最高の体験は最高の環境から作られる -pixivで10日間働いてきた話-

Kaoru Miyazaki
14 min readMar 23, 2017

これは、「創作活動を本気で応援したい」という意思と技術が集まる”ある”場所のお話。

「pixiv」とは

pixivというサービスをご存知だろうか。念のために説明しておくと、ピクシブ株式会社(以下、pixiv社)が運営する「お絵かきがもっと楽しくなるイラストコミュニケーションサービス」で2007年のサービス開始以来、現在では世界中に1800万人以上の会員を誇り、もはや日本国内でデジタル媒体のイラストを描く人であれば知らない人はいないと言えるだろう。

pixiv社は他にも「“創作活動がより楽しくなる”ショップ作成サービス BOOTH」、「電子コミック総合サービス pixivコミック」、「クリエイターとファンをつなぐコンテンツプラットフォーム pixiv FANBOX」等、「創作活動をする人たち」をターゲットとした様々なサービスの開発・運営を行っている会社である。

私はこの会社で10日間、デザイナーとして働いてきた。

きっかけ

同人活動の中で知り合ったエンジニアさんがたまたまpixiv社のエンジニアさんだった。

雑談の中で「うちの会社が今、インターン生の応募してるみたいだからKaoruさんも応募してみたら?」と誘われたのがきっかけ。

それが「pixiv SPRING BOOT CAMP 2017」という10日間のインターンだった。

ずっと紙モノや美少女の上に文字を載っけるようなデザインばかりをしてきた自分にpixiv社のような「THE アイ・ティー! THE ベンチャー!」的な会社で通用するのか心配であったが、私が普段一緒に活動をしている、お世話になっているイラストレーターさん達がメインの活動プラットフォームとしているサービスがどのように・どのような思いを込めてつくられているかに興味があったこと、せっかく学業が春休み中で同人以外にやることがなかったので腕試しも兼ねて、という動機で応募をすることにした。

pixiv社ということで自身が冬コミで作った冊子のpdfやWebサイト、ロゴ等をまとめたTwitterモーメントなんかも添付して送ってみた。

その後書類審査、本社面接を経て無事にインターン生として採用される運びとなった。

何をしてきたか

インターン生はビジネス職、エンジニア、デザイナーの肩書を持つ15人。何れも超名門学校に在学、もしくは唯一無二の技術力を持った変態集団。一言で表すなら「優秀」。そんな今にもクローズドサークルなミステリーが始まりそうな15人を4~3人の4グループに割り振り、各グループでテーマに沿ったプロダクトを10日間で作る。テーマは「世界に向けた創作活動が盛り上がるサービス」。

最終日にはCEO、CTO(Chief Technology Officer)、CCO(Chief Culture Officer)のpixiv社3トップによる講評を経て優勝を決める。

ここで「あれ?」と思った方もいるだろう。pixiv社のインターンは「業務のお手伝い等は一切しない」のである。実際にpixiv社内で、pixiv社の環境を使ってモノ作りをするが、業務内容を覚えたりはしない。私は「インターン」というもの自体が初めてだったので目から鱗が落ちるようだった。

所謂、技術の世界で言う「ハッカソン」に近い。と言っても、ターゲットが「創作活動をする人達」であることは大きな特徴であろう。

「創作活動をする人達」が前提にあり、そのターゲットを喜ばすことができないモノは「プロダクト」とは呼べないのである。

ビジネス職(一人)・エンジニア(二人)・デザイナー(一人)の3つの職が合わさって最強に見える。しかし、チームでのものづくりは難しいのが世の常である。

待っていたのは味わったことのない楽しさ、そして苦悩だった。

0からチームでモノを生み出す大変さ。

議論に何日もの時間を費やした。せっかく出た一つの答えをデモまで完成した状態で「これじゃない」と思い切り一度全部撤回もした。

ビジネス職、エンジニア、デザイナー全員が「必ず良いモノを作りたい」という気持ちに向かって全力だった。それは私のチームだけでなくインターン生全員が同じだった。

刺激的だった。一日中イラレと向かい合ってるだけじゃ絶対に出来ない体験。

それは私が思い描いた世界を叶えてくれるエンジニアという二人の魔法使いの存在が大きい。

私が「こうであったら良いんじゃないか?」という願いを聞く。キーボードをしばらくカタカタと叩くとそれが実際に動いている。

私はエンジニアのそんな「有言実行」なところが大好きだ。二人には本当に迷惑をかけた、ずっと無理を言っていた。でもそれをものともせずに笑顔で答えてくれる最高の仲間だった。そのプロダクトが必ず良い物になるという思いを持っていたからだろう。

