「Web は死ぬか?」という曖昧な問い

Akinori Machino
10 min readJun 27, 2015

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スマートフォンが世に出て以来(正確には 2008年に App Store が公開されて以来)、「(アプリによって)Web は死ぬか?」という問いが幾度となく繰り返されてきました。しかし残念なことに、この手の問いがきちんと議論されることは稀のように思います。

その理由は明らかで、そもそも「Web とは一体何を指しているのか」を明確にすることなく答えようとしているからです。皆、自分の頭に中にある思い思いの “Web” に対して未来を案じています。

実際、Web という言葉はかなり曖昧で、業界にいる方々に「Web ってなんですか?」と聞いても、人によってかなり違う答えが返ってくるのではないでしょうか。

私はアプリによって Web は死ぬと思っています。あまり先のことは分かりませんが、この先10年くらいのスパンであれば、ゼロにならずとも、一般の人が使うものではなくなるでしょう。

ただ、ここで私が「Web」という言葉で何を指しているかが問題なのです。このエントリーの後半で、その(私の)定義を改めて明記したいと思います。

Web とは何か?

まず、正しい正しくないは置いておいて、人々に Web だと考えられている可能性のあるものを列挙してみましょう。

  1. インターネット
  2. Web サイト
  3. Web ブラウザ
  4. Web アプリ
  5. Web API
  6. Web 関連技術

1. インターネット

専門の方でない限り、Web とインターネットが一緒のものだと思っている方は多いと思いますが、この2つは同じものではありません。インターネットの方がより広い概念で、Web を含みます。Web はインターネット上にありますが、インターネットを構成するのは Web だけではありません。

誤解を恐れず簡単にいえば、インターネットは「コンピュータのネットワーク」であり、Web (WWW; World Wide Web) は、「文書(Web ページ)のネットワーク」です。文書はつまり HTML であり、リンクによって文書のネットワークを形成します。

例えば、WebView をまったく使っていない完全ネイティブなアプリでも、インターネットに繋がっているアプリがほとんどです。つまりアプリもインターネットというプラットフォーム上に存在するものであって、アプリがインターネットを殺すことはあり得ません。

2. Web サイト

文書のネットワークである Web を利用して、Web メディアは、その文書(Web ページ)を束ね、自分のブランドである「Web サイト」としてインターネット上に公開しています。

Web メディアの方が「Web は死ぬか?」という文脈で気にしているのは、恐らくこの Web サイトのことでしょう。メディアビジネスをされている方々にとっては、Web サイトからの広告収入よるビジネスモデルが破綻することが「Web が死ぬ」ことなのです。

3. Web ブラウザ

Chrome や Safari などの Web ブラウザは、Web ページを見るための1つの手段です。「Web が死ぬ」ということを「Webブラウザが使われなくなる」ことだとするのであれば、Web は死ぬという考えに同意する方も多いのではないでしょうか。

実際 Webブラウザは、もうほとんど死んでいますFLURRY による調査(2014年 米国)によれば、モバイル端末において、Safari や Chrome のような Web ブラウザはほとんど使われておらず、代わりに Facebook のようなアプリが使われています。今後その利用時間はさらに減少するでしょう。

4. Web アプリ

Web アプリという言葉も曖昧な言葉ですが、ここでは、

<meta name="mobile-web-app-capable" content="yes">

などに対応していて、Web サイトのアイコンをホーム画面に追加でき、起動するとアドレスバーなどはなく、その Web サイトがフルスクリーンで表示されるものを Web アプリと呼ぶことにしましょう。

最近は、Web アプリでも、ネイティブアプリのようにプッシュ通知ができるようになったり、オフラインでも使えるようにしたりすることができるようになってきています。ただし、Web アプリは App Store や Google Play には登録することはできません。

5. Web API

Web API は、HTTP などの Web の技術を使って、人ではなくプログラムに対してデータ、コンテンツを渡す仕組みです。Web ページは HTML というフォーマットで書かれますが、Web API は、多くの場合 XML や JSON といったフォーマットで書かれます。

RSS も XML であり、プログラムが読むものだと考えれば、Web API と呼んでいいでしょう。RSS は死んだと何年か前に言われましたが、死んだのは人間が読むための RSS リーダーであり、Web API のフォーマットとしての RSS は未だ健在です。

6. Web 関連技術

ここで Web 関連技術とは、例えば HTTP のような通信プロトコルや、HTML, CSS, JavaScript などの Web ページを作成するための各種技術、あるいは、その Web ページを最終的な見た目で表示するレンダリングエンジンなどのことです。

Web エンジニアなど、Web 技術で食べている人が「Web は死ぬか?」という言う文脈で気にしているのは、こういった技術のことを指している場合が多いでしょう。

何が死ぬのか?死なないのか?

