米国でのお金に関するリソース (4)

番外編: 米国で生きる上で必要な金融リテラシーを得るための入門書

Keiichiro Ono
Jul 4 · 22 min read

(今回は、以前断片的に書いたままで公開していなかった、個人的に参考になった米国在住者向けの本の紹介記事に加筆・修正したものです)

はじめに

米国在住者は、引退に関して専門家に相談すると「引退後に一気に生活レベルを落としたくないなら、公的年金(ソーシャルセキュリティ)に加えて、夫婦二人でxミリオンのお金を自分で用意してください」と言ったアドバイスを受けると思います。これはアメリカの医療や介護に非常にお金がかかることに由来するので頭の痛い問題ですが、我々移民は自ら選んで米国に住んでいる以上、そういうものだと納得するほかありません。ですから、近頃日本のメディアを騒がせている「二千万円云々」と言うニュースを聞いている在米邦人の方は「日本は物価も安いし、医療費はアメリカに比べればタダみたいだし、ひょっとして日本に移住すれば随分楽な引退生活が待っているんじゃないか?」と安易な考えを持ってしまいがちです。でも本当にそうでしょうか?どう考えても年金どころの話ではない、持続性に大変大きな疑問のある、でたらめに安い医療制度がどこまで持つのかがわからない以上、常にワーストケースシナリオを念頭に、米国でもなんとかリタイアできるくらいの目標で生きた方が良さそうです。実際にリタイアが近くなって、両国どちらでも選べるような選択肢があるならば、それはそれで幸運だと思うことにして、その時考えることにしましょう。

そんな日本のニュースを読んでいると、その話題に関して明らかな誤解に基づく批判も目にします。この話題に関する歯切れの悪い政治家の答弁を聞いていると、その資質には大きな疑問符がつきますが、そもそも所得代替率100%を謳っているわけではない公的年金制度では、自助と公助を組み合わせて老後を生きるのは普通です¹。そして米国に住む我々にとって、ベースとなる公的年金のソーシャルセキュリティーのステートメントには、扉のページに将来的な所得代替率が4割を切る可能性が警告してあると同時に、快適に老後を過ごすには、あらゆる手法を使って自助努力をしなさいと言ったことが書かれています²。

私は今でこそ「年金のみで暮らせないのはおかしい。お金返してください」といった議論のどこに問題があるのかを、ある程度は認識できるようになりましたが、渡米前は「年金など納めても将来もらえない」「投資はギャンブル」「借金は全て悪」「掛け捨ての保険はもったいない」「積立するなら保険商品」「元本保証なら安心」などという、今思えば噴飯ものの金融リテラシーの低さでした。幸い、渡米後は投資が日常生活に組み込まれているような人々とも出会えたため、なぜ米国では全てを現金で持つことが損なのか、なぜ401kやIRAを全力で活用することが大事なのか、なぜ年齢に応じて取るリスクをコントロールしなければならないのか、人的資本と金融資本に対する投資を、人生のどの時点でどのようにバランスを取るべきなのか、そしてそもそもなぜ金融は文明が発展する上で大切なのか(そして、誰がそのために使われるべきシステムで、光の速さが問題になるようなレベルで不毛な計算機での殴り合いをしているのか)などを、自らの失敗も含めた経験と、今まで読んだ書籍などを通じてある程度学べました。

なぜ一般人が金融リテラシーの本を読むのか

日米ともに、IRAや401kなどといった優遇税制が適用される各種口座を活用する場合、現在は本当に多様な金融商品があります。しかし実際のところ、考えるのがめんどくさいならば、全てをターゲットデートファンドと言う「ブラックボックス(ただし、実際は詳細な内訳が公開されているので、本当の意味でのブラックボックスではない)」に放り込んで忘れる、と言ったことも可能です。しかし中には、ある程度仕組みが理解できないと不安だと思う人もいるはずですし、そのブラックボックスを、知的好奇心から開けてみたいと思う人もいるはずです。以下は、そう言った好奇心のある人向けの本です。どちらも私のような金融と全く関係ない素人向けの本ですが、よくある「この銘柄を買っておけば安心」と言った本とは対極に位置するタイプですので、米国に住む人々が知るべき、投資の根底に流れる考え方を出来るだけ基礎から理解したいと考える人向けです。

