【Pulse2019】参加レポート!カスタマーサクセス×プロダクトマネジメント最大カンファレンス

Ayumi Suzuki
15 min readMay 30, 2019

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先日、Gainsight社の主催するPulse 2019に参加してきました。

Pulseとは、カスタマーサクセスの世界最大級カンファレンスであり、2013年以降毎年ベイエリアにて開催されています。

Gainsight社は、カスタマーサクセスのプラットフォーム「Gainsight」を提供しており、Adobe, Box, DocuSign, HP, Marketoといった大企業にも数多く導入されています。日本企業では、SanSanがGainsightを導入しています。

その他、日本語では「青本」とも称される、Customer Success: How Innovative Companies Are Reducing Churn and Growing Recurring Revenue (English Edition) は業界でもカスタマーサクセスの教本として扱われていることで有名です。

Customer Success: How Innovative Companies Are Reducing Churn and Growing Recurring Revenue

カスタマーサクセスを巡る業界動向

本題に入る前に、カスタマーサクセスを巡る昨今の業界動向について補足しておきます。

言うまでもなく、米国のテクノロジー界では、「プロダクトマネージャー」が大きな権限を持ち、裁量を握っています。スタートアップに限らず、大企業においてもプロダクトマネージャーが重視されるケースは多く、「プロダクトマネージャー」は今、米国トップスクールMBAの学生の間でも最も人気のある職種の一つとなっています。

カスタマーサクセスという職種は人気職種の一つではあるものの、プロダクトマネージャーの人気には遥か及びません。

こうした傾向が続く中、最近ではカスタマーサクセスの業務内容にも変化が見られるようになっています。カスタマーサクセスとは元々、サブスクリプションモデルにおいてRecurring Revenueを継続させるためのデジタルマーケティング寄りの職種から発祥しています。

しかし近年では、カスタマーサクセスの求人要項にも、SQLやPythonを活用したデータ分析・プログラミングスキルが求められるケースが非常に増えてきています。要するに、プロダクトマネージャーとカスタマーサクセスの垣根が低くなっていると言えます。

カスタマーサクセス×プロダクトマネジメントの融合へ

こうした傾向を受け、Gainsight社は今年からプロダクトマネジメントに舵を切り、カスタマーサクセス+プロダクトマネジメントというブランディングへと方針転換を図っています。

具体的には、カスタマーサクセスがカスタマージャーニーにおける一部分を担う役割であることを踏まえた上で、プロダクト全体との関係性、プロダクトマネジメントとの融合といったトピックに焦点を置くように方針転換がなされています。

プロダクトマネジメント重視の方向性に舵を切ったのは、Pulseに限った話ではありません。Gainsight社の運営するポッドキャストでも、2019年4月からはプロダクトをテーマとしたチャンネルが開始されています。(これまでは、カスタマーサクセスをテーマとしたチャンネルのみ配信されていました。)

Gainsight社のポッドキャスト。2019年4月から、カスタマーサクセスに加え、プロダクトをテーマに扱うプログラムが開始されています。

Pulse 2019のセッションでは、プロダクトマネジメント寄りのコンテンツが多く用意されている点が今年のPulseの特徴でした。(詳細は後述します。)

また、こうした方針転換に伴い、今回のPulseでは新プロダクトのリリース発表も行われました。(詳細はこちらへ:Gainsight Unveils the Customer Cloud, the Future of Customer Success Technology)

従来Gainsight社のメインプロダクトであったGainsight CS (Customer Success)は、カスタマーサクセスソフトウェアとしてこれまでシェアを拡大してきました。

しかし、カスタマーサクセスあくまでも顧客のカスタマージャーニーにおける一部のプロセスであることを踏まえた上で、今後はプロダクトローンチからオプティマイゼーションに至るまで、プロダクト全体の統括にかかわるサービス提供を行っていこうという姿勢が伺えます。

Gainsight社の掲げるHuman Firstとは

Gainsight社は、以前から「Human First」をスローガンとして掲げています。このニュアンス、背景についても説明をしておきたいと思います。

SaaSプラットフォーム企業が主流となった米国テクノロジー界において、現在主なトピックはどの業界にも共通し、「データ活用」「パーソナライゼーション」「プライバシー問題」に終始されます。

要するに、プラットフォーム企業として膨大なデータを入手した後、適切なデータ活用ができるか?具体的には、顧客一人ひとりに対し、パーソナライズ化した情報・サービスの提供ができているか、またそれに伴うプライバシー問題について、適切な対策がなされているか?といった点が焦点になっています。Gainsight社も例外ではありません。

