変革のためのツールへのアクセスを民主化する (Dr. Otto Scharmerによる2021年8月20日公開オリジナル記事の翻訳)
社会や環境の崩壊が加速する中、全ての人々にとって公正で、包摂的で、かつ再生型の社会を実現するために、変革のための集団的な能力をどのように構築すればよいのでしょうか。
スペイン語 — イタリア語 — 中国語 にも翻訳されています。
(日本語翻訳の校正にご協力いただいたMasumi Uchimuraさん、ありがとうございました!)
主な教訓:
プレセンシング・インスティテュートでの過去20年間の活動の中で、私たちは、変革のための集団的な能力を高めることに関して、いくつかの重要な教訓を得ました。
1. 意識を変革しない限り、システムを変革することはできない。
2. システムが、それ自体を観て、感じ取ることができない限り、意識を変えることはできない。
3. 新しい形の深い学びの構造を作らない限り、上記を大規模に行うことはできない。
先月、プレゼンシング・インスティテュートのコミュニティに宛てた手紙の中で、私たちは今「人新世」、つまり人間の時代に生きており、地球規模で私たちが直面しているすべての課題は、私たち自身に原因があるということに触れました。
また、私たちは今、地球の重要な岐路に立っており、一人ひとりが重大な問いに答えることを求められているともお伝えしました。
私は、そして私たちは、この状況にどのように対応するのでしょうか。私は、そして私たちは、この瞬間にどのような姿で現れようとしているのでしょうか
今はまさに、私たちの時代です。個人、社会、集団として、皆さんからよせられた声が心に響きました。
ミリアム・ヘスカンプ (Miriam Hescamp)は、次のように語っています。
「違和感/不快感のあるものに向かい合い、そこから学びます。」
アヌパマ・カタナ (Anupama Khatana)は次のように述べています。
「子どもたちに、気候変動だけではなく、自然や私たちと自然との関わり合いについて教えていきたいと思っています。」
マノジ・オンカー(Manoj Onkar)は次のように語っています。
「3つの断絶についての認識を広め、ムーブメントを起こします。教育機関、NGO、政府、そして社会全体で、意識に基づいた集団行動を行います。」
変革のリテラシーを確立する
この20年間で私たちが学んだことは、変革のリテラシーを大きな規模で確立する必要があるということです。
“変革のリテラシーとは、今あるシステムが、そうあるように設計された機能(現状のままの最適化、つまり過去の最適化)を超えていく能力のことです。”
私たちが直面している大きな課題のほとんどは、それを解決するには、同じことの繰り返しではなく、何か違うことをすることが求められています。それは、過去を手放して、現れようとしているものを共に感じとり、共創することを求めているのです。私たちが学んだことは、過去を手放し、未来が現れたときにそれを共に感じとり、出現させるためには、チェンジメーカーたちの内面を修養する、内面のリーダーシップの作業が必要だということです。
そして、こうした内面の修養作業にはサポートが必要です。
そのサポート体制が、「U.School for Transformation」です。
U.School for Transformationは、頭、心、手、そしてミクロとマクロの両方を統合し、全人格的、全システム的なイノベーションと学びへのアクセスを民主化するというビジョンです。
壁のない学校
u.school of transformationは、壁のない学校です。システムや国境を越えてチェンジメーカーたちやムーブメントを起こす人々をつなぎ、地域やセクター、システムを越えたコラボレーションや共創のためにデザインされたアクションラーニング環境でサポートします。
プレゼンシング・インスティテュートは、過去20年以上にわたり、このような新しいインフラストラクチャーの中核となる、あらゆる必要な要素を、地域や地方、または世界規模でプロトタイピングしてきました。
私たちは、今こそ、これらの多様な要素を一つにまとめ、「U.School for Transformation」を立ち上げる時が来たと考えています。
「目指すところは、市民、チェンジメーカー、コミュニティ、公共機関、再生型企業が、この10年、そしておそらく今世紀中に私たちが直面する大規模な変革の瞬間に対応するための集団的な能力を開発できるようにすることです。」
ますます激しくなる破壊的な変化 (ディスラプション)の中で、リーダーやチェンジメーカーが活躍するためには、どのようなサポート体制が必要なのでしょうか?
