デザイナー向けサービスデザインの入門書
facebookやブログなどで紹介してきたサービスデザインの参考書をアップデートしてまとめました(主に日本語で読めるもの)。2008年に多摩美・情報デザインコースで「サービスデザイン」の演習を始めた当初は、手がかりになる情報は少なくそのほとんどが海外のものでした。10年経って日本での認知も上がり、翻訳書を始めとして多くの文献や資料が日本語でも読めるようになっています。
「サービスデザイン」は領域横断的なアプローチが必要で、扱う対象も広く、必要になる知識やスキルもかなり広範囲に渡ります。デザインの知見だけでは解決できない問題も多く、マネジメントやビジネス、マーケティング分野の知識やスキルも必要になりまです。リストの後半ではサービスマーケティングの本をいくつか紹介します(入門から専門書まで)。
私はマーケティングの専門家ではありませんが、多摩大学大学院(MBA)で学んだ「サービス・マーケティング」の知識や、マーケティング学会等でのマーケティング研究や実務に携わる方々から示唆が「サービスデザイン」の教育や研究に役立っています。
1.サービスデザイン 入門編:
「サービスデザインの教科書:共創するビジネスのつくりかた」エヌティティ出版
http://amzn.to/2DPxiew
日本でのサービスデザイン研究の第一人者、武山先生(慶應義塾大学)の著書です。サービスの基本、デザインの基礎から、サービスデザインとその事例紹介、そしてこれからの可能性までていねいに解説されています。サービスデザインの入門書って何がいいですか?と聞かれたら、いままではTiSDTの日本語版などを勧めていましたが、これからは迷わずこの本をすすめたいと思います。重要な概念のひとつ「S-D ロジック」もきっちり(正確に)解説されているので、難解でわからないという方は理解の助けになると思います。
(noteより転載)
「これからのマーケティングに役立つ、サービス・デザイン入門 -商品開発・サービスに革新を巻き起こす、顧客目線のビジネス戦略 」ビー・エヌ・エヌ新社
http://amzn.to/2se0dSU
ページ数も少なく気軽に手に取れる入門書です。カスタマージャーニー、タッチポイントなど基本の概念から解説しているので、初学者や概要を手早くざっと知りたいひとにはよいと思います。
「ビジネスで活かすサービスデザイン-顧客体験を最大化するための実践ガイド」ビー・エヌ・エヌ新社
http://amzn.to/2rxDWmz
実践ガイドの副題の通り、サービスをデザインするプロセスを中心に解説した本です。サービス提供のプロダクト開発(第4章 ビジネスインパクトをもたらすサービスを創り出す)にとどまらず、質の高いサービスを提供し続けるための組織の問題に言及しており(第5章 組織課題を克服する)、広範囲に渡るサービスデザインの特徴を示しています。
「THIS IS SERVICE DESIGN THINKING. Basics — Tools — Casesー領域横断的アプローチによるビジネスモデルの設計」ビー・エヌ・エヌ新社 http://amzn.to/2se1JUR
サービスデザインの辞典のような一冊です。概念から手法、事例まで幅広く扱っており、サービスデザインという分野を専門的なレベルで概観できます。出版当時(日本語版2013年)は、日本語で読める情報源はほぼこの本しかなく、分野の全体像を把握するためにたいへん役に立ちました。
新しい分野なので、実践につながる「ツール」に関心を持つ方が多いと思いますが、(ツールはどんどん変わるので)本書の まえがき と 基礎編 をしっかり読み込む方が得るものは多いと思います。
「まえがき」では、本を書いた意図やサービスデザインという分野の意義が語られます。特に「サービスデザイン思考の5原則」はサービスをデザインする際の良い視点を提供してくれます。「基礎編」はプロダクトデザイン、グラフィックデザイン、インタラクションデザイン、ソーシャルデザイン、戦略マネジメント、オペレーションズ・マネジメント、デザイン・エスノグラフィの各分野からサービスデザインとの接続が語られます。(これほど広範な分野なのかと途方に暮れる感じもありますが…。)「ツール編」では様々な手法が紹介されていますが、概略の説明だけなので、実践のためには別に詳しく知る必要があるでしょう(網羅的に紹介されているので仕方ないところです)。
2.サービスデザイン 実践編:
「サービスデザイン ユーザーエクスペリエンスから事業戦略をデザインする」丸善出版
http://amzn.to/2rxr149
サービスデザインの実践について、具体的な進め方や方法がかなり詳しく書かれています。ただし、原書の出版は2013年ですので扱うサービス事例などはその時点のものです。
This Is Service Design Doing: Applying Service Design Thinking in the Real World
http://amzn.to/2DKxyeg kindle版(英語)
出版されたばかり(2018.1.12)で、まだ日本語版はありません。手元にペーパーバック版がありますが、膨大な数のツール・手法・ケースが紹介されています。とてもいちどでは読み切れません。
本の後半の構成は、サービスデザイン分野の深化を感じさせるものになっています。(ページ数でも全体の半分をこれらに費やしています)
08 Inplementation
09 Service Design Process and Management
10 Facilitating Workshops
