近年印象に残った利用規約5+1選

Ryutaro Nakagawa
7 min readDec 8, 2015

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※これは【法務系Advent Calendar 2015の参加エントリーです。

今回は、近年話題になった利用規約(利用規約ネタ含む)のうち、個人的に特に印象に残った5+1つについてピックアップしてみました。

1. Tumblr

まずはTumblrから。もはや3年近く前の話題ですが、2012年に利用規約やプライバシーポリシー、コミュニティガイドラインを改定して以来、規約等におけるTumblrの実直な表現は度々話題になっています。

例えば、利用資格条項の注意書きはこんな感じです。

https://www.tumblr.com/policy/en/terms-of-service より

『でも、ほら、ぼく、12.9歳だよ!』の辺りが結構お気に入りです。

2. Snapterms

これは1年半ほど前に@kataxさんのGoogle+経由で知った話題ですが、利用規約作成サービスを運営する米国Snaptermsの利用規約もユーモアあふれる表現が随所に散りばめられています。

例えば転売禁止に関するこの表現なんて、なかなかです。

This is really, really super duper mega ultra triple important.

http://snapterms.com/legal/ より

躊躇なく地の文で勝負に出るノリと漢気に清々しさを感じます。

3. Wi-Fiを利用するため我が子を差し出す?

昨年、ロンドンの街中で、

第一子又は最愛のペットを永久に差し出すこと

を利用の交換条件とする旨定めた利用規約への同意クリックを必須とした上で無料Wi-Fiを提供するという実験を行ったところ、なんと30分間で6名がこの利用規約に同意クリックしてWi-Fiを利用したそうです。いかにユーザーが利用規約を読んでいないかを端的に示す一例ですね。

For part of the experiment, the guys enabled a terms and conditions (T&C) page that people needed to agree to before being able to use the hotspot. One of the terms stipulated that the user must give up their firstborn child or most beloved pet in exchange for WiFi use. In the short time the T&C page was active, six people agreed to the outlandish clause.

なお、調査を担当したF-Secure社曰く

我々はまだこの利用規約に基づく権利を行使していないが、これが実験ということもあり、我々は子供達を彼らの元に返すつもり

だそうです。いい人たちでよかったですね(棒)。

4. iCloud利用規約

今年の2月には、アーティストFlorence MeunierによるiCloudの利用規約を用いたアート作品も発表され、話題になっています(Gigazineの参考記事)。iCloud利用規約の大部分を黒塗りにすることで、ひとつのストーリーを浮かび上がらせる作品です。

http://www.underconsideration.com/fpo/archives/2015/01/the-man-who-agreed---apple-terms-and-conditions.php より

なお、ストーリーのメッセージは、規約を読まずに同意するユーザーに対して警鐘を鳴らすものとなっています。

5. iTunes 利用規約

Apple関連の利用規約といえば、先日、iTunes利用規約を用いたアーティストRobert Sikoryakのパロディ作品も話題になりました(engadgetの参考記事)。これは、スティーブ・ジョブズの登場するストーリーについて、様々な人気マンガ家のタッチでパロディマンガ化しつつ、大胆にもセリフとしてiTunes利用規約の文言をそのまま付けてしまおうという作品です。

例えば、大友克洋風ジョブズが

“This Agreement constitutes the entire agreement between…”

という完全合意条項の文言から始まる利用規約の雑則(Miscellaneous)を叫びながら頭を抱えるシーンがこちら。

http://itunestandc.tumblr.com/post/132600335420/page-50-after-katsuhiro-otomo より

全くもって意味不明ですが、なんだか抗いがたい魅力と味わい深さも感じますね。3コマ目もイラストとセリフ(規約文言)の内容が微妙にハマっていて好感が持てます。

利用規約に突きつけられるふたつの要請

さて、ご承知の通り、利用規約には、多数のユーザーを相手とすることによる「簡潔さ」「分かりやすさ」といった要請と、法効果を生じさせることに伴う(法律用語などの)ある程度の「厳密さ」の要請という、相克するふたつの要請(※)を両立させることが求められています。

しかし、過去の幾多の試行錯誤にもかかわらず、多くのユーザーにとって利用規約はまだまだ難解で、ほとんど読まれていないのが現状です。もちろん、債権法改正のように、そのことを前提として組み込んだ法整備も進められていますが、上記1〜5でピックアップした5つは、そんな現状に対するそれぞれの立場からのリアクションといえそうです。

そんな中、つい先日興味深い最新の取組みに接したので、締めとしてこちらをご紹介します。

「オチビサン」× 鎌倉プロジェクトの利用規約が見せる可能性

先月19日、マンガ家安野モヨコさんは、自身が鎌倉在住であることやマンガ「オチビサン」の舞台が鎌倉であるといった縁から、鎌倉の魅力を発信する場合には「オチビサン」のイラスト素材を無償使用可能にするという素敵なプロジェクトを発表しました。

そして、このプロジェクトの利用規約は、『オチビサンの利用についておじいが解説するよ』という名の通り、「オチビサン」のキャラクターである「おじい」が分かりやすい話し言葉でルールを説明するものになっています(仕掛け人はコルクの半井さん)。

http://ochibisan.com/kamakura/ より

これは、まさに前記のふたつの要請に対して、とてもコルクらしいアプローチで応えるもので、意義のある取組みだと思います。

この問題について唯一の正解/ゴールがあるわけではありませんが、こういったアプローチも含めて、これからも利用規約のスタイルが多様化しながら進化していくことに期待しつつ、稿を閉じたいと思います。

※なお、利用規約に求められるこれらのふたつの要請は、CCJP/GLOCOMの渡辺智暁教授が指摘されているように、パブリック・ライセンスにおいても同様に求められるものです。その辺りについては、先週出たばかりの「CC 4.0時代のオープンデータとライセンスデザイン」(情報の科学と技術2015年12月号)にも書いたのでご興味のある方は是非ご覧ください。 #宣伝

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Ryutaro Nakagawa

Lawyer (JP) specializes in Art, Fashion & Entertainment Law/ LL.M candidate (in European Law) at Université Panthéon-Assas Paris II/ Fashion Law Institute Japan