2013年を振り返る、ぐっときた映画3本。

雪子
7 min readDec 31, 2013

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※過去のブログのおひっこし記事です※

と題していますが、ちょっと補足すると
(わたしの)2013年を振り返る(個人的に)ぐっときた映画3本。
な記事です。

わたしが観ている映画の数は本当にわずかなものだと思います。でも今年を振り返ったときに、ああこの映画ぐっときたな、この映画観たから立っていられたな、という映画があったので、書いてみることにしました。

「クラウド アトラス」

挙げたはいいものの、この映画をどんなふうに説明したら魅力がちゃんと伝わるのか。ちょっと不安ですが、書き進めてみます。

時代も国も違う6つの物語。そのひとつひとつの物語で生きる人々が転生を経て織りなしていく、壮大な群像劇です。転生、というキーワードで察していただけるかもしれませんが、この映画では「魂」というもの、そしてその成長が描かれています。
過去は今に。今は未来に。時代を飛び越えて紡がれていく見事な脚本構成は、思わず息を呑んでしまうほど。あくまでもハリウッド映画なので決してわかりにくいお話ではないのですが、一度観ただけですべてを理解することはむずかしいかもしれません。

たとえ小さな選択であっても、その選択は確実にその人の「今」をつくり、そして「未来」を成す一片になるのだということ。
たとえ不自由に縛られる環境であっても、強い信念は、そして想いは、未来を変える可能性を持っているということ。

これは、何も映画の中だけのお話ではありません。今生きているわたしにも、この文章を読んでくれている方にとっても、同じことだと思うのです。人間は理屈で生きているのではなく、感情で生きている動物です。脳で考えているより、辻褄が合うような生き物ではありません。どの時代でもどの国でも、どのような環境でも、そんな人間の本質は変わるものではないのだと。けれどその想いや信念の強さは、何かを動かす力を持っているのだと。そう教えてくれるような映画です。

観終わった後の感動と余韻は、言い表せません。是非ひとりでも多くの人に味わってほしいと、そう心から思える1本です。一人一人の役者が複数の時代で異なる役を演じているので、観終わった後に「あ、あれあの人だったの!」「え?じゃああのひと同一人物!?」と驚くのもこれまた楽しいのですよ。

「地獄でなぜ悪い」

年末に「今年の3本」を聞かれるとこの記事で挙げている3本の話をするんですが、誰に言っても「なんで(そのラインナップの中に)地獄が入ってるの!?」「泣いたの!?どこで!?」と、驚きの反応をいただきました。そう、泣いたんです。びっくりですよねー。

近年、ものすごいペースで撮り続けている園子温監督の新作。この映画をどうして挙げているかといえば、「超笑った」「テンポが抜群」「堤真一の顔芸が最高」…などなど、考えれば考えるほど、結構わかりやすい理由です。おもしろくって楽しくって、爆笑したんです。「おもしろい」って最高で、十分な理由ではありませんか。正直この作品を勧めるにあたって、これ以上の理由はありません。

以上で十分ではあるのですが、加えてもうひとつ、ちょっと泣けちゃった理由として。それは、描かれているのが「映画バカ」の「映画作り」だということなんです。

長谷川博己演じる“映画バカ”平田は映画監督を目指して、自主的に映画を撮り続ける。そう、「撮り続ける」んです。周りになんと言われようとも。そして撮り続けていたら突然、なんだかよくわからないコワイ人たちに囲まれて映画を撮る羽目になりますが、そんなコワイ人たちに囲まれたって、平田は超楽しそう。むしろ「やったー映画が撮れるぞー」って喜んでる。観ているこっちが、マジでどうかしてるよコレ、って笑っちゃうくらい超楽しそうに「撮り続ける」んです。映画の中で映画作りを描くという劇中劇だからこそのリアリティも最高。自主映画出身の園さんご自身のことも、きっと投影されているのでしょう。好きすぎてやめられない、楽しすぎて止まらない、その無垢な気持ち。

観ているときはひたすら笑って楽しんでいたのですが、エンドロールで星野源さんが歌う主題歌が流れた時、すごい爽快感に襲われて。ああこの映画って、「ただそれだけ」の映画なんだなって感じて。「○○バカ」と呼ばれる、愛があって純粋でまっすぐな人たち。わたしはそういう人が大好きです。そういう人たちって、「ただそれだけ」でいいんですよね。「ただそれだけ」で、なぜ悪い。その純粋さがたまらなく愛おしいなぁと、胸打たれてほろりと泣いてしまったのでした。

ちなみにこの映画を挙げているのは、わたしが長谷川さんのファンだから、というのも理由のひとつな気がするんですが、そんな不純な動機を差し置いても映画好きな人には心からお勧めしたい映画です。動機が不純でなぜ悪い(触発されてる)。

「風立ちぬ」

「僕はただ、美しい飛行機を作りたいだけなんです。」
二郎さんが劇中で言う、この台詞がすごく心に残っていて。この台詞そのもの(美しい飛行機のためにすべてを捧げること)の純粋さについてももちろん胸を打たれるんですが、劇中で描かれているのはその台詞の背景、だったように思えて仕方ないのです。

ただ、美しい飛行機を作るということ。
実はそれってかなり非現実的なことだと思うのです。美しい飛行機を作るためにはまず自分が食べていくためのお金が必要で、配偶者がいるならその相手を養ってあげなくてはいけない。家族を大事にするならば家族のための時間を作らなければいけない。
でも、そのすべてを考えようとすると。時間やお金、自分自身を「ただ美しい飛行機を作る」ために割くことができなくなってしまう。つまり、何かを犠牲にしなければ達成できない目的、だと思うのです。
そして、美しい飛行機を作ることで何が起きるのか。そのことを二郎さんは知っています。

正しいのかどうかなんて、わかりません。
でも、結果「そう」だった。「そう」なったこと、「それ」がすべてだった。

この部分を駿さんが描いたということに、すごく心打たれたのです。多くの方がおっしゃっているように、わたしもまた、駿さんご自身のことが投影された映画だと思っているひとりです。

駿さんの作品を小さい頃からずっと観てきて、そして今わたしのこの年齢になって、この映画が作られたこと。そして、それを観れたこと。そのなにもかもを、幸福に思います。

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この、ひっちゃかめっちゃかで、統一性のない3本。でもわたしのなかでは、共通点があるのです。

今年は何かと、潰れるか潰れないかギリギリのところを行き来し続ける、みたいな1年だったりしました。
なのでここで挙げた3本は、ああもう今度こそ潰れるかも、と思った時に救ってくれた3本なのです。違うテーマだったら、もう全然ちがう映画が挙がると思います。でもわたしの2013年を振り返ったときに強く残ってるのはこの3本で、あのときこの映画があったから立っていられたんだなと、ぼんやり思います。

来年も楽しみな映画がたくさん。2014年、どうなるのかわくわくします。

それでは皆さん、良いお年をお迎えくださいませ。

Originally published on December 31, 2013.

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雪子

本と映画と音楽とネコをこよなく愛するフリーランスの物書き。スマホで読む掌編小説「ひとひら文庫」 、選択の物語を聞く対談マガジン「あなたは なぜ、」を作っています。