架空の英語風地名の作り方 Part 1

aoitaku
11 min readAug 21, 2019

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物語は登場人物がいて成立するので、登場人物の名前について考えたくなると思うのですが、これは一度忘れていただいて、まずは地名の作り方からやっていきたいと思います。

地名が作れると、同じ方法で姓を作ることができ、人名にも応用が効きます。地名は人名に比べるとルールが明確で、より手続き的に組み立てることができます。まずは地名で名前の作り方に慣れるところからやるのがオススメです。

英語でない言葉から英語ぽい言葉を作る

さっそく作っていきましょう。

ということで、できました。

  • ヨーカム(Yokham)

ありそうですね。
アーカムとかゴッサムとかそういう雰囲気があります。
ちなみに Google で検索してみるとアメリカ人の姓として存在するようです。すでにあるやつが作れたらそれは正解を引いたようなものなので自信を持ちましょう。被っていても気にしなくてよいです。
気にしたほうがいいケースもありますが、とりあえず置いておいて後でその話をしましょう。

3行で作って「ね、簡単でしょう?」とは言いません。ネタばらしをします。

Yok-Ham、これはもとは Yoko-Hama つまり、横浜です。Yoko と Hama から末尾の母音を脱落させて二音節にしました。日本語では子音と母音が交互にあらわれますが、英語では音節が子音で終わったりします。
なので、日本語の音の末尾から母音を削ぐと日本語じゃない言語ぽくなります。あとはこれを綴りにして英語ぽく発音をさせれば OK です。

え? 英語ぽい発音ってどうすればいいのって?

これを使いましょう。

スピーカーのアイコンをクリックすると発音が聞けます。
ヨーカムと言っていると思います。

適当な綴りを入れて読ませるとそれぽい発音で読んでくれます。これは本当にすごくて辞書に載ってないでたらめなつづりであっても、ある程度英語の発音規則に沿った発音で読み上げてくれます。

これが母音脱落法(今命名しました)です。とても楽しいのでいろいろやってみてください。
そんなにできる地名がないことに気付くと思います。

これが英語の地名ぽくなるのは -ham が英語の地名接尾辞だからです。なので、何も考えずに適当な日本の地名から母音を削いだところで、なんでもかんでも英語の地名ぽくなるわけではないです。

というわけで次のステップに行きましょう。

地名接辞を知る

英国の地名って言われてどれくらい思いつきますか?
カンタベリーとかソールズベリーみたいな「なんとかベリー」、ボストンとかパディントンみたいな 「なんとかトン」、こういうのが英国っぽい地名です。
この「なんとかベリー」の「ベリー」の部分だったり「なんとかトン」の「トン」の部分、これらは地名を構成する接尾辞になります。語の末尾に接続されるから接尾辞です。先頭に接続されれば接頭辞ですし、前後に語が接続される接中辞というのもあります。

上に書いた「なんとかベリー」は -bury で、「城壁に囲まれた場所」、転じて「街」を意味します。「なんとかトン」のほうは -ton です。これは town と同じ語源で、まさしく「町」のことです。

ヨーカムの例では -ham でした。この -ham は home と同語源です。「人が住むところ」を表します。トッテナムやノッティンガム、ダラムがこの -ham がつく地名です。

と、こんな感じで地名接辞の紹介をしはじめるとそれだけで記事が一本書けてしまいます。なので、一覧が載ってるページだけ紹介して後はさらっと流します。

これは英国とアイルランドの地名を構成する語彙のリストです。接辞以外も載ってます。接辞にも使うしそのまま独立した語としても使うやつとかもあります。

Meaning 欄に意味が書いてあります。単語レベルなので英語が読めなくても辞書引くなり機械翻訳するなりでがんばりましょう! がんばるとがんばったぶんだけ造語力がつくのでおすすめです。

なお uncertain って書いてるやつは uncertain っていう意味ではなくて語源不詳ということです。念の為。

さて、実際になにか作ってみましょう。
日本の地名には「なんとかウィッチ」になりそうなやつがあると思うのでこれで作ってみます。

  • ヨークウィッチ(Yokwich)

できました。

これは何を元にしたでしょう?
正解は三重県四日市市でした。滋賀県にかつて存在した八日市市かもしれないって? いやでも、もう消滅してしまったので……。

このように日本語の地名で英語の地名接辞に似た音があったら母音を脱落させつつ当該部分を英語の地名接辞に変形すると英語の地名っぽくなります。読み方がわからなければ Google 翻訳先生に読んでもらいましょう。

「なんとかトン」もやってみましょうか。

  • グウィストン(Guiston)

これは鶯谷です。
英語は「ウ」で始まることがわりと珍しかったりするのでそういうときはいっそ頭の母音を落とすというのも試すといいでしょう。
このあたりが感覚的によくわからなかったら Google 翻訳先生に試しにいろいろ読み上げてもらうのがいいと思います。
「なんとかたに」は、この「なんとかトン」に持っていきやすいので他の「なんとかたに」の地名でも試してみてください。