PulseのGeneral Sessionにおいても、Human Firstという概念が強調される一方、プライバシー問題についても言及されていました。

こうしたテクノロジー界全体の傾向に対し、Gainsight社は、「あくまでも顧客が第一であり、テクノロジーは二の次である」と主張しています。顧客が常に新しいテクノロジーに振り回されるような社会ではなく、あくまでも顧客視点でプロダクトを提供していく、という発想です。

Gainsight社は、現在の多くのソフトウェア企業は、顧客を一人のユーザーとして扱っていないと批判します。

そして Human-First Productsの概念を、以下の5つのプロセスから紹介しています。日本語の説明付で簡単に記載いたします。

1. GROWING

顧客も日々進化しており、変わり続けるものであると認識すること。顧客のニーズ・目的の変化に応じて提供するサービスも変化・進化させていくこと。

2. SPECIAL

一人ひとりのユーザーを単にデータ上の「ユニークユーザー」として捉えるのではなく、特別な顧客として扱うこと。

3. VULNERABLE

顧客をVULNERABLE(脆弱性のあるもの)として認識し、時にデータが乱用される可能性があることを踏まえ、プライバシー問題に備える必要性があること。

4. ENDS NOT MEANS

一度プロダクトを購入して貰ったらそこで終わり、というのではなく、顧客からのフィードバックを大切にすること。

5. AUTONOMOUS

プロダクトは顧客一人ひとりを、独立した個人として扱うこと。

Pulse2019: セッション紹介

今回は、プロダクトマネジメントをテーマとして扱うセッションとして、印象的であったものを幾つかご紹介します。

UserTesting社のCEO・Andy MacMillan氏による、Better Product Experience Through Empathy というセッションでは、企業の認識するCustomer-Centric (顧客中心主義) の度合と顧客の認識するそれには大きな差があることが解説されました。(この差について、Andy氏はEmpathy Gapと呼んでいます。以下の図をご参照ください。)

75%の企業が自社ではCustomer-Centricなサービス・製品を提供していると認識しているのに対し、顧客のうち30%しか認識していない、というものです。このギャップを埋めるべく、企業がどのような努力をするべきか、といった内容でした。

Product That Count の創業者・SC Moatti氏がスピーカーを努めるセッション・How to unlock new sources of business growth も印象的でした。プロダクト起点からリカーリング・レベニューの創出について解説されていました。

※Product That Countとは、プロダクトマネジメントにおいて米国内では誰もが知っているコミュニティです。米国各地に拠点があり、各地でイベント開催・コミュニティ運営を行っています。

Product That Count のSC Moatti氏のような、カスタマーサクセスとは一見畑違いとも思える分野の著名人が登壇している点は、Pulseでは今年からの新傾向であり、翌年以降も同様の傾向が続くと予想されます。

また、Slido社のセッション・Kill your Roadmap: The Path to Customer-Centric Product Innovationでは、プロダクト起点でカスタマーサクセスとエンジニアチームとの協業について解説されていた点が印象的でした。

参加者からの質問内容も、カスタマーサクセスとエンジニアの協業は?カスタマーサクセスはプロダクトチームにどのように働きかけるべきか?といった、実務に即したものが多かったことが特徴です。

実際、プロダクトマネジメントをテーマに扱うセッションでは、参加者のうち、おおよそ半数はプロダクトマネジメント担当者でした。

カスタマーサクセスという職種そのものの専門性以上に、異なるロール間の連携やプロダクトチームとのコミュニケーションといった側面が、カスタマーサクセスという業務において重要性が増していることが強調されていました。

プラットフォームとしてのGainsight社の戦略

もう一点、今年からGainsight社の方針転換として挙げられることの一つに、プラットフォーム事業が挙げられます。

Gainsight社は先日、Pulse 2019開催中にPulse+というプラットフォーム事業の開始について発表を行いました。Pulse+は、カスタマーサクセスの実務担当者を対象とした、ラーニングリソースを提供するプラットフォームです。

月額75ドルでGainsight社の提供するコンテンツを無制限に視聴できるシステムになっており、2019年5月のリリース時点で、既に数十本のビデオコンテンツが提供されています。その内容は過去のイベントの人気セッションのほか、カスタマーサクセスに関する基礎知識、Gainsight社の提供するカスタマーサクセス関連のCertification(認定資格)に関するものなど、様々です。

