Eisuke Suzuki
9 min readMar 24, 2020

「恐怖心を煽る数値の中に希望を見出そう:3月22日時点でのCOVID-19データの解析」

前回の執筆記事は、日英両文で1万人以上の方に読まれ、SNS上でもたくさんのコメントを頂きました。厚く御礼申し上げます。

今週は、先週の分析のアップデートに加え、COVID-19の“致死率”データの読み解き方について考察していきます。

<「人口当たり死亡者数」の推移は、ほぼ先週の予測通り>

まずはおさらいから。

前回記事の要諦は、「人口(百万人)当たり死亡者数」を最重要指標として位置付け、その数値がどの段階で「社会的隔離政策」を導入するかが、その国の運命を分ける、というものでした。

こちらが前回記事に掲載した、人口当たり死亡者数の推移を示すグラフと、その数値がどの段階で各国の「社会的隔離政策」が導入されたかを示す表です。

前回記事ではこんな予測を書きました。

イタリア、イラン: 湖北省のケースを超えるレベルの酷い状況になってしまうのは不可避

米国、ドイツ: かなり早期に対応したと言えそう。韓国と同等の結果が見込まれる

フランス: 結構遅れてしまった。イランと同等の結果が見込まれる

スペイン: 極めて遅れてしまった。イランとイタリアの間程度の結果が見込まれる

さて、1週間経ってどうなったか、というのが下記のグラフです。

今回はイギリスを分析に加えています。また、中国のエリア別の数値を先週からWHOが出さなくなってしまったため、中国(湖北省)と中国(湖北省以外)のデータは更新されていません。

イタリア: 早くも湖北省超えに…

スペイン: 想定していたより若干ですが更にひどい状況で、イタリアと同レベルの急上昇。 もしかしたら、イタリアは全国でロックダウンをかける以前にロンバルディ地方で先行して社会的隔離政策を導入した一方、スペインは先行施策を特に打っていなかったからかも

イラン: 湖北省よりもちょっと悪いくらいの、想定通りのペースで上昇

フランス: 「イラン並み」の予想通り、まさにイランの1週遅れで同じペースで上昇

イギリス: 次回の数値により明確に出てくると思うが、他の諸国がほぼ一斉に行なった「社会的隔離政策」の導入の3日間の躊躇のコストは大きかったのではないか。13日であれば、人口当たりの死亡者数は12 だったが、 16日には51になってしまっていたので。最終的には、イランやフランスに近いレベルか

米国、ドイツ: 両国共に、感染者数の増大が人々の恐怖心を煽っているが、このカーブの立ち上がり具合から言えば、どちらもまず大したことなく済みそう

(私の仮説は、レベルの強弱に拘らず「社会的隔離政策」は感染者数の抑制効果があるという仮説が根底にあります。この理論的背景は、Harry Steven氏の “Why outbreaks like coronavirus spread exponentially, and how to “flatten” the curve”や、 Tomas Pueyo氏の“Coronavirus: Why You Must Act Now”等の記事を読んでいただくと理解が深まると思います)

<流行曲線は社会的隔離政策の効果を示し続けている>

こちらのグラフはいわゆる「流行曲線」で、週次の感染者数の推移を示しています。

前回記事でも書きましたが、感染者数は各国の検査の積極度によって大きく変わってきてしまうため、各国間の数値の大小の比較はせず、それぞれの国の曲線の形にのみご注目ください。

欧米各国の急激な増加はメディアで散々報道されてきている通りなのですが、この中にも改善の兆しが2つほど見えてきています。

一つは、イランの増加ペースが鈍り、おそらく今回の数値でピークを打ったことになりそうということ。 もう一つは、上記のグラフでは見えないので、1000以下にズームインしてみます。

そうです、日本です。どうやら一旦流行曲線の“頭を叩く”ことに成功した感じなのです。

日本が採ってきている「社会的隔離政策」は、他国と比べたら緩いものです。外出は自由にできますし、飲食店も小売店も開いています。一部はリモートワークにシフトしたとはいえ、まだ大半の勤め人は通勤しています。

このレベルの「社会的隔離政策」でも効果があるとすれば、もっと厳しい施策を採っている他の国にとっても、勇気付けられる話です。

4月からの学校再開が取り沙汰されていますが、いずれにせよ日本が採る「出口戦略」の行く末は、我々日本人のみならず世界の他の国の人々にとっても、大いに注目すべき話です。

