創業者たちからもらう質問の中でも一番多いのは、「いくら資金を調達すべきですか?」というものだ。
創業者たちは反射的に、できる限りたくさん資金を調達したいと思ってしまう。そうすればもっとたくさんのリソースや競争に有利な機会を得られる。そして再び資金を求めるという、痛々しくなりがちな仕事をしなくてはならないときが来るまで、ランウェイが長くなると推測しているからだ。資金を求めるたびに、文字通り、そして比喩的に、失敗のように感じるという可能性に悩まされるものだ。
もっとたくさん資金を得たいという衝動はわかる。個人的にも二つ、それぞれかなり違う性質の体験談がある。私の最初の会社では、Aラウンドで1,650万ドル調達し、二つ目の会社で意図的に調達した額は、たったの50万ドルだった。
この「いくら資金を調達すべきですか?」という会話を、文字通り毎週スタートアップと行っている。科学的な根拠はないが、私がこの問題を創業者たちと一緒にどう考え抜いているのかを次に紹介しよう。
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1. 150万ドル調達しようが、400万ドル調達しようが、調達額を消費するのは同じ時間枠においてである
資本金がたくさんあると、どんどん雇用し、外部の請負業者、PR会社、イベント参加、法律業務(商標、特許)だろうと何だろうと自由にお金を使ってしまう、というのは分かりきっていることだ。機能を増築したり、各種プラットフォームのために資金を注ぎ込んだり―こういったことを正当化してくれる十分なフィードバックを市場から得る前に、行動を起こしてしまうというのはよくある。
昨日、私の友人のジャスティン・カンがSnapchatに上げていた、「いくら資金を調達しても、最終的には12~24カ月でこれを使い果たすことになる」という10秒間のリマインダーを見て、これを思い出した。
おそらく私だったらこれを、たとえば12~18カ月に変えるだろう。人の行動は分かりやすいものだ。お金があったら使ってしまう。そしてお金を使いすぎてしまうと、深刻な結果が待ち受けている。
「オードブルのトレイが回ってきたら、2つとって、1つは後のためにポケットに入れること。トレイの全部を取ってしまってはいけない」というのは、私がずっと好んできた資金調達の格言だ。私の比喩は、資本金の調達が比較的簡単な市場があって、その場合は少し多めに取るべきだが、18カ月のペースで調達額の70%だけを使用する予算を作成すべきだ、というものだった。
だが、誰も絶対にそんなことはしない。ジャスティンは正しい。
2. 資金調達額が評価額を決定する
とんでもない発言だと思われるのはわかっているが、会社の一番最初の段階では、いくら資金調達するかによって評価額が決定されることがよくある。投資家には、あなたの会社に投資をするにあたって、どれぐらいの割合を所有したいのかという一般的なガイドラインがあり、基準は15~30%、アーリーステージのラウンドで最も一般的な範囲は20~25%だ。
そうなると、500万ドルを要求しようという欲求にかられるかもしれない。これは、もし20%だけを提供できるとすると、投資前評価額は2,000万ドルだということを暗示するからだ。あるいは、投資家が25%を要求する場合の投資前評価額は1,500万ドルとなるだろう。
800万ドルの評価額よりも1,500~2,000万ドルの評価額の方が良いと思うだろう。800万ドルの評価額を得るほうが良いと主張するのは、ほとんどバカげたことのように思えるかもしれない。だが、実際にはそれほどバカげた話でもない。
まず、あなたが800万ドルの投資前評価額で資金調達を行うと、調達額は500万ドルではなく、200~300万ドルになる可能性がもっと高い。500万ドルよりも200~300万ドルの調達のほうが遥かに簡単なので、あなたのヒット率は高いものとなる。
3. ラウンドが大きければ大きいほど、金額は高くなり、次のハードルを越えるのも難しくなる
だが、私が指摘したいもっと重要な点は、財源を使い果たしてしまって、もっと資金が必要な場合にはどうなるのかということだ。これぞまさしく、調達のしすぎが腐食をもたらす可能性がある状態である。2,000万ドルの投資前評価額で、500万ドルを調達したときに感じたすばらしい気分は、今では首にかけられた締め縄のように感じる。4,000~5,000万ドルの投資前評価額で、800~1,000万ドルのアップラウンドを調達するのは、2,000万ドルの評価額で資金調達するよりも極端に難しいからだ。
これはなぜだろう?