もちろん、巨額の収入をコンスタントに得られる人は、こんなことは全て忘れて生きることも可能です(米国で働く一部の専門家や技術者には、実際にそういう方もいます)。残念ながら私はそうではないため、似たような境遇の在米邦人の方々と知識が共有できればと思い紹介します。私も随分と本や無料のオンラインリソースには助けられました。残念ながらどんどん小さくなっている米国の日本人社会ですが、役に立つ知識は助け合いのつもりで共有していきましょう。

1: 参考「諸外国の年金制度の動向について」 (厚生労働省年金局 2018年7月30日)
2: 実際には以下のように書かれています

Social Security benefits are not intended to be your only source of income when you retire. On average, Social Security will replace about 40 percent of your annual pre-retirement earnings. You will need other savings, investments, pensions, or retirement accounts to make sure you have enough money to live comfortably when you retire.

日本語で読める書籍

米国で暮らす邦人の中には、私のように、最終的にどこで最期を迎えるべきなのかという大きな問題について、まだ心が揺れ動いている人は多いと思います。そう言った人は、アメリカの金融関係の事情を知るのはもちろん、日本の制度も一定程度理解しておく必要があります。驚くべきことに、アメリカで生活している人向けのパーソナル・ファイナンス関連の書籍の一部が、日本の事情を加味した上で加筆され、邦訳書籍として出版されています(電子書籍もあります)。こんなニッチな訳本が売れるのだろうかと心配になりますが、母国語でこう言ったものをダラダラと読めるのはありがたいことです。以下、私は英語版と日本語版の両方を持っているものもありますが、翻訳がおかしいということもなく、日本語版は日本の事情の説明まであるので、どちらもお薦めできます。

パーソナル・ファイナンス全般の基礎知識

ジョン・ケイ著「世界最強のエコノミストが教える お金を増やす一番知的なやり方――賢明なる投資家のためのパーソナル・ファイナンス読本」2018年 ダイアモンド社

この本は、恐らくマーケティング的な理由で、若干軽薄な邦題になっているため損をしていると思いますが、アカデミックなバックグラウンドを持つ専門家が、一般向けに噛み砕いてパーソナルファイナンス関連知識の根底に流れる、各種経済理論や考え方を丁寧に説明しています(原題はThe long and the short of it、すなわち「要するに」という意味の、一見何の本かわからないものですから、邦題は仕方がない面もありますが)。この本に書かれていることは多岐に渡ります。確率論的な考えが必要なところでは、ご丁寧に、基礎的な確率の知識から説明してあります。しかし、最終的なテーマは極めてシンプルで、それは、一定の知的好奇心を持つ人ならば、米国で生きていく上での必要最低限の金融リテラシーを身につけることはそれほど難しくない、というものです。

この本の導入部分では、「基本的に投機では儲けることは難しい」という夢のないことが書かれています。株式のチャート分析はオカルトだとも言い切っています。これを読むと、ある程度個別株式の売買経験がある人にはなんとなく同意できる点が多いのではないでしょうか?少し長くなりますが、自分の経験と照らし合わせてみます。

技術オタクは未来を見通せるのか?

