BoPビジネスの定義と意義

最近、開発学やソーシャルビジネスの外の人たちの前でも起業の野望を話す機会があったので、「BoPビジネスって何ですか?」という質問を受けることが多くなった。
 
 その度に「人によって定義は様々だけど、」と必ず前置きをしてから、相手の興味レベルを探りつつどんな回答が良いか模索しながら答えている。上手く答えられる時もあれば、そうでない時もある。 
 
 BoPビジネスとは、『貧困層が直面している社会的課題の解決に貢献し得る持続可能なビジネス』だ、と表現することができる。 
 
 社会的課題はなんでもいい。飲める水や電気へのアクセスでも、日用品や生活必需品の販売でも、雇用創出や現金収益向上など、ジャンルに制限はないし、貧困層がビジネスのどのレベルに組み込まれていてもいい。要は、貧困層が経済活動の枠組みから阻害されることによって経済システムの恩恵を受けられていないのが問題なので、貧困層もちゃんと経済活動の中に入れてあげようということだ。 
 
 元々のBoPビジネスは、貧困層を消費者として捉えるものだった。貧困層は購買力が無いので、企業から消費者として見られていない。そのために、貧困層が必要とする商品 やサービスはこの世に作りだされていないか、あるとしても貧困層のところまで流通網が整えられていないなどアクセスの壁に阻まれている。この場合、貧困層 は例えば一日一往復しか出ていないバスに乗り時間もお金も掛けて商品を手に入れることになる。都市部に住む裕福な層はそれと比べると時間もお金も掛けずに商品を購入できることになる。富裕層は安く買い、貧困層がたくさん払うという不思議な現象が起きている。 
 
 これは貧困ペナルティと呼ばれており、インドの都市ムンバイの中所得者層が住むWarden地区と、スラム街のDharevi地区を比較した事例と共にセンセーショナルに突きつけられた事実だ。なんと、食費で1.2倍、医療費で10倍、水道代で37倍、年利で53倍も貧困層の方が多く払っている(払わざるを得ない)というのだ。この貧困ペナルティを解消しようというのが当初のBoPビジネスのコンセプトだった。 
 
 しかしその後、貧困の解決に資本主義を持ち込むことはけしからんだとか、結局貧困層にモノを売りつけているだけじゃないか等の非難を受け、BoPビジネスのプラン立案にBoP層の声を反映させようだとか、BoP層を雇用してビジネスの内部に組み込もうなどという流れになり、前者後者はそれぞれBoP1.0 (Selling to the Poor)、BoP2.0 (Co-Creating Mutual value)と区別することができる。 
 (2.0以降のBoPビジネスは、インクルーシブビジネスとも呼ばれるが、こちらの単語は認知度が高くなく、開発経済か国際協力系の人たちの間でしか使われていない。) 
 
 この動きがどんどん加速していくことで、BoPビジネスは多様化しぼやっとし、何がBoPビジネスで何がそうじゃないのかよく分からないものになっていく。BoP1.0のみをBoPビジネスと定義する人も居れば、フェアトレードまでBoPビジネスだと考える人も居る。 
 
 私個人的には、貧困からの脱却に寄与し得るビジネスは全てBoPビジネスと呼んでしまっていいと思っている。BoPビジネスの最も重要なコンセプトは、その一点に尽きるからだ。 
 
 BoPビジネスで最も有名な文献、米ミシガン大学のPrahalad教授と米コーネル大学のHart教授の共著『The Fortune at the Bottom of the Pyramid』(2002)や、その他の名作が世に送り出された2002年~2004年には、貧困問題に企業が関わるなんてことはとても想像できないことであった。貧困問題は政府や国際機関、NGOの仕事であって、企業なんていう資本主義の権化はむしろ貧困層の敵であるかのようなイメージさえあった。 
 
 しかし、Prahalad教授とHart教授が突然言い出すのだ。企業よ、貧困層を見よ。あなた方がこれまで購買力がないと全く相手にしなかった貧困層は、実は世界に40億人も居る。一人辺りの単価が安くともこれだけの数が居れば、大変に魅力的なボリュームゾーンではないか。先進国の市場は既に成熟しており、頭打ちだ。ネクストマーケットに飛び込め。企業が今後も成長を続けるための唯一の方法はそれしかない、と。 
 
 そうして、巨大な民間資金が貧困問題の取り組みへも流れ込むことになった。この変化は歴史に記されるべきターニングポイントだ。Prahalad教授、Hart教授始め、A. Hammondらの功績は大変に大きい。 
 
 今ではどの企業も、BoPビジネスに取り組む取りむ組まないは別として、自社の事業がBoPビジネスに向いているか検討するのは当たり前だ。ちょっと大げさに言い過ぎのような気もするが、先見性のある経営者ならNext marketについて考えたことが無いはずは無い。 
 
 企業の気をひくことに十分に成功した今、BoPビジネスを敢えて1.0に絞って考える必要もないだろう。 
 
 … そもそも論になってしまうが、定義なんてものは大概の場合どうでもいい。自分以外の誰かとそのテーマについて論じる時にしか役に立たないし、話をする前に一つの単語について共通認識を持っているかどうか定義の確認をする人にも出くわしたことが無いので、多分普通に生きている分には定義を覚えてもしょうがな い。 
 
 そんなことより、貧困問題への取り組みをビジネスアプローチで考えている人達により広く門戸を開き、様々な事例を共有したい。具体的に何をするのか、自分に何ができるかについて考えて貰いたい。BoPビジネスに対する補助金や助成金、起業家発掘コンテストなんてのも今の時代にはたくさんある。優秀で面白い人達にこれまでも多く出会ってきたし、今後も彼らと切磋琢磨できるよう自分自身更に努力を続けて行こうと思う次第だ。

blog『アフリカに住んでみることにしました。』より転載