OTON GLASS met ACM CHI 2015

OTON GLASS
12 min readMay 14, 2015

韓国で開催されたACM CHI 2015 のレポート

ACM CHI
The Association for Computing Machinery’s (ACM) CHI conference

2015年4月、韓国ソウルでHuman-Computer Interactionに関する世界最大の国際会議ACM CHI 2015が開催されました。HCIは、コンピュータを使いやすくするユーザインタフェース(UI)の設計手法、インタラクションデザインの提案や評価手法など、機械と人間の関係を考える研究分野です。CHIは、HCIの分野では屈指の難易度を誇る国際会議として知られており、2014年のPaperとNoteの総投稿数は2043件,採択数は465件で採択率は22.7%とのことでした。年々、発表者・参加者が増加しています。2013年には3300人以上の参加者を数えたそうです。

ACM CHI 2015 Symposium on Emerging Japanese HCI Research Collection

日本にゆかりのある(または興味のある)若手HCI研究者を集め、英語での発表・議論経験を積み、国際的に活躍する研究者との交流を深めることを目的としたシンポジウムです。我々はこのシンポジウムに参加させて頂き、OTON GLASSを発表しました。本シンポジウムの主催者の加藤淳さんのブログに詳細が掲載されています。

Oral presentation

Presentation資料

オーラルプレゼンテーションの枠では6件の研究が採択され、OTON GLASSはこの枠でプレゼンテーションと質疑応答を行いました。私たちが書いた論文の内容としてはざっくりいうと、「研究からスタートしたものを社会に実装しようとする私たちの今までの試み+HCIに対する社会実装を前提とした研究プロセスの提案」です。リファレンスにしたのはSilvia LindnerのCHI2014でBest paperを受賞した『Emerging sites of HCI innovation: hacker space, hardware startups & incubators』という論文です。アメリカや中国のハッカースペースでハードウェアスタートアップが生まれている現状を実際に内側に入り込んでオブザベーションした結果がまとめられ、それを元にしたSilviaのHCIに対する意見が述べられている内容になっています。Silviaの論文で言及されているMaking Cultureの文脈の中の一部として自分たちの実践を位置付け、日本におけるハードウェアスタートアップとそれを支援するインフラを整理した上で、一つのケーススタディとして自分たちの取り組みを取り上げました。

私たちの今までの試みに関しては、最初のプロトタイプはユーザーに開発の方向性を確認する役割を果たし、次のプロトタイプは対象を外部の組織や専門家などのステークホルダーに拡大し、ステークホルダーからのフィードバックをプロトタイプに反映する役割を果たしました。今までのプロセスから学んできたことを踏まえて、今年制作するプロトタイプを決定しました。また社会実装を前提とした研究プロセスの提案に関しては、日本のHCI研究者を何名か取り上げさせて頂き、自身の研究からスタートしそれを社会実装しようとする試みを紹介しながらHCI研究者が必要なリソースを巻き込みながら社会実装できるポテンシャルを有しているのではないかということを示唆しました。その上でOTON GLASSを取り上げ、社会実装のプロセスの中で生じるトライ&エラーとその論文化の量と質で研究を評価するという、社会実装をを前提とした研究プロセスを提案し、OTON GLASS プロジェクトという挑戦における評価方法の宣言という形にしました。

ぜひ興味がある方は論文を読んで頂ければと思います。日英両方ありますが、英語の方が推敲回数が多いので読みやすくなっていると思います。

Demonstration

午後からは18件のデモンストレーション・ポスター発表が行われました。HCIに立脚した視点からのアドバイスを頂くことができ、今まで発表してきたコミュニティとは異なる刺激的なディスカッションをすることができました。少し悔やまれるのは未来におけるディスカッションを促す方が有意義な時間となるので、2015年の計画をサマライズしたものとその第一弾としての実働のプロトタイプを元にディスカッションができればよかったと思っています。オーラルプレゼンテーションでは今までの取り組みについて発表し、それを踏まえた上でデモンストレーションでは新しいプロトタイプを体験してもらうことで次の方向性を明確にするディスカッションができたのではないかと思います。

Discussion

最後にCHI2030と題して、2030年におけるCHIの在り方を議論しました。それぞれが持つHCIのビジョン、価値観、葛藤が2030年のCHIを考えることによって浮き彫りになり、それが交差するなかで新たな考えが生まれていきました。非常におもしろいディスカッションで、これもまたこの場で集まったメンバーだからこそ生まれる議論だと感じました。

Main conference

4/20–23の四日間に渡って本カンファレンスが開催されました。複数の登壇発表が並列で進行するパラレルセッションが主なコンテンツで、HCIに関する研究紹介(paper and notes)と 事例紹介(Case studies)の二種類に分かれています。

