新規事業開発チームにはまったく異なる3つの力が必要だ(Network+Execution+Knowledge)

Yoichi Aso
8 min readFeb 17, 2019

--

「新規事業開発」や「イノベーション創出」の領域で働く人たちをたくさん見てきた中で、また自分自身が多くの「ゼロイチ」をやっている中で、新しい価値が創造されるためには、それを担う人やチームに「3つのまったく異なるスキル」が必要であるということを強く感じるようになりました。そのおぼろげな感覚をまとめてみました。いろんな意見があると思いますが、何かの参考やキッカケにしていただけたら幸いです。

1. Network(ネットワークする力)

【異分野をつなぎ、ネットワークする力】産業の垣根が融解していく昨今の世界では、新しい価値の創造は、「これまで交わらなかった組織・産業・セクターの ”間” 」で起こることが増えていくと感じます。例えばこれまで交わらなかったNPO法人と民間企業を結び、例えば外資金融と市民セクターを結び、例えば地域社会とVRスタートアップを結ぶ力。これまでの「日本男性社会」での常識であった「肩書きでのコミュニケーション」とは一線を画し、「人として&個人としてフラットに人と付き合う」ことのできる力。価値観の違う相手を尊重し、関係を作る力。自分が主導するプロジェクト(何かの社会課題を解決する取り組み)において、そうして積み上げてきた関係性がヒントとなり、自分だからこそ巻き込める異なるセクターのキーマンをキャスティングすることで、かつての世界で、他の誰にもできなかった新しい価値を形にしていくという力。

2. Execution(実行し、やりきる力)

【あらゆる業務を、圧倒的に実行し、やりきる力】どれだけ大きなビジョンを語り、魅力的な筋のプロジェクトを組成できても、それを形にする過程は、「あらゆる細かな作業」と「局地戦での勝利」を積み上げていくことになります。大量の書類を作り、大量の日程調整を行い、大量の会議を行い、大量のメール・メッセンジャーをやりとりする。局地的な交渉で勝利を積み重ね、ときに起こるクレームを適切に処理し続ける。それを限りある時間の中で積み上げ、やりきっていく。プロジェクトが成功していくにつれ、自分たちの組織も大きくなるため、いわゆる「マネジメント力」も必要です。それが民間企業であれば、労働時間を守り、コンプライアンスを遵守するための仕組みの構築も必要です。結局、MBA的なプログラムで学ばされるあらゆる教科のスキルは必要なのです。そういった、あらゆる業務を圧倒的に実行し、やりきる力。それなくしてイノベーションが形になることはありえません。

3. Knowledge(知識と教養)

【深く広い知識と教養。それを継続的に身につけ続ける力】新規事業やイノベーション創出のプロジェクトは、定義上、自分もしくは自分の組織が「これまで手がけたことのない領域」において何かを生み出すプロジェクトです。その際もっとも重要なことは「無知の知」、つまり自分が「何を知らないのかを知る」ことができる力です。そのためには、すべてのベースとなる「教養の厚み」、そしてそれに加えて、これから取り組もうとする領域に関する個別の知識(業界慣習や、既存のプレイヤー動向、歴史、関連諸法規、など)が必要となります。日本のエリート教育では、はやくから文系理系を分離した学習を行い、就職してからの社会人教育でも「専門性を身につける」ことへの信仰が根強いためか、多くの日本のビジネスパーソンは教養や知識が「狭く閉じている」(そしてそれが美学とすらなっている)ように見受けられます。これからの時代で新しい価値を生み出すリーダーは、哲学・宗教学、科学・化学、数学、美術学、世界史・日本史、論理学、などの基礎的な教養に加え、文系理系問わずこれからの時代の常識となる経済・金融、生命科学、宇宙科学、等の知識があるほどに深いイノベーションの土台となると感じます。

どれかひとつだけでは成果は出ない

「新規事業開発」や「イノベーション創出」の領域で取り組まれている多くのことは、このいずれかの力を強化する取り組みだと思いますが、残念ながら、このどれかに取り組みが偏ると、実際にそこから新しい価値が生まれて社会実装までたどり着くことはありえません。