その理由は、投資家たちは最低でも投資した資本金の10倍を得られると想像する必要があり、アーリーステージの投資家たちはもっと大きなリターンを狙っているからだ。データによると、投資家たちにとっては、4~5億ドルの結果よりも1~2億ドルの結果を達成するほうが遥かに簡単なため、もっと低い金額の時点でコミットするほうがもっと簡単なのである。
そして、もしあなたが「2,000万で500万」を調達して、これを次のラウンドの評価額へ成長させなかったら、あなたは行き詰まってしまうことになる。投資家たちは、ダウンラウンドを嫌っているからだ。ダウンラウンドはあなたが初期のVCたちと結ぶ関係を腐食する可能性がある。経営陣は必要があればこれを行うが、意欲を失ってしまう。いつでもすばらしい投資案件が新しく出てくるベンチャーの世界では―誰かの問題児にコミットする理由はないだろう。
4. 制約は創造力を刺激することができる
もちろん、自分が創業者だとこのように感じることはまったくないのだが、実際、制約があると創造力を発揮せざるを得なくなる場合がある。会社の誰もが、個人としてもっと仕事をし、他の人たちが仕事をするのを牽引していかなくてはならない。会社の誰にとっても、進歩をするのに使える期間は非常に短いものだ。これは、あなたの知っての通り、資金調達には証拠が欠かせないからだ。
重要な点は―リソースが限られていると、何を作って、何を作らないかに関する難しい選択を迫られる。誰を雇用して、誰を先送りにするかに関するもっと難しい決断を迫られる。オフィスのリースに関する交渉を一生懸命して、もっと質素なスペースを確保するように迫られる。長い間、賃金のインフレが標準になっている市場で、給料を妥当な額に抑えることを迫られる。
私はこれを「足元に火を置いて圧力をかける」という表現で語るのが好きだ。この慣用的な言い方は、進歩を示し続ける義務を思い出させてくれるものだからだ。
私の場合、アーリーステージの企業の能力を測定する最も重要な基準には次の二つがある。
- 異常なほど才能のある人たちを、比較的すばやく、賃金を払いすぎることなく雇用する能力
- 製品を早く、そして頻繁にリリースする能力(企業環境では、内部のコードやベータ版のコードを公開することすら重要になる)
もっとお金があれば、足元の火は弱くなる。
5. 一塁を飛ばせる人たちもいる
私のパートナーであるグレッグ・ベッティネリは、スポーツの喩えを使っていて、私もこれを気に入っている。それは「一塁を飛ばす」というものだ。Upfrontの内部でこれが意味しているのは、以前の経験に基いて500~1,000万ドルのAラウンドを調達できるという実績を十分に持っている起業家のことである。
私が一塁を飛ばすという喩えを好んでいる理由は、本当に二塁から始める資格のある起業家がいるからだ。
たとえば、彼らはある分野でのスタートアップ運営にそのキャリアの多くを費やしてきたかもしれない。そして数年後、その市場にまた挑戦してみたくなり、初日から何を作りたいのか、なぜこれを作りたいのか、そしてなぜこれが成功する、あるいは失敗するかを知っているかもしれないのである。
二塁の起業家たちは、彼や彼女のために喜んでやって来て一緒に仕事をする気のある、才能豊かなテクノロジー系の専門家たちや、その他エグゼクティブたちをたくさん知っていることが多い。そのためチーム構築はすばやく、インパクトの強いものだ。
二塁の起業家たちは、追加資本金の調達を行うのに必要な信頼性を持っていることがよくある。これは以前の実績、および/また、彼らのベンチャーキャピタルとの関係性に起因する。そのため、後続のラウンドで評価額の障害を乗り越えるのは簡単になる。
私たちは二塁の起業家たちについて考えるとき、20人のVCに向けてピッチをすることなく市場へ出て行って、計画のすべてを公開市場に出していくことができるという観点からものを考えるものだ。私たちは皆、世界の回転が速いことを知っており、比較的経験に富んだチームをすばやく構成できるという観点でものを考えるからである。