私は、Mac SEの頃からの熱心なApple製品ユーザーでした。ジョブス氏の追放劇や、製品ラインナップの拡散やOS移行の失敗、Beの勃興、互換機導入などの混迷の時期も、ずっと一コンピュータオタクとしてその動きを傍観していました。そして渡米後、初代iMacやiPodなどが出始めた頃にそれらの商品を実際に使ってみて、その家電にも通じるコンセプトの将来性に魅せられて、思い切ってアップル社の株式を買ってみました。その後も事あるごとに、例えば、iPodのWindows端末サポートなどのニュースに触れるたびに少しずつ買い増ししていました。iPhoneが発表された時も、初代PalmやHP200LX、Treo 300などと言った端末を長年使っていたガジェットオタクでもあった自分は、近所のアップルストアで現物を触ってそのUIの革新性に感動し、その端末をどうしても欲しいという気持ちをグッと抑えて、初代iPhoneを買う代わりにそのお金をApple株に回しました。あの頃はすでに、ちゃんとパッシブな金融商品を積み立てなければならないと頭ではわかっていたのに、ほとんどの資金(まだ若かったので大した金額ではありませんが)をアップル一社に投じていました。まともに貯金もせずに、です(バカですね)。

その後アップル社がどうなったかは皆さんもご存知の通りです。しかしこれは私がテクノロジーの世界を注意深く見守り、その未来を読めたからなのでしょうか?結論から言えばそれは間違いです。ジョブス氏がもっと早く亡くなっていたらおそらく今のような規模の会社にはなっていなかったでしょうし、今では当たり前になったタッチパネルというUIが、人が使っていて気持ちいいと思えるレベルにまで、当時としては偏執狂的な精度で動くように実装されていなければ、ブラックベリーなどとの競合に負け、株は暴落していたかもしれません。そしてサードパーティーへのアプリケーション開発の解放などの戦略が遅れていたら、あっという間に模倣され、ただの高価な電話に成り下がっていたかもしれません。素人の私が抱く「革新的技術への確信」などそんな程度の脆弱なもので、結果的に利益が出たのは全て運です。本質的に、スロットマシーンにお金を投じるのと大差ありません。今振り返っても、当時の行動は投資でもなんでもなく、新しいテクノロジーに熱狂したオタクが、その熱にほだされてお金をつぎ込んだ、ただのギャンブルでした。そして歴史的経緯を振り返ってみればわかるのですが、リーマンショックの混乱の後に成長株を格安で購入することができたという完全に偶発的なマクロなイベントに自分が巻き込まれて幸運だったことも結果に強く影響しています。

結果的には良かったものの、様々な本を読んだり、税制についてある程度勉強したの今の自分の視点で当時を振り返ると、ゾッとするようなバカな行動です。一つの会社の株式というのは、どんなにそのテクノロジーや商品が素晴らしくても、一つの偶発的イベントで無に帰すことが多々あります。したがって、この本で述べられている、そう言った売買を投機と切り捨てて、基本的にはギャンブルであると結論づける著者の言葉には、自らの経験に照らし合わせても大変納得感があります。命綱なしにロープを渡るようなことはするべきではないのです。こういったイベントが全て織り込まれた過去のチャートを分析して、個別株の将来というミクロな動きを予想できると思うのは、素人目に見ても無理があるような気がします。人は見たいものを見てしまう、ということに通じるのかもしれませんが、そういった分析は後付けのストーリーのようにも思えます。一つの会社の運命といったミクロな事象を高い確率で予想できると思うのは、おそらく単なる幻想でしょう。

人類は滅ぶのか?世界経済は崩壊するのか?

