アカデミア発核酸ベンチャーの軌跡/Wave Life Sciences 科学顧問 和田猛先生
【後編】~日本のバイオ・創薬ベンチャーを盛り上げていくために~
こんにちは、Beyond Next Venturesです。
私たちは、大学・研究機関からの事業化を、初期から支えるベンチャーキャピタルです。
今回は、Wave Life Sciences Ltd.(Wave社)科学顧問の和田猛先生に、バイオベンチャーを起業してから、米国ナスダック市場への上場を経て現在に至るまでのお話を伺いました。和田先生の他、大手製薬企業出身の生沼氏、Beyond Next Venturesのバイオ投資を担当する盛島による対談形式でバイオベンチャー創業のストーリーをお届けします。前半は「起業から米国ナスダック市場に上場するまで」、後半は「日本のバイオ・創薬ベンチャーを盛り上げていくために」というテーマの2部構成です。本稿がベンチャーを始めようとされている皆様の、「踏み出す一歩」に繋がれば幸いです。また、東京都が支援する創薬系ベンチャー育成プログラム『Blockbuster TOKYO』も9月14日まで受け付けておりますので、ぜひ奮ってエントリー下さい!
和田 猛先生
東京理科大学薬学部生命創薬科学科 教授/Wave Life Sciences 科学顧問
1991 年、東京工業大学大学院 総合理工学研究科生命化学専攻 博士課程修了。 東京大学大学院 新領域創成科学研究科メディカルゲノム専攻准教授であった2008年、オリゴ核酸医薬の立体制御技術の実用化を目指してキラルジェン社を立ち上げる。 キラルジェン社は2012年に米Ontorii社と経営統合し、Wave Life Sciences社が設立。同社取締役を経て現在は科学顧問。
生沼 斉氏
Glorialth LLC 代表兼CEO
前武田薬品工業(株)Sr.VPワクチン日本事業部門統括。元サノフィ(株)VP研究開発担当常務執行役員兼(公財)かなえ医薬振興財団理事長。元(独)メルクグループ製薬部門Sr.VP、研究開発メディカル統括本部長。内外資製薬企業にて日本、米国ボストン、英国ロンドンにて従事。現在ライフサイエンス系コンサルティングファームを主宰。筑波大学博士課程終了、理学博士、ハーバード大学留学。
盛島 真由
Beyond Next Ventures 株式会社 マネージャー
東京大学大学院新領域創成科学研究科博士課程修了、生命科学博士。2014年4月マッキンゼー・アンド・カンパニー入社。製薬企業・医療機器企業の、新規製品上市・マーケティング戦略・新規市場開拓などのプロジェクトに従事。2016年10月に当社参画、主な担当領域:バイオテクノロジー、創薬、デジタルヘルス、及び海外展開支援。アクセラレーションプログラムBRAVEの運営。
■アカデミアの環境において、バイオベンチャーをやっていくに十分な特許を出すのはまだまだ難しい状況、未だに特許では苦労している
盛島:大学では特許を出されていない先生も多くいらっしゃる一方で、和田先生は複数の特許をキラルジェン社創業前から出されていました。かなり早い段階から「実用化」に向けたことを見据えて活動されていたのでしょうか。
和田先生:実用化は初めから意識していましたね。この技術がどうなるかわからないけれども、まず論文出す前・学会発表する前に必ず特許出願をして、それから技術をオープンにしていく、という戦略を取っていました。
ただ、「大学とベンチャーをどう両立させていくか」、という根本的な課題にもなるんですけれども、大学での特許出願は企業の特許出願と本質的に違っているんです。大学の場合には、学位を取得することが最優先されるんです。論文発表しなければ学位取得はできませんから。そうすると不完全な形で出願せざるを得ないんですよ。しかも、例えば追加特許出願や国際特許出願する段階に、TLOが実用化やライセンシング等の見込みがないと判断すると先に進めない。
企業からすれば、アカデミア技術は面白い技術だけども明細書見たら穴だらけだ、ということが当然なんですね。最初から企業と共同研究しながら進めれば話は別ですが、単独に純粋なアカデミアの研究で特許出願というのはかなり難しいことだと思います。すごく大きな問題ですよ。
盛島:そうですよね。ベンチャーサポートをしていても知財のところは大きな課題になります。現状のアカデミアの出願体制についてどのようにお考えですか?
和田先生:大学の場合、TLOはライフサイエンスだけでなく、工学、医学・・・等いろんな分野を担当していて、予算もあるので、特許出願にかける予算には限界がある。TLOの立場から投資リターンを考えると、足の長いライフサイエンスにかけるよりかは、足の短い分野に偏ってしまいそうのではないでしょうか。どのようにして優先順位をうまく保たれたのか聞いてみたいですね。
私自身はTLOに技術の有用性をプレゼンして、認めてもらうしかない。製薬メーカーがこの技術に興味を示すか、具体的な例を示しながら説明するしかない。
■研究とベンチャーの両立については相当の苦労をした
生沼氏:アカデミアとベンチャーの両立の苦労についてもう少し教えて頂けませんか。 教育と事業化では目的も異なり、両立が難しい部分も多いと思いますが。
和田先生:私は有機合成化学者としてWave社の製造の根幹技術に関わる開発に携わりました。しかし大学でも同じ研究分野の研究を続けています。そうすると研究の住み分けが難しくなっていて、大学で出した論文がある意味ノウハウの開示になってしまうと訴えられたりし兼ねない。
私は大学と会社の研究を最初の段階から切り分けていて非常に気を付けていました。学生さんの実験ノートを毎日見て、ベンチャーの方のも見て、署名して、ちゃんと法律的に違いがある証明できるかというのを確認しながら仕事を進めていました。すべて責任をもって確認をして進めてきました。
しかしちゃんと切り分けていても衝突することがでてくるんですね、似ている研究ではあるので。そこはたまらないですよね、会社としてもリスクが大きすぎる。だから取締役を退任して科学顧問になりました。これで企業と大学の研究内容を互いに開示しない形になりました。企業から限定した内容で相談を受けたときにコンサルをするという形になりました。 さらに、今年からWave社の寄付講座が東京理科大学薬学部にできて、新しい形の共同研究がスタートしました。
盛島:創業者なのにだんだん会社が自分から離れていく感じがあったのでしょうか。
和田先生:最初はもっとコントロールしたいなといった思いもありましたよ。が、「そうじゃないなと」。最初の基盤技術は私のものであって、一人ですべてはできませんしこだわりをもつべきではないと思って、一番は技術が花を咲かせられることがいいと思います。夢は大きいですし、そういうことにこだわりはないので。
盛島:いままで上場されるまで特に苦労された部分で逆にこういうサポートを受けられたらもっとよかったことはありますか?