11 Making Space for Service Design
12 Embedding Service Design in Organization
公式サイトでは 54method のpdfが無料公開されています。
https://www.thisisservicedesigndoing.com
マッピングエクスペリエンス ―カスタマージャーニー、サービスブループリント、その他ダイアグラムから価値を創る
http://amzn.to/2nloEO5
こちらは日本語版が出たばかりです(2018.1.26)。サービスデザインの本ではないのですが、サービスブループリント、カスタマージャーニーマップ、エクスペリエンスマップなど、サービスや経験を可視化する方法が詳細に解説されていて、たいへん参考になります。
第III部の具体例では以下の5つの「マップ」を取り上げています。
9章 サービスブループリント
10章 カスタマージャーニーマップ
11章 エクスペリエンスマップ
12章 メンタルモデルダイアグラム
13章 空間マップとエコシステムモデル
3.サービスマーケティング、サービスマネジメント 入門編:
サービスをデザインするには、まず「サービス」を理解することから始めるのが正しい道筋です。サービスマネジメント、サービスマーケティングの分野から入門書を紹介します。
「サービスマネジメント入門―ものづくりから価値づくりの視点へ 第3版」 近藤 隆雄・著,生産性出版
http://amzn.to/2sdMtHI
サービス・マーケティング、サービス・マネジメントの理論を学ぶための入門書です。多摩大MBAの「サービス・マーケティング I」(近藤隆雄 教授・当時)の授業の教科書でした(第2版)。第3版では「第8章 サービスの生産性向上」が書き加えられています。
「1からのサービス経営」 碩学舎
http://amzn.to/2qsaKxc
初めて「サービス」について学ぶひと(大学生、社会人)を対象に書かれた教科書的な本です。事例が豊富で、無形の「サービス」の特性を理解する助けになります。サービス・マネジメントの基本となる理論もきちんと押さえてあり、入門用テキストとしてとても良いです。1章 サービス経営のマネジメントと、8章 サービスによる価値創造は、サービス・デザインに特に役に立ちます。
本書を読むと、ウェブ・サービスやネット系のサービスはサービス全体の一部に過ぎないということや、モノとサービス(のデザイン)がもはや区別して考えられないこともわかります。身の回りに優れたサービスを利用して、(サービスを)わかった気になっていますが、デザインの対象として「サービス」をあらためて見てみると、かなり手ごわい相手だと気づくはずです。
目次(出版社のサイト):
1からのサービス経営 — 伊藤宗彦・高室裕史(編) | 碩学舎
4.サービスマーケティング、サービスマネジメント 専門書:
以下はいずれも経営学の専門書です。読むにはそれなりの前提知識が必要になります。ビジネス書と違ってわかりやすく新しい事例が満載ということでもありません。「理論」に興味のある方はどうぞ。
「サービス・イノベーションの理論と方法」 近藤 隆雄・著,生産性出版 http://amzn.to/2se3lOz
「サービスマネジメント入門」を書かれた近藤先生の本です。研究の集大成ともいえる内容です。
「北欧型サービス志向のマネジメント―競争を生き抜くマーケティングの新潮流」ミネルヴァ書房
http://amzn.to/2sdJZZG
グルンルースによるサービスマネジメントの理論です。アメリカのマーケティング論(コトラーほか)とは異なる視点・価値観から「サービス・マーケティング」の理論を展開しています。「ノルディック学派」といわれています。
ラブロック&ウィルツのサービス・マーケティング
http://amzn.to/2GwohIC
サービス・マーケティングを網羅した大著です。著者のひとりラブロック氏は、サービス・マーケティングの第一人者です。(10年前の本なので、当然ながら新しいデジタルマーケティングなどには対応していません。)私がサービス・プロセスの設計図に相当する‘Service Blueprint’を知ったのは本書でした。
▼サービスドミナントロジック:
サービス研究から「サービスドミナントロジック」の専門書を2冊だけ紹介します。S-Dロジックは、モノ(グッズ)からサービスへ、と単純な文脈で語られがちですが、提唱された元々の考え方はそのような単純なものではありません。オリジナルの思想に触れてみたい方はぜひ。
(マーケティング学会の研究会でずいぶん勉強させていただきましたが、いまだに私の理解力では追いつけず。正しく解説できる自信はないので、武山先生の本や専門家の解説をお読みください。)
サービス・ドミナント・ロジック―マーケティング研究への新たな視座 同文舘出版
http://amzn.to/2FstIXx
S‐Dロジックの基本的な考え方、理論的な背景、今後の展開を論じています。(2010. 3刊)
サービス・ドミナント・ロジックの発想と応用
http://amzn.to/2DXPMMt
サービス・ドミナント・ロジックの提唱者である、R.F.ラッシュ教授、S.L.バーゴ教授の著書です。 (2016.6.24刊)
サービスデザインから、サービスマネジメント、サービスマーケティングまでたどってみました。「デザイン」や「デザイン思考」だけでは思うようにならないのが「サービスデザイン」の難しくもありおもしろいところです。マーケティングの研究・実践は、長い歴史もあり書籍や文献もたくさんありますので、基本を押さえておくと「サービス」の全体像を把握する上で役に立つと思います。