昔は不法占拠もOKだった、オランダのスクワットについて

ATS
6 min readJun 5, 2016

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オランダでは、1960年代に都市部での住宅不足が問題となったことをきっかけに、使われていない建物を不法占拠すること(スクワット)が合法化されました。しかし、スクワット物件の数が増加していく中、住宅事情が改善したことや、スクワットされた建物の持ち主からの申し立てもあり、2010年に違法化されてしまいました。

違法化後は、スクワット物件に住んでいる人たちの立ち退きが段々と進んでおり、スクワット物件の数も減ってきています。ただ、中にはそこに住んでいた不法居住者や企業が、持ち主からスクワットされた物件を買い取り、レストランやライブスペースなど新たな施設に生まれ変わっているものもあります。

そもそも不法占拠(スクワット)が合法ってどういうこと?

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Amsterdam, Spuistraatのスクワット物件(写真:Amsterdo

1960年代に、戦争で破壊された建物の修復や立て直し思うように進まない一方で、仕事を求めて都市部の人口が増加する中、投機目的で購入された使われていない土地や建物を不法占拠するスクワットの動きが活発になりました。

その後1970・1980年代を通して、政治活動の意味合いも帯び始めたスクワットが流行し、スクワット物件の数はアムステルダム以外の都市も含めて、オランダ全土で増えていきました。その間に、強制立ち退きが行われたり、スクワットをする人(=スクワッター)と建物の持ち主間での揉め事を背景に法規制化が求められ、1994年に、スクワットが合法化されました。

2010年に法改正されるまでは、ある建物が1年間以上使われていなくて、かつその持ち主が建物をすぐに利用するような計画を提示できなければ、スクワッターがそのままそこに住んでOKということになっていたんです。

ただ一方で、不法侵入は違法だったので、スクワットをする人(=スクワッター)の中には、鍵を壊して入った後、不法侵入であることがバレないよう、鍵を修理したり新しい鍵の取り付けたりしていた人もいたようです。

スクワットの利用方法

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Amsterdam, Spuistraatのスクワット物件(写真:What’s up with Amsterdam

スクワット物件は、住居として使っている人もいましたが、そもそも元々使われていない建物なので、ライフラインは自前で準備する必要がありました。

ライフラインが準備できると、そのスペースの広さを利用して、飲食店やバーをスクワット物件内で開く人も登場しはじめました。そもそも、スクワットムーブメントのはじまりが、ヒッピー運動と時代を共にしているため、飲食店はビーガンメニューだったり、食事や飲み物が安く提供されていたようです。

De Peperは、スクワット時代からずっとビーガンレストランとして有名で、現在でも実際に食事をすることができます。火、木、金、日曜日にオープンしていて、メニューはおまかせのコースのみで、7〜10ユーロの間で満足度に応じて自分の決めた金額をお客さんが支払うシステム。

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De Peperの店内(写真:Vegan Amsterdam

働いている人は全てボランティアなので、テーブルサービスはなく、食事の準備ができたら、お客さんがカウンターまで自分の食事をとりにいくようになっています。

その他にも、ライブハウスやクラブがあったり、広いスペースを利用してワークショップが行われたりと、住居以外では文化的な活動を支えるような施設として利用されることが多かったようです。

姿を変えたスクワット物件

2010年の法改正後は、段々とスクワットの数も減ってきているのですが、その中でそもそも始めはスクワットだったけど、その後法律に沿った形でちゃんと場所を借りるようにして、合法ビジネスとして成り立っている元スクワット物件もあります。

OT301

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外観(写真:Bas van den Broeke

元々映画学校だった建物を、アーティストのスクワッターが占拠したのがOT301のはじまりでした。

スクワッターたちは、この建物をアーティストが一緒に生活しながら制作活動を行えるような新しいプラットフォームにしたいという思いから占拠し、アートや音楽、映画、ダンス、舞台、ワークショップなどで、「実験的」「新しい」「オルタナティブ」な作品を発表していきました。

現在でも、ライブスペースや、劇場、ワークショップスペースで様々なイベントが開催されていて、De PiperもOT301の中に入っています。

Poortgebouw

Poortgebouw

外観(写真:StraatKaart

元々ロッテルダム貿易連合のオフィスとして1879年に作られたのがこのPoortgebouw。持ち主が何度も変わった末に放置され、OT301のようにアーティストの手によって占拠されました。

ロッテルダム市役所との交渉の結果、1982年に安い賃料でスクワッターたちは合法的にPoortgebouwに滞在できるようになりました。

世界的に有名なアーティストや、音楽家、活動家などを輩出しており、現在もメインは住居として使われています。こちらもビーガンレストランが建物の中に入っています。

ソフトドラッグの合法化のように、「住居が足りなくて困ってるから、人に迷惑をかけないルールを設定すればよしにしよう」という社会の状況を反映した法改正というのは、ルールのあり方を考える上で参考になる考え方だと思います。

また、社会の強者(建物をもっている政府や富裕層など)に対して、弱者(アーティスト・路上生活者など)が反乱をおこしながら、自分たちの活動を広めていくという文脈から、当時の人のエネルギー溢れる姿や、文化的なものの社会における力というのを感じることが出来ます。

Originally published at Nail Your Inner Game.

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