シアーズの従来のマーケテイング手法では、1400万〜1800万人を対象に、年18回のダイレクトメールと、実に年間で2.5億冊のカタログが送付されていた。これらのカタログが生み出す売上高の押し上げ効果は、約9億ドルであった。キャンペーンのターゲット選定は、RFM分析(訳注:最新購買日、購買頻度、累計購買金額から顧客の優先順位付けを行う伝統的なターゲテイング手法。RはRecency、FはFrequenc7y、MはMonetary Value)に基づいて、上位40%の世帯に絞り込まれていた。また、簡易的な地域区分も行われ、たとえば気候・気温が大きく異なる南部のフロリダ州の住人と中西部のシカゴの住人とでは、別のダイレクトメールを送付していた。しかし、中西部の住人は全員が同じカタログを手にしたし、南部も同様だ。このカタログが売上に大きく貢献していたのは疑いようがないが、マーケティング活動としての1又益性はどうだったのだろうか。カタログの印刷および送付にざっくり単価1ドルがかかると見積もっても、このマーケテイング活動には年間2.5億ドルのコストがかかる。もたらされる売上増分が9億ドルなら、得られる売上高に対するダイレクトメールのコストの比率は25%程度となる。しかし、ご承知の通リウォルマートとの競争にさらされている米国小売業の粗利は非常に薄く、率にして10%かそれ以下だ。つまり、この計算でいくとシアーズのカタログ・マーケティングは売上高を大幅に押し上げながらも、年間で約1億ドルもの赤字を生み出していたことになる!マーケティング部門の幹部たちは、いつも通りのマーケティング活動を行うことが、シアーズの船底に穴を開けているようなものであることに気づいた。解決策は、市場のセグメンテーションを行い、ダイレクトメール・マーケティングのターゲットを絞り込むことだった。もちろん、市場セグメンテーションは古くからある考え方だ。しかし、データが限られ、コンピュータの処理能力も低かった20年以上前には非常に難しい手法であり、多くの場合「高。中・低」の3セグメントに分けるぐらいのことしかできないのが現実だった(注3)。しかし、データウェアハウス技術の進化によって、今日ではデータマイニングに基づくはるかにきめ細かいセグメンテーションが可能となった(詳しくは第9章を参照)。この事例で、シアーズはエンタープライズ・データウェアハウス(EDW)とデータ分析を駆使し、数多くの変数、属性、そして購買特性に基づいたターゲット顧客を25のセグメントに分けた。その上で、それぞれのセグメントに向けて掲載商品やカテゴリーを選定し、カスタマイズしたダイレクトメールを用意した。さらに、UM分析での上位40%以下の顧客には送らないという画一的なルールを廃止し、これまでの購買行動では下位に位置づけられる顧客でも、ポテンシャルが大きくさらに高価な商品を買ってくれそうな顧客にはダイレクトメールを送れるようにした。このような変更・施策は目覚ましい成果をもたらした。ターゲティングとキャンペーン管理の改善によって、ダイレクトメールによる売上は年間2億1500万ドルも増えたのだ。すなわち、シアーズはそのマーケティング活動からの売上を9億ドルから11億ドルヘと増やしたということだ。この成果も素晴らしいが、私がこの事例を気に入っているのは、パフォーマンス改善の内訳が詳細に測定・把握されていることだ。ダイレクトメールを受け取った人の来店率は1ポイント改善、来店あたりの平均購買金額は5ポイント増加、さらに顧客に合った商品を勧めた結果、値引きに頼らずに販売することが可能になり、結果として粗利率も2ポイント改善された。つまり、より多くのダイレクトメール受信者が来店し、来店時にはより多くの商品を購入したということだ。さらに素晴らしいことに、粗利率の大幅改善までもたらされた。これは私が「そう、まさにこれが必要だったんだ!」効果と呼んでいるものだ。顧客が欲しい物を欲しい時に提示してあげることができれば、顧客が購入する確率は飛躍的に高まり、しかも値引きの必要もないのだ(第9章参照)。この事例における改善幅は数ポイントに過ぎないが、顧客数が大きく、またもともとの利幅が薄いため、もたらされる影響は決して小さくない。粗利率の2ポイント改善がシアーズ社の業績にもたらすインパクトは非常に大きい。最終的な分析結果によると、カタログのターゲテイング改善プロジェクトだけで正味現在価値(NPV)は4000万ドル以上であった。紙のダイレクトメール・キャンペーンのマーケテイング投資収益率(ROMI)としては、驚異的な水準だ。(データ・ドリブン・マーケティング)
「究極のレースで過ごす週末」と題された賞品は、個室の特別観覧席でレースを観戦でき、ジェフ・ゴードン選手本人に会えるというものであった。この賞品は、デュポン製品の販売金額で全米上位24位までの小売店、デュポン製品の購買金額で全米上位24位までの工務店、そして小売店開拓数で全米上位24位までの専門卸に贈られた。キャンペーンの成果は目覚ましいものだった。438の小売店がキヤンペー. ンに参加し(202の新規取扱店と236の既存店)、出荷数量ベースで測ったキヤ. ンペーン期間中のタイベック販売は、186%の増加を記録した。データ。ド. リブン・マーケテイングの観点で最も重要な点は、デュポンがきちんと成果をトラッキングしていたことだ。キャンペーン前後の売上高が比較され、高. い投資収益率(ROMI)がもたらされた。
2008年のポルシェ社ターボ・カブリオレの新モデル発1売時のキャンペーンは、これと似た事例だ。新モデル発表のタイミングで、既存のターボ・カプリオレのオーナーのもとに亥1印付きの未塗装のメタルプレートが送付された。ダイレクトメールには、各人に固有のウェブサイトヘのログインIDが記載されており、「最新のポルシェ911ターボ・カブリオレが、あなたのお好きな色で仕上げられるのをお待ちしています」とアクセスを誘引した。実際にサイトにアクセスすると、ユーザーは色を選んで自分好みのターボ・カブリオレのポスターをオーダーすることができた。このウェブサイトを活用したキャンペーン設計により、詳細なトラッキングが可能となった。サイトは2700件のユニーク。ログインを獲得、各セッションの平均滞在時間は15分にも及び、オーダーされたポスターの数は5670件にのぼった。また、キヤンペーンはロコミ効果も大きく、「友人にも案内を送る」機能は500回近く使われた(重要指標⑮の回コミ増幅係数[WOM]については第7章を参照)。キャンペーン全体の反応率は30%で、同期間のターボ・カブリオレ購入者のうち、このダイレクトメールを受け取った人の割合は38%にのぼった。約13万ドルという高額な商品特性と、忙しい企業の重役や弁護士、医師といった顧客のデモグラフイック属性を考慮すると、この反応率やサイト滞在時間は驚異的な数字だ。しかし、このダイレクトメール事例で特筆すべきなのは、効果測定を前提とした全体設計と、受け手の反応をトラッキングし、潜在見込み顧客の特定・抽出を実現する11手なウェブサイトの組み込み方だ。
