二次予防に一直線。パラレル起業という働き方/福井良清

こんにちは、Beyond Next Venturesです。
 私たちは、技術シーズの事業化を支援するアクセラレーターです。

今回は当社の運営する、研究者と共に事業創出を行うプログラムInnovation Leaders Program(通称ILP)の第二期生で、二つの組織を通じて、二次予防事業に挑戦をしている福井さんにお話を伺いました。

キーワードは、「複数社を並行してやりたいことをするパラレル起業」。柔軟でしなやかな働き方は共感をされる方も多いのではと思います。ぜひご覧ください。

ナラティブトラスト株式会社 代表取締役 福井良清さん
1978年生、岡山生まれ。九州大学大学院人間環境学府空間システム 卒業。大学院在学中から、アキュメンバイオファーマ株式会社に参加。卒業後、同社入社。2008年、株式会社エス・エム・エスに入社し、薬剤師・薬局領域の新規事業に従事。2017年4月に独立。現在、テーマ別に2つの会社を通じて、二次予防事業に取り組む。趣味は写真撮影。

強い経営者像を見て育った幼少期

私、出身は岡山でして、厨房機器を扱う祖父、父の姿を見て育ちました。経営者だった祖父には、たまに理不尽であったとしてもどんなことにも社員がついてくる。幼心にその姿を見て、経営者というのは、とにかく強い存在なんだと感じたのを覚えています。
 そして、物事は巻き込まれる側ではなく、巻き込む側が自分の性に合う。ルールを創る方が面白そうだという感覚は、祖父や父の影響もあったのかもしれません。

高校の頃になって、人を動かす存在として心に引っかかったのが建築家でした。デザイン自体も好きですが、建築家がひいた図面(計画)に沿って、一つのプロジェクトとして人と資金が一緒に動くところが、経営者の役割に近かったのかもしれません。

高校生当時の憧れの人が安藤忠雄さんで、とある新聞社のイベントで岡山に来られた時、帰り際に「どうしたら建築家になれますか?」と一言だけ質問したことがあります。そのときは「ちゃんと勉強しろ!」とだけ言われて 笑 
 単純かもしれませんが、大学で建築を学ぼうと決める契機となりました。

ところが自分のことを振り返ると、暗記が苦手だし、そもそも受験勉強のやり方がわからない。結局、浪人を重ね、同期とは3年違いで九州大学建築学科に入学をすることになりました。

アキュメンバイオファーマとの出会い

大学に入学をした時点で、3年遅れてのスタートでした。とにかく何かをやらねばという危機感に駆られて、入学3日目から建築事務所でアルバイトを始めたり、色々な経験をしようと動きまわっていました。

そんな中で、理系学生が集まる団体の活動にも参加をし、大学院生1年時に、九州大学医学部発(かつ初)の創薬スタートアップだったアキュメンバイオファーマの創業メンバー達と出会いました。同じ学生でありながら助成金を獲得し、九州大学医学部の有力なシーズを元に、「数年で特効薬を上市し、上場をする」と意気込んでいる。その熱気に魅せられて、自分も院生ながら活動に加わることにしました。
 結果、大学院卒業後も建築には進まず、同社に就職をし、そのまま3年半を共に過ごしましたが、事業での苦労が続き、リーマンショックの起こるちょうど1カ月前、会社を清算することになり、離れることになりました。
 当時のメンバーとの日々はかけがえのないものでしたが、今振り返ってみると、自分に事業を推進する本当の力がもっとあったならば、他にも事業に貢献する方法や選択肢があったのでは、という悔いが残っていました。

そして、次の一歩を考えた際に、医療分野で挑戦が可能な場はないか、伸びている会社で経営者層の近くでその理由を垣間見ることができる会社はないか、と探していました。その時、懇意にしていた大学の先生からの紹介で、エス・エム・エス創業者で当時の社長だった諸藤周平さんと出会い、同社に入社をすることになりました。

エス・エム・エスでの8年半、そして起業へ

当時のエス・エム・エスは、マザーズへの上場を果たし、100名を超えた程度の組織規模でした。また、看護師領域では強いサービス基盤を持っていましたが、それ以外の分野では、次の柱となる新規事業を複数、立ち上げ続けていた時期でもありました。
 私自身の役割としてた、入社後に手始めに、薬剤師向けのコミュニティサービスの新規事業立ち上げを担当しました。

続けてコミュニティサービスと並行して次に手掛けたのは、薬剤師業務で用いる電子薬歴の活用、および医療用医薬品データに関する事業でした。最近でこそ、この領域での事業立ち上げを耳にすることがありますが、2015年当時はまだ先例が少ない時期でした。医療従事者が使う医療情報、電子薬歴内のデータ活用について、製薬企業、情報を活用する側である薬局と折衝を続けながら、必要とされるサービスに育てる際の生みの楽しみ、苦しみを味わいながら日々、奮闘していました。

薬局周辺事業に従事し続けて7年を越えたころ、自分の問題意識や事業をとらえる着眼点が、薬局領域に限定的になっていることに気づき、危機感を感じました。自分の中で「もう自分で事業をやる時期じゃないか」「会社に長く居すぎたんじゃないか」という想いが日々強くなりました。結果、8年半を勤めて、2017年の春に会社を離れました。

この時、担当していた事業はクローズすることになったのですが、会社を辞めることを応援してくれたエス・エム・エスの経営メンバー、そして仲間達には今でも感謝をしています。

