佐渡。俺はまだ佐渡にいる。
僕がこの前読んだ小説の題名は、えーと、なんだったか忘れたが話の要点としては舞台が現代の佐渡で主人公は小説家だったということは覚えている。主人公の名前は確か阿部とかそんな名前だったっけ。彼は新作の小説を書くために山形県東根市から佐渡にやってきた。当分の間仕事をしなくても食べていけるだけの蓄えはあった。彼の生まれ故郷を舞台にした前作が結構売れていたからだ。だから彼は1日の全てを小説執筆のための活動に当てることができた。
佐渡に来てから阿部は小説の題材となる人物や場所を手当たり次第探した。まずは金井にあるテルロードというスナックに毎晩通い詰めた。そこで知り合った同じ山形出身の自衛官と意気投合した。阿部は彼をモデルにした小説を書くことにした。しかしその一方で偶然ネットで見つけた「佐渡の羽」というブログにのめり込むようになった。そのブログの内容は佐渡中いたるところの飲食店や観光名所を独自の視点で紹介するものなのだが、その内容そのものよりもむしろブログ執筆者の特異な人間性に惹かれるようになった。そのうちブログ執筆者の「羽」本人の正体を突き止めてみたいと思うようになった。
しかしそうこうしているうちに自衛官が姿を消してしまう。音信不通となってどこにいるのか分からなくなってしまう。彼が所属している金北山にある基地を訪ねても上官ですら所在が分からないという有様。そうして数ヶ月が過ぎた。ある日テルロードのカウンターで一人で飲んでいるとスーツを来た中年の男から声をかけられた。その男は自衛官の所在を探しているという。話しているうちにその男は自衛官の所在を知っているらしいことが分かった。
両津から北に十数キロ行ったところに新興宗教の宿泊施設があって、自衛官はそこにいるらしいということが分かった。男は防衛省本省から派遣されてきた調査官で自衛官の身辺調査をしに佐渡に渡ってきていた。どうやら自衛官は新興宗教の幹部 らしいのだ。阿部は自衛官と毎晩のように飲んでいたほどの仲だったから調査官から調査の協力を求められた。しかし阿部は単に小説を書くために佐渡に一時的に滞在しているだけだったし、面倒なことには巻き込まれたくなかったのでそのときは依頼を断った。
さて、ここまで読んで僕はこの話の展開は映画・地獄の黙示録に非常によく似ているなと思った。頭のおかしくなったカーツ大佐を抹消するために派遣されたウィラード大尉の話そっくりじゃないか。

サイゴンならぬ佐渡。“佐渡。俺はまだ佐渡にいる。”今回そうつぶやくのが調査官ではなくて阿部だったという違いがあるだけだ。阿部の立ち位置は地獄の黙示録では脇役でしかなかったカーツ大佐に魅了されたカメラマンということになるだろう。しかしこの小説の主人公は阿部であって調査官ではなかった。そこが特異な点といえばそうだ。
それから「佐渡の羽」の存在。彼のブログはほぼ毎日更新されていて阿部が調査官と接触した後に自衛官がいるとされる宗教施設の内部の様子をレポートした記事がアップされた。阿部はそれを見て一体これはどういうことかと背筋が寒くなる思いをする。ブログは宗教施設内部の様子を詳細に伝えるだけでなく、そこで生活する人間関係や様々な秘儀を暴露していた。
教団内部では自衛官が教祖として崇められており、彼がイニシエーションと称して信者の女性と性的行為に及ぶ様子までブログでは書かれていた。これを読んで阿部は「佐渡の羽」の正体は実は自衛官なのではないかと疑い始める。
自衛官の身辺調査をすることが「佐渡の羽」の正体をあばくことにつながるのではないかとふんだ阿部は調査官の協力要請を受けることにした。阿部は信者を装って宿泊施設内部に潜入した。そこで自衛官と再開する。阿部は急にいなくなったことをとがめ立てた。すると自衛官は詫びてからどうしても自分には教団立ち上げの準備のために誰にも居場所を知られずにしておく必要があったのだと説明した。そして自衛官を辞める覚悟はできているとも言った。
その後の顛末は長いので省略する。その後いろいろあって施設に防衛省の視察団がやってくることになった。ここから先は1970年代後半にアメリカ(というか南米ギアナ)で起こった人民寺院の集団自殺さながらのおぞましい結末が待っていた。この辺も作者はそれだとすぐに分かるような題材を使っている。ちょっとあからさま過ぎないか。元ネタがバレバレなのはいかがなものだろう。
さて以上、佐渡を舞台にした地獄の黙示録と人民寺院の実話をごちゃ混ぜにしたような小説だった。
結局「佐渡の羽」の正体は調査官、というか調査団を構成する複数の調査官だった。当然ブログ自体ダミーだった。主人公・阿部自身が調査の対象になっていた。それがいつの時期からなのかは物語中明らかにはされていない。普通に考えれば阿部がテルロードで自衛官と飲むようになった頃だということになるだろう。でもそれじゃあちょっと普通すぎて面白くない。阿部が佐渡に渡って来る前からとしたらどうだろう。阿部の前作である東根市を舞台にした小説に実はヒントが隠されているとか、そういうカラクリはあってもいいと思う。