中核となる5つの要素
ここでは、自己とシステムの変革の旅を支える拡張可能ななインフラストラクチャーの構築に不可欠な5つの基本要素を紹介します。
手法とツール
1. 新しい手法やツールへのアクセス
- · プレセンシング・インスティテュートのチームは、過去数年にわたり、社会変革のための手法やツールを構築し、クリエイティブ・コモンズの下で、誰でも自由に利用できるようにしてきました。
- · これらのツールやリソースは十数ヶ国語に翻訳されています。
- これらの手法やツールの例としては、「4段階のリスニング」、「ステークホルダー・インタビュー」、「3Dマッピング」、「ジャーナリング」などがあります。
しかし、手法やツールを提供するだけでは十分ではないこともわかってきました。新しい行動を起こすためには、チェンジメーカーには他にも必要なものがあるのです。
2. 実践の場
チェンジメーカーには実践の場が必要です。
- チェンジメーカーには、安全で、支援が提供され、生成的な環境の中で、新しい行動を取り入れたり、新しいツールを使ってみることができる実践の場が必要です。
- 生成的な実践の場の例としては、ケース・クリニック・サークル、ソリダリティ・サークル、ソーシャル・プレゼンシング・シアター、ビジュアル・スクライビングなどがあります。
- 私たちの仕事の中では、生成的スクライビングやソーシャル・プレゼンシング・シアターのような、意識(アウェアネス)をベースにしたソーシャル・アートを活用することが、パワフルな実践の場を作る上で最も重要な鍵であることがわかりました。
- こうした実践の場は大切です。しかし、ツールと実践の場を用意するだけでは、まだまだ不十分であることもわかりました。
3. 活性化の場
多くの場合、欠けているのは「活性化の場」です。つまり、チェンジメーカーとしての私たちが、求める最高の願望や未来の可能性に火をつけ、それにつながり、他のセクターや他の場所にいるチェンジメーカー仲間との共鳴の場を感じとり、今感じとったそのつながりから活動を始めるための場です。
プレゼンシング・インスティテュート(PI)では、これらの「活性化の場」を年間を通じて無料で公開しています(u.lab 1xとGAIA)。組織向けにはカスタマイズしたものもあります。(下記参照)
2020年から2021年にかけて、GAIAは15,000人、u.lab 1xは155カ国から19,744人の登録者が参加するコミュニティを形成しています。無料で提供されるオンライン・オフラインの活性化の場には、2015年以降、200,000人以上の参加者が登録しています。
これらの3つの中核的な場は、真の進歩をとげています。しかし、それ以外にも、しばしば求められることがあります。
4. 継続的かつカスタマイズされたサポート体制
あらゆる変革の旅は、継続的な支援構造を必要とします。すなわち、チェンジメーカーやリーダーシップチームが必要に応じて見直し、再集中し、再生し、現在の課題についてお互いにサポートするための受け皿や保持スペースです。これらの支援構造は、状況や場所によって異なります。過去1年間の例としては以下があります。
- グローバル・フォーラム: 2021年6月、PIは変革事例にスポットライトを当て、チェンジメーカー達を繋げるグローバル・フォーラムを開催しました。コミュニティが共同で作成した「オーディオ・ガーデン」では、世界中の80以上の変革の物語が紹介され、わずか数週間で8,172件のダウンロードが行われ、コミュニティを魅了しました。このオーディオ・ガーデンは、フォーラムの参加者がスクリーンから離れ、ストーリー、サウンドスケープ、そして深い考察の実践を通して、それぞれの地域の状況に深く入り込むことを可能にしました。(詳細は、ウェブサイトをご覧ください)
- The U.Academy: 社会の変革に取り組む機関のチェンジメーカーやリーダーを対象とした毎月のプログラムを提供するデジタルキャパシティビルディングのインフラです。PIは、2022年までにこの事業を黒字化することを目指しています。
- 個別機関向けにカスタマイズされたインフラストラクチャ: 変革のための組織的支援構造の一例として、現在、国連と関連機関向けに実施している3つの活動があります。
a) 「行動の10年におけるシステム変革」という、国連全体での対話シリーズ。
b) 世界の主要地域の450人のチェンジメーカーを対象とした「国連アクション・ラーニング・ラボ」。
c) 持続可能な開発目標(SDGs)の実施を各国の事情に合わせて促進することに焦点を当てた14のSDGsリーダーシップラボ。
第5番目の要素
上記の4つの基本要素はいずれも重要なものですが、もう一つの要素がなければ十分ではないこともわかりました。
5. 研究と知識創造
大規模なムーブメントを起こすため、究極の普及法は、最先端の研究に基づく知識の創造に基づいていなければなりません。ここでは、そのような観点から、最近のマイルストーンをいくつかご紹介します。
- Journal of Awareness-Based Systems Change(ジャーナル・オブ・アウェアネス・ベースド・システムズ・チェンジ)という、査読付き学術誌を創刊しました。。
- この学術誌の目的は、目に見えない、深いシステム変容の(フィールドの)構造を可視化するためのシステムサイエンスを推進することです。 本誌の編集委員会は、先住民族の研究者を含む、世界的に多様な研究者で構成されています。
- 7冊の書籍を出版しました。最新の2冊は2021年の出版です。