最初に、私は Web が死ぬと思っていると書きましたが、上述の定義において、それぞれ分けて書くと次のようになります。

インターネット → 死なない

Web ブラウザ → 死ぬ

Web サイト → 死ぬ

Web アプリ → 死ぬ

Web API → 死なない

Web 関連技術 → 死なない

つまり私は、「Web ブラウザ + Web サイト + Web アプリ」の総称として「Web」という言葉を使いました。

なぜ死ぬのか?死なないのか?

1. インターネット

インターネットについては、上で述べたように、そもそもアプリもインターネットの一員であり、アプリがインターネットを殺すことはありません。インターネットは非常に強力な仕組みであり、私には今、インターネットが死ぬ時というのは想像ができません。Don’t bet against the Internet.

2. Web ブラウザ

Web ブラウザというアプリは、もう衰退していくのは避けられないと思います。少なくとも一般の人は使わなくなるでしょう。ただし、Web ブラウザはなくなっても、検索がなくなるということではありません。現在ユーザーは何かを検索するために Web ブラウザを開くことが多いですが、検索の役割は徐々に他に移っていくでしょう。

3. Web サイト

Web ブラウザが死ぬ運命にあるとしたら、Web サイトはどうなるでしょうか。Web サイトは、Safari や Chrome のような Web ブラウザからでなくとも、Facebook や Twitter のようなアプリの中からアクセスできます。実際、そのような経路の流入の割合はどんどん増えていることかと思います。

しかし、そういった形の Web サイトへのアクセスも、今後減っていくでしょう。理由は、ユーザー体験の悪さです。第一にページが開かれるまでの遅さ、第二にページの構造がサイトによってバラバラであること。Facebook が Instant Articles を始めたのも、SmartNews が SmartView 機能を搭載しているのも、これらの理由からです。

4. Web アプリ

Web サイトは Web アプリ化すれば生き残れるのでしょうか? 高速化され、オフラインでも動き、プッシュ通知が使えても、私はそれは難しいと考えています。App Store や Google Play などのアプリストアに登録できないことは致命的だと思うからです。

ちなみに、WebView を使って、ほとんど Web 関連技術(HTML + CSS + JavaScript)だけを使って作られたアプリは、ここでは Web アプリには含めません。それは「Web 関連技術を使って作られたアプリ」であり、アプリストアに登録できます。

5. Web API

Web サイトが死ぬと書いたので、Web メディアの方には怒られてしまうかもしれません。しかし、Web サイトが消えることと、メディア事業が立ち行かなくなることは明らかに別のことです。

上述した通り、今後コンテンツは、Web ではなく Instant Articles や SmartView のような、よりユーザーフレンドリーな形式で消費されるようにシフトしていくことでしょう。そしてそのコンテンツは、メディアからアプリに対して、大抵 RSS ベースのフォーマットで配信されています。HTML から XML に変わっただけの話なのです。

6. Web 関連技術

ハイパーテキストの通信プロトコルとして生まれた HTTP は、多種多様なデータを通信するための技術として今後も進化を続けて、インターネットの基盤技術であり続けるでしょうし、HTML + CSS + JavaScript に関しても、Web サイトをつくる用途としては縮小していくでしょうが、アプリなど Web 以外のシステムの UI を作るための技術として残るかと思います。

まとめ

例え曖昧な言葉でも、その死を論ずるからにはきちんと定義をすることが大切です。上述の定義において私は Web は死ぬと書きましたが、もし今後、ディープリンクで繋がったアプリのネットワークまでを含めて “Web” と呼ぶようになることがあれば、その「広義の Web」は死なないということになります。

これは昔からの私の持論ですが、今後どんどんコンテンツは Web ページではなく、Web API という形でのみインターネット上に存在するようになるんじゃないかなと思っています。

コンテンツホルダーは、保有するコンテンツを「マシンフレンドリー」な形式でインターネット上に公開し、多種多様なアプリがそれを参照して、「ヒューマンフレンドリー」な形式でユーザーに届ける。情報伝達における役割の分担です。

もちろん、その過程ではビジネスモデルの変更を余儀なくされることもあるでしょう。ただ、それは憂うことではなく、変化する世界に対して、自分たちは何ができるか、どういったポジションをとれるかを考える、エキサイティングなことではないかなと思います。

私がプログラミングを始めたのは大学卒業後と遅かったのですが、初めて使った言語は JavaScript でした。Web 上で動く数式の IME をつくるために、Web ページの DOM を JavaScript でこねくり回すというような変なことをしていました。

HTML + JavaScript を使ったプログラミングは、書いたものがすぐに目の前のブラウザに反映されるのが楽しく、それまでプログラミングに全く興味がなかった自分も、すぐに好きになったのを覚えています。

最近はアプリ関連の仕事をすることが多かったですが、トータルでは、私は Web に使っていた時間の方が長いです。私は Web が死ぬと思っていますが、今でも Web は大好きです。

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