェンダー平等のギャップを埋めています。このような場合、国家が組織に貢献し財政的に健全な状態にする代わりに、世界銀行などの国際政府機関が、さもなければ不可能であるような開発政策を国家が実施する手段を提供する場合があります。しかしながら、これらの援助プログラムの結果は混在しており、時には国々に大きな負債を残したり、経済の改善に失敗したりしていることから、議論の多いものです。

結論

その他のほとんどの事柄と同様に、国際機関はそれらにより得られる結果程度にしか良いものではないのですが、国際的な問題で中心的役割を果たしていることは否定できません。特にグローバルな統治という概念が生まれた20世紀において、国際機関の成長は、人生のあらゆる側面が何らかの形で世界レベルで規制されていることを意味します。広範な形態の国際機関は、国家の役割を補完し、時にはそれに積極的に挑戦します。この章の冒頭で使用された空港の類推に戻ると、私たちは、国際機関が私たちの生活の中でもっとも平凡なものにさえも影響していることを常に意識しているとは限りません。しかし、国際機関が無ければ、私たちの人生は著しく違ったものとなるでしょう。

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