『SIREN:New Translation』楽曲インタビュー
2008–08–14
日本の羽生蛇村を舞台にしたプレーステーション2ゲーム『SIREN』は2003年に日本でリリース、2004年にアメリカでリリースされた。この薄気味悪いストーリは、羽生蛇村に伝わる心霊的なオカルト話、奇妙な儀式、そして「屍人」と呼ばれ夜になると響き渡る不気味なサイレンに導かれ人間を襲う死体達などの真相を探る為にやってきた若者のグループを中心に展開される。
プレーヤーが他人のキャラクターの視界を覗き見ることが可能な「視界ジャック」というユニークなシステムが導入されており、三日間に渡る羽生蛇村での逗留を生き延びるにおいてプレーヤーの慎重さとスキルが試される。外山圭一郎監督は、時系列順に進まないストーリー展開でもプレーヤーにチャレンジしている。不気味な声と気味の悪い音響が強調されたアンビエントサウンドは冷水ひとみとゲリー芦屋によって制作されており、登場する人気のない片田舎の村人達に独特の地域特性を与えている。
そしてあれから2年経った今、プレーステーション3のゲームとして『SIREN』が再び羽生蛇村へ戻ってきた。『SIREN New Translation』では新しいアプローチが試みられ、ゲームの構成はTVドラマのように全12エピソードから成り立っており、プレーステーションネットワークのオンラインストアでエピソードのダウンロードが可能になっている。日本では『サイレン:New Translation』というタイトルでリリースされており、今回はアメリカ人の映画撮影スタッフがキャラクターとして初登場し屍人を相手に戦うことになる。新しい戦闘システムとスプリットスクリーンでの「視界ジャック」も楽しめるようになっている。
『SIREN New Translation』では前回に引き続き冷水ひとみが音楽を担当。8月27日には日本でTeam Entertainmentよりオフィシャルアルバムがリリースされる。そして今年の終わりには『SIREN』のオリジナルサウンドトラックもリリースされる予定。今日は、テレビ、映画、ビデオゲームを手がける作曲家として大活躍する彼女にインタビューした。
冷水さん、今日はお忙しいスケジュールの中、Siliconeraのインタビューの為にお時間を作っていただきありがとうございます。『SIREN』シリーズでの冷水さんの音楽と、冷水さんのミュージシャンとしてのキャリアについてお話を聞かせて下さい。
冷水氏: そうですね。今までいろいろな事をやってきましたので、実体をつかみにくい存在になっているかもしれません。
大きく分けると、”冷水ひとみ”という個人名での、映画やテレビなどのサウンドトラックの作曲家としての活動と、”Syzygys” (シジジーズ) というバンドとしての演奏、作曲活動が並行しています。Syzygysは、バイオリニスト”西田ひろみ”とのDuoで、John Zorn主催のTzadik レーベルからアルバムを発売しています。
カンタンに言いますと、単独で作曲したものは”冷水ひとみ” 、二人で作曲している場合”Syzygys”ということになります。『SIREN』のようなコワイ音楽を私が作っていることをSyzygys ファンは全く知らないと思います。聴いたら驚くんじゃないかな。“冷水ひとみ” 個人の作品も、ホラーからコメディーまであまりに多様なので、これまた全体像が掴みにくいかもしれません。
Syzygys のウェブサイトでは、冷水さんの映画音楽についての情報が載せられています。2001年のコメディー映画『ウォーターボーイズ』は日本アカデミー賞で最優秀音楽賞を受賞、フランスで行われた第27回アヌシー国際アニメーション映画祭では短編アニメーション『頭山』がグランプリを受賞。冷水さんはライブアクションとアニメーション映画の両方のお仕事をされたことがありますが、音楽の媒体としてのビデオゲームならではの特徴は何だと思われますか。
冷水絶対時間が固定していないことだと思います。実写でもアニメーションでも、時間は一定方向に流れ、その長さ(duration)も固定しています。上映の度に「今日は早く終わりました」なんてことはありません。
ゲームの時間は、時折戻ったり、繰り返したりしますから、プレイする人によってその長さも違ってくるわけです。音楽というものは、時間芸術であり、通常は、不可逆な時間の上に成り立つものですから、ゲームにおける音楽は特殊なケースで、特殊な形式にならざるを得ません。いわゆるLoopです。
そこで、Lloopを作ることを前提に作曲をすすめることになりますが、こういうLoop作りの苦労というのは、ゲーム音楽にしかない難しさだと思います。しかもloop回数はplayする人に委ねられるものですから、ゲーム中のBGMが実際、最終的にどういう風に鳴るか、作曲者は完全にはコントロールできないのです。
Siliconera『SIREN』シリーズのテーマに比べると、上にあげた二つの映画は大変楽しい内容のものでしたが、一般的に「サバイバルホラー」として知られているジャンルをどう思われますか。冷水あまりよく知らないのです。ジョンカーペンターの作品などは好きです。ホラーでは、「サスペリア」や「キャリー」のような女の子モノが好きです。
プレイステーション2の『SIREN』の音楽を担当されることになったきっかけは何でしたか。それ以前に携われていたプロジェクトの種類に比べてそれは大きな飛躍でしたか。
