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5 min readJul 25, 2014

クラブがファッション業界をはじめ、様々なクリエイティブ産業にとってとても重要な場であることについて、ある最高のアパレルデザイナーから聞いた話をまとめました。ー齋藤貴弘(CMC準備会発起人代表兼事務局長)

「アパレルデザイナーは時代の流行を感じ取り、その時代に合った洋服をデザインする職業です。アパレルデザイナーとして仕事をしていくために必要な能力として、単に洋服についての知識やデザイン技術があるだけでは不十分で、一番大切なのは幅広く時代の流行を敏感に感じ取る感性です。

このような感性は学校などで学び修得できる類のものではなく、日々、自分自身で磨いていくほかありません。 感性を磨くためには、ファッションの流行を追うことはもちろんですが、さらに音楽や映画、舞台、アートなど、その時代の面白い作品や人達に常に触れ、刺激を受け、その刺激をもとに自分の想像力を働かせることが必要です。 面白い出来事に対しての情報を広く集め、自分で体験し、それを楽しみ、クリエイティブな感性を研ぎ澄ます努力をすることはアパレルデザイナーには絶対に欠かせません。

そして面白い情報に触れ、感性豊かな人達と交流できる場所のひとつがクラブです。クラブに行き、良質な音楽とともに、お酒を飲んだりダンスなどしてその空間を楽しみ、リラックスした雰囲気で、集まる人々と情報交換することは私にとってとても大切な意味を持ちます。

クラブでは、聴いたことがないような面白く珍しい楽曲をDJが選曲し、素晴らしい音響で聞かせてくれます。DJは、最先端のダンスミュージックから、各国民族音楽、ジャズ、さらにはクラシックに至るまで様々な音楽を選曲し、皆が楽しめる空間を作り上げます。 DJが膨大な数のレコードやCDから抜群のセンスで選んでかける楽曲は、私達が普段耳にすることができないものも多く、いつも新しい音楽を教えてくれます。そのような音楽は日々の疲れを癒しリフレッシュさせてくれますが、それ以上にアパレルデザイナーとしての感性や創造性にも大きな刺激を与えてくれます。

また、そのような面白い音楽は、感性が鋭く、クリエイティブな人達を集める力を持っており、そのためクラブには音楽やダンスなど流行に敏感な人達やこだわりのある人達が集まります。 クラブには多様な職種や価値観を持っている人達を受け入れる雑多で自由な雰囲気があり、ファッション業界の人もいれば、音楽関係者、映像作家、雑誌編集者や記者、会社経営者からフリーターまであらゆる職業の人が集まります。 国籍も多様で外国人も多く、外国人から海外の面白い出来事を教えてもらうことも多くありますし、反対に日本の情報を外国人に教えてあげることもあります。

クラブは、そのような幅広い人々が音楽やダンスを通じて集まって楽しみ、交流し、ひいては新しい文化を生み出す土壌として機能し、クラブカルチャーという文化を生み出し、育ててきました。映画、文学、インターネット等々様々な文化産業がクラブカルチャーからの影響を受けて発展してきましたが、ファッションも同様にクラブカルチャーからの影響を強く受けてきました。 例えば、1970年代頃から、クラブを発信源としてヒップホップというダンスミュージックが大流行しましたが、ヒップホップは黒人の誇りを高めていく運動との関わりが強く、アフリカを意識した赤・黒・緑の色使いの服装やドレッドヘアーなどが流行りました。 クラブミュージック以外でも音楽とファッションは密接に関わっており、1970年代にパンクロックブームを生みだしたプロデューサーのマルコムマクラーレンは、パンクロッカー達のファッションを自身のアパレルブランドで商品化して売り出し、一大ブームを作り上げました。 また1950年代から60年代にかけてイギリスの若者達の間で流行したモッズと呼ばれる若者達は音楽、ファッションを一体として楽しみ、彼らの作り上げた若者文化は映画や小説にもなり、大きな流行を生み出し、ビートルズもモッズファッションから大きな影響を受けています。 ヒップホップファッション、パンクファッション、モッズファッションいずれも現在はメジャーで定番の洋服デザインと確立されており、大手アパレルブランドも商品化し、多くの人に親しまれています。 いずれもクラブやライブハウス等の音楽を含む若者文化で生まれたファッションでしたが、その優れたデザインセンスによって、徐々に広がり、全世界的に定番のファッションデザインとして認知されるに至っています。クラブやクラブカルチャーがなければ、世界的流行を生んだ洋服も生まれることはありませんでした。

またダンスミュージックはファッションのプロモーションにとっても重要な存在です。アパレル各社は、毎年開催されるファッションショーで新作の洋服を発表しますが、ファッションショーのBGMにもダンスミュージックが多く用いられます。 ダンスミュージックは洋服のイメージ作りには欠かせない役割を担っており、アパレルメーカーによっては専属のDJやミュージシャンと契約し、ファッションショーや販売店で流す楽曲の選曲やオリジナル楽曲の製作を委託し、音楽を通じて洋服のプロモーションをしています。 音楽とりわけダンスミュージックは、若者を中心に流行に敏感な人達の注目を集め、またお洒落な洋服をより一層魅力的に見せることができます。その意味でダンスミュージックとファッションのプロモーションやブランディングは切り離せない存在です。

クラブには信頼できる仲間や、感性の鋭い幅広い業種の人達が集い、私はそこから様々な刺激を受け、情報交換をすることができます。またDJが選曲する良質な音楽やダンスによって、忙しい日常から少しの時間離れ、リフレッシュすることもできます。 クラブは危険な場所でもいかがわしい場所でもありません。むしろ、多くの人達を楽しませ、さらに幅広い文化産業を生み出す土壌としてとても重要な場だと思います。」