山田裕嗣 / Yuji Yamada
4 min readJan 23, 2016

鎌倉投信の話を読んで

年始に、鎌倉投信の社長のお話を伺う機会がありました(というか、社長のお話を伺ってみたくて、たまたま見つけたセミナーに飛び込みに行きました)。そこで聞いた話がとても面白く、次にファンドマネージャーの方の著作も読み、総じて感じたのは、信念や哲学の尊さや、それを全うすることの重たさ。

そもそも鎌倉投信とは

「いい会社」を作ることを応援することを目指したファンドを運営されてます。

「お金の投資」というデジタルにROIが測れる世界において、そもそものReturnが「お金」だけ、という前提の定義を崩して、お金によって「より良い社会を作る」ことを出資者とともに実現しようとしています。

詳しくはwebサイトをぜひ。

お金の使い方に「自分自身」が問われる

一番心に残ったのは、このファンドマネージャーを務めるのは無茶苦茶しんどいだろうな、、、ということ。なぜなら、そのお金の使い方には「自分自身」が徹底して問われるから。

ファンドマネージャーの新井さんは、以前は「お金のROIを最大化させる」ことを目的に、最先端の金融工学に基いて数兆円のファンドを運用していました。そこでは、ROIを最大化するために判断の根拠は「モデル化された数式」に求め、徹底して人の要素を排除する、という哲学に基づいていました。(その時の「モデル化された数式」に基づくという投資哲学は、リーマンショックを経ることに拠って「数式では分からない」と思うことに)

いずれにせよ、投資の判断の裏には必ず「論理的に説明できる根拠」が存在することになります。

一方で、鎌倉投信で行っているのは、「いい会社」へと投資すること。そこでは、ファンドマネージャーが「どのような会社を『いい会社』と捉えるのか?」が説明できなければなりません。鎌倉投信ではいい会社を判断する切り口があるそうですが、そこに数値基準などは設けていません(設けられるとも思えない)

著書の中でも新井さん自身が、「新井さんが選んだから」といって共感してもらうことが必要、と書かれています。それを実現するためには、顔が見えなければいけないし、あらゆる意思決定を説明し続けなければいけないし、その意思決定を信頼し続けてもらわなければいけない。「論理的な根拠」は、出せなくはないんでしょうが、「あなたが作りたい良い社会は何か?」「そのためになぜその会社が『いい会社』だと思ったのか?」を問われ続けることになります。同時に、数百億のお金を運用して、成果を出しながら。

自分自身が信じる世界を描き、それを全て包み隠さず説明し続けながら、それでもなお、お金として一定のリターンを出し続ける、、、という仕事は、信じがたく凄まじく、想像するだけで胃が痛いです。

消費の在り方が変わっていく、ことの一つの形

一方で、消費者(投資家?)という立場で考えると、お金という究極にデジタルなものであっても、「想い」を乗せることができる、ということが初めて腑に落ちた体験でもありました。

「会社は社会的な生き物にもかかわらず、社会に尽くすと逆の現象が生まれる。少し難しく言うと、社会性と経済性は逆(負)の相関関係がありました。
でも時代は変わりました。
社会性を追求すると、お客さまからの信頼が生まれ、結果として儲かる時代になったのです。会社が提供するサービスや商品だけではなく、その姿勢や思想までも知りたいと思うお客さまが増えているともいえます」

書籍の中で書かれているこの方向性としてはとても共感しますし、そうであって欲しいとも思います。

一方で、どこまでがこういう方向に変わっていくのか?特にBtoBという枠組みにおいては、それが実現されるイメージが今のところ湧いていません。それは、企業としての意思決定は大概の場合は「合理的に判断される」ことが、役割として求められるから。

そこには、「組織における期待役割に基づいた判断をする」ことと、「自らの哲学や使命感に基づいて決断する」ことの違いが横たわっているのだろうと思います。このあたりの、判断と決断の違いというのはまた別の機会に整理したいと思います。

山田裕嗣 / Yuji Yamada

HR系のコンサル、大手ITのHRを経て、ITベンチャーの経営に参画。 2017年12月にEnFlow株式会社を設立。Teal/ホラクラシー/自然経営など、新しい時代の組織への変容を支援。 https://en-flow.com/