もう一人、私の思いを聴衆に届けるためにビジネス職の青年はずっと頭を悩ませていた。

彼の大きな仕事の一つはプロダクトを「プレゼン」という形で人々・審査員に「伝える」事だ。しかし、彼は自他共に認めるあがり症で聴衆の前でのプレゼンもほとんど初めてだったという。自分の思いがうまく伝わらずに苦虫を噛み、逃げ出しそうにもなったと言う。

それでも諦めずに私のプロダクトに対する思いを解釈し、理解しようとし、プロダクトを愛した。

そして、その思いを聴衆に届けた。彼も最高の仲間の一人だ。

私達がその場所で10日間に及ぶ議論・開発(時間の割り振り的には議論7:開発3ぐらいな上に一度プロジェクトがポシャったので実質の開発期間は3日程度)を経て完成したものをご紹介したいと思う。

何を作ったか

先日、Twitterの方でも少し紹介したが、私達は「音楽知識共有サービス pressto」というのを考案した。

音楽知識共有サービス -pressto- ※このサービスは実際にはリリースされません

「pressto」という名称は音楽用語で「急速に」を意味する「presto」と報道機関や新聞社を意味する「press」をかけ合わせた造語で、私が考案した。ロゴも斜体でスピード感が感じられるように、色も「急速」をイメージした「赤」と、アカデミックをイメージした「暗い紺」をチョイスした。今考えてみるとこの組み合わせは伝統的なセーラー服的な(EX : Fate/Extra CCC のザビ子)フェティシズムを感じるハーモニーだ。

完全な自主制作だがこのような宣伝ポスターも作成した。

少し脱線したがこのサービスのコンセプトは「早く公開出来る、早く共有出来る」である。

ターゲットは

・自分の音楽の知識を公開したいと思っているミュージシャン・作曲者

・音楽を学びたい・知識を得たいと思っているミュージシャン・作曲者(志望)

である。

予定していた主な機能としては

・Wordpressのような一般的なマークダウン方式の記事作成機能

・画像挿入

・MP3等の音源挿入

・タグ付け

・コメント機能

(ここまでの機能は実際実装までを行い、最終日のデモで披露した)

ここから先は案として出た機能

・いいね機能

・録音機能(マイクからその場で録音を行い、記事に貼り付けて再生まで出来る)

・VSTやDAWのプロジェクトファイルのアップロード・ダウンロード機能

・Up vote・Down vote機能(reddit方式)

・サービス登録時に好みのアーティストを選び、その好みに合わせた記事を表示する機能(tumblrに近い)

・共同編集・編集リクエスト機能

などがあった。

このサービスの目的は何か?

例えばDTM。これを読んでいる方の中で、ネット上に上がってるボカロ曲や、もしくはゲーム音楽等に憧れてDTMを始めた経験がある方はいらっしゃるだろうか?私はまさにそうだった。

しかし、無料で始めようものなら突き当たるのは「まず音がでない」、「思い通りの音色がでない」、「そもそも作曲理論がわからない」といった壁にぶち当たる。

そこで、ネットでそういった情報を探してみるとでてくるページはあまりにも古いフォーマット(ホームページビルダーで作成したと思われる…)や扱っているDAWソフトのバージョンが古すぎたり…と、ネットで音楽に関する知識を得るのは非常に煩わしいとなっているのが現状だ。

このサービスはそんな「音楽知識を得る煩わしさ」を取っ払うことを目的としている。

「Web上に散らばった知識を同じフォーマットにして見やすく、最新の情報で集めること」がこのサービスの使命だ。

もう一つの使命、それは「コミュニティの生成」だ。これはユーザーが記事を書くモチベーションにもつながる話。

とても良いモノなんだけどユーザーの少ないソフトウェア・楽器があったとしよう。当然そういったモノは日本語のドキュメントが少ないのが世の然り。個人ブログで書いたところで誰に見てもらえるかもわからない。

ならば、そういった知識をpresstoに集めてタグをつけて、情報の見通しを良くすればよいじゃないかという魂胆だ。

こうすることによって一つのソフトウェア・楽器に対して今まで生成されづらかった「コミュニティ」が誕生する。「コミュニティ」が発達すれば、そのソフトウェア・楽器の知名度も上がるかもしれない、という思いがある。

私達のチームではこういったところから生まれる、一つのものに対して多くの知識を公開する人のことを「ニッチな神様」と呼んでいた。presstoは神様を生みたかったのだ。

ちなみにこのサービス、チーム内では初期段階で「音楽版Qiita」と呼ばれていた。

OSS(Open-source software)活動、知識を共有してみんなで活用する文化はWeb独特のものである。音楽にはどこかクローズドな部分があるので、その部分を変えたいという私個人の思いも込められている。