しかし「人類文明の崩壊」というイベントはどうでしょう?もちろん、隕石一つで我々の文明は滅びますし、巨大火山の噴火でも同じことです。これらのイベントは長期的にはほぼ確実に起こります。そういえば最近邦訳も出た「Seveneves」でも、文明の終焉が計算上決定づけられたのと同時に、株式市場は崩壊したというような描写がありますね。これはその通りだと思います。ただし、これらの壊滅的なイベントは基本的に数千年、数万年といったスパンで考えるリスクですので、自分の人生の中で遭遇しないという可能性も十分に高いと予想することができます(…にも関わらず、それを現実のリスクと捉え、地球外に文明のバックアップを作り、人類の文明喪失を回避するという壮大なプランを行動に移そうとしている大富豪もいますが。長期では人類のために誰かがやらないといけない仕事ですが、今私企業がそれを行うというのはとんでもなくスケールの大きな話ですね)。また、文明崩壊まではいかなくても、世界経済の永続的な衰退や崩壊はどうでしょう。日本や米国にいるとなかなか実感するのは難しいですが、今でも電気や水道すら自由に使えない人が世界中には数え切れないほど存在し、そういった人々は今でも世界経済の成長を強く望んでいます。こういった、ある種の人間の欲望に支えられているのが世界経済ですから、人間の善意や奇跡のような不確かなものを前提にしないという点で、浮き沈みはあるものの、緩やかに世界経済は拡大していくものだと仮定するのはそれほど現実離れしたことではないと思います。長期でのパッシブな全世界に対する投資とは、この世界経済の緩やかな成長を前提として、その流れとともに浮き沈みしていこうということに他ならない、ということをこの本は説いています。世界経済が沈めば同じように自分の資産も沈み、経済が成長すれば、その時はその果実を収穫できるというだけのことです。世界経済の中で、日本のプレゼンスは今後下がっていくでしょうが、日本のみに投資する必要はないので、超長期で見たとき、世界経済が緩やかに拡大しているならば、この戦略で生きた人は、世の中の経済的発展に取り残されることなく、最終的にはその恩恵も受けられる、といった単純な理屈です。悲観的な方はこのシナリオすら信じられないと言われるでしょうが、私は人類は最後のところで踏みとどまり、全面的な殺し合いには至らずにゆっくり前に進む、ということを信じているので、そういう意味では楽観主義者なのかもしれません。

これは、銀行口座の預金残高が同じであれば、なんとなくそれはスタティックな価値だと誤解しがちですが、それすらも世界全体で見た場合、実は常に(インフレ率や為替レートなどを加味すると)ダイナミックに揺れ動いている不確かなものだということを思い出させてくれます。人類の文明の中で生きている限り、このダイナミズムから逃れて永遠に確かな価値を得ることはできないということです。言われてみれば当たり前のことなのですが、しばしば我々はこの事実を忘れてしまいます。

過去に書いたこのシリーズの記事で、同じような金融商品でも、手間が少なければ少ないほど、資産が少なければ少ないほど手数料は割高になることを紹介しました。例えば、一部のアクティブファンドや、日本のラップ口座などは法外な手数料を要求しますが、買っている本人が(便利だからという理由と、丁寧に行員さんが説明してくれるという「サービス」に価値を見出せるなら)それで満足ならば問題ありません。しかし似たようなことをするのに、一定の時間を金融リテラシー習得に費やして試行錯誤すれば、この手数料を最小化することが可能です。DIY投資とこの著者が呼んでいるのはそういうことです。つまり各種優遇税制を理解し、パッシブな商品をスクリーニングし、自分で組み合わせてポートフォリオを構築し、定期的なリバランスを行える程度まで自分の金融リテラシーを上げれば、複利効果を最大化するのに最も重要な「手数料の最小化」と、その年齢における自分が許容できるリスクレベルの調整という問題を自分で解決できるため、引退用の資金を自分で構築できる、ということです。金融商品というどちらかといえば非日常的な印象の強いものでも、DIY的なスタンスで行くか、フルサービスの豪華版(ただしリターンは手数料が高い分だけ低い)で行くかは、他のサービスと同じく、買う人に委ねられているのです。「学習は一切したくない。リターンが低くても誰かに全部やってもらいたい」という人が居てもおかしくないですし、丁寧に接待してもらえることに満足感を覚える人もいますから、万人がDIY的手法を採用する必要はないでしょう。ただ、学習に使う時間に対する金銭的リターンは、個人的には十分もとを取れそうだというのが実感です。少なくとも、トータルで見て費用対効果の悪い、涙ぐましい節約よりははるかにお勧めできます(あなたの人生の時間はタダではないです!)。しかしそれを強く実感するには、おそらく10年、入ったサイクルの時期によっては20年を超える時間が必要なので、気長にやる必要はありますが。