既存の語に接辞をつける

ここまで来て、ある程度の英語の語彙がわかる人は「え、だったら適当な英語の単語に接尾辞つけたら地名になるんじゃない?」ということに気付いたりするかもしれません。

正解なのでそれをやります。どうしてそれを先にやらなかったのかも、やってみたらわかると思います。

茨が茂るところに城を作った、という背景を用意して、ソーンベリ(Thornbury)という地名を作ります。
さあ Google Maps で検索してみましょう。

ありますね。だいたいそういうのはもうあります。
ただ、もうあるということはアプローチとして正しいです。

それでも、もし「もうある地名」を回避したいのなら、もう少し深みに入っていく必要があります。

Wiktionary という、百科事典としての Wikipedia に対して、辞書として作られたウィキプロジェクトがあります。これはその Wiktionary の thorn という語についてのページです。
English のところにいきなり Etymology というのが書いてあり、ここに thorn の語源が書いてあります。ゲルマン祖語の *þurnuz からということなので、これを見ます。
そうすると、Descendants のところに、thorn のページにはなかった中英語での他の綴りが書いてあったりしますね。 thurn, thern, thirn などとあります。

Thernbury を Google Maps で検索してみましょう。

「thornbury」の検索結果を表示しています。「thernbury」に一致する結果は見つかりませんでした。

勝ちました。

ちなみに茨の城というのは、ああ、ここまで書いたらわかりますね。茨城のことです。
発音はどうでしょう。

ソーンベリって言ってるようにも聞こえるし、サーンベリと言ってるようにも聞こえますが、よくわからんので好きなように音写すればいいと思います。どうせ存在しない地名だし。

もっと簡単にそれっぽい地名を作る

この語源を辿っていくやり方は強いので覚えてほしいのですが、これをいきなりやるのはなかなかむずかしいと思います。
もっと簡単に作りたい。

こういう地名を作りたいときはおそらくファンタジーの舞台に使いたかったりするときだと思うので、いっそ地名にあんまり使われなさそうな語を使っていきましょう。地獄とかいいんじゃないでしょうか。
日本には地獄谷や三途の川のような地名があったりしますが、「地獄の村」となるような地名はあまり聞いたことがない気がします。たとえば、ためしにヘルステッド(Hellstead)というのをやってみましょう。

ペンシルバニアのお化け屋敷が出てきました。なるほど、確かにそのような用途の施設名に使うのにはちょうどよい名前です。

うーん、Hell は安直でしたね。もうちょっと遠回しな表現をしましょう。ああ……、Dead とか Death とかも、もう誰かがなんらかの名前として使っているのが見えます、見えました。

というわけで、こうなってくるとかえってむずかしいことがわかると思います。簡単な方法っていうのは、つまり誰でも思いつくやり方なので、そこで誰も思いつかないやり方を掘っていくのは意外と困難です。

とはいえ、被ったからダメということも実際にはありません。
被っていても自分が使いたい領域で先行して利用している例がなければ気にしなくてよくなりますし、本当に誰でも思いつくようなありふれた名前は、いろんな人が使っているので、かえって「権利」のくびきから自由だったりします。

地獄とか死とかの広く知られた概念は安易なようなので、もうちょっと具象度をあげてみましょう。墓はよさそうです。とすると、墓の村ということで、トゥームステッド(Tombstead)というのはどうでしょう。なかなかいい語感ですし、悪くないと思います。さっと調べてみたところこの地名は存在しないようです。
なんらかの名前としてちらほら使われたりはしています。日本語圏では使用例が見当たりません。これくらいのなにかしら突出して使われている様子がない語というのは気軽に使えるところだと思います。
いまこの記事に書いてしまったのですが、この記事くらいの影響力なら無視してよいでしょう。どんどん使ってください。

さて、ここでもう一捻り、tombstead の頭にちょっと付け足して Octombstead としてみます。

Octombstead に一致する情報は見つかりませんでした。

Google 先生に勝ちました。大勝利です。ええと、Oc- ってなに、ですか? いえ、Oc- ではないです。よく見てください。Octo になっていますね。Octo は Octopus の Octo。Octo-tombs-stead を縮めて Octombstead です。

八つ墓村ですね。

ちなみに発音はオクトゥームステッドではなく、オクトゥムステッドみたいな感じになると思いますし、Google 翻訳神もおおよそそのように読み上げてくれます。オクタムステッドとしてもいいでしょう。いまのところ誰も使ってない言葉のようなので自由です。

手当り次第に組み合わせていけばそれなりにそんなに使われてはいないしそれでいて語呂がそれっぽい地名が作れたりします。このやり方の欠点は手当たり次第にやっていくしかないところではありますが、手がかりが少ないときにとりあえず試せるというのは長所でもあります。上の例にあるようにちょい足しすると一気に誰も使ってない語になったりします。

という感じでがんばってやっていきましょう。

まとめ

  • 日本語の地名から母音の数を減らして、Google 翻訳で英語での発音を聞いてそれらしいつづりに整えると英語っぽい地名が作れる
  • 英語の地名接辞をつけると英語の地名っぽくなる
  • 既存の単語に接辞をつけて地名をつくるとすでに存在する地名に行き当たりやすいので、単語の語源を掘ってみたり、複数の単語を組み合わせるなどを試してみるとよい

次回、地名の応用編をやります。

次回

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