Bug Generator という本について

ちょっとした自慢ではあるのだが、僕は去年 “Bug Generator” という本を自費出版している。ただ、今までそれがどんな内容で、何のために作ったかなどは書き残してこなかった。この記事では多少のネタバレをしつつ、そのモチベーションに触れることにしよう。

本の表紙は井手尾雪さんに作成していただいた。ただひたすら感謝。

00. Abstract

この本の内容を端的に言うと、僕と同年代の、6人の異なる分野の “探求者” (研究者やアーティスト、医者や哲学者) が、人間の知能ってこんなものなのではないか?と議論した内容をまとめたものだ。

構成としては6章から成り立っており、1人が1章を担当する形で話が展開していく。それぞれの章では担当者が思う知能のマインドマップ (のようなもの) を提示して解釈を述べるところから始まる。そうして示された図を6人であーだこーだ言いながら人間の知能について集団で考えるのだ。

例えば第二章では「医者が人工知能になったらどうなるのかな?」というテーマを扱っており、それは担当だった人のバックグラウンドが医者であり、当事者意識をもっていたため。議論はジェミロイドや認知行動療法といった専門的な知見も含みつつ、メンヘラ対策やぬいぐるみといった一見関係のなさそうな事柄にも触れていく。傍から観ると、ただひたすらカオスではあるのだが、どれも欠かせない思考の1ピースであり、全てを拾い上げながら意見が縦横無尽に飛び交うのだ。これが “Bug Generator” という本を生み出した “知能会” の特性なのである。


01. Team

知能会はいわゆる “異分野融合” を成し遂げている変なチームだ。昨今やれ分野越境だーとか、とりあえず違うバックグラウンドもった人を集めて面白いことやろう!とか、何かとチームに対するメンバーの多様性が叫ばれている気がするけど、知能会が全く異なる分野のメンバーで構成されている目的は非常にクリアだ。本の序章にはこう書いてある。

知能とは何か、これは極めて抽象的で広大な問題で、一人で考えるには限界がある。様々な角度からアプローチをすることが必要なのは間違いない。科学者も哲学者も芸術家も技術者も医者もみんなで考える必要がある。 — プロローグより

もう少し補足しよう。こちらは今企画している “オープン知能会” なるものの概要説明。

“人間の知能” について語りましょう。

漠然としたクエスチョンに対して、一つの方向のみからのアプローチは極めて無力です。そうした問題は分野に囚われることなく、多角的な視点から物事を捉える必要があります。ただ、これをヒト一人が行うことは、よほどの天才でない限り不可能に近い。そこで、近いゾーンに関心がある異なる分野の仲間と協力して、ヴィジョンを創っていくことが求められるのです。

“Bug Generator” という本は、知能会が、人間の知能という途方もなく巨大な問題に対する一種の挑戦をした結果であり、分野を越えて答えを探す方法の模索なのである。


02. Background

ただ、それだけなら本を作成するまでもないのだ。自費出版というものは、基本的に赤字だし制作にかかった時間とも釣り合わない。24時間営業のマクドナルドで何度も夜を明かす必要はなかった。そこにはちゃんとした、 “きっかけ” があったのである。

本の企画書から文章を抜粋しよう。

奥村(僕)が MAKERS UNIVERSITY の期間中にどのようなことを取り組んできたかを発表する場 (DEMO DAY) が、2016年11月13日に設定されています。僕個人は実際に事業を起こしたりするのではなく、将来自分が科学技術を発達させてこういう未来を創っていきたいというビジョンと、それを一緒に目指していくチームを作ることを目的として活動していました。ただ具体的に目に見える成果というわけでもないので、本という一つの形に起こして、発表の場に臨むのが適切だと考えました。