この本は、その投資の舵取りを自分で行いたい人が、そのために必要な最低限の仕組みを理解するためのガイドとしてお薦めできます。

投資の根底に流れる考え方

この本には、投資関連の情報を呼んでいると必ず出くわすPER、アルファとベータと言った用語から、各種経済理論の基礎まで幅広く解説してあります。しかし著者は、これらを理解して個別株でポートフォリオを組めと言っているわけではありません。もちろんそれも可能ですが、この本のスタンスは「なぜxを使って資産構築をすべきなのか?」の「なぜ」の部分に非常に重きを置いています。そういう意味で、読み物としても楽しめる構成になっていますので、「儲けたいならxxxxxを買いなさい」と言ったタイトルの新書やムックにうんざりしている人にお薦めします。

リタイアメント後

こちらの本はいわば人生における出口戦略に重きを置いた本です。ポートフォリオの組み方や積立投資の方法はわかった。だから、実際に引退の年齢に達した時は、全てを現金にしてあとはそれを使っていくだけ…というわけには行かないところが投資の難しさでもあります。多くの専門家が指摘する通り、投資で資産を増やすよりも、使う段階になった時に賢く引き出す方がより多くのスキルが必要になると感じています。それはなぜかといえば、手数料の最小化と複利効果の最大化という比較的シンプルな戦略で十分機能する、各種退職金口座を使った積立投資よりも、税金関連の法や、自分/パートナーの健康状態などといった不確定要素が複雑に絡み合う引き出しの段階では、自分の判断能力の低下も考慮の上で全ての終わりを計画しなくてはならないからです。さらに、引退後はある時点で人的資本を先に使い果たしていますので、金融資本が尽きることの恐怖とも向き合う必要があります。私はまだ経験したことのない領域ですが、夫婦のうち、早くどちらかが死んでしまったシナリオ、長生きしてしまった場合のシナリオともに、早い時期から心構えは持っていた方が良いと感じています。

人はなぜ投資をするのかと言えば、その最終的な資産価値そのものには意味はなく、最終的にはそれで生活し、位置エネルギーを運動エネルギーに変換するかのごとく、それまでに蓄えたもので人生の終盤を出来るだけ穏やかに過ごしたり、パートナーの生活を支えたりするためです。しかしそこにはまた別種のノウハウが必要になります。この本はそこに焦点を当てています。実は私はタイトルにある「人生100年時代」という言葉が嫌いです(ちなみにこの本の原題にそんな言葉は当然ありません)。それは、テクノロジーは寿命を単純に延ばすことはある程度早期に実現できても、晩年のQoLを技術的に向上させるのは、よりハードルが高いのではないかと思うからです。私の周りにも、老化という現象に取り組む科学者が実際にいますが、とても一筋縄ではいかない問題だという印象です。したがって、当分の間は、「寿命が伸びること=健康な老後がリニアに拡大していく」と言うわけではなく、おそらく今のお年寄りと同じような時期に発生する肉体や精神の衰えとより長く付き合わなければならなくなるということだと理解しています。(もちろんその先の、老化のメカニズムのより深い理解とそれに対処できるテクノロジーも、数百年というスパンでは、きっと人類は手にすると思いますが)

このような長生きのリスクに対処しようとするのはなかなか気が滅入る作業ではあります。しかし、長生きしてしまうという「アクシデント」は無視できるほど小さくはない、というのが頭の痛いところです。ただぼやいていても仕方がないので、現実的に、経済的な側面からそのリスクに対して自分でできることは何か、を考える時に役立つのがこの本です。

