風薫る五月、と言うのだったな。「かぜか」まで入力したらGoogleの日本語変換がこの五文字を出して来た。入力してる人がたくさん居る、ということなんだろう。薫の音読みは「クン」で、「くんくんする」という擬態語というかオノマトペというかは、恐らく一直線上にあるのではないかな。

換気していると猫が、窓の手前で正座して鼻を高く上げ、目を細めてくんくんする。これを見るのが大好きだ。あまりに好きなので自分でも真似する。犬もやるけど犬はくんくん自体が遥かに常態化していることもあり、要するに角度の違いだけというか、またその角度を高く保った状態が猫ほどは続かないので、全体としての印象が弱い。鼻先角度高く空中にくんくん、という動作で言えばハムスターとかリスとかの齧歯目類くんたちの方が萌え度で勝るが、彼らの場合はあくまでもその先にごはんが想定されている点を差し引く必要が生じる。目がキラキラぱちぱち、という表情そのものは萌え要素であるものの、目を細めて風そのものを賞翫している風に見える猫の佇まいには及ばない。これこそ風を感じている風情だ。という文脈で私の頭の中では浜田省吾が鳴り出す。あれはしかし、オートバイのライダーくんたちの歌であって、たとえ脳内とはいえ猫の横顔のBGMに引用されるたあハマショーもあんま予想しなかったんじゃあるめえか。という考えに引っ張られる頃には脳内はイージューライダーへ移行しており、「ぼくらはーじーゆーうをー」と、つい不用意な大音声で唱和してしまって気が付くと猫は既に窓の前から姿を消して食後睡に入っていた。

先週末あたりから天気予報はずっと悲観的だった。気温は12℃前後の雨模様の荒天、もしかしたら雹もあり得るのでそのつもりでね、と。その前の週末が確か今年初の25℃超えで晴れて「わーい夏だ!」と喜んだ人が多かったので哀しさもひとしお、お天気おとうさんの話しぶりも慰めのトーンを含んでいた。

それがどうだろう。実際には「降る降る詐欺」というか、そこまでの荒天には見舞われないまま今週も後半を迎えた。此国の天気予報がこっちに外れることは大変珍しい。確かに気温は低い。今朝なんか8℃である。しかし晴れている。って放射冷却現象か?冬型の気圧配置なの?

いやいや、大気の状態は不安定なんですよ、とお天気おとうさんがラジオで言っている。ちなみに昨日も書いたがテレビでは午前中(9時頃まで)は天気予報でさえ昨夜23時過ぎ放映分の再放送が続く一方、ラジオには生出演で今日のお天気話をパーソナリティと交わすのである。天気図や気温グラフが表示出来ない代わりに、傘とかセーター要りますかねとか空気の汚れ具合とか今日やっとく庭の手入れならとか、所謂まっすぐな世間話を割と本格的に。埋草っぽくなくて好きだ。そもそも此国の人らはラジオがかなり好きなので、だからテレビのインフラが整わなかったんだという説をずいぶん前に聞いたが未検証であったな。

昨日は学校のある街まで出かけた。Appやら市中の薬局の看板やらに表示されている気温より体感温度は高めで、一点俄にかき曇るのに降り出しはせず、風は吹いていても蒸す感じが去らず、西の空は明るいのに上空は蓋をしたような雲、という、降らなかったから良いようなもののこれが続くと変に体調崩しそうな天気ではあった。

その、蒸す感じを温存する風は、とっぷりと湿った春先の雨の匂いがしていた。うわ、降るのかな、と思いながら風を嗅ぐ例の猫の顔をやっていると、視界の遠くを燕が過った。もうそんな時期なのか!

確かにこの湿った風なら、空気中に餌になる虫が飛んでいそうな感じだと思った。ちなみに此国でも隣国でも「燕が低く飛んだら雨が降る」という言い回しは存在する。が、「低く」というのが、地上3階分ぐらいの高さだったりする。全然低くないじゃんどっちかっつーと高いんじゃん?と此国人の友人に絡んだところ、燕は本来なら雲雀並に高いところを飛ぶし、地上3階ぐらいなら町家の軒先としては平均的でしょ、と返された。えーだってだって日本だと燕はほんとに地面すれすれを飛んでくんだよ、低いってならそれぐらいじゃないと、と食い下がると、じゃあ多分種類が違うんじゃね?ここいらのはアフリカとかから来てる筈だし、さすがにそれは日本に居ない種類でしょう、と。

そう言えばここいらの燕はでかい。鳴き声も、燕よりは百舌鳥に近くて攻撃的かつ凶暴な破壊力を覗わせる。その「低い」ところの地上3階ぐらいの高さで飛び回っている姿は競技用ブーメランのようにも見え、あれが仮に、あの鳴き声と共に地面すれすれを飛んだりしたら怖さが先に来るだろう。もしかしたら実際、かつてはやはり地面すれすれの低さでブイブイ言わしてたのが、中世都市生活民の恐怖と怒りを買って駆逐されてしまったのかも知れない。地上3階というのがここいらの燕と人々との妥協点ということか。

日本の燕は可愛かったんだよなあ。今年も来てくれてありがとう!という気持ちになったものである。やっぱり別種なんだろうかな。今度ちゃんと調べてみよう。

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