私たちの場合は韓国に来る前に気になる論文のアブストラクトを読んでおいて、その発表を聞きに行くという形をとりました。本来の楽しみ方は事前に気になる論文をひと通り読んでおいて、当日発表を聞いた上で、その研究者の方と議論させてもらうのが一番楽しいのでないかなと感じました。やはり国際会議の楽しさというのはそこにあるんじゃないかなと思っていて、論文や動画などがウェブ上にあがっているので直接行かなくても研究の内容は分かるんですが、実際に会って議論できたりその後も続く関係ができるのが一番の価値かなと思いました。またなんとなく聞きにいった発表が実はすごくおもしろいということも当然あって、普通はフィルターにかかってしまって自分にたどり着かない研究なんだけど、実際に身を運ぶことで出会いがあるという価値もあると感じました。

OTON GLASS に関係する研究

以下、OTON GLASSに関係するであろう興味深い研究の抜粋を挙げます。どれもまだアブストラクトしか読んでいないのでReading listという感じなのですが、発表を聞いてこれは本論を読む必要があるなと思ったものを取り上げています。自分たちが作ったシステムやデバイスの発表もあれば、Thingivers上での創作行為におけるモチベーションの調査など調査のみのものもありました。今考えているアイディアを実行していく上で参考になるものが多くありました。また自分たちの方向性や、自分たちが手を動かすべき対象を考えるきっかけにもなりました。また論文を読んだ上で紹介する機会などがつくれればと思います。

Assistive technology

Sharing is Caring

EyeBookmark

FingerReader

The CADENCE Corpus

Tongue-in-Cheek

CoFaçade

ColourID

Privacy Concerns and Behaviors of People with Visual Impairments

SoberDiary

Motivation & Participation

Gauging Receptiveness to Social Microvolunteering

Unequal Time for Unequal Value

A Muddle of Models of Motivation for Using Peer-to-Peer Economy Systems

Evaluating Crowdsourcing

Comparing Person- and Process-centric Strategies for Obtaining Quality Data on Amazon Mechanical Turk

Measuring Crowdsourcing Effort with Error-Time Curves

The Impact of Crowd Work on Workers

We Are Dynamo

Social implementation

From User-Centered to Adoption-Centered Design

Design method

Apparition

Eye Wearable Technology

Eye-Wearable Technology for Machine Maintenance

CHI2015に足を運ぶまで

CHIという学会自体はIAMASに入学してから初めて知り、その時いたく感動したのを覚えています。Design process の設計、コンピュータサイエンスよりのもの、Critical designなどコンセプチュアルなものまでかなり広くHCIを捉えて論文を採択している点と、範囲が広いにも関わらず採択条件は厳しくクオリティの高い研究が集まっているという点が素晴らしいと感じており、いつか足を足を運びたいと考えていました。そんな時に加藤淳さんらが中心となって開催してくれたACM CHI 2015 Symposium on Emerging Japanese HCI Research Collectionを知って応募するに至りました。私の中でCHIは敷居が高いものと捉えていたので若手研究者向けカンファレンスと銘打って、機会を与えて下さったのは大変ありがたいことでした。おそらくこのカンファレンスが存在していなかったらCHIに足を運ぶのが2、3年遅れていたと思われます。また査読プロセスでは丁寧なフィードバックを頂けて、論文を執筆する中で学ぶことが多かったです。私にとってCHIなどの国際学会に論文を投稿している研究者の方々からフィードバックを頂ける機会は今までなかったので非常に貴重な体験でした。また加藤さんからはOTON GLASSの領域に関係する研究者の方やインタラクションデザイナーの方を現地で紹介してくださるなど素晴らしい機会を設けてくださいました。その際の議論ではデバイスを開発するチームの体制など実践的な話題が上がり大変勉強になりました。

今回はIAMASでの2015年の2月一年次の成果発表でOTON GLASS projectで実践してきたことを発表し、その内容を元にIAMASの教員らと議論したことが論文の下地になっています。その後、小林 茂先生からリファレンスを提供して頂いたり、論じる内容を絞ったりして論文らしくしていきました。英語に関してはIAMAS事務局のマシューさんから、僕の拙い英文をチェックして頂きました。 論文をサマライズしたプレゼンもしたことがなかったので、どんな感じで作ればいいんだろうか….。と悩んでたところでちょうど教員の城 一裕さんが自身の博士論文のプレゼンを学生向けにやって下さり、それがかなり参考になりました。以上のような形で色んな方からお世話になって今回の論文を書くことができました。この場を借りてカンファレンスを主催してくださった皆様、IAMASの教員の皆様に御礼申し上げます。次回は本カンファレンスに論文を投稿する形でCHIに足を運べたらと思います。

文 / 島影圭佑

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私たちは読む能力を拡張するウェアラブルデバイス「OTON GLASS」を開発しています。まずはこちらの映像をご覧になってください。 https://vimeo.com/175384517