Uniswap V3 LP Vaultsを使用した無期限オプション / Perpetual Options by Uniswap V3 LP Vaults

--

オプションの複製

AMMの流動性提供(LP)は、提供した資産の価格が提供時の価格から変化すると、提供した資産をそのまま保持した場合と比べて、損失が発生します。この損失は一般的にImpermanent Loss(IL)と呼ばれ、その損益はLPトークンをロングして提供した資産をショートするポジションとして表現できます。

LP vs HODL (Range : $750-$3,000)

LPトークンを借り入れ、それを解体した場合、その損益はLPトークンをショートして提供されていた資産をロングするポジションになります。これはILに対して逆のポジションをとることになるため、ILをショートするポジションになります。

IL short (Range : $750-$3,000)

レンジを指定するUniswap V3のLPにおいて、ILをショートするポジションのペイオフは指定したレンジの外では直線状になります。また、このペイオフは維持コストを無視すれば常にプラスになります。これらの性質より、このポジションを使用して複数個のPut・Callオプションからなるポジションを複製することが可能です。

Call option (strike price : $1,800)

LPトークンの解体時の価格より資産の価格が低くなった場合のペイオフは、Putオプションを複製し、高くなった場合のペイオフは、Callオプションを複製します。ILをショートするポジションのペイオフを解体時の価格の上下で分割することで複数個のPut・Callオプションを生成することができます。

LPトークンを解体したときの価格から資産の価格が離れるほどペイオフの傾きの絶対値は大きくなるため、より離れた行使価格のオプションほど多く生成することが可能です。

Call 1 (strike price : $1,650), Call 2 (strike price : $1,800)
Call 1 + Call 2

オプション生成の具体例

・LPトークンのレンジ : $750-$3,000
・LPトークン解体時の価格 : $1,500
・LPトークンの使用額 : $1,000(=0.333ETH + 500USDC)

上の条件における、ILショートのペイオフ及び生成できるオプション量の例は以下のようになります。

ex) Options Replication
ex) Option Amount

ポジションの維持コスト

LPトークンの借り入れと解体には、LPがその期間得るはずだった手数料の補填と借入金利の2つの維持コストがかかります。

Uniswap V2等では得られた手数料は自動的に再投資されるため、LPトークンはAMMに提供されている全資産の内、自分の持つ資産の比率を表すシェアトークンとしての機能を持ちます。そのため、解体したLPトークンと同量のトークンを一定期間後に得るためには、解体時に得た資産にその期間に得るはずだった手数料を加えた資産が必要になります。したがって、借り入れたLPトークンと同量のトークンを返済することで、その期間得るはずだった手数料を含めて返済することが出来ます。

しかし、Uniswap V3においては、得た手数料は再投資されないため、同量のLPトークンを返済しても、それにその期間得るはずだった手数料は含まれません。そこで、LPトークンそのものを使用するのではなく、Arrakis等のPassive LP vaultsのシェアトークンを使用します。これによって、Uniswap V2等と同様に、借り入れたトークンと同量のトークンを返済することでその期間得るはずだった手数料を含めて返済することが出来ます。

一方、借入金利による維持コストは、プロトコル全体での返済するLPトークン量の増加という形で現れます。この増加量を各オプションの保有者でどのように分配するかを決定する必要があります。

このプロトコルでは、行使価格毎に現在生成されているオプションの量(需要)をその状態で生成できるオプションの最大量(供給)で割った値を計算し、その値の比によって借入コストを分配します。この方法で分配した場合、供給に対してより大きな需要があるオプションに、より多くの借入コストが分配されます。また、ある行使価格のオプションの生成量(需要)が増加した場合、その行使価格周辺のオプションの生成できる最大量(供給)が減少します。そのため、新たに生成された行使価格のオプションだけでなく、その行使価格周辺のオプションの負担コストも増加します。このように近い行使価格のオプション同士は、借入コストが連動する性質を持ちます。
なお、オプションが生成されていない状態において、同じペイオフから生成できるオプションの最大量は行使価格が現在価格から離れるほど多くなるため、需要量が等しい場合、既存のオプションと同様に現在価格から離れた行使価格のオプションほど維持コストが低くなります。

コスト配分の具体例

・LPトークンのレンジ : $750-$3,000
・LPトークン解体時の価格 : $1,500
・LPトークンの使用額 : $1,000(=0.333ETH + 500USDC)
・全体の維持コスト : APR 25%

ex) Position Cost

上の条件において、現在生成されているオプションの量を表中央左の列としたとき、その状態で生成できる最大量は表中央右の列の値になります。

したがって、各行使価格のオプションの一単位当たりの維持コストは、以下のような比になります。

$1,200 Put : $1,350 Put : $1,650 Call : $1,800 Call

全体の維持コストを借り入れたLPトークンに対してAPR 25%とすると、1ETH当たりの1週間のポジション維持コストはそれぞれ、表右側の列のようになります。

LPトークンの借入金利によって、返済するトークンの数量は時間とともに増加します。増加分のトークンの返済能力を確保するため、オプション保有者は証拠金を預ける必要があります。