ただ、注意しなければならないのは、今のところうまく対応できているように見えるのは、3週間前の社会的隔離政策の導入の効果があってこそ、です。

緩め過ぎてしまったら急上昇しかねませんので、「出口戦略」は慎重に進めることが大事。油断は禁物です。

<「致死率」の「曲線の形状」で戦線異状を知る>

色々なメディアで、各国の「致死率の違い」が取り沙汰されています。

私にとっては、感染者数の数値が問題だらけである以上、致死率の数値も(分母が感染者数なので)同様で、これをそのまま各国比較するのはナンセンスだと思っています。

それより、致死率の推移が示す「曲線形状」に注目する方が、有益な示唆が得られると考えています。

詳細に入る前に、「致死率」を考える上での一般的な法則を説明します。それは、分子の「死亡者数」は分母の「感染者数」の「遅行指標」だということです。感染者が見つかってから実際に亡くなるまでは、一定の日数がかかりますので。

「遅行」の具合を、韓国を例にとって見てみましょう。

青線が感染者数(左縦軸)、オレンジの線が死亡者数(右縦軸)の推移を示しています。

グラフに見られるように、感染者数が急増するフェーズ(赤の点線で囲った部分)では、分母が分子よりも増えるスピードが早いので、致死率が上がることはありません。というか、減少傾向になります。逆に、新規の感染者が一気に減る段階になると、致死率は上がっていきます。

この原則を頭に入れた上で、次の「致死率曲線(致死率の推移)」のグラフを眺めてみてください。

いずれの国も、感染者数が3桁になってからの週次の推移をとっています。実線は感染者数が前週の3倍を超えるような急増フェーズ、点線はその後のフェーズを示しています。

なんか、おかしいですよね?前述したように、実線部分の急増フェーズは下落傾向にあるはずなのに、右肩上がりの国があります。イタリア、スペイン、イギリス。この3カ国は何かとってもおかしなことが起きている。

今回のCOVID-19のケースで言えば、この「おかしな」現象は、いわゆる「医療キャパシティ(利用可能な人工呼吸器の数とほぼ同義)」の超過を意味するのではないかと考えています。

ダイヤモンドプリンセスで発生した患者さんのほとんどを日本で受け入れたのは、記憶に新しいところかと思いますが、3月4日時点では35人が人工呼吸器装着もしくはICUベッドに入院という状態でした。その時点での死亡者数は6人。

人工呼吸器やICUがなければ、最悪約7倍の41人が亡くなってしまっていたことになります。

つまり、医療キャパシティを超えて超重症患者が増えていくと、どんどん致死率が上昇するという力学が働くわけです。

イタリアの事例をより詳細に見てみましょう。

上記の図は、イタリアの「日次」の「致死率曲線」です。実は、最初の5日間くらいはちゃんと「下落」しています。それが、3月2日を底に、一気に上昇傾向に入っています。

この3月2日辺りで医療キャパシティが一杯になってしまったのではないかと睨んでいます。イタリアが全国的な社会的隔離政策を導入したのが、これより更に遅れた9日でしたから、遅かりしと言えど、この3月2日近辺の時点で導入していたら、もっとマシな展開になっていたのにと悔やまれます。

いずれにせよ、死亡率推移のモニタリングはしておくべきと言えるでしょう。

<考察>

1. 米国の死亡率の急激な低下は、おそらく検査数を一気に増やす政策変更の影響と考えられる。途中で急激な変更が入ってしまうと、曲線の正しい評価は極めて困難

2. イランの流行曲線は来週には下落傾向に転じるであろう。一方、米国やこの分析に出てくる欧州各国は引き続き感染者の急増が想定される。社会的隔離政策の効果が見えてくるのは再来週の分析時点になると考えている

3. ドイツの極めて低い死亡率は、超積極的な検査実施の産物と考えられる。この国の最終的な死亡率は、医療キャパシティの範囲内での先進国の“実”死亡率に最も近いものになるのではないかと考える。

[参照データ]

l 感染者数、死亡者数については、“Coronavirus disease (COVID-2019) situation reports” (World Health Organization)

l 各国の社会的隔離政策の導入タイミングについては、複数のニュースサイト

Eisuke Suzuki

Strategic consultant / Marketing researcher/ Entrepreneur specialized in Healthcare industry. Founder of Medicalinsight Co. / ISHURAN Inc.