以上が、私達の開発していた「pressto」というサービスの概要だ。

さて、次はこのようなサービスを開発した環境、pixivというサービスが動いている環境についてお話しようと思う。

pixiv社の環境について

こういったサービスを集中して作れたのは何よりもpixiv社の環境による恩恵が大きい。

私がpixiv社が良い環境だと感じた「要因」を2つほど挙げたい。

交通費・宿泊費が全額支給(福利厚生)

この点は本当に大きかった。私の住まいは千葉の端っこ。通勤しようと思えば約2時間、往復で移動時間に計4時間、インターンの10日間で40時間を消費されてしまう計算だ。しかし、今回のインターンでは職場近くのホテルに宿泊が出来、尚且つ宿泊費を出して頂いた。当然、初日に会社に向かう時にかかった交通費も支給される。よって、より開発に集中出来る環境を整えて頂いた。「作る」ということ以外何も心配しなくても良いことは本当に素晴らしいことだ。

ちなみに正社員になると、住宅手当というものが支給される。これは会社から半径1.2km圏内に住むと50,000円/月が支給されるという制度だ。他にも希望PC購入制度(社員が希望するPCを会社が購入し支給)、フリードリンク(飲み物が無料で利用できる制度、インターン時も大変お世話になった)などなど…とにかく福利厚生がすごい。他にも定期的に様々な勉強会が開かれていたり…と挙げるとキリがない。少なくともモノを作る上で国内で最高の環境が整っているのがpixiv社ということは断言できるだろう。

●いい人しかいない

もう一点、かなり曖昧な言葉になるが本当にこの一言に尽きる。pixiv社の社員さんは皆いい人だ。この点は15人のインターン生も皆同じだった。そういう人たちを選んで採用しているのだろう。

どんな社員さんでも私達が開発で悩んでいた部分に真摯に相談に乗ってくれた。昼休みには一緒にご飯を食べに行き、そこから新しいアイディアも生まれる。水曜日の全社ランチや週末のお酒の席でも大いに技術や趣味の話で盛り上がる。

pixiv社はオタクが多い。ここで言うオタクとは単純なアニオタなどではなく「何か一つの知識に精通したギーク」という表現の方が正しい。皆、知識が豊富で私の知らないことを多く話してくれる。そして私のマニアックすぎる話にも耳を傾けてくれる。

そういった環境が社内で出来上がっているのだ。pixiv社に壁はない。皆がコミュニケーションを第一とし、気持ちよく開発が出来る環境を社員のみんなで作っているのだ。

(この辺りの話は人事の丸山氏がWantedlyの人事アンテナで受けたインタビュー社員の仲がいいから、仕事が回る!ピクシブが進める「優しい人」採用戦略のメリットに詳しく書かれているので是非ご一読頂きたい。)

まとめ

私の伝えたいこと、pixiv社への愛は大方語り尽くしてしまったので私がインターンで得たものを一つ書いておきたい。

それは「ユーザー(pixiv社ではクリエイター)ファースト」という考えだ。pixiv社は「クリエイター」というターゲットを本気で幸せにしたい、最高の体験を届けたい!という思いで皆働いている。クリエイターがしたいことをして生活ができる、幸せになれる世界を創り上げようとしているのがpixiv社という場所だ。

私はこの点を真面目に考えてきたことがほとんどなかった。「いいデザイナーは、見ためのよさから考えない」という言葉を知っていながら、デザイナーとして本質を付いたプロダクトを作るのに本当に苦労をした。わかっているようでわかっていなかった。

そのため第一周の週末の中間発表後、お酒の席とは言えインターンを統括していたCCOの方に「このプロダクトが悪いのはデザイナーであるお前の責任だ」という言葉を突きつけられた。この言葉は私にとてつもない衝撃を与えた。私はユーザーのことを何も考えていなかったのだ。(結果的にプロジェクトは振り出しからやり直し、presstoというサービスが生まれた。)

0から何かを生みだす「生みの苦しみ」。これを乗り越え「描いた夢を実現する」ステップの快感は何物にも代えがたい。これだからデザイナーはやめられない。

この苦しみと楽しみは一度味わうとクセになる。これを是非味わって貰いたい。確かな技術か頭脳に自信のある学生の方は夏にもインターンが行われるので参加してみては如何だろうか。学年不問なので就活生じゃない方にこそ参加して頂きたい。

最後に、同じチームだった「らがー・りゅうや・れお」。結果的に優勝はできなかったが、君らと過ごした10日間は何物にも代えがたい最高の思い出だ。またきっとどこかで一緒にモノづくりをしたい。

長くなってしまったがこの辺で。次はどこに行こうかな。

アートディレクター・デザイナー Kaoru

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