なぜ日本のHPVワクチン接種率が70%からほぼゼロまで低下したのか

そして、いかにしてひとりの医師が立ち向かっているのか


ニュースサイトVoxに掲載された“Why Japan’s HPV vaccine rates dropped from 70% to near zero”という記事の翻訳です。この訳文はCreative Commons(Attribution, non-commercial, share alike)ライセンスにて公開していますが、これは訳文に対して適用されることを意図しており、元記事のいかなる権利も侵害する意図はありません。問題がありましたら、可能な限り早く対応いたしますので、ご連絡ください。また、誤訳・不適切な表現等ありましたらご指摘ください。以下、訳文です。


2017年12月1日東部時間午後1時10分ジュリア・ベルズにより更新

@juliaoftoronto
julia.belluz@voxmedia.com

日本で反ワクチン活動家と戦っているひとりの医師が、科学のために立ち上がったとして権威ある賞を受賞した。

京都大学の村中璃子は、日本において広く行きわたったHPVワクチン(訳注:子宮頸がんワクチン)に関する恐怖の中核にある疑似科学を暴いた彼女の研究のために、2017年のジョン・マドックス賞を受賞した。この権威ある賞は、科学誌Nature、The Kohn Foundation、および慈善団体Sense of Scienceによって、敵意に直面しながらも正当な証拠を提供した人物に毎年授与される。

村中の物語は、ワクチンのパニックがどのようにして始まるのか、そして最善の意図を伴う努力をもってしても、それを取り除くことがいかに難しいかを説明している。

日本におけるHPVワクチンの接種率は、2013年の70%から現在では1%以下にまで急落している。これは、ワクチンが脳損傷を引き起こしたことを示す予備的な(そしておそらく疑わしい)マウスの研究とともに、ワクチン接種を受けた後に発作を起こした車椅子の少女たちの確認がとれていないビデオレポートがメディアで広められた後に起こった。

また反ワクチン団体は、慢性的な痛みと心臓や神経の障害を引き起こしたとして、この接種を非難した。政府は、親たちや反ワクチン団体が行っていた主張を裏付ける証拠がないにもかかわらず、HPVワクチンの推奨勧告を中止することを決定し、状況を悪化させた。

正当な科学をよそに、怪しげな主張が日本でワクチンのパニックを引き起こした

ここで明らかにしておくと、HPVワクチンは、世界中の公衆衛生および科学団体により、がんを予防するための安全かつ有効な手段として認識されている。米国では、9~26歳の少年・少女に推奨されている

HPVワクチンに重大な安全上の懸念があることを示唆するまともなデータはない小児感染症ジャーナル(the Pediatric Infectious Disease Journal)に掲載された2006年から2015年の間のこのワクチンに関する利用可能な全ての安全性データのこれまでで最大の要約論文と、これとは別のデンマークとスウェーデンで約100万人の少女が関与したBMJの研究では、このワクチンと、自己免疫、神経および心臓血管の有害事象を含む様々な害との間に何の関連も見出さなかった。最近では欧州医薬品局(European Medicines Agency)も科学的証拠を調べ、このワクチンと、人々がこのワクチンに起因すると主張する痛みや他の症状との間に関連性がないことを発見した。

世界保健機関(WHO)のワクチン安全性に関するグローバル諮問委員会は、6月に「数百万人の人々が参加し、ワクチン接種された被験者とワクチン接種されていない被験者における幅広い健康成果のリスクを比較した安全性の研究が蓄積されている」と述べている。しかし、「このワクチンについて利用可能な広範な安全性データにもかかわらず、誤った症例報告や根拠のない主張に注目が集まっている。」

村中は悪い科学を暴露した。しかし、多くの人はそれを聞きたがらなかった。

日本では、疑わしい反ワクチンの研究が、被害者であると主張する少女たちのビデオとともに、メディアによって信じられないほど広められた。ばかげた研究と親の恐怖の組み合わせが、科学に勝ったようだ。

ここに村中がやってきた。2015年に彼女は、ワクチンを支持する科学に注目を集めることを目指し、日本の新聞各紙にHPVワクチンについての記事を書き始めた。2016年に彼女は、問題のマウスの研究を調査した。この研究の著者、池田修一という名の地方の医師は、ワクチンを注射したげっ歯類が脳損傷を受けたことを示したと主張するマウスの脳に関する研究に基づいて、ワクチンが有害であると主張していた。彼はこの研究のスライドをテレビ番組で見せて、決して人間では再現されることのなかった予備的なデータを広めた。

その次に起こったのは信じられないことであり、証拠を求めることがいかに重要であるかを示している。コーネル大学の科学のための同盟によると、

村中が最終的にスライドの起源を突き止めたとき、問題の研究に参加した研究者は、実験で各ワクチンを注射したマウスはそれぞれ1匹のみであり、池田が示したマウスの脳はHPVワクチンを注射したマウスですらなかったと彼女に語った。
村中はまた、実験でワクチン接種されたマウスが遺伝子組み換えされたものであり、老化の間に自然に自己抗体を産生したことも発見した。これらのマウスから抗体で満たされた漿液が採取され、正常なマウスの脳切片に噴霧され、HPVワクチンによって引き起こされたと思われる「脳の損傷」を示すために写真撮影された。

科学的な詐欺に取り組むことは容易ではなく、そしてそれこそが村中がマドックス賞を受賞した理由である。科学者である池田は現在、名誉毀損を主張しており、その結果、村中は新聞の定期的なコラムと本の契約を失うこととなった。彼女は、彼女自身と彼女の家族に対する脅迫にも耐えているとBBCに語った

それでも彼女は、この戦いがそれに値するものであると言う。彼女は賞を受け取る際にこう述べた。「私は、公衆衛生を脅かす危険な主張を決して無視することはできません。私は人々に真実を聞いてもらいたいのです。それこそが私が書き続け、声を上げ続けている理由です。」

残念なことに、村中の調査はまだ日本のHPVワクチンの状況を好転させるに至っていない。HPVワクチンの接種率は1%を下回っている。反ワクチンの宣伝のために、がんの罹患を防ぐことができる接種を何百万人もの若い日本人が受けないだろうと、村中はScienceのインタビューで述べた。

「毎年日本では、27,000~28,000人の女性が子宮頸がんと診断され、約3,000人が死亡します」と彼女は述べた。「HPVワクチンはこの病気を予防することができます。しかし、活動家のビデオと、ワクチンの推奨を中止した政府の決定のために、多くの母親と子供は、このワクチンが安全であることを知りません。長期的な影響は、予防することができたはずの苦痛と死となるでしょう。」