『LUMINES II』コンポーザー インタビュー

Ongaku
10 min readDec 12, 2015

--

2008–02–14

東京出身の中村隆之氏は自らが認める音楽&ハイテク好きである。中学生時代にすでに学校の校内放送を通しラジオ機器に触れ、バンドを組み、自ら作った音楽を放送していた。エレクトロニック音響デザインに対し大変強い興味を持ち。毎日のように演奏し、大学に通う傍らバイトをしながら自分のオーディオ機器を購入していった。大学を卒業し、職探しの最中にビデオゲーム音楽の仕事を発見。それまでの経験を生かしデモテープを作成。即採用が決定し、ビデオゲーム、携帯電話、パチンコマシーン用の音作りの仕事に就く。

気がつくと、『エレクトロニック音楽の作曲家になる』という長年の目標がいつの間にか達成されていたというわけである。

中村氏は独立したアーティストとして輝かしいキャリアを獲得した人物である。 格闘ゲーム『TOBAL2』と『Ergheiz』の作曲家としてスクエ アソフトに就職した数年後、人気パズルゲーム『ルミネス』のチーフ作曲家となる。先月、中村氏の会社ブレインストームがXbox LIVE アーケードの 『Rockin’ Holiday Pack』からの曲を含む『LUMINES remixes Winter』をリリース。ゲスト として h ueda 氏、杉山圭一氏が参加している作品だ。一月には中村氏のソロアルバム『LUMINES II』をアレンジした『L.II Remixes』がリリースされた。

今回、中村氏がメールでのインタビューに同意してくださり、 彼の最新アルバム、そして奥が深く、複雑でバラエティに富み、型破りなゲーム音楽制作に対する彼の労を惜しまないアプローチについて語ってくれた。

ご自分のウェブサイトの中で、若い時はギターとラジオ放送にとても 興味をお持ちだったとおっしゃっておりましたね。また自分の創造的なプロセスの中 にコンピュータを取り入れたいということでコンピューターも手に入れたかったようですね。エレクトロニック音楽のどのようなところが中村様の興味心を刺激 したと思われますか。

中村隆之氏: 10代の頃、ロックやジャズ、そしてクロスオーバーといったジャンルを聞いたり、演奏したりすることが、自分の趣味でした。その頃の僕のお気に入りのミュージシャンは、Jeff Beckや、Chick Corea、Keith Jarret 等です。その頃、とても沢山の音楽を聴きました。常に新しいサウンド、刺激的なサウンドを求めていくうちに、人間が演奏する音楽では飽きたらず、コンピュータを使ったサウンドに 出会いました。

僕が20歳になる頃、シーケンサーや、MIDI音源といった機材が安価に手に入る様になりました。アルバイトで貯めたお金で、 RolandのMC-300というシーケンサーと、MT-32という音源を手に入れたのが、私がコンピュータ音楽をはじめたきっかけだと思います。

『LUMINES remixes Winter』の曲『Papa!』の中では、海の波がぶつかり合う音響が取り入れられており、そして『L.II remixes』の『Cuckoo Clock』という曲の中では時計の秒針の音やチャイムの音が使われていますね。そのような効果音を使って曲のスタイルにアクセントをつけたい時、そのタイミングはどのようにして決められるのですか。携帯やパチンコマシーンのような様々な電子機器のサウンドデザイナー としてお仕事もされておりますが、そういった経験やバックグラウンドもやはり生かされているのでしょうか。

曲のイメージを膨らます方法として、Sound Effectsを使うのは、面白い方法だと思っています。デモ、「Papa!」での海の音の意味と、「Cuckoo Clock」の曲での様々な音では、ちょっと意味が違います。海の音は、具体的な景色をイメージさせると思いますが、「Cuckoo Clock」の曲での様々な音はちょっとしたストーリーを表現しています。

サウンドデザイナーとして、「VirtuaFighter」のSound Effectを作っていた経験もあるので、そのキャリアは今でも十分役立っています。

プロジェクトの中で様々なオーディオ用ソフトウェアを使用することで有名ですが、最新のプロジェクトの中ではどんなソフトウェアが使われたのでしょうか。

まずは、私の会社ブレインストームの開発環境についてです。ゲームのサウンド制作では、殆どのメーカーが提供する開発ツールが、Windows PCで動くソフトウェアです。ですから、最終的なデータはWindows上で作業する必要がありますが、ブレインストームでは、直前のデータまではMac上で編集するようなスタイルを取っています。全てのコンピュータは、Xserveのサーバーを介して、ネットワークで繋がっていて、社内のデータは容易にやりとりすることができます。

