積年の着信と家電状況

留守番電話に「New message」の文字が見え、ディスプレイがオレンジ色に点滅している。メッセージが残っていることの方が少ない。「着信あり」という意味に過ぎず、大方は昼間に掛かって来る、即切りされた電話セールスであろう。という経験則に基づきこの数日、点滅させっ放しにしているのでもはや「New」ではない。いつから点滅していたのかも今となっては曖昧だ。

そもそも、このご時世かつ私の生活パターンを知っていれば、よしんば自宅に掛けたとしても、不在なのが分かって尚且つ緊要案件なら携帯に掛け直すだろう。日本に較べて携帯電話番号の秘匿性が低い此国に於いて、そこまでしない時点で内容は推して知るべしだ。

…と、点滅する小さなオレンジの窓を見ながら書いていて突如「意味ねーじゃん」感が過ったので点滅を消灯させにかかる。封筒のアイコンを押すと発信者の番号が分かる仕組みだが、やはり大方は「Withhold」つまり非通知で伝言もない。今回もそれだった。分かっちゃいるが軽く虚しい。ついでだから「Old voicemail」を見てみたら16件も残っていた。都度消去してないのは、消し方が分からないからだ。私はメカに強い系なのでこの事態は実は忸怩たるものがある。のに放置しているのは、この電話機(Siemens製)のメニュー構造が私にアンフレンドリーなためだった、のを思い出した。

この際だから16件を聞き直して、アンフレンドリーなこいつにとことん付き合って全部消去しちゃる、という勢いが珍しく今日はあった。初っ端が10月18日、だという。着信時をスタンプする機械音声は日時だけで年を言わないから去年以前のいつだったか分からない。しかも仕事の依頼、しかも緊要、しかも公共団体からの、しかも立て続けに2度も掛け直して来ており、だった。携帯には掛かって来なかった案件だ。去年の10月ではないのは、その次のメッセージが11月で、大家のご婦人がドア修理人をいつ手配しましょう、というものだったことから分かる。去年の11月には、彼女は入院してしまっていてもう直接話は出来ない。ドア修理…は、確かに一昨年以上(!)前だったような。聞いた筈なのに忘れてしまっていた着信の堆積。

その仕事の依頼元は、その後私の携帯には遂に掛けて来なかった。機会喪失、ではあったんだろう。メッセージは依頼元の携帯電話番号を口頭で残していたが、タイミングを逸した公共団体の案件の場合、担当者は結構コロコロと替わるので連絡先を控えても実はあんまり意味が無い。という経験則も得ていたのでメモらずに消去してしまった。

そう。消去出来たんである。16件聞き終わったら何かメニューが出て来るのかと思ったがさにあらず、「メッセージの設定」という、一段上の分岐に戻ってから降りて来なければならなかった。

16件のうち7件は、FAX送信のピーガラガラ音だった。朝5時とか、とんでもない時間に掛かって来ていたヤツだ。発信元が確かシンガポールとかどこかで、時差の関係もあろうがこちとら入金通知なんだから有難く受け取りやがれ、とか絶対思ってるよなこいつら?と立腹しつつ善処しようもなく結局起き出していたのも思い出した。

きょうびFAXのやり取りは、ほぼこの発注元1件のみ。受領するこちら側は実は感熱ロール紙だったりするし、消音の仕方も分からない。実は20世紀製造のPhilips製だ。プリンタ複合機で普通紙FAX対応を何度か試みたがどうにもうまく行かず、留守電メッセージのピーガラ音に辟易して引っ張り出して来たんだった。

日本の家電状況を鑑みれば、拙宅の環境は恐竜時代のように見えなくもない。これで何とかなってるんだものな。「何とかなる」は、日本語でいちばん好きな表現で、しかも翻訳するのがすごく難しいんですー!と言っていたブルガリア人の元同僚のことを不意に思い出した。

そして16件を消去して録音可能時間は8分のフルに戻り、積年の便秘が開通したような(もっと軽いけど)気持ちを覚えた。オレンジ色の点滅が消えた小さなディスプレイは、その部分が凹んでいるように見える。