本当に消費者に支持される商品を見極めるのは難しいが、支持されない商品を見極めるのは簡単である
CES(Consumer Electronics Show)の季節がやってきた。私も明日からラスベガス入りしてフロアを見て回るつもりだ。20年近くこの手の展示会には参加してきたが、展示される商品のほとんどは消費者に相手にされずに消えていく運命だ。私自身も商品を作る側に長くいたので、展示される一つ一つの商品に込められた担当者の思いは痛いほどわかるし、設計者の汗のにじむような努力がそのまま伝わってくるようなモノもある。
でも一般の消費者は作る側にとっては非情なほどに冷めているものである。ちょっとでも使いにくければ返品の憂き目に会うし、そもそも目にとめてもらってお金を払ってもらうまでのハードルが非常に高い。そういう現実を作る側もわかってはいるのだが、本当にその商品が消費者に受け入れられ、マスに売れるようになることを作る段階から予見できる人というのはほとんどいない。
ただ「これは受け入れられないよね」というのは多くの場合判断がつく。特にCESの場合はコンスーマーを対象とした商品の展示会なので、自分がいち消費者として判断する目を持ちやすいということもあるが、テクノロジー系商品がハマりがちな「罠」を見極める簡単な方法があるので紹介しよう。
例えばこちら話題になっているLGの巻き取れるOLEDテレビ:
ハマりがちな罠というのは、テクノロジーありきでそれを無理やり商品に仕立て上げたくなる衝動のこと。この場合曲げることができるというOLEDの特性をどうしても生かしたくて、65インチの巻き取れるテレビを作ってしまったのだ。この「巻き取れる」という機能にどんな必然性があるのか?このビデオで紹介されているのは、例えば半分巻き取った形で止めれば16:9よりもより横長のスクリーンとして使うことが出来るというもの。でもそれって本当に消費者が欲しがっている機能なの?
これを検証するには逆を考えてみればよい。例えば既存のテレビがすべて巻き取り型だったとする。そこに新しいテレビが発表された。これは壁に掛けられる薄い一枚の板状のテレビで、巻き取りに必要な機構やそれを収めるハコも要らない。しかも巻き取り型のテレビよりもはるかに安いときた。さてあなたにとってどちらのテレビが魅力的に映るだろうか?
もう一つ例を挙げてみよう。
流行りのスマートスピーカー。これがスマートライトと連携して、音声で点灯したり消灯したりということが出来るという。ではこれが既存のライトが全てこうだったと仮定してみよう。ある会社が電球と壁に取り付けるスイッチを発表した。もうスマートスピーカーに向かって「アレクサ、リビングの電気付けて」「ベッドルームの電気消して」とか言わなくてもいい。壁にあるスイッチを押すだけで一瞬で点灯消灯が可能になってしまった。しかもこれまでの商品よりもはるかに安い。さてどちらの商品が魅力的だろうか?
スティーブ・ジョブスが昔言っていたこの言葉をよく噛みしめてほしい:
“ You’ve got to start with the customer experience and work backwards to the technology. You can’t start with the technology and try to figure out where you’re going to try to sell it, and I’ve made this mistake probably more than anybody else ”
テクノロジーありきで考えるのは本末転倒。カスタマーエクスペリエンスからスタートして、そこからテクノロジーを辿っていくべきだ。テクノロジーというのはイネイブラーであって、そもそもはそれがもたらすカスタマーエクスペリエンス、UXが本当に消費者の欲求を満たす素晴らしいものなのかどうかが問われなければならない。本当にすばらしいテクノロジーというのは消費者の目には見えない、あるいは気付かれることのない縁の下の力持ちであるべきなのだ。テクノロジーが主役なのではない。
さて今年はどんないい商品を見つけることができるだろうか?