米ウォールグリーンの主なマーケテイング手法は、新聞折込チラシだ。折込チラシの出稿単位は郵便番号単位で、図表2.1上では、点線が郵便番号の境界線を示している。ウォルグリーンズのマーケテイング担当、マイク・フェルドナーは、この地図を作成しながら、興味深い事実に気づいた。地図上の円は、半径2マイル(訳注:3 2km)の範囲を示しており、米国各地の地図上に同様の円を描いて見てみると、2マイル以上離れた点(世帯)を顧客に持つ店舗は存在しないというのが、彼の発見だった。彼の結論は、米国における一般論として、特定のドラッグストアから2マイル以上離れた場所に住んでいれば、住人がその店舗を利用することはまずない、ということだ。当時、ウォルグリーンズは、すべての地域を平等に扱っていた。つまり、新聞広告予算を米国中の各郵便番号エリアに均等に割り振っていたのだ。しかし、データが示すのは、当該郵便番号エリアから2マイル圏内に店舗がない場合には、エリア内の住人はウォルグリーンズを利用しないということだ。これらの分析結果を根拠として、ウォルグリーンズは、2マイル圏内に店舗が存在しない郵便番号エリアについては折込チラシの出稿をすべて中止した。想像に難くないことだが、この決定によって、同社の売上高はまったく影響を受けなかった。一方、出稿減によって、年間約500万ドルもの費用削減効果がもたらされた。この取り組みにかかった費用は、データ収集と地図作成合わせて、約20万ドルに過ぎなかった。(データ・ドリブン・マーケティング)
多くのお金をかけることもなく、また普通のパソコンを使った分析によって、この100万ドル単位の費用削減が実現された。ウォルグリーンズでは、以前から地図やグラフ作成にESRIというソフトウェア(熙、ESRI.com訳注:日本語サイトはmttCSRIJ com)を使用して、店舗情報を管理していた。フェルドナーの革新的な取り組みは、そこに新聞折込チラシ出稿情報を組み合わせたことだ。フェルドナーは以下のように振り返る。「最初にやったのは、エクセルのスプレッドシートに、郵便番号ごとの広告出稿エリア情報を並べることでした。店舗や世帯情報を地図上に表示するソフトウェアに、この広告出稿情報を追加することは難しくなく、すべて自分のパソコン上で作業することができました」。難しかったのは、データ・ドリブン・マーケテイングによる発見を活用できるように、社内プロセスを変革することだった。「分析結果に基づくマーケテイング・プロセスの変更を進める際に、背景や考え方についての他部署への説明が不十分であったと反省しています」とフェルドナーは振り返る。その結果、店舗オペレーション部門は広告出稿方法の変更に対して強く反発し、数週間後には、元のマーケテイング手法に戻す決定がなされてしまったのだ。フェルドナーは言う。「こういうことは、小さく始める必要があるということに気づかされました。そこで、店舗オペレーション部門幹部と地域マネジャーのそれぞれの中に、新しい取り組みを試すことに賛同してくれる仲間を見つけるところからやり直しました。改革を一緒に推進していた広告宣伝部門の同僚と一緒に、彼らに会いに行った時のことをよく覚えています。私たちは、画像を提示し、店舗から5マイル離れた郵便番号エリアヘの出稿に8万ドルの広告費をかけて、どう高く見積もっても2万ドル程度の売上増分効果しか得られないことが、いかに非合理的であるかを説明しました。交渉の末、5つの地域でテストケースとして取り組ませてもらいました。その結果、合計で30万ドルの広告費用を削減し、この手法がいかに効果的であるかを示すことができました」
最初の成功を皮切りに、マーケティング担当者は様々な郵便番号エリアで、新聞チラシに関する実験を行っていった。特定の郵便番号エリアをコントロール・グループとして扱い、実験前後の店舗売上の推移を観測することにより、フェルドナーは新聞折込チラシを最適化することができた。新聞折込チラシは、何百年もの歴史を持つ非常に伝統的なマーケティング手法だ。しかしながら、この事例のように、新しい技術(位置情報データ)との組み合わせによって、古い手法のマーケティング効果を劇的に改善することができるのだ。(データ・ドリブン・マーケティング)