Gainsight社では、かねがねラーニングリソースの提供に努めています。

Pulse 2019においても、本セッションの前日にPulse Academyというラーニングセッションを設けていることが特徴で、一日かけてカスタマーサクセスに関する実務的なセッションが開催されました。このPulse Academyと本番であるPulseカンファレンスとの違いは、より実務に即した内容が提供されているかどうかという点です。

Pulse Academyでは、より実務に即したスコアリングの活用方法および評価基準の作成方法、あるいはカスタマーサクセス担当者が実務で活用することのできるフレームワークなどを中心に学ぶことができます。

良い歳した大人が、じゃんけん大会で盛り上がっている様子。

そして、このPulse Academy参加者には、半年分のプラットフォーム利用料が無料になる特典が付与されます。

Pulse+がオンラインに特化したラーニングリソースであるのに対し、オフラインのPulse Academyでは、グループワークで参加者同士が親交を深める機会も用意されており、ユーザーの活性化を促進するよう工夫がなされています。

堅苦しい「勉強会」のようなセッションと想像していたのですが、グループディスカッションの機会が複数設けられていたり、じゃんけん大会でスタバカードを授与される機会があったりと、参加者同士のネットワーキング機会にもつながるよう配慮されていました。

ちなみにPulse Academyの参加者は、カスタマーサクセス分野での経験の長い参加者が多く、年代も30代後半~40代が中心となっており、グループディスカッションでは非常に濃い議論が出来た点が印象的でした。

こうしたオンライン・オフライン両方におけるラーニングリソースの提供および、ユーザー同士のネットワーキングの機会提供等から、Gainsight社がプラットフォーム事業の一環としてコミュニティ育成・活性化を図っている姿勢が伺えるイベントでした。

実は、このような「プラットフォーム事業」は、Gainsight社に限った方針転換ではなく、米国テクノロジー界においては、あらゆる業界において見られる傾向です。

たとえば、2017年にMailChimp社が従来のメール配信事業から、プラットフォームビジネスへと方向転換をし、大きな成功を収めていることは有名な話です。MailChimp社では、メール配信特化型のツールから、マーケティングオートメーションやCRM機能を備えたへと事業転換をし、現在ではプラットフォームとして数多くのラーニングリソースも提供しています。

プラットフォームとして豊富な機能・コンテンツを提供することにより、ユーザーの顧客ロイヤリティを高め、スイッチングコストを高める戦略は、多くのSaaS企業がめざす戦略の一つです。Gainsight社の戦略として、プラットフォーム内でのコミュニティ育成が重視されていることを垣間見ることのできたイベントでした。

Diversity & Inclusionの強調

Diversity & Inclusion が大きく取り上げられていた点も、今年のPulseの特徴でした。カンファレンス全体に占めるスピーカーの男女比率が50:50であることを、CEOのNick Menta氏も強調しています。

特に印象的だったのは、ジャーナリストEmily Chang氏による講演でした。

彼女の著書 Brotopia: Breaking Up the Boys’ Club of Silicon Valley が、今回のPulse参加者全員に配布されました。シリコンバレーにおけるジェンダー格差がいかにして起こり得るか、様々な角度から分析されています。

Brotopia: Breaking Up the Boys’ Club of Silicon Valley

Broropiaでは、シリコンバレーでの勤務形態は激務であるという先入観から敬遠してしまい、シリコンバレーに飛び込む女性が少ないことや、エンジニアが長時間労働であるというイメージから、コンピューターサイエンスの専攻を選ぶ女性が減少していたことなど。更には、VC視点で女性創業者の場合、なぜ資金調達に不利に働くのか?といった分析が様々な角度からなされています。

講演では、カスタマーサクセス分野における女性の活躍について、グローバル平均でカスタマーサクセス担当者の49%が女性であることや、LinkedInなどの大企業が、女性登用のために工夫している点などを解説されていました。

なお、Gainsight社COOのAllison Pickens氏は、SaaS分野で活躍する女性リーダーとして、The SaaS Report’s Top Women Leaders in SaaS of 2018 にて表彰されています。会社としてDiversity & Inclusionを大々的にアピールすることで、メディアでの掲載など、PR効果を狙う戦略なのかもしれません。

もう少し、Pulseでの具体的なセッション内容についてご紹介したいところですが、次回別記事にて改めてまとめたいと思います。

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Ayumi Suzuki

Localization Specialist for Japan | Founder & CEO at Digital Havas, Inc | Cornell Tech MBA