2013–04–09
『ライトニング リターンズ ファイナルファンタジーXIII』が2013年秋頃、スクウェア・エニックスからXbox 360、プレイステーション3向けにリリースされる。『ファイナルファンタジーXIII-2』のサウンドを手掛けた3人のミュージシャン達のオリジナル楽曲がフィーチャーされており、今回はその三部作の最終章に先駆け、浜渦正志氏、水田直志氏、鈴木光人氏の3名から「ライトニングサーガ」の為の曲作り等についてお話を伺った。
浜渦さんの『ファイナルファンタジーXIII-2』(以下『FFXIII-2』)の音楽はライトニングの物語の方向性をきめましたが、音楽を書かれるときにそれぞれのキャラクターにあわせるために行っている特殊なアプローチ等はありますか。
浜渦正志氏: キャラクターの絵や性質といった設定だけを参考にして曲を書くと、キャラのイメージのみが表現されてしまいます。キャラは環境やシナリオ、他の登場人物との関わり合いによってその立ち位置も変わって来るので、それら全てをひっくるめて表現しないと、作っている側も聴いている側も思い入れは薄くなるでしょう。
例えば「ファイナルファンタジーXIII」(以下『FFXIII』)の「ヴァニラのテーマ」の中には「FINAL FANTASY XIII プレリュード」のモチーフも含まれています。これはヴァニラが『FFXIII』の物語を時折ナレーションするような立場であったこと、そして彼女の登場する最も印象的なシーンが『FFXIII』の物語の大きなポイントになる箇所でもあったため、「FFXIII プレリュード」が頭の中で彼女のテーマと絡みあったのです。これは設定だけを見ていては思いつかなかったでしょう。
『ファイナルファンタジーXIII-2』のボーカルの一人である、MinaさんとImeruatのコンサートを行われており、『ライトニング リターンズ ファイナルファンタジーXIII』(以下『ライトニング リターンズ』)のデビュートレーラーでも聞ける「閃光Crimson Blitz — LIGHTNING RETURNS : FINAL FANTASY XIII -」等がアルバムからのオリジナル曲と共にそのコンサートの中でも選曲されていますが、Imeruatの活動、コンサートやアルバム制作等によって、ご自身がミュージシャンとして今まで通らなかった道を開拓できていると思われますか。
浜渦氏: 依頼を受けて作曲するのと、自分でコンセプトを一から作るのは大きな違いがありますので、今までの道とはかなり違いますね。開拓というより、長年頭の中にあったものを具現化していっているという感じです。
最近では日本以外での活動、フランスやポーランド、またスイスでの作曲活動等が多いですが、そういう海外での活動はクリエイティブ な部分でどのような影響を及ぼしていると思われますか。またその経験が『ライトニング リターンズ』の作曲スタイルに影響していると思われますか。
浜渦氏: これは正直わかりません。作曲はそのときそのとき、ふとした思いつきや出会い、発見によって生まれるものも大きく変わってくるので、海外での活動がいつどのようにどれだけ『ライトニングリターンズ』に影響していたのかは不明です。ただトレーラー曲はスイスで書いたので、何らかの細かな影響はどこかにあるかもしれません。
水田さん、『FFXIII-2』の音楽を書かれた時にこの音楽スタイルにしようと思われた理由はなんだったのでしょうか。
水田直志氏 : 『FFXIII-2』の場合はディレクターの鳥山さんから、今までの『ファイナルファンタジー』シリーズの音楽が持っているイメージを一度壊して新しいものにしてもらいたいというオーダーがありました。植松さんが作られてきた『ファイナルファンタジー』の音楽と言ったらこういうものだというイメージを皆さん持っていると思うんですが、それにとらわれずに、聞いたときにあまり『ファイナルファンタジー』だと意識しなくても良いような新鮮なものを聞かせてほしいと言われたので、それまでのこうだったというものに倣って作ったものではなくて、今までになかったものを作ったのが『FFXIII-2』の音楽ですね。
ということは『ファイナルファンタジーレジェンズ』の楽曲での意図とも別のものということですか。
水田氏 : 『ファイナルファンタジーレジェンズ』の場合は『FFXIII-2』とは全く別で、今までの『ファイナルファンタジー』っぽい典型的な昔風の『ファイナルファンタジー』の音楽が求められていたので全く逆の感じですね。
『ライトニング リターンズ ファイナルファンタジーXIII』の発表が、水田さんのバンド「ナナーミーゴス」(『ファイナルファンタジーXI』の曲を新しいアレンジを加えて演奏するバンド)の「FF25周年記念イベント」オープニングセレモニーと重なりましたが、それぞれの『ファイナルファンタジー』シリーズのゲームにユニークなサウンドを提供している楽器の選択を毎回どのように考えて行っているのか大変興味があります。