執筆を真剣に考えるようになったきっかけは MAKERS のゼミ中に丸さんに僕個人のアウトプットはどうしたらいいか相談したところ、ゼミ中に発表していた思想をまとめた本を出版してはと提案をいただいたことです。僕はもともと人工知能に興味をもって大学に進学しましたが、いつしか知能そのものに対して興味を抱くようになり、知能とは何かという疑問に対して自分なりの回答を見つけるために研究者を志すようになりました。ただ抱えている疑問は非常に漠然としており、様々な方面からアプローチする必要があります。そこで似たような疑問を抱えていた異なる分野の学生・研究者・アーティストを集めた会を MAKERS の期間中に発足させ、ディスカッションを繰り返し、自分の考えを飛躍させてきました。その集まりの集合知を形にすることを、ビジョン作りとチーム作りの2つを MAKERS の実践期間の目標として活動してきた僕のアウトプットにしたいと思っています。

これだけだと伝わりにくいので、2つほど用語の補足をさせてほしい。(これも企画書から)

MAKERS UNIVERSITY について

未来の起業家・イノベーターのための学校と称して、NPO 法人 ETIC が2016年2月から始めた大学生・大学院生対象のプログラムが MAKERS UNIVERSITY です。プログラム生は2月に行われた事前研修の後、実績を持つ若手起業家やベンチャーキャピタリストが1か月に1回開催するゼミに所属することになり (リバネスの丸さんもゼミをもっています)、それぞれが創りたい未来に向けて行動を起こしていく6か月間の実践期間を過ごしました。

DEMO DAY について

MAKERS 生が実践期間の成果報告を渋谷ヒカリエにて2016年11月13日に行います。MAKERS 生が今後さらに活動の幅を広げていくために、共感してくれる様々なリソースを巻き込む日となっており、そこで MAKERS のプログラム期間中でどのような気づきや学びがあったか、これからどういうビジョンを実現していきたいかを発表する予定です。

要するに、僕が MAKERS UNIVERSITY というプログラムの1期生であり、周りが事業を始めたりしている中、アカデミックよりな自分のアウトプットとして最適なものが本だった、というわけだ。


03. Theme

こうして “きかっけ” が与えられたわけだが、最初は “人間の知能” そのものをテーマにする、というのはあくまで選択肢の一つでしかなかった。

その証拠となるのが知能会のメンバーへの、この呼びかけ (企画書を書くより前の話)。

【本を書きませんか?】
既に話している人もいますが、表題の通り本を書きませんか、というお話です。内容としては、この場でディスカッションしていることや、MAKERS UNIVERSITY の丸ゼミでの話し合いから興味深そうなトピックを幾つか絞って、それぞれの分野の見方から意見を述べる、というものを考えています。人工知能の話や Virtual Reality、組織論や、そもそも人間って何だっけ?みたいなことを中心としたいなーと。

知能会は “人の知能に関する何か” に関する話が飛び交う場であり、特に決まった話題が設定されているわけではないのだ。じゃあテーマは何がいいだろうかとみんなで話し合った結果、中心に据えるべき事柄が定まり、自然と形式も決まったのである。

【テーマについて】
「知能の定義」、一つに絞ることになりました。補足しておきますと、現代の、人間の、知能の定義です。ここに対して思うことをマインドマップ作成→文章説明→対話形式で書いていきましょう。

テーマが決まると、シベリアと呼ばれる、クーラーが効きすぎている渋谷のカフェで、6回の対談が繰り広げられた。会話中には2人同時に喋っているタイミングがあったり、指示語が入り乱れていたりと、文字起こしに大変苦労したものの、全体を通してストーリーが成立しており、素材としては最高のものが収穫できた。僕自身は Facebook の投稿で、本の内容をこう言い表している。

だいぶカオスな内容が話し合われてますが、終盤になるにつれて話が収束していって、知能ってこんな形をしてるんだろうねっていうのが見えた不思議なストーリーになっちゃいました。


04. Purpose

さて、本を創るというのは手段であって、それそのものが目的ではない。もちろん僕自身のアウトプットという理由はあったが、主目的は別だ。企画書作成時、僕はこんな読者像を描いていた。

・読者像① : 知能とは何かという漠然とした疑問をもっている学生・研究者

僕たちと同じように知能に対して漠然とした疑問をもっている人に対して新しい視点を提供し、また違った視点から議論に加わって欲しい。

・読者像② : 11月13日に行われるDEMO DAYの参加者

MAKERS UNIVERSITYそのものに興味をもっており、プログラム参加者がどんなことを考え、これからどういう活動をしているのか興味をもっている人が読むことで、MAKERS生の活躍を知ることができる。