  1. Network(ネットワークする力)だけの場合

人と人をつなぐことで新しい価値を生み出そうとする。それ自体は必須の取り組みですが、それだけに終始してしまうと、極端な話、「飲み会では話が盛り上がったのに」「いつもイベントだけやっているよね」という状態になり、そこから何かが生まれることはありません。

2. Execution(あらゆる業務を、圧倒的に実行し、やりきる力)だけの場合

圧倒的な実行力は絶対に必要な力ですが、それだけでは取り組むプロジェクトが本質的かつ革新的なものになることはありえません。極端な話、実行力はすごいから数字は作れるしそこそこの規模にはなったとしても「何かの二番煎じ」「どこかで見たことがあるものの焼き直し」になってしまい、その取り組みやプロジェクトが大きく社会的なうねりを生み出すようなことにはなりにくい状態になります。

3. Knowledge(教養と知識)だけの場合

教養と知識なくして深いイノベーションはありえません。しかし、教養と知識はどこまで深く身につけても「過去のもの」。それだけでは「これまでになかった新たな未来的視点」も生み出せないし、「具体的なプロジェクトの組成」もできません。過去の世界の知識から、いわゆる評論家的に第三者的意見を述べることはできても、新しい価値の創造の起点にも主体者にもなることができません。

どれかふたつだけでも成果が出ない

  1. Execution + Knowledge のケース(Networkが不足)

教養と知識が十分にあり、圧倒的な実行力もある。しかし、ネットワークする力がない場合は、「これまでにない新しい切り口」を生み出すことや、その新しい切り口をスキームとして組み立てることができないので、取り組み自体が既視感のあるものになってしまいます。

2. Knowledge + Networkのケース(Executionが不足)

教養と知識に裏付けられ、かつてなかったキーマンのキャスティングもできる。だから画期的なプロジェクトが組成できる。なので、世の中的には話題となり大きな注目を集めることもできたりします。しかし、実行力が不足しているので、注目された後にそれが形となり大きく育っていくことはありません。

3. Network + Executionのケース(Knowledgeが不足)

かつてなかったキーマンのキャスティングを行い、それを圧倒的な実行力で形にしていけるため、上記ふたつのケースと比較すると、このケースが最も一定レベルまで形となることが多いケースです。しかし、ベースとなるべき教養や知識が不足した状態でプロジェクトを進めていくと、基本的な落とし穴にハマって足元をすくわれてしまったり、ゼロイチの段階を超えていざ大きく社会と向き合う段階になって本質的な社会的議論に耐えられずモデルの変更を余儀なくされ「結果として小さくまとまる」ことになってしまったりします。

ひとりで3役やる必要はない

ここまで、新規事業開発やイノベーション創出の領域に取り組む人が持つべき3つの力について解説をしてきましたが、この3つの力は、まったくジャンルが異なる能力のため、そのすべてを「ひとりで担保すること」は大変難しく、実はその必要はありません。

目指すべきは「チームとして揃っている状態」を作ること。それぞれの能力保持者は、それぞれのジャンルのみでチームを作ってしまうことが多い(その方が思想が近くて気持ちよいため)ですが、お互いにリスペクトをし、巻き込み合うこと。

NはEとKを、EはKとNを、KはNとEをリスペクトし、ひとつのチームの中でそれぞれの力が必要なだけ発揮されるチーム運営を行うこと。それによってイノベーションは形となり大きな社会的うねりを起こしていけるのではないでしょうか。

--

--

Yoichi Aso

【起業家・投資家・経営者】株式会社アルファドライブ 代表取締役社長 兼 CEO / 株式会社ゲノムクリニック 代表取締役 共同経営責任者(経営・ファイナンス管掌) / 株式会社UB Ventures ベンチャー・パートナー / 株式会社ニューズピックス執行役員 / yoichiaso.me