公的年金制度や私的年金に関する仕組みが極めてドメスティックなものであるという理由から、この本も基本的にアメリカ在住者のみに向けて書かれています。各セクションの最後に、日本のエコノミストが日本の事情を加味して解説のコラムを書いていますが、基本的にアメリカに住んでいないとあまり実践的な役には立たないと考えた方が良いでしょう。逆に言えば、在米邦人にとっては、アメリカ独自の年金やそれに関する投資の仕組みが、専門家による日本との比較を交えて日本語で読めてしまうのですから、便利な本です。アメリカで買うことのできる引退後のための金融商品、引き出しの各種戦略などについて詳しく述べられていますが、私もまだ当事者ではないので、なかなか実感を持って読めているかと言われれば怪しいです。しかし、単なる投資とはかなり異なる戦略が必要だということはこの本を読むことで理解できます。

一点、私がこの本に同意できない点は、引退後もかなりのリスクを取って運用を続けるのを基本としている点です。もちろん引退時に資金が足りなければそうせざるを得ないのはわかります。しかし、日本でいう後期高齢者の年齢に達したとき、自分に高度な判断能力が残っているのかは甚だ疑問ですので、できればもう少し早期にリスクを低くしても破綻しないように今からゆっくりと準備したいものです。

終わりに

本などで最低限の金融リテラシーを身につけたら、まず出来るだけ若いうちに、自分のお金を何らかのものに投資してみることは非常に大事です。これは身を以て体験しました。それはなぜかと言うと、そこで自分の適性を見極め、その先の人生で、どのようにお金と付き合っていくかを決めることができるからです。上下する数字が気になって精神的に耐えられないならば投資は諦めて、自分の人的資源価値を限界まで高めて高給を目指すという道もありますし、耐えられそうならば、自分の年齢に応じて必要なリスクを適切に取るといった、人生における生き方の指針を大まかに決めることができるからです。特に身一つで渡米してきたような方の中には、実際に「金は実力についてくる」とばかりに圧倒的な能力で人生を切り開く人もいますので、これが正解というものはないですが、失敗した時のダメージが小さい段階で自分をテストしてみるのは決して損にはならないと思います。

投資は、基本的にはロジカルな数字の話なのに、実践してみると急に心の問題になってくるのが面白いところでもあり、恐ろしいところでもあります。自然科学の人間が経済学に抱くぼんやりとした不信感も、この辺りに一つの原因があるのかもしれません。実際にやってみるとわかるのですが、人間は時に非合理的な行動をとります。株にしても投信にしても、高値で買って安値で売るというのが典型ですが、私も多くのそれに類似する愚かな行動をしてきました。しかし自動長期積立というのは、それを防ぐための知恵の一つです。ただ心を無にして、決められた金額を決めた商品の購入にあてるだけです。これは言うのは簡単ですが、意外と耐えられない人も多いのです。特に2008年は私も、自分の中に湧き上がる非論理的な衝動(つまり、人生最大のチャンスとして多めに買うのではなく、焦って安値でそれまでの蓄積を売り払う)を抑えるのが大変でした。あの時、なんとかその衝動を抑えこみ、教科書的な行動が取れたのは、我ながら頑張ったと思います。プロから見れば笑ってしまうような話だと思いますが、私たち素人のメンタルなどそんなものです。規模はどうあれ、同じようなことはまた必ず起きます。2019年現在、景気のサイクル的にはそろそろ好景気は終わり不況の時代が訪れるので、今から積立を始める人は、遠からぬ日にその激しい下落の洗礼を受けると思います。そこで明日を見るか10年後を見て心を無にすることができるかで、将来の見通しは随分と変わってくるでしょう。

投資に力を注ぎすぎて、人生で本当にやりたいことを逃してしまうのは本末転倒ですが、本来ならばしなくてもよいような辛い節約で苦しむならば、上記の本を手にとってこの先の戦略を考えてみるのも一つの手です(もしあなたが現役世代ならば、という前提条件がつきますが)。

Keiichiro Ono

Written by

Research Associate/Software Engineer/Cytoscape Core Developer at UCSD. Data Visualization Japan Organizer. #visualization #bioinformatics #dataviz

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