- 「Just Money: ミッション志向の銀行と金融の未来」は、より公平で持続可能な社会を構築するためのツールとして、金融をどのように活用すべきかを探求しています。
- 「ソーシャル・プレゼンシング・シアター (Social Presening Theater): 本当の動きを作り出すアート」は、アラワナ・ハヤシ氏とプレゼンシング・インスティテュートの仲間たちが共同で考案した革新的な社会的芸術 (ソーシャルアート)の起源、原理、実践への旅の本です。
- ソーシャル・プレゼンシング・シアターの手法やツールを、仲裁・調整・介入などの用途だけでなく、研究目的でも発展させることで、社会システムや社会的フィールド(ソーシャル・フィールド)の見えない構造をよりよく可視化することができます。(社会的フィールドとは、社会システムを、その内側、内面の状態から見たものです。)
- コミュニティをつなぎ、取り組みや新しいアイデアを紹介するブログ「Field of the Future」を公開しています。
- 意識(アウェアネス)に基づくシステム変革の手法やツールを発明・発展させ、主流として浸透させるための10年間の研究イニシアティブを開始します。
ツール、実践の場、活性化の場、継続的なサポート体制、先進的な研究と知識の創造、これら5つの要素が、大きな規模での変革を実現するための重要なインフラであると考えています。
これらの取組みは、すべてテストされ、改善されてきました。
しかし今、これらの学習経験や構成要素をすべてまとめて、全体的な規模で変革の瞬間を迎えられるようにする時が来たのです。
目標:u.school For Transformationを立ち上げ、世界中で何百万人ものチェンジメーカー達を活性化すること
今後10年間で、u.school for Transformationは、志を同じくする機関と新たなパートナーシップを結ぶことを目指しています。このパートナーシップは、今後数十年に渡って、様々な土地で、その土地に根ざし、かつ地球全体を意識した変革の旅に欠かせない、何百万人もの活動家やチェンジメーカーと繋がり、支援するのに役立つでしょう。
この新しいタイプの “国境なき学校 “は:
- 気候変動、環境再生型(リジェネラティブ)農業、女性の権利、人種平等、金融包摂、さらには人間の繁栄を目的とした教育の再構築などの問題を解決するために、様々な地区・地域の「ハブ」を運営するチェンジメーカーのグローバルなエコシステムをさらに活性化します。
- 草の根のチェンジメーカー、組織の専門家、意識(アウェアネス)に基づくシステム変革の研究者を対象に、「変革の道筋 (Pathway for Transformation)」に関するカスタマイズされた能力開発メカニズムを提供します。
- 大学生に、コア・カリキュラムを補完するものを提供し、学習と現実世界でのアクションや変化の機会とを結びつけ、介入者としての内面を育みます。
- 今世紀の求める教育を再考し、再構築するための道筋を大学に提供します。システム思考を意識(アウェアネス)の実践と結びつけ、実践的な感性・倫理のリテラシーを身につけます。
- セクターや地理的な違いを超えて、自己とシステムを変革する旅を共同で始めます。
- 意識(アウェアネス)に基づくシステム変革の分野を発展させるために必要なデータ、経験、知識を蓄積します。
u.school for Transformationは、人類と地球の生態系には、まだ活性化されていない創造的な能力があるという共通理解に基づいています。この能力が活性化されれば、多くの場所やコミュニティですでに始まっている、意識(アウェアネス)に基づく文明再生の次の波を生み出し、大きくすることができます。
プレゼンシング・インティテュートは、このような意図を共有し、「国境なきu.school」の実現に向けて、さまざまなリソースや能力を提供してくれるパートナーを求めています。
このコラボレーションにより、「u.school for transformation」の規模を拡大するためのインフラ、カリキュラム、パートナーシップを構築するために、今後4年間で500万ドルを集める「Opportuntity Fund」を立ち上げます。
その他のパートナーシップとしては、スタッフの派遣、大学キャンパスとのプラットフォームの共有、世界各地におけるu.schoolとなる国や地域ごとのラボの設立などがあります。u.schoolの規模が大きくなれば、事業収入やコミュニティからの寄付という形で収入を得られるようになり、数十年後にはほぼ自己資金で運営できるようになると考えています。
私たちプレゼンシング・インスティテュートのコアチームが、現在の混乱の瞬間に身を任せてみたとき、我々がなすべきこと、我々に求められていることは、こうしたことだと感じています。
あなたは、今なすべきこと、求められていることは何だと感じますか?
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公式キャンペーンはまもなくスタートします。
u.schoolのツールや実践方法に興味のある方は、9月9日から始まるu.lab 1xの新しいサイクルに参加してみてはいかがでしょうか。
以下のウェブサイトから登録できます。
www.presencing.org/ulab
ビジュアルを制作してくれたケルビー・バード、草稿の編集を担当してくれたプリア・マータニ、レイチェル・ヘンチに感謝の意を表します。
スペイン語 — イタリア語 — 中国語 にも翻訳されています。
(日本語翻訳の校正にご協力いただいたMasumi Uchimuraさん、ありがとうございました!)