異なる分野の人間を巻き込みたい、という狙いがメインなので、主ターゲットは①の方だ。“Bug Generator” は知能会という場の存在をアピールする広報材料であり、僕たちの仲間を増やすためのラブレターでなければならない。

電子書籍ではなく、紙媒体としてわざわざ印刷しているのは、そんなところに由来している。本作成時に相談に乗ってもらった人の言葉を紹介しよう。

> 本当に仲間をつくりたいなら、相手に直接会って熱を伝えることが必要。

> 奥村くんたちがこれからいろんな人たちに合う中で、この人仲間になってくれないかな、と思った人に「手渡す」のはアリだと思う。これは、PDFとかではできない。

> 物理的なからだを持っているからこそ、気持ち・熱を託すことができると思う。

紙媒体にしたことによって、物理的な重みが生まれて、本の “重さ” をより伝えやすくなったと僕は感じている。

さらに目的について深掘りすると、本のエピローグにはこれから僕たちが取り組むべきこととして3つのことを挙げていて、2つ目の項目がそれに当たる。

2. バグをメンバーに加えること
違った角度からの意見が必要なのは間違いない。一度谷に落ちてしまったのなら浮かび上がる必要がある。そのパワーをもった人間、つまりこの会に対して何らかの形のバグが必要だ。例えばキュビットの話をもう少し展開したいのであれば、量子物理学に明るい人間を巻き込む必要がある。今のチームの限界点を突破する切り口を与えてくれる人が必ずいるはず。それはもしかしたら読者である皆さんなのかもしれない。 — エピローグより

もちろん晴れ舞台である DEMO DAY でもバッチリ言及していて、その時聴きに来ていた人を巻き込むことには成功している。

DEMO DAYの様子 (写真右の方にいる黒のタートルネックが僕)

“Bug Generator” は金銭的には大赤字なのだが、その主目的は十分に果たしているのだ。


05. Response

ここで、個人的に頂いた声を何件かご紹介しよう。

まず、この本は読むのが大変難しい。(自分でもそう思う。)

> いま本読んでるけど解読が難しすぎてこれは時間を要するね苦笑。著者のプロフィールが乗ってないのがらしいねって笑ったww

本の形式はそれなりには守っている。が、しかし。

> 1ページ目からプロダクトアウトすぎて、笑った。

それでも内容は深くて面白い。

> さらっと表層だけを読むなんて到底できず、まるでその場にいて議論に入ってるような感覚で読むとほんと面白かった。彼らの世界のどの位を見たのかは分からないけど、じっくりと。

ただスラスラ読める人もいるらしい。(特殊ケース)

> 文章がまるで絵のように頭の中に入ってきてとても読みやすかった。

内容についてもたくさんお言葉を貰っていて、それは知能会の新しいディスカッションの種となっている。読者を巻き込んで、もっともっと話を飛躍させていきたい。


06. Before and After

最後に、プロローグとエピローグの文章を引用しておく。

まずはプロローグの終わり。

6人の対話の中で徐々に知能の輪郭といったものが明らかになってくるはずだ。一見まとまりのないような会話が展開されていても終盤に行くにつれて収束していくので、どうか温かく見守ってほしい。ただ、この疑問がどんな時もライトの代わりになってくれるはずだから覚えておいて。

あなたにとって知能とは? — プロローグより

次にエピローグの最後の文章。

輪郭は見えた。ただ、もう少し先も見てみたいなと純粋な好奇心に唆られているのが今の心境だ。Bug Generator である知能は、次はどんな名前をつけられるのだろうか。 — エピローグより

間に何があったか気になるって?知りたいなら本を読むしか方法はない笑。

以上、Bug Generator という本についての紹介でした。


この記事を読んで “Bug Generator” に興味をもったヒトは、ぜひぜひ keisuke.oku18 [at] gmail.com までご連絡を。

Keisuke Okumura | 奥村圭祐

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