水田氏 : 『FFXI』を長くやってきて割とアコースティックなものが多かったのですが、『FFXIII-2』に関してはシンセサイザーをいっぱい使ったりロックをやったり、歌のある曲が多かったり、テクノっぽいのもあったり…と、いろいろと今までやっていなかったものが出来ました。元々そういう音楽のが嫌いではなかったのですが、『FFXI』の時はそういうものを作る必要がなかったので作りませんでした。しかし、『FFXIII-2』ではいろんな楽曲を新しく作れたので新鮮で楽しかったです。
昔の楽曲と『FFXIII-2』で違う事と言いますと、やはりボーカルがゲームプレイ中にも流れる事だと思いますが、それについて気にされていた事等ございますか。
水田氏 : 今回わりとボーカル曲が多かったんですが、誰に歌ってもらうかは途中まで全然決まっていなくて、デモの段階では社内の人の仮歌だったりシンセのメロディーが入っていて誰にするかずっと探していました。Joelleさんに関しては、ボーカリストさんを紹介をしてくれる会社があり、そのサンプルを全部聞いてこの人だったら合いそうというのを鳥山さん達にも聞いてもらい選びました。KOKIAさんの場合も曲が先にあって、この曲に合う歌の方、という形で漠然と探していたのですが、たまたまネットでKOKIAさんの曲を聞いて「この人の歌はこの曲にとても合う」と思ったので、全然面識はなかったのですが、「こういった曲をお願いできませんか?」とお話を持っていったところ是非と言っていただきました。
ゲームプレイ中にボーカルがこの『FFXIII-2』ほどかかるゲームはあまりないと思います。そういう意味では今までの『ファイナルファンタジー』ではなかった、そういうところで新しい感じを出したかったというのが目的ですね。あまりプレイの邪魔にならないようなミックスにするのは大事かなと思いました。やはりずっと聞いている訳ですし、ダイアログも入ってくるので歌声がそれとバッティングしないようにするというのは必要だと思うんですが、今回の場合は音楽として楽しいものを作って楽しい気分になってもらうというのが目的だったのであまり難しくは考えてはいなかったですね。一般的にはそういう工夫が必要だとは思いますが。
歌ものについてですが、「不可視の侵略者」が英語用に変更されました。日本国外でのリリースにおいて何か問題があったのでしょうか。
水田氏 : テストプレイとしてまずは北米のテストプレーヤーに持っていったところ、ちょっとストレンジだと言う感想もあり、予想もしていたのですが、米国のローカライズの方にも聞いてもらったところ、そういう風に聞こえる人もいるでしょうということだったのでかなり相談しました。そういう意見を全部取り入れてしまうと逆につまらないものになってしまう可能性があるので、どうしても押し通してこれがかっこいいんだといって出す事も出来たのですが、あまり意見を聞かないのもテストプレーイをする意味が無いというのもありかなり悩みました。最終的にはディレクターとも相談してやめておきましょうということになりました。
問題になっていたのはラップの部分なんですが、そこのラップのトラックを消して代わりにシンセサイザーでメロディーを弾きました。ジェリアスカさんはこの日本バージョンの曲を聞かれましたか。どう思われましたか。
特におかしいとは思いませんでした。僕もMusica Ludiのジャーナリストも問題無いと思いました。音楽による地域的な相違はいろんな種類の音楽がどれだけ『FFXIII-2』の中で 重要な位置を占めているかという事を再発見させてくれました。特に物語中のタイムトラベルの部分等。ゲーム中でどのように”ノーマルミックス”と”アグ レッシブミックス”の使い分けをされたのですか。
水田氏 : アグレッシブミックスを作る前にノーマルミックスがあって、それと平行してシーケンサー上にトラックを並べて、これといつ切り替えてもおかしくないように同じタイムライン上に並べてました。ドラムのトラックを増やしたり、ミックスを変えたりして、エンカウントした時にハラハラドキドキするようなミックスを同じ時間軸上に並べて作るという感じですね。わりとSF的なイメージもあったので、あまりファンタジーというだけのものではなく、いろんなジャンルの音楽を入れても大体飲み込んでもらえるというか、あまりおかしくなく聞こえるというところで、面白く出来たと思います。
アグレッシブミックスに切り替わってその後エンカウントしたときにバトル専用の曲になるのですが、最初はそうではなくアグレッシブミックスのままバトルに入る予定だったのですが、メリハリがつかなかったので、後からバトル曲を入れるというのが決まりました。アルカキルティの所もバトル曲にあのままアグレッシブミックスが入る予定だったものが同じ理由でバトル専用曲になったんですが、またさらに入れ替える事になったというちょっと複雑な経緯があったので、ちょっと特別な感じになっています。
鈴木さん、浜渦さん達とのコラボは面白かったですか。
水田氏: 面白かったですね。そんなに沢山の曲でコラボレーションしている訳ではなくて、出来上がった曲のデータを鈴木さんにお渡しして、鈴木さんから別のバージョンになって戻ってくるというものなんです。もっと沢山できても良かったなと思うんですが、実際そういうことが出来たのが1曲か2曲しかありませんでした。楽しかったのですが、もっと沢山やりたかったですね。
