シリコンバレーのエコシステムに入るのが難しい理由
シリコンバレーに派遣されている日本人からよく聞かれるのが「どうすればシリコンバレーのエコシステムの中に入り込むことができるのでしょう?」という質問。もちろんこちらに来て間もないのであれば右も左もわからないので当然の疑問だが、むしろこちらに来てしばらくたった人からもこういった質問をされる。
この質問に対する答えは実は簡単である。シリコンバレーで通用する「通貨」を持つことだ。
ここでいう「通貨」にはもちろんお金も含まれるが、お金よりももっと重要になるのが「評判」と「信頼」である。
シリコンバレーは一種の村社会と言っていい。その村の中ではある程度村人として行動することが期待されていて、その中でされる取引の多くは「評判」と「信頼」によって成り立っている。そしてその村の掟を破ったり信頼を毀損するようなことをすると、村八分にされることもある。
いくつか例を挙げよう。
2017年5月、レストランなどの従業員向けのコミュニケーションプラットフォームを提供するCrewというスタートアップがGreylock PartnersとSequoia Capitalという著名なベンチャーキャピタルから$25MMを調達したと発表した。それまでの2年間はステルスモードでやってきたのだが、既に全米のトップ25のレストランチェーンのうち24のチェーンの少なくとも5店舗以上で使われているという。
一般に知られる前にここまでのトラクションを上げて$25MMもの金額を著名なVCから調達してしまうというのは、すべて「評判」と「信頼」という通貨を持ったインナーサークルの人間が動いているからだ。
CrewのファウンダーDaniel LeffelはeBay出身のシリアルアントレプレナー。eBayを辞めた後立ち上げたYardSellerというスタートアップに出資していたのがeBay時代につながりのあったMichael Dearingで、彼はHarrison Metalという著名なシードファンドを立ち上げている。LeffelはYardSellerをシャットダウンした直後にCrewを始めているが、DearingはこのCrewにもシード投資することを決めた。早々にうまくいきそうな兆候が見えてきたところで、DearingがCrewをSequoiaに紹介。SequoiaからシリーズAを調達し、さらにGreylockのリードでシリーズBを調達したところで発表、という流れ。
結局LeffelはCrewの資金調達をするのにeBayからのつながりであるDearingを経由することで全く外部にアナウンスをする必要がなかったことになる。外部の人間がこういったディールにアクセスするのは非常に難しい。
人材の採用も同様。シリコンバレーでの人材採用の多くはネットワークの紹介経由である。
応募してきた見知らぬ人を採用するより、知り合いのすすめる候補の方が信頼がおけるからだ。
では日本から来た人がシリコンバレーで「評判」と「信頼」を手にするにはどうすればいいのか?これは時間をかけて少しずつ積み上げていくしかない。とにかく「give」することを考えて「take」はその後で、とよく言われるのはこの「評判」と「信頼」を作るためである。
日本からの赴任者でよくあるのが、せっかくシリコンバレーに来て3年くらいかけてそれなりの「評判」と「信頼」を積み上げたのにも関わらず、ローテーションなどで帰任になってしまうというパターン。人と人のネットワークは会社の看板についてまわるものではないから、その人が帰ってしまってはせっかく積み上げたものがゼロリセットになってしまう。
これは多くの日本企業に共通する課題であり、このあたりは長くなるのでまた別の機会に書いてみたい。