日本企業がViva Technologyに注目すべき4つの理由 (1/4)

Taisuke Alex Odajima
7 min readFeb 11, 2019

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今年の1月にラスベガスで開催されたCES 2019。そのスタートアップエリアであるEurekaパークで一番の存在感を放っていた国といえば、間違いなくフランスだと言えるだろう。会場は、フランスの国鳥であるニワトリをモチーフとしたLa French Techのロゴで埋め尽くされ、通路を歩けば英語以上にフランス語が飛び交うような状況だった。

CES会場を埋め尽くすFrench Tech企業たち

一部の出展者からは「これはもはやフランスによるシリコンバレーへの侵略だ」という危機感混じりのジョークも聞こえてきたほどだった。そのフランスが、全世界に向けてイノベーション立国としてのメッセージを発信すべく開催しているイベント、Viva Technologyをみなさんはご存知だろうか?

2016年に第一回目が開催されるや、初年度にも関わらず45,000人以上の来場者数を記録。その後も毎年規模を拡大し続け、3度目となる昨年は、世界125カ国から10万人を超える来場者数を迎え、スタートアップ関連のイベントとしては間違いなく世界トップクラスだ。来場者数の急激な伸びを見れば明らかなように、近年世界中から注目を集め始めており、日本でも昨年から同イベントに関する報告会が幾つも開催されるなど、イノベーションを軸に活動する多くの企業人が関心を寄せるイベントになりつつある。

冒頭で触れたCESを始め、11月にポルトガルのリスボンで開催されるWEBサミットや、本拠地ヘルシンキだけでなく東京やシンガポールでも開催されるSLUSHなど、スタートアップにフォーカスしたイベントはもはや世界中で毎日のように開かれているが、その中でもなぜ日本企業がViva Technologyに注目すべきかというと、以下の4つの理由が挙げられる:

1)フランスが国家レベルで後押ししているイベントだから

2)大企業とスタートアップのコラボレーションがテーマだから

3)世界第3位の超大手広告代理店が主催しているから

4)アジアの存在感がまだ薄いから

これから数回の投稿に分けて、上記の理由を一つずつ解説していこうと思う。

注目すべき理由その1:フランスが国家レベルで後押ししているイベントだから

CESでの圧倒的存在感が記憶に新しい、フランス政府が推進するスタートアップ支援プログラムがFrench Techだ。昨年、日本の経産省が立ち上げたスタートアップ支援機構J-StartupもこのFrench Techを参考にしている部分が多く、オランダのStartup DeltaやオーストリアのGlobal Incubator Networkなどと比較しても、政府主導のスタートアップ支援戦略としては最も成功しているものの一つと言えるだろう。French Techの特徴は、いたずらな資金援助で起業家にその場しのぎのバラマキを行うのではなく、極めて綿密に積み上げられた、国家としてのイメージ戦略だ。スタートアップの世界におけるフランスの存在感を高めるというFrench Tech 1.0構想の成功を経て、スタートアップ同士の横のつながりをより強固にしてコミュニティを育成する、French Tech 2.0のフェーズに移行しようとしている。

日本同様、フランスも経済成長の鈍化は極めて深刻な課題となっており、特に24歳以下の若者の失業率は22.3%(OCDE 調べ)と世界的に見ても高い数字となっている。日本では同じ年代の失業率が3.7%であるから、7倍近い開きがあることになる。

OCDE調べによる24歳以下の失業率比較:一番左の黄色が日本、紫のバーがフランス

アラブ諸国のように豊富な天然資源も無いフランスにとって、この問題を解決するほぼ唯一の方法が、イノベーションを活性化させることで多くのスタートアップ企業を生み出し、経済成長を促進すると同時に仕事の数自体を増やすことである。

フランスにとって新たなイノベーションを生み出すことは、国の存続がかかった最重要課題であり、その証拠に、2017年にはマクロン大統領がイノベーション創出に100億ユーロ(1.2兆円!)もの巨額を投じると発表している。そして、その国家戦略上とても大きな意味を持つ発表を行ったのが、他ならぬViva Technologyなのだ。

実はマクロンは、まだ財務大臣であった2016年当時に、第一回目のViva Technologyでも登壇しており、フランスにとっていかにイノベーションを生み出すことが不可欠かを熱く語っている。もちろん昨年のイベントにも登壇をしており、私達の社会や経済を良くする上でイノベーションの重要性を訴えている。このように、イノベーション創出を国家戦略の柱にそえるフランスの大統領が毎年登壇し、そのイノベーション戦略を世界に向けて発表する場こそが、Viva Technologyという同国最大のスタートアップイベントなのだ。

Viva Technology 2018の基調講演を行うマクロン大統領

フランス政府としての後押しは当然、大統領の登壇だけに留まらない。昨年の2月に行われたメディア向けの事前説明会は外務省で開催され、Viva Technology前日にはフランスの大統領官邸であるエリゼ宮で、40以上の大企業経営者を世界中から集めた会合を開いている。その多くがそのままViva Technologyで登壇しているのだが、それは多忙を極めるビジネスエグゼクティブをフランスに招くための理由付けにもなっているわけだ。単なるイベント登壇だけではわざわざフランスに行かない大物も、一国の大統領に呼ばれたとなればその重い腰を動かさざるを得ない。

スタートアップ支援プログラムとして世界的にも先端を行くフランスが、国の威信をかけてバックアップし、Facebookのマーク・ザッカーバーグやMicrosoftのサティア・ナデラを始めとする世界的イノベーション企業のトップが一堂に会する国際的イベントが、Viva Technologyなのだ。それだけでも、このイベントがいかにイノベーションを考える上で重要な位置を占めるかが理解できるのではないだろうか。

次回は、Viva Technologyをその他のスタートアップイベントと分ける最大の特徴とも言える、「大企業とスタートアップのコラボレーション」というテーマについて、解説していこうと思う。

注目すべき理由その2:大企業とスタートアップのコラボレーションがテーマだから

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