スタートアップの7つの成長プロセス #7 スケール

Keita Matsuyama(松山馨太)
Code Republic Blog
Published in
9 min readAug 16, 2019

今回のテーマは『スケール』です。

これまでのプロセスにより、熱狂的なファンに愛されるプロダクトとなり、持続的に利益を生み出せる構造が築かれました。次は『スケール』のプロセスとなり、セールス&マーケティングにより事業成長を目指していきます。

このプロセスは、「スケールのための成長戦略」と「スケールのための組織設計」の2つの要素で構成されます。

「スケールのための成長戦略」は最短で急成長を実現するためのリソース投下の優先順を分析〜特定する方法、「スケールための組織設計」は成長戦略の実行にあたり基盤となる組織の強化を図る方法を紹介します。

スケールのための成長戦略

『ビジネスモデル検証』のプロセスにおいて、LTVを最大化する最重要KPIと現在のLTV・CACが算出できたため、最重要KPIを向上するために投下する費用の上限が見えてきます。

この費用を営業マンやエンジニアの採用・広告宣伝費の投下に充てていきますが、この際に注意したいことは「どのような優先順で市場を攻略していくか?」ということです。

プロダクトの普及と顧客セグメントの関係性を示したジェフリー・ムーアのキャズム理論では、アーリーアダプターとアーリーマジョリティーの間に大きな溝(キャズム)が存在します。このキャズムを超えていくための戦略としてボウリングレーン戦略があります。

キャズム

ボーリングレーン戦略では、アーリーマジョリティ層を細分化した市場をボウリングのピンに例えて、1番目のピンから2番目、3番目のピンを倒して市場を拡大していきます。

2番目、3番目のピンを倒すためには、プロダクト自体も機能追加が求められます。ニッチな顧客層が熱狂するコア機能から次の顧客層が期待する機能を追加していくことで市場の拡大を促します。

この際に順々に倒していくピン=市場の優先順を決める必要があります。この優先順は以下のようなマッピングにより検討することができると考えます。

表の列が細分化されたターゲット市場、行がターゲットが期待する機能となります。それぞれのマス目の市場規模(ターゲット人口)・競争優位性・課題の深刻度をスコア化して、自社が攻める順番を特定します。

課題の深刻度は、現在のターゲット以外の顧客において実際にユースケースが生まれている場合、深刻度が高いと推測することができます。

優先順を定めた後は、該当する市場を攻略するための施策の仮説を立て、これまで同様に繰り返し検証していきます。

スケールのための組織設計

急速な成長を実現するためにスタートアップは速く多くの人材を採用しなければなりません。しかし、多くの企業は30人の壁・50人の壁・100人の壁と言われるように、従業員数の増加により、経営陣と現場での意思疎通に問題が見られるようになります。

たとえば、ユーザベース 代表の梅田氏は以下のように当時を振り返っています。

社員数が30人になった3~4年目ぐらいの時に、業績は堅調なのに、社内がギクシャクする事案が散見されるようになりました。

例えば「ニュース事業をやりたい」と社内で私が言い出した時のこと。

みんな盛り上がると思って話をしたら、メンバーがシーンと静かになってしまいました。その時には、マネジメント側とメンバーの間に意識の溝ができていたんです。

そして、新野に「梅田さんが自分を見失っているから何とかしてくれ。方向性がおかしい」とメンバーから相談がいく始末でした。

出典:組織崩壊の危機を乗り越えた「7つのルール」

南カリフォルニア 大学教授のラリー・E・グレーナーは組織発展モデルを提唱しており、企業は成長に伴い、創業期の少数精鋭・属人的なリーダーシップによる成長が限界を迎え、制度化・ルール化が必要になると言われています。

この壁に対抗するための手段が「企業文化」です。Googleではパフォーマンスを最大化するために以下のような企業文化のフレームワークを活用しているそうです。

re:Work

私はこの企業文化を構築するために以下の3つのステップが必要であると考えます。

①相互理解

心理的安全性・信頼性の高い組織を構築するためにはお互いを深く理解し合い、尊敬し合うことが重要と考えます。

ヤフーでは幹部候補育成の一環として「Lead the Self」という自分自身の人生のターニングポイントを振り返り、共有するプログラムを実施しています。1人90分間で自分の人生におけるターニングポイントを発表〜質疑応答をします。周囲の質問から今まで気づいていなかった自分自身のインサイトに気づくと共に相互理解を深めることができます。

このようなプログラムを通じてお互いの理解を深める取り組みが必要と考えます。

②ミッション・ビジョン・バリューの策定

「組織がどんな課題を解決して、どんな世界を実現するのか?」というビジョン・ミッション、その世界を実現するために大切にしたいバリューを策定します。

ビジョン・ミッション・バリューは、仕事の意味・仕事のインパクトの理解を促すと共に組織のメンバー全員が目指すべき方向性を統一することができます。

ビジョン・ミッションは様々な業務の判断基準となり、優先順位の決定やセクショナリズムの解消にも繋がります。

たとえば、ヤフーでは以下のようなビジョン・ミッション・バリューを掲げています。

Yahoo! JAPANのミッション・ビジョン・バリュー

今一度「どんな課題を解決して、どんな世界を実現するのか?」を振り返り、組織全員で共有しましょう。

③役割の宣言〜可視化

最後のステップは、相互理解とミッション・ビジョン・バリューを踏まえて、各自の役割・目標を考え、宣言してもらうことです。

そして、その宣言を組織構造と共に社内で共有することにより、組織全員が互いの役割を理解し合える環境を構築します。

組織マネジメントは、私自身も何度も失敗をし、偉そうなことは言えませんが、一つ学んだことは相互理解・相互尊敬のある組織でなければ、チームとしてパフォーマンスを最大化することはできないということです。ヤフーでは組織マネジメントのコンセプトとして「才能と情熱を解き放つ」という表現が使われていますが、チーム全員が才能と情熱を解き放てる、そんな組織は必ず成功を掴みとることができるのではないかと感じます。

全7回に分けてスタートアップの成長プロセスをまとめましたが、私自身起業家として成功経験がある訳でもなく、経験者からすると信頼性に欠ける内容かもしれません。今後も様々な方から知見を頂き、このノウハウ自体をブラッシュアップしていきたいと思いますので、不明点やご意見等ありましたら、ご指摘頂ければと思います。

ここまで読んでいただいた皆様、ありがとうございました!

本シリーズは全7回に分けてスタートアップの成長プロセスを紹介しています。各記事は以下よりご覧ください。

#1 市場選定

短期間で急成長するための市場の条件、選定方法を紹介します。

#2 アイディア策定

ビジネスアイディアを構成する4つの要素とその調査方法を紹介します。

#3 ニーズ検証

ビジネスアイディアという仮説をインタビューを通じて定性検証、ビジネスアイディアを磨き込むプロセスを紹介します。

#4 ソリューション検証

MVPを用いた「課題・ニーズが存在するか?」「その課題・ニーズを解決しているか?」の定量検証のプロセスを紹介します。

#5 プロダクト検証

MVPをプロダクトに落とし込み、愛されるプロダクトへと磨き込むプロセスを紹介します。

#6 ビジネスモデル検証

持続的に利益を生み出し続けるビジネスモデルを構築するプロセスを紹介します。

#7 スケール

愛されるプロダクトと持続的に利益を生むビジネスモデルを構築した後のスケールのための成長戦略・組織設計のプロセスを紹介します。

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