和田先生:資金面ですね。お金ないと何もできませんからね。実験の計画も予算の規模によって決まるので。
盛島:前の話と合わせると、当時VCから調達されなかった理由としては、変にマイルストーンをつけられてちゃんと進まないと撤収されるということが嫌だったということですね。
和田先生:そうです。息の長いサポートが必用なんで。お金出すほうも難しいですよね。お金収集しないといけませんし。
生沼氏:前の質問にも関連しますが、サイエンティストとしての興味と、経営的にビジネスとして大きくするという目標が両立していないこともあると思います。キラルジェンでそれらが実際にコンフリクトを起こしたことはありますか?
和田先生:もちろんありますよ。日本の中でも、アメリカと日本の間でも。難しいです。日本とボストンの独立した拠点、独立した経営体制でやっていますからどこまで情報開示しながらやるか、みたいなこともあります。
生沼氏: 和田先生、海外の研究者と協働する際にランゲージバリアはありましたか?特にチーム間での学生さんのコミュニケーションなどについて。日本の研究者は自己PRが苦手でもったいなく感じたことがあります。
和田先生:サイエンティフィックなやり取りでは問題はありませんでしたがビジネス面でありました。話してる単語が違いますから。しかし、それができる日本人がいたので大丈夫でした。私のある弟子(学生)は、最初は苦労していましたが、今やグリーンカードを取得しています。場を踏むとどうにかなります。
■趣味にも全力

盛島:和田先生は実は研究以外に、 自作の竹笛(東風笛)の作成と演奏にご趣味があると聞きました。詳しく教えていただけますか?
和田先生:そうなんです。東大の柏キャンパスの裏に生えている竹を使った東風笛の作成を2005年から始めているんです。全くのオリジナルのデザインで、穴の位置や大きさや加工の仕方も全部考えてやっているんです。最初は計算式作ってやっていたんですが、今は竹それぞれに合わせて作成しています。
盛島:なぜご多忙なのに・・・
和田先生:僕は昔からフルートをやっていたんです。バロック音楽が好きで、バッハとか好きで。でもよく考えてみると当時は銀のフルートなんか無かったはずなんです、当然木で作っていたはずですよね。なので、木のフルートで吹きたいな・・・って。でも木のフルートなんて博物館行かないと無いんですよ。そういうところから色々試行錯誤して竹で横笛を作るようになったんです。
生沼氏:ご研究と東風笛に通じるものがあるのですね。
和田先生:同じです。頭の使い方とかワクワク感とか。だからやめろと言われてもやめられない。笛はサイエンスよりも早く結果が出るね。それに音楽は自分の心にいい癒やしの効果がある。練習して吹けるようになること達成感が味わえるんですよね、時間がなくてもやりたい。
最近は 貝の化石や縄文時代の遺跡の発掘にもはまっているんですよ。よく考えれば僕は、小学校の時から部好きだったものは全部やっている。理科、音楽、考古学・・・。全部。やりたいことっていっぱいあるんです。できないときにそれが頭の中で醸成されていて、プランができあがって、時間ができたときに一気にやる。移動のときとか研究のこと考えている。悶々としてやりたくても今すぐにやらせてもらえない、といういいバランスがそれぞれに刺激しあって爆発してるんですね、僕の場合。無制限に時間があったらそういうふうにならないですよ。それがそれぞれの分野に相乗効果でいいふうになってる。すごいハッピーですよ。

あとがき
お話を伺っていて、和田先生の熱意に終始圧倒されてしまいました。アカデミア発ベンチャーを活性化していくためには、人材、資金、特許・・・等、まだまだ乗り越えなければいけない課題があります。我々Beyond Next Venturesは、 そのような課題を改善し、東京、ひいては日本を創薬・バイオテックのハブにすべく「Blockbuster TOKYO(ブロックバスタートーキョー)」を東京都の委託を受けて運営しています。より良いエコシステムの構築につながるよう、様々なステークホルダーと共に創薬系ベンチャーへの豊富なサポートを提供していますので、ご参加いただければ幸いです。
— — Beyond Next Venturesの運営するプログラム — —
◆大学・研究機関からの事業化支援するアクセラレーションプログラム
「BRAVE」
http://brave.team
◆東京都と運営する創薬系アクセラレーションプログラム
「Blockbuster TOKYO」
https://www.blockbuster.tokyo/
本記事に関するお問合せは delorean@beyondnextventures.comまで
