疾風怒濤のトランプ政権

いやあ、ホントにこの先どうなるんだ?

もう2月の半ば。来週半ばからは溜まっている(強制)連続休暇の半分を消化しなければならず、今月の業務日は残り5日しかない。で、取り急ぎ今月の出来事を振り返っておきたい。

世界を揺るがした移民規制

先月27日に公布された「外国人テロリストの入国防止」に関する大統領令は、米国内のみならず、世界を揺るがした。大統領令の内容は次の3項目からなる。(1)イエメン、イラン、シリア、リビア、スーダン、ソマリアの7カ国からのすべての入国を90日間停止。(2)すべての難民受け入れを120日間停止。(3)シリア難民の受け入れを(トランプ大統領が満足するまで)無期限停止。

中でも(1)は、永住権(グリーンカード)保有者や、すでに正当な手続きでビザを持つ人々の入国についても唐突に拒否する措置であったこと、7カ国の指定が「イスラム教徒の狙い撃ち」(いわゆるMuslim Ban)ではないかとみられたことが問題視された。

指定された7カ国は、オバマ政権時代の2015年12月、ビザ制度改革によってビザ免除プログラムの対象外とされた国である。しかしその実質は、ビザ制度改革の趣旨とは全く相容れない。というのも、ビザ免除プログラムが対象外としたのは、7カ国に“2011年3月以降、渡航した経験を持つ”人物であり、国籍ではなかった。これに対し、今回の大統領令は、7カ国を母国とすること、すなわち国籍それ自体を問題視したのである。

2月3日、シアトル連邦地裁が大統領令の「一時的差し止め命令」を出し、9日には第9巡回区控訴裁(サンフランシスコ)が、「一時差し止め命令」の停止を求めた司法省の訴えを退ける判決を下した。トランプ大統領は当初、最高裁判所で争う構えを見せたものの、新たな大統領令等によって国家の安全を強化する方針へ転換し、混乱は収束に向かった。

日米首脳会談〜No News is Good News!

米国内が移民・難民政策で揺れる中で開催された日米首脳会談(2月10–11日)は、日本側から見れば満額回答の成果を上げた。予想されたトランプ大統領の不規則発言に備えた首相官邸及び関係省庁による準備作業の困難さは想像に難くない。直前のマティス国防長官の緊急来日(3–4日)によって、安全保障問題に関する懸念が払拭されたことも、会談を成功に導く重要な露払いとなった。

今回の会談を「大山鳴動して鼠一匹」「事前に騒ぎ過ぎ」と片付けるのは明らかな間違いである。不規則発言が警戒された以上、様々なシチュエーションを想定した代替案を練り上げるのはむしろ当然であり、そうした相当の準備があってこそ、「No News is Good News」と心から安堵することができるのである。

これで、私が総括として関わったレポートのシンプルな提言(みずほOneシンクタンクレポート№7)「日本が米国の雇用に貢献しているという事実を日米で共有する」が叶ったわけだが、トランプ政権との間では、引き続き、戦略的な思考に基づいた代替案の準備が欠かせないだろう。

金融規制の見直しとFCA

さてこれからは経済政策が主役である。すでに規制緩和については、120日以内(すなわち6月初めまで)に「7つのコア原則」にもとづいて金融規制を評価する指示が財務長官に出ている(2月3日大統領令)。このコア原則は、昨年、下院金融サービス委員会が可決した法案(Financial CHOICE Act、FCA)が掲げる原則とほぼ同じである。FCAは、金融規制のみならず、金融政策についても大きな変化を求めている点で世界経済に対する影響が大きい。

FCAによれば、連邦準備制度理事会(FRB)は金融政策ルールを策定し、それに基づいて政策金利の水準を決定していくよう求めている。そしてテイラー・ルールを「参照政策ルール」として定め、実際の政策決定がテイラー・ルールから得られるものと異なる場合には、FRBはその理由を説明しなければならない。

またFOMCの政策決定においても、FRB議長の力を削ぐ規定が盛り込まれている。現在、FOMCではFRB理事(議長、副議長を含む)とニューヨーク連銀に恒久投票権が与えられ、12地区連銀総裁は1年に5名分しか投票権が与えられていない。連銀総裁らには2年(シカゴ、クリーブランドの2名)もしくは3年(他9名)に1度しか投票権が回ってこないのである。

FCAは、ニューヨーク連銀総裁から恒久投票権を剥奪し、他の地区連銀総裁と同じ扱いとする。投票権を与えられる地区連銀総裁は1年に6名となり、地区連銀総裁には2年ごとに投票権が回ってくることになる。

これまで、FRB理事(議長を除く、空席を含め6名)やニューヨーク連銀総裁はFRB議長と同じ投票行動を行うことがほとんどであった。彼らは合わせて9名であり、投票権を持つ地区連銀総裁5名が全員反対しても、FRB議長の判断が優先されるということだ。

FCAでは、FRB理事7名vs地区連銀総裁6名、という構図になる。多様な意見を持つ地区連銀総裁の意見が、よりFOMCの政策決定に反映されることが期待されているわけである。

法人税改革

経済改革ではこのほか、税制改革とインフラ投資の詳細な制度設計が待たれる。

税制改革で注目されるのは法人税改革である。最高税率の引き下げ幅と課税ベースの広がり度合いという点でトランプ大統領案と議会共和党案では違いがあるが、これは財政赤字に対する許容度の違い(トランプ大統領の方が赤字に寛容)に加えて、議会共和党が「仕向地・キャッシュフロー課税」という野心的な制度改革を提案していることにも起因する。

「仕向地・キャッシュフロー課税」とは、課税ベースを本社の場所(居住地)でも財・サービスの生産拠点(源泉地)でもなく、財・サービスの消費地点(仕向地)で捉え、かつ、課税ベースを付加価値に近いキャッシュフローとするものである。付加価値とキャッシュフローの違いは後者が賃金を含まない点にある。こうした野心的な改革案の中でも議論を読んでいるのが、国境調整という制度である。

国境調整では、売上から輸出を控除する一方、輸入に伴う費用は経費として認めない。米国産業連関表を用いて試算してみると、国境調整は究極的に米国の製造業と鉱業に大きな負担を強いる。マクロ的な法人税率は両産業とも100%を超えてしまう。これは、トランプ大統領が掲げる政策方針(製造業の雇用創出)と全く相容れない。

また法人税への国境調整には、WTO協定や執行面で大きな問題がある。

インフラ投資

インフラ投資は、その規模に加えて、財政支援の手段が焦点である。オバマ政権下で実施または提案されていた免税債(州・地方債)の復活あるいは創設、インフラ投資銀行や同基金の創設、あるいはPPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ)を念頭においた株式投資の優遇税制措置の創設などが選択肢である。なお3つめの新制度について、トランプ政権入りしたロス=ナヴァロらの案に従えば、投資家の実効税率がマイナス113%になるとの試算もある(トンデモナイ)。

ホワイトハウスのパワーゲーム

これまでのところ、経済政策の設計図はコーン国家経済会議委員長が描いていたようだが、ムニューチン財務長官が13日に就任したことで、経済政策立案の綱引きが激しくなるかも知れない。実際、国家安全保障会議の参加者からはナヴァロ国家通商会議委員長が排除されており、政権内のパワーゲームの影がうかがえる(トランプ大統領が気づいていないだけかも知れないが)。フリン大統領補佐官(国家安全保障担当)も、ロシア問題で辞任を余儀なくされた(13日)。

疾風怒濤のトランプ政権は、いつ安定軌道に乗るのか。世界が固唾を呑んで見守っている。

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