鈴木さん、『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』のアニメシリーズでフィーチャーされているOrigaさんとお仕事されたいと思われた理由はなんだったのでしょうか。
鈴木光人氏: 声ですね。あと基本的なメロディーの消化というか、Origaさんのメロディーの解釈が面白くて、こっちが指定しているものと良い意味で違うものになるんですね。きっとこういう感じになるんだろうな、という想像していたものよりさらに上をいった感じになります。基本的なメロディーラインと同時にコーラスパートもOrigaさんが作ってくれるのですが、その音の重ね方が僕たちが作る感じと違っていて、そこは僕も単純にファンとして楽しみでした。(笑)
親しんだメロディーに驚くべき方向性を持たせた「クレイジーチョコボ」に多くの人が反応していますが、 Shawn McPhersonさんがこの曲に携わるきかっけはなんだったのでしょうか。
鈴木氏: 開発中に鳥山さんから、「ノーマルでない、クレイジーチョコボがでてきて、それにはなかなか乗れない」という話があり、クレイジーチョコボの為になるべくハードなチョコボの曲が欲しいという依頼が来ました。何かイメージはありますかと聞いたところ、「デスメタルぐらい行ってくれるとうれしい」ということで、ちょうどその時自分の曲 用にショーンにボーカルをお願いしてたんですが、彼はボーカリストとしてだけではなく、ギターも弾き、自分の曲も作るんですね。
彼の作るトラックはすごくクオリティが高く僕は大好きだったので、彼にチョコボの曲のアレンジをお願いしたら面白いのではないかと思い彼に話をしたら、ぜひやらせてくれという事で。最初にデスっぽい感じやこんな雰囲気でという説明だけしたのですが、彼から送られてきたトラックを聞いたらすごくかっこ良かったんですよ。完全にショーンの色のチョコボになっていてかっこ良いんだけど、ぱっと聞いた感じチョコボということがわからないんですね。あのメロディーラインがあまり入っていなくて、これはかっこいいけどこのままでは分からないので、それを聞きながらチョコボのメロディーを僕が1分ぐらい弾いたんです。
それをショーンに送って、例えばこの代表的なチョコボのメロディーをギターか何かで弾いてこんな雰囲気で入れてみてくれないかと言ったら、次の日彼はそのまま僕が弾いたメロディーをギターでコピーして送り返してくれたんですね。(笑) 別にそのままコピーしてくれなくても良いんだけど、と彼に言ったら、「このタイミングがクレイジーで良い」と。それなら良いかという話で皆に聞かせたら鳥山さん始めチーム皆が喜んでいましたね、「こんなチョコボは聞いた事がない」といって。(笑)
ほとんどのゲームプレイ中でボーカル曲が流れていますが、歌詞が台詞を邪魔してプレイヤーの気を散らしてしまうかもしれないというような事は考慮されましたか。
鈴木氏: ゲーム的に考えたら、イベントシーンなどで歌ものがかかるのは全然良いと思うんですが、歌は言葉があるので言葉選びが大事になるんです。そこは今回すごく注意 していた部分なんですが、ゲームの世界とまるで関係ない歌を歌っているのはまず無し。かと言って、ストーリーを説明していてもしょうがないし、ネタバレ的なことを言ってもだめだし…、というのでそこの部分は慎重にやったところです。
普通のポップミュージックと違ってゲーム音楽だから当然効果音がバンバン鳴っていたり、台詞がバンバン入ってきたりするので、あんまり歌は聞こえるべきではないと僕は考えていました。ようはケースバイケースなんですが、バーンとでるところと、バーンとひくところのバランスをすごく大事にしたいと思っています。結果的に歌ものが増えたんですが、曲の構成的に最初のバースの部分やコーラス、ブリッジにはボーカルがあるんだけれども、2番目のバースにはボーカルを入れないような作り方をしていますね。部分部分で歌を抜くような。
浜渦さんがアルバムを出版され、リリースコンサート等でライブ演奏をご一緒にされていましたが、このコラボレーションは『FFXIII』の開発中にもすでに始まっていたものなのですか。
鈴木氏: 浜渦さんが退社されてからImeruatをやられているというのは勿論知っていました。確か『FFXIII』の打ち上げパーティーで浜渦さんと会った時に、「機会があったら何か一緒にやろう」というお誘いをもらっていて、「勿論ゲーム音楽の仕事で も良いし、それ以外でも浜渦さんが何かやる時あったら手伝いますので僕で出来る事があったら言ってくださいね」という話は前からしていたんですね。
それで去年頃、「前に話していたことなんだけど具体的に相談したい事があるから」という連絡をもらって、確か年が明けてから会った時に話を聞いたら、こういうイベントがあって同時にアルバムもを作っているからそれの制作を一緒にやってくれないかというお話でした。勿論できることはやりますよ、とすぐに返事をしてやることになったのが経緯ですね。前々からやりましょうと言っていたことが形になった感じです。
English translation by Yoshi Miyamoto, and French translation by Jérémie Kermarrec.