Blockcerts(ブロックサーツ)の開発経緯とメリットについて

Alex Kodate
9 min readMar 4, 2019

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ブロックチェーン証明書専門家のアレックスです。

私はブロックチェーン証明書の世界標準規格であるBlockcerts(ブロックサーツ)に準拠した証明書の発行システムの開発に成功し、更なるアップデートを行っています。

今回は、Blockcertsとはそもそも何なのか、どういった背景があって開発されたのかをご説明したいと思います。

Photo by Caleb Woods on Unsplash

Blockcertsが開発された経緯

Blockcertsはもともと、MIT(マサチューセッツ工科大学)を卒業した複数のエンジニアが提唱・開発した規格です。

最初のコンセプトデザインはMITのMedia LabとLearning Machineが共同開発しました。

MIT Media Lab

開発の中心的な人物は、Learning MachineのCTOであるKim Hamilton Duffyです。

彼女はW3CのCredentials Community Groupの委員長でもあり、SSI(Self-Sovereign Identity:個人でトラストレスに自己のアイデンティティを証明したり、管理するという概念)を基盤にしてDID(Decentralized Identifiers:非中央集権的に本人確認・管理・シェアできるデジタルID)などの開発を進めています。

DIDとBlockcertsはブロックチェーン証明書を普及させる上で非常に重要な関わりを持っており、今度の記事で説明したいと思います。まずは背景知識としてSSIについての記事をチェックしてください。

Open BadgesとVerifiable Credentialsを統一するための提案書を共著しています

話を戻します。

MIT Media LabとLearning MachineがBlockcertsを開発したのは、学歴詐称や職歴詐称といった、「書類改竄による雇用機会の不平等」という世界的な問題を解決したいという思想があり、ブロックチェーン技術を使うことでそれらをスマートに解決できるからです。

そして詐称を防ぐだけでなく、書式を統一し、グローバルにシェアできるという、紙の証明書では実現できないメリットを持たせています。

ブロックチェーン関連のサービスの一部は、「そのサービスは本当にブロックチェーンを使用する必要があるのか?」という疑問を持つものがありますが、証明書や本人確認といった分野は、ブロックチェーン技術の力が存分に発揮されます。

その理由について、深掘りしていきます。

Blockcertsに準拠したブロックチェーン学位証明書のメリット

①改ざんできない

ブロックチェーン証明書はブロックチェーン上のハッシュ値と連動しているため、一度書き込まれた情報を改竄することはブロックチェーンの仕組み上不可能であり、学歴(データ)を詐称できなくなります。

証明書のシェアや認証がスマホでできるBlockcertsウォレット

②自分で管理できる

Blockcertsの規格ではスマホアプリのウォレットを使用することができ、
ウォレット内に自分のブロックチェーン証明書を保管して、いつでもどこでも正当性を証明するVerify機能がついています。

③発行にかかるコストが圧縮できる

紙の証明書はプリントのための費用と時間コストがかかりますが、トラストレスに発行できるブロックチェーン証明書は即時発行が可能で、印刷をともなわないため、大幅にコストを削減できます。

④シェアしやすい

紙の証明書を使った本人確認では原本を郵送するなどの手間が発生しますが、ブロックチェーン証明書を送信することで、簡単に雇用主等にシェアすることが可能で、本人確認も同時に行えます。

また、DIDを導入した場合はインタラクティブなデータベースが構築できるため、「名前は明かさず、年齢が20歳以上であることだけを証明してビールを買う」などということも可能になります。

⑤永遠に残る。紛失しても再発行できる。

ブロックチェーンに書き込まれたハッシュ値はチェーンを構築するノードが消滅しないかぎり、ブロックチェーン証明書は永遠に残ります。(正確には、証明書の内容の正当性を証明するハッシュ値が永遠に残る)

また、現在の紙の卒業証明書の発行元は教育機関であり、再発行にあたっては学校側に連絡し、プリントされた証明書に責任者の実印を押してもらうなどの面倒なプロセスがありますが、デジタル証明書は証明書を閲覧するための秘密鍵を紛失しても、ブロックチェーンアドレスやDIDを使用することで「自分が自分であることを第三者機関の承認なしに証明」でき、瞬時に再発行が可能になります。これはまさに、個人のIDを個人で管理するというSSIの概念そのものです。

⑥ 任意のブロックチェーンを使うことができる

どのブロックチェーン(Bitcoin, Ethereum, Sovrin, Hyperledger, etc.)にも載せることが可能で、特定のチェーンに依存しません。現在、知名度の低いブロックチェーンや企業が独自に開発したガラパゴス的なチェーンに学位証明書のハッシュを書き込み、「信用性が担保されている」と主張する企業が多数ありますが、そういったチェーンが長生きする保障はどこにもありません。その点、Blockcertsならユースケースに合わせ、前述したような任意のメジャーなチェーンにハッシュを記録することができます。

⑦ オープンソースのBlockcertsはシステムの透明性と互換性、セキュリティに優れていてロックインを避けられる。

特定の企業が独自に開発したブロックチェーン証明書発行システムはブラックボックスになっていて、何がオンチェーンで何がオフチェーンなのか分かりません。そして、発行された証明書を認証する機能が正しく作動している保障もなく中央集権的です。

さらに、企業が独自に開発したシステムであれば第三者の監査がないため、セキュリティーホールがどこにあるのか不明です。その点、大勢のコミュニティによってバグフィックスが随時行われている Blockcertsはコードがオープンソースになっており、全てが明確で、いつでもセキュリティーの検査が可能です。

⑧ すでに多数の国での導入事例があり、様々な世界基準の規格に準拠している。

アメリカのMITをはじめ、オーストラリア、コロンビア、マルタ、バーレーン、バハマ、タイの教育機関で Blockcertsは実際に導入され、ブロックチェーン学位証明書が社会実装されています。HTML、CSSやXMLなどの規格を制定したW3Cが提唱している以下の基準に準拠する予定のある唯一の学位証明書規格のため、事実上の世界基準になり始めています。

World Wide Web Consortiumは、World Wide Webで使用される各種技術の標準化を推進する為に設立された標準化団体、非営利団体。略称はW3C(wikipediaより)

・W3C JSON-LD
・W3C Verifiable Claims
・W3C Linked Data Signature
・W3C / Rebooting Web of Trust Decentralized Identifiers

また、BlockcertsはIMS-GLCのOpen Badgesの一種でもあります。スタンダードな国際規格ですので、将来的には世界中の大学がBlockcerts準拠のブロックチェーン学位証明書の発行を行い、雇用主である企業も上記の証明書を受け付ける可能性が極めて高いと言えます。

以上が、ブロックチェーンを使用した証明書のメリットです。

ブロックチェーンの特徴を活かした仕組みであり、「ブロックチェーンを使わなければならない」理由が明確にあるプロダクトです。

日本におけるブロックチェーン証明書の普及について

Open Badges Peeled by Bryan Mathers (Used under CC-BY-ND License).

経済産業省は、ブロックチェーンを利用した学位証明書の発行を進めると公式に発表しています。2019年以降の実用化を目指すとのことで、現在開発が進められています。

また、2019年2月には同省が主催、リクルート社が運営となって「ブロックチェーンハッカソン2019」が開催されました。ブロックチェーンに携わる大手企業から審査員が集まり、既にOpen Badgesを採用しているOpen Universityが基調講演を行うなど活況を呈しました。

お問い合わせ:alex.kodate@gmail.com

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Alex Kodate

ブロックチェーン証明書システム開発の専門家。日英バイリンガル。