Kinya Tagawa
5 min readDec 24, 2015

RCA/IDEとデザインエンジニアリング

イギリスのRoyal College of Art(RCA)とImperial College, LondonがジョイントコースとしてIndustrial Design Engineering(IDE)というコースを作ったのは1980年。もともとは工学部出身のエンジニアにデザイン教育を施して、技術の分かるデザイナーとして再教育しようという比較的シンプルな目標を携えてのスタートでした。

私はこの学科に1999年から2001年の間在籍し、デザイン教育を受け、現在は同じ場所でVisiting Professorとしての役割を持っています。IDEは10年ほど前にその名前をInnovation Design Engineeringに変え、現在はイノベーション人材の教育に取り組んでいます。

http://www.rca.ac.uk/schools/school-of-design/innovation-design-engineering/

IDEは修士課程の2年間のコースです。この2年間の間にレクチャー・ワークショップ・チームプロジェクト・個人プロジェクトを組み合わせながら、デザインとエンジニアリングをハイブリッドに組み合わせた手法やプロセスを学んでいきます。デザインとエンジニアリングといっても、双方非常に広いエリアがありますが、IDEでは下のような範囲をスコープとして持っています。

IDEの特徴の一つは多様性(Diversity)です。2学年で80名ほどの学生たちは世界中から集結した発想体質の才能あふれる若者たち。(若者というのは正確ではないかもしれません。平均年齢は28歳。一度働いた経験のある人が多く、40歳台の人も珍しくありません。)国籍も多様で、一つの部屋に数十の国籍の人間がひしめき合って、日々を過ごしています。

学生たちのバックグラウンドは、デザイン、エンジニアリング、それ以外がちょうど1/3になるようにコントロールされています。僕らは多様性がイノベーションの鍵のひとつだと信じており、その信念を学生の幅の広がりとして実現しています。ビジネスバックグラウンドの学生も増えており、企業で事業開発をやっていた人、コンサルティングファームで戦略を作っていた人なども在籍しています。そんな人たちも2年を経過するうちに立派にモノが作れるようになっていきます。

Diversity

このような多様な学生たちと会い、プロジェクトを見て、議論することが私のひとつの役割です。1年生の間はデザインプロセスについて短期間のレクチャー・ワークショップを短いサイクルで回し、皆のスキルセットを整えつつイノベーションへの意識を一気に高めます(課題も含めかなり忙しいです)。

2年生になると、学生たちはDMI(Disruptive Market Innovation)とEXP(Experiment)という2種類のプロジェクトのどちらかを選んで、最終プロジェクトとして進めていくことになります。DMIは既存のマーケットにその名の通り破壊的イノベーションをもたらすようなアイデアに取り組むプロジェクト。EXPは前衛的で実験的な、しかし同時にインダストリーに影響を及ぼす可能性のあるような挑戦的なプロジェクトのことを指します。

いずれにしても学生たちはプロトタイプを大量に作り、それをテストし、議論することで、自らのアイデアを鍛えていきます。下の写真はDuncan Fitzsimonsが制作した折り畳むことができる車輪。このプロジェクトは最終的には折り畳み車椅子用の車輪として市場に出ていきました。

Folding Wheel, Duncan Fitzsimons

The Showと呼ばれる、RCAの卒業制作展においても、IDEの学生たちのプロジェクトは、その高い製品化可能性の面で存在感を放っています。DMI系のプロジェクトはすぐに製品化できるものも少なくなく、来場する企業関係者との間で、その場で商談がスタートすることも珍しくありません。卒業生がプロジェクトを発展させるためにそのまま起業するパターンも増えています。

IDEは世の中を刷新していくような次世代の人材を育てたいと考えています。IDEはP.F.ドラッカーの言葉を引用して、自らの教育の方向性を次のように定義しています。

Since we live in an age of innovation, a practical education must prepare a person for work that does not yet exist and cannot yet be clearly defined.

Peter F. Drucker

そう。時代の進展とともに、必要とされる仕事も職業も変わっていきます。私たちは未だ定義されていない仕事に取り組むような「まだ僕らが知らない誰か」を育てる必要があるのです!

Kinya Tagawa

Director, takram design engineering / Visiting Professor at the Royal College of Art