二度目の起業家たちには、小さめの評価額で安全なイグジットをするという選択肢は残したくないということがよくある。彼らはいくらかお金を儲けて、いくらか成功している。彼らが本当に求めているのは、大物になるか、挑戦さなかに死ぬかのどちらかなのだ。
各ファンドの投資30~35件のうち、私たちは二塁の起業家5~6人に投資することを好んでいる。だが、たいていの場合、私たちは資本の制約が投資家と創業者の両方にとって肯定的な力になると信じている。
6. 賢い選択をする
いくら資金調達すべきかと考える際に検討すべき明らかな事項には、誰から資金を調達するかという点もある。
最初の小切手に関しては隙間が広いものを好む傾向にあっても、追加資本金を引き寄せない案件を追いかけることを好まないファンドもある。こういったファンドは「市場が語ってくれる」という考えを持っており、彼らがあなたをサポートしてくれないのであれば、何かが間違っているに違いない。これと同じ方法で営業している良質のファンドもあり、いくつか利点があることもわかる。
市場の言い分とは関係なしに、すばらしい投資を体現しているかどうか確信を持てると考えているファンドもある。この手の会社は、あなたの追加資金調達を、「所有権を買い占める」機会だと見なす可能性がある。
多くのファームはどこか中間に属している。パートナーシップのスタイルについて知ることで、資金が減り始め次のラウンドの準備ができていない場合に、あなたは何を期待すべきなのかがわかるだろう。重要なのは、外部の市場がまだ検証の準備ができていない段階で取引を成立させるにあたって、各ファームには、違ったスタイル、そして違ったレベルの信頼性を持つ様々なパートナーがいるということだ。
ファームやパートナーのスタイルと評判に関する知識は、あなたを正しい数値へと導いてくれるかもしれない。あるファームが長期のイニシアチブを支持してくれることで有名な場合、調達できる金額は少し減るかもしれないと、前もって心の準備ができるかもしれない。
「足元に火を置く」という考え方は、パートナーシップが支えになってくれる場合でも当てはまる。次のラウンドを市場に出すことができる場合、あなたはいつでももっと優れた状態でいる。あなたがこういった道のりを選択する場合、価格の圧力が生まれ、内部で公平な評価額を得る助けになってくれるからだ。もし外部の関心がなかったとしても、内部のラウンドを獲得できるかもしれない。だが、これはおそらくそういった関心があった場合よりも低いものになるだろう。そのため、まるで助けになってくれる投資家が内部にいないかのように、自分自身に対するプレッシャーを保っておくと、投資家のニーズと創業者のニーズの間で健全なバランスを取ることができる。
要約
正解はなく、トレードオフがあるだけだ。大半の人たちは、「もっと資金があれば、速く進歩して、資金調達にかける時間が少なくなる」という考え方を選んでいる。この考え方が間違っていて、18カ月間、次に市場に出て行かなくてはならなくなるまで、それに気づかないでいるというのはよくある。
資金調達は面白くない。だが、重要なプロセスである。これはまさしくあなたのアイディアの妥当性が試され、前回と比べてあなたが市場でどれだけ進歩しているかを評価されるマーケットプレイスなのだ。マーケットプレイスが、人々に行動を促す適切なインセンティブを与えるのはよくある。足元に火を置いてプレッシャーをかけると、痛みを感じる可能性もあるが、ひらめきや創造力をもたらしてくれるものでもある。
そしてもっと資金があると今日の生活は楽になるが、評価額が低いと明日の生活が楽になる。この旅を計画するときには、トレードオフについてよく考えるようにしよう。
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