キリスト教に学ぶスタートアップの組織戦略

スタートアップとキリスト教

スタートアップは宗教にもなぞらえられます。その成長には、一種の新興宗教的な熱狂が必要であり、その事業の成功や理念の実現を「信じる」ことでメンバーが互いに結束する組織だからです。

そして、世界で最も有名な宗教はキリスト教ではないでしょうか。2010年時点のキリスト教徒は約21億7千万人と言われており、この統計によれば、世界人口の30%程度がキリスト教徒ということになります。

なぜキリスト教がここまで普及したのかについては諸説ありますが、ロドニー・スターク「キリスト教とローマ帝国」がその理由について科学的な視点で分析を加えています。

そこで今回は、ロドニー・スタークが指摘するキリスト教の普及理由を参照しながら、スタートアップの組織作りを考えていきたいと思います。

オープンネットワーク性

「キリスト教とローマ帝国」では、①オープンネットワーク性を持っており、既存の人間関係・愛着関係をベースとして信者を取り込んでいったことがキリスト教の普及理由の一つであると指摘されています。

これはつまるところ、信者が、もともと仲良しな人(家族やコミュニティのメンバー)を誘うことでキリスト教が広まっていったということです。例えば同書では、以下のように指摘しています。

成功する改宗運動の基本とは、社会的ネットワーク、すなわち直の親しい人間関係にもとづく愛着という構造を介した成長である。

また、誰をターゲットとして勧誘するのかについては、以下に引用するように、既存の宗教に不満を抱えていた者をキリスト教に引き抜くという形での勧誘が行われていたとのことです。

新宗教運動は、宗教的には不活発で満足しておらず、また籍をおく会員数が非常に多い(世俗的な)宗教団体に入っている人をおもに改宗させ、引き抜く。

所属している企業で不満をかかえていたりくすぶっている友人を引き抜くという方法はすでにスタートアップ創業期に一般的に行われていることですが、改めてそれが歴史的にも効率的な方法であることがわかります。人間は、自分の親密な人からの説得には流されやすいのです。

ハイコスト・ハイリターン

また、「キリスト教とローマ帝国」では、②信者にハイコストを課した代わりにハイリターンを提供できたこと(「ただ乗り」を防止できたこと)も、その普及理由の一つとして紹介されています。

これは、組織への参加のハードルを上げることで、「ただ乗り」する人を排除し、真に帰依・貢献した人が利益に与ることができるようにする仕組みのことです。同書でも以下のように指摘しています。

スティグマと自己犠牲の要求レベルを引き上げることによって、宗教団体は会員の帰依と参加の平均レベルをより高く誘導する。スティグマと自己犠牲の要求レベルを引き上げることによって、宗教団体は会員の物質的、社会的、宗教的利益を増大することができる。

スティグマとは簡単に言えば「レッテル」のことですが、スタートアップメンバーが自分のmacに自社ステッカーを貼ることも自分の忠誠心を表明する「レッテル」の一種であると考えられます。

また、スタートアップでの「自己犠牲」として最もわかりやすいのが「出資」や激務の対価としての「ストックオプション」の制度でしょう。見返りを給与ではなく、バイアウトの利益と紐付けることで、「ただ乗り」の排除が行われているのです。

「ただ乗り」を排除することで、メンバーのコミットメントを強化することができ、それがさらに組織の利益の増大をもたらすという循環を作り出すことが可能となるのです。

マキャベリ「君主論」でも、

人間の本性においては,施された恩恵と同様に,施した恩恵によっても,義務を感じあうものなのである。

との記述があり、ハイコストを求めることが組織の強さに反映されるというのは事実なのかもしれません。

排他的組織性

加えて、「キリスト教とローマ帝国」は、③キリスト教が「掛け持ち」を許さない排他的な組織であったこともその普及理由であるとしています。

すなわち、兼務や掛け持ちを許さない排他的な企業体のほうが組織として「強い」ということです。兼務を許していると、信者は複数の信仰のポートフォリオを組むようになり、個々の宗教はメンバーからいいとこ取りされる「ワンオブゼム」の地位に落ちてしまうとのことです。

そして、「ワンオブゼム」を尻目に、排他的企業体は以下のような強みを発揮すると指摘されています。

排他的企業体の方が組織としてはるかに強く、大量の資源を動かすことに長け、信頼性の高い宗教的代償に加えて、実質的な世俗的利得も提供できる

今後のスタートアップはプロジェクト単位での働き方が主流になるとの予測もありますが、上記の考えに基づけば、非排他的なプロジェクトは、排他的な企業体に駆逐されてしまうことになります。

確かに、プロジェクト単位だと「大量の資源を動かす」という点に弱みがあることは否定できません。そういったビジネスの推進力の差が最終的な利益に跳ね返ることから、スティグマと自己犠牲の要求レベルを引き上げた排他的企業体が今後も引き続き主流として残る可能性も十分にあり得るところです。この点については、今後の動向に注目したいところです。

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