二次予防の普及に挑む

以前から自分で事業をするなら「二次予防(病気の早期発見)」の分野と決めていました。振り返ってみれば、大学に入って数日後の新入生歓迎会の夜に、母からの電話で父が食道がんの末期であることがわかったことも関係していると思います。父ががんになる前に自分にも何か出来たのではないか、他にも同じ境遇で苦しむ人もいるはずだ、と。今はないサービスなら誰かが提供してくれるのを待つのではなく、自分で創ってしまえ、と強く思ったのを覚えています。

前提として、予防の中でも一次予防(生活習慣の改善などを含む)の取組では、意識の高い人のみの取組となりがちです。自分自身の怠惰な性格を鑑みると、まだ健康に可逆的に戻れるギリギリの段階で、健康寿命延伸に寄与する二次予防をテーマに深堀りすれば、志半ばで亡くなった父や自分自身、家族、友人など身近な人も使うサービスに育てうると判断しました。

独立時には、二次予防というテーマは決まっていましたが、具体的な事業は定めないまま会社を辞めました。良い意味でも悪い意味でも、エス・エム・エスの仕事の取組方に染まりすぎていたことを自覚していたので、この2年間、貯金を切り崩しながら、色々な人に会い、テーマに合致するシーズと事業パートナーを探し続けました。

その活動の中で、ビヨンドさん(Beyond Next Venturs)が運営をしている、経営者候補と事業シーズとのマッチングプログラム(ILP)に参加させていただく機会を得ました。最終的に事業化には至りませんでしたが、研究者や、事業化を目指す意欲ある人たちと繋がれたことは財産となっています。その中の有志と一緒に、毎月、定期的に情報交換会(ILP-NEXT)も開催しています。

薬局を起点に、予防医療を変える

現在に至るまでですが、10を超える事業の種を蒔き、育てていた活動が実を結び、今は二つの予防に関連する事業を進めています。一つは、会社を辞めた時に立ち上げた1社目で、疾患のスクリーニングがどこでも気軽に行えるようなポータブル診断機器等の開発を、医師と共に進めています。

もう一つの事業は、ナラティブトラスト社で進めている、二次予防の普及に向けたセルフチェック検査事業です。現在、アマゾン等のECサイトでは様々な検査キットの取り扱いが進んでいます。ですが、住民は正しい扱い方もわからず、検査結果に不安を抱くだけで受診勧奨等を考慮していない事例も多く、商流も整理されていない。

そのため、地域住民の健康づくり活動を支援する社団法人と連携し、研修会から、検査キットの選定、施設への導入、地域住民への説明方法の支援まで、一気通貫で行っています。

「予防」というのは日本の医療課題の中でも重要なテーマですが、様々な検査キットが実際に使われる環境を理解し、再整備し、安心して使えるフォローを含めた枠組みとしてサービスに落とし込む必要があります。今回、第一弾として取り上げる子宮頸がんのHPVセルフチェック検査では、全国に点在する59,000軒の薬局を、「地域住民が安心して相談できる医療資源である」と再定義しています。フォローが可能な施設と連携しながら、病院に行く前に、もっと手軽で便利に病気を早期に発見できる環境(スクリーニングの役割)を整備することを目指しています。

”プロジェクト型”で小さく生む。会社は複数あっていい

独立からまもなく2年が経ちます。最初は定期収入が入らないことに気をもむ時期もありました。今は一つの会社に縛られず、まもなく5か月になる長男の子育てをしながら、複数の仕事に取り組めることは、起業して良かった点の一つです。
 
 今後の取組としては、医療機器の開発、検査事業という2つの会社、事業を進めつつ、更に自分が関わることで付加価値を付けられる予防医療関連のテーマを見つけて、事業領域を増やしていきます。

今は1テーマ1法人で経営していますが、そこには理由があります。取り組む事業に社会課題を解決する性質を含み、正しくテーマ設定されていれば、その会社で取り組む事業の方向性を明示することで、想いを持つ仲間を集めやすくなる、と考えているからです。これは可能性としてですが、シンプルな体制にしておくことで、会社(プロジェクト)の譲渡や経営者の交代も、選択肢の一つとして考慮しうるでしょう。

「いいね!」と思うテーマを語り合った仲間同士で、最少人数で一つの器(プロジェクト、法人)を組む。スタートアップの創業期のような一体感を常に得られる規模感であることが、私の好む環境です。

最後になりますが、新しい自己チェックツールの企画・開発、普及についても、これから形にしていきたいと思うことがたくさんあります。予防の分野で興味があれば、新しいプロジェクトを一緒に始めませんか?まだ起業したてで道半ばの状況ですが、医療の分野で問題意識とテーマをもつ方々と一緒に、新しいサービスを創り続けていけたらと思っています!

ナラティブトラスト株式会社 https://narrativetrust.co.jp/
メッセージ・連絡先: fukui★narrativetrust.co.jp 
※送信の際は、★を@に置き換えて送信下さい。

あとがき

いつも明るく、丁寧な語り口の福井さん。その陰に”出遅れた”という危機感があったことは今回のインタビューまで知りませんでした。ご自分でも「不器用だから」と口にしますが、その分、まっすぐにやりたいことに向かって、色々な方を仲間に巻き込んでいるところは人柄だと思います。 これからのご活躍を、Beyond Next Ventures一同応援しています!

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本記事に関するお問合せは delorean@beyondnextventures.comまで

記事作成日:2019.2.14 取材/編集:heron