「学校の怪談」というホラーのTVシリーズを担当していたのがきっかけだと思います。それは一般向けのテレビ番組で軽めのものでしたので、本格的にホラー1色というようなものを作ったのは『SIREN』が初めてで、雰囲気に入り込むのに少し時間がかかりました。
プレイステーションはそれまでにもいくつかてがけていましたが、「牧場物語」など、どちらかというとホノボノしたものばかりで、ホラーとはかけ離れたものでした 。
作曲をされるにあたって特にリクエストや指示はありましたか。
それともすべて冷水さんの独断で作曲されたのですか。
冷水この時は新シリーズのスタートでしたので、すべてSCEのサウンドディレクターの指示のもとに作曲していきました。
「楽音は極力使わない」「音楽表現は避け、ひたすらアンビエントでなにも起こらない5分以上の長いLOOP」「和の要素」など音楽家にはなかなかキツイ注文でしたね。
ゲーム映像は開発中で、まだ見ることができない状態でしたから、たくさんの写真とシナリオ等を頂き、それでイメージを描きながら作っていきました。
ゲイリー芦屋さんと共同作曲をされた感想をお聞かせください。
芦屋さんとは実際にご一緒にお仕事をされたのですか。それともお二人で仕事を分けられてそれぞれの課題を決められて作曲をされたのですか。冷水基本的には声を素材にした部分を私、それ以外をゲイリーさん、と大ざっぱに分担し、あとはその都度相談しながらすすめていきました。同じ事務所所属ですし、お互いの特性を知っているのでやりやすかったです。
『SIREN』シリーズの開発当時、外山圭一郎ディレクターとシナリオライターの佐藤直子さんにとって、この「屍人」の物語をゲームプレーヤーに語ることにおいて何が一番大切なポイントであったと思われますか。
「和の恐怖の抽象表現」でしょうか。直接的な恐怖ではなく、ヒタヒタと触覚で感じるような圧迫感みたいなものの演出ではないかと思います 。
曲の多くはゲームの中に出てくる場所の印象や雰囲気をまるで模倣している感じのものばかりです。羽生蛇村に独特の声を与えるということは冷水さん独自のアイデアだったのでしょうか。
冷水まず羽生蛇村という場所の情景と雰囲気を作り上げることが最重要課題でしたが、その土地に因習のように伝わる土着信仰みたいなものの宗教観を表現するのに、声の要素は不可欠だろうということは、最初のミーティングで話し合いました。
BGM中にも声をちりばめているのは、どんなノイズの中においても、人は人間の声を敏感に聞き分けますし、それをあるはずのないところにおくことによって、不安感や恐怖感をあおれるのではないかという意図でした。Siliconera『SIREN』のテーマは日本で大注目されました。
『SIREN: New Translation』用の音楽には新しいアレンジメントが施され新しい楽器も加わっているようです。このオリジナルのテーマに戻り、さらに新しい解釈を加えた裏にはどのような意図があったのでしょうか。冷水これは、新しく作り直すかどうか、かなり最後まで迷いましたが、物語の舞台が『SIREN』の羽生蛇村に戻るので、テーマ自体は同じにして、ゲーム同様、文字どおり新訳ということで新アレンジにしました。旧『SIREN』のファンには、懐かしく感じられて喜んでいただいたように思います。
今回は柚楽弥衣( Yula Yayoi)さんの大人気のVocal versionの他に、インストゥルメンタルバージョンも新たに作りました。
時空の歪みのような世界観を表現するために、オンドマルトノというフランスのvintage電子楽器を、数少ないオンディスト市橋若菜( Wakana Ichihashi )さんに演奏してもらいました。「なんの楽器かな」と不思議に思われた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
『SIREN: New Translation』では声の出演はされましたか。例えば、ゲームのクレジットが流れている時に聞こえるお経を唱えるような声など。
していません。屍人にはなりたくないです!
プレイステーション3用に作られたこのタイトルはテレビドラマを思わせるスタイルになっています。これはテレビドラマファンにとってこのゲームを馴染みやすくする為の試みだったのでしょうか。
エピソードごとにダウンロード販売という新しい方式のためです。
今回は1エピソードごとにダウンロードが解禁(注:日本版)されていく、という面白い試みで、テレビドラマのように楽しめる作りになっています。
最初この話を聞いたときは驚きました。私はテレビドラマ「LOST」の大ファンで毎回予習復習をしながら見ていますが、それと同じように、毎回、次をまちわびながらゲームをplayするのはきっと楽しいだろうと思いました。私自身はそういうのに夢中になるタイプですから。
『SIREN』シリーズのアルバム3枚を今年リリースすることになった一番の理由は何でしょうか。
SIRENファンからの熱い要望あってのことだと思います。本当に嬉しいことです。この場をお借りして深く感謝します!
最後の質問になりますが、冷水さんのウェブサイトによると、冷水さんはSFファンということですが、『スタートレック』の中でなりたいキャラクターなどがいれば教えて下さい。
コスプレでライブなどしたりもしています。恥ずかしいですネ。
ええと・・、ボーグの下っ端ドローンになりたいです。
集合意識の生命体に憧れています。