LPトークンの価格変化の原因には、流動性提供している資産の価格変動によるものと手数料収益によるものがあります
レンジを指定したLPトークンにおいては、提供資産の価格変化による価格上昇には上限が存在するため、その上限価格を基準とすれば価格変化を考慮する必要はありません。
また、手数料収益による価格上昇は基本的に緩やかな上昇であり、流動性提供者が独占状態にない限り、手数料収益を操作するためには高いコストが必要となります。そのため、急激に証拠金が不足する可能性は低く、シビアな清算は必要ありません。仮に、清算が大きく遅れたとしても、LPトークンの提供者が失う資産は支払われるはずだった維持コスト分に限定され、提供時の価値を下回ることはありません。

なお、借入金利のモデルはLPトークンの提供者が希望する時にトークンを引き出せる状態を確保するために、通常のレンディングプロトコルと同様LPトークンの利用率が高くなると、借入金利が急激に上昇するモデルを採用する必要があります。

具体的なオペレーション

Open Position

まず初めに、LPトークンの保有者が貸し出すLPトークンをプロトコルに提供します。
オプションを生成する際は、預けられたLPトークンから生成に必要な量を借り入れ、解体します。解体する際に得られる、流動性提供されていた資産はプロトコルによって管理されます。
さらに多くのオプションを生成する時、それが現在のLPトークンの借入量で生成できるオプション量の範囲内であれば、新たにオプションを生成し、借入コストの分配比率を更新します。
現在の借入量でオプションの生成できる量が不足していれば、追加でLPトークンを借り入れ、解体し、オプションを生成します。

Close Position

ポジションのクローズ時は、解体時に得られた資産と証拠金を使って、LPトークンを取得し、返済します。
返済を行い、余った資産からオプション保有者の利益が支払われます。
また、解体時に得られた資産の比率は、LPトークンを取得するために必要な資産の比率とは異なるため、片方の資産をスワップする必要があります。

なお、現在価格の異なる時点でLPトークンを解体した場合、それらのポジションを合わせたペイオフは下図のような滑らかな形状になります。

IL short 1 (entry price : $1,350), IL short 2 (entry price : $1,500)
IL short 1 + IL short 2

特徴

・任意の行使価格のオプションを生成することができます。

・無期限オプションを生成することができます。

・LPがその期間得るはずだった手数料と借入金利から構成されるポジション維持コストが変動するため、最終的に支払うプレミアムは不確定です。

・最終的に支払うプレミアムが不確定なモデルであるため、IVを取引するような用途には基本的に不向きです。

・LPトークンの保有者は取引手数料に加えてLPトークンの貸出金利という追加の利回りを得ることができます。

・オプションの決済にオラクルを必要としません。※1

※1 オラクルが必要ではない、つまりプロトコルが価格操作の影響を受けない理由をオプション利用者とLPトークンの提供者がそれぞれ1人だけのシンプルなケースを例に考えます。

オプション利用者はまず、LPトークンを借り入れ、解体し、現在価格より少し上の行使価格のコールオプションを生成します。その後、フラッシュローンで借りたUSDCをETHにスワップし、AMMでの価格を行使価格より高くします。その状態で、解体時に得られた資産をスワップして比率を調節し、LPトークンを再度取得して返済します。この時、LPトークンの解体時より価格が大きく変化しているため、LPトークンを返済しても資産が余り、それがオプション利用者の利益となるはずです。
しかし、この考え方ではフラッシュローンの返済が無視されており、不正確なものとなっています。

⑤でETHをUSDCにスワップするため、ETHの価格がわずかに下がります。そのため⑧のスワップで得られるUSDCは借りたUSDCより少なくなり、その減少分が利益を相殺します。したがって、オプション利用者は価格操作によってオプションを有利な状態でクローズしても利益を得ることはできません。

追加の機能

・ILをショートしたポジションのペイオフは生成された全オプションを合わせたペイオフを常に上回るため、決済時にオプション保有者に支払われない余剰の利益が生じます。この利益は、オプション保有者のポジションの維持コストに使用されるか、あるいはプロトコル収益にすることが可能です。

・LPトークンを解体する時に得られる、流動性提供されていた資産はプロトコルによって管理されています。そのため、LPトークンの提供者が提供したLPトークンを担保にこれらを借り入れる機能を追加することが可能です。借り入れた資産を再びLP vaultsに提供することで、LP vaultsを通した流動性提供にレバレッジをかけることができます。なお、この機能には通常のレンディングプロトコルと同様に、オラクルと清算人が必要となります。

・このプロトコルでは、変動する維持コストが毎ブロック課されるため、満期は無期限でプレミアムが不確定です。これに対して固定金利市場に類似した機能を設けることで通常のオプションと同様に満期を定め、それに対してプレミアムを確定することができます。

--

--