ブレインストームで開発する全てのスタッフは、このネットワークに 繋がったMacとWindowsを使って、サウンド開発の作業をしています。

Mac上のサウンドツールですが、主なモノをあげると、digidesign ProTools、Apple Logic pro、BIAS Peak、それに、WAVESのGold Bundle等で、スタッフ全員が共通して使っています。

私が個人的に気に入っていて、LUMINESの作曲でも非常によく使ったのが、propelleraheads Reason、ableton LIVEの二つのソフトです。特にLIVEは、様々なフレーズの組み合わせを試すことが、簡単に制作ができるソフトで、LUMINESの制作には非常に向いていました。

LUMINESは、ユーザーのパズルの操作によって、幾つかのフレーズが流れる仕組みになっていますが、LIVEでは、その組み合わせをシミュレーションして作ることができるのです。このゲームの音楽を担当することになってから、私はこうした作曲の方法に新たな可能性を感じるようになりました。

私のスタジオのデスクの周りには何台かのシンセサイザーやパーカッ ション、それに簡単な録音ブースもあって、思いついたサウンドのアイ ディアは、簡単に録音して様々なソフトで加工することが可能になって います。

「Manager Class」という曲がありますが、これはコンテンポラリーな社会における職業人生に対する個人的なビジョンが含まれている曲ですか。それともあれは聴く人に親しみのある音の要素を取り入れた完全に架空のものですか。

僕は、Segaのサウンドセクションのマネージャーだった経験があるんです。

日本語で、「そうだいいぞ。」「もっとやれ。」「あー腹減った。」というボイスを曲に入れたのは、ある意味、「Manager Class」への皮肉も含まれています。

ブレインストームでは市場最新のコンピュータープログラムを使わ れ、色々な国で作られているソフトウェアを使用されておりますよ ね。中村様はオリジ ナルのプレーステーションから始まり、 PSP、Xbox360、そしてその他のゲーム機の音楽作りを長年され ておりますが、エレクトリック音楽のお仕事を 今までされて きた経験を通して、日々進歩していく今日のテクノロジーの迅速性に ついてどう思われますか。

僕自身、テクノロジーが大好きなので、この仕事を選んでよかったなと 思うのは、常に最新のゲーム機の仕事ができることです。テクノロジー の進化のスピードが速いと言われていますが、サウンドはそれほどでも ありません。僕はもっと新しい技術が出てきても良いと思っています。 なぜなら、映像の世界に比べれば、音はそれほど変化していないように も思えるからです。

『LUMINES』の中では色々なスタイルの音楽が聴くことができ ます。回を重ねるごとに音楽のカテゴリーが明らかに広がっています が、そうなるように意識的に努力している部分はありますか。

すでに80曲以上の曲を「LUMINES」のために作っています。 新しいオーダーが来る度に、違ったスタイルにチャレンジしようと考えています。

一つの音楽の世界を決めて、同じように作り続けるは簡単ですが、エン ターテイメントの世界では変化に富んだものにするのも重要です。様々なスタイルにチャレンジするのはそのためです。

どのようなソフトウェアを使ってご自分の音楽をミックスしておられるのか先ほど説明いただきましたが、中村さんが時に気に入っている音響機器、そしてそれらをどのような形でこれからの作曲に生かしていきたいとお考えですか。

全てのサウンドが、Mackieの32chのミキサーに立ち上げられるようになっていて、いつでもモニターすることができます。この環境があれば、常に実験的な音作りを試すことができるのです。時にゲームの音楽制作では、様々なジャンルの曲を提供することを要求されます。

私の場合、テクノ・エレクトロニカだったり、ハードロックであった り、オーケストラだったり、その曲のスタイルに合わせて制作環境を自 由に変えるのも重要だったりします。そのためには、様々なソフトウェアやハードウェアの使い方に熟知し ている必要もあります。

オーケストラの曲では、PC上でGVIを使って、vienna symphonic libraryのデータをコントロールしますし、ギターの音作りでは、Podxtを使ったり、Voxのアンプを鳴らして、自らレコーディングもします。また、こうして色々なジャンルにチャレンジすることが、僕のミクスチャーされた音楽のベースになっているかもしれません。ある意味、LUMINESでの作曲は、これまでのスタイルの総決算的な意味もあるかもしれません。

2008年1月に発売されるCD「L.IIremixes」では、そうした私のスタイルを聞くことが出来ます。また、まだ具体的なタイトルを明かすことはできませんが、2008年に発売されるあたらなパズルゲームのサウンドも現在制作しています。是非、そちらもお楽しみに。

翻訳: カオル・バートランド.

--

--