Uberに勝ったGrabの「ハイパーローカル戦略」

Chieko Tazuke
6 min readJun 3, 2018

Grabは、2012年にマレーシアで創業したライドシェアリング(ライドヘイリング)企業です。2018年3月に、Uberの東南アジア地域のサービスを買収したことで、東南アジア地域でのライドシェアリングの覇者になりました。勝因はなんだったのでしょうか?

多く語られる理由の1つとして、Grabのハイパーローカル戦略があります。今回は、これをご紹介しようと思います。

ハイパーローカル戦略その1:二輪車

Uberとの大きな違いの1つとして、二輪車をいち早く導入したという点が挙げられます。インドネシアの首都ジャカルタは、電車や地下鉄がないこともあり、世界有数の渋滞都市で、140万人の通勤者の6割近くが二輪車を使っているという統計(2015年時点)もあるほど、二輪車が主要な通勤手段として使われています。そこで、Grabは、2015年5月からGrabBikeという二輪車のライドシェアリングサービスを始めました。 Uberがインドネシアで二輪車のライドシェアリングサービスであるUberMOTORを始めたのは、2016年2月でした。

二輪車に代表されるように、Grabは、地域ごとの交通状況の違いをサービスに適切に反映させています。

ライドシェアだけで13種類あります

ハイパーローカル戦略その2:ペイメント

2つ目の大きな違いは、支払方法です。東南アジアでは、銀行口座を持っている人は27%、クレジットカードを持っている大人はたったの9%とも言われており、地域全体としてはいまだに現金決済が主流です。そこで、Grabでは現金支払いが可能になっています。

一方、Uberはデビット・クレジットカード決済のみでサービスをスタートしました。現金決済ができるようになったのは、サービス開始から1年以上、地域によっては2年経ってからでした。

Grabを使うとわかるのですが、現金決済を導入する必要のないシンガポールであっても、Grabの料金はほとんどの場合1ドル刻みになっていて、Uberのように1セント刻みではありません。どちらもダイナミックプライシングモデルを採用していますが、Grabでは、現金決済がしやすいように設計されていることがわかります。

また、Grabでは、2016年11月から、ATMやコンビニでGrabのeウォレットに現金を入金できるようになり、銀行口座がなくてもキャッシュレス決済ができるようになりました。Uberにはeウォレット機能はありません。これもGrabが地域の実態をよく理解して、新たなビジネスの機会と捉えていることの表れです。

(左)GrabではS$15と1ドル刻みです(右)UberではS$17.81と1セント刻みです

それ以外にも、例えば、同じベトナムであっても考え方の違いからホーチミンとハノイで異なるプライシング戦略をとったり、スマートフォンに慣れてない人が多いベトナムやフィリピンでは、Grabがドライバーにアプリの使い方を教えるクラスを開催するなど、現地のコンテクストに合わせてサービスをカスタマイズしています。

このようなGrabのハイパーローカル戦略が、Grabの成功の要因ではないかと思います。世界中どこでも同じサービスを提供しようとするUberの考え方は、とても効率的でスマートですが、東南アジアは、アメリカとは大きく異なるビジネス環境があり、東南アジア内も不均質で、ローカルにいかにスピーディに対応できるかがビジネスの成功の鍵を握っている、と言えそうです。

今後のGrabのビジネス展開は?

Grabの今後のビジネス展開ですが、必ずしも順風満帆とは言えなさそうです。

反トラスト法に抵触?

東南アジアのライドシェアリング事業では、独占に近い状況になったことで、各国で規制当局やユーザーからの反発を招いています。例えば、シンガポールの規制当局であるConsumer Commission of Singaporeは、Grabに対し、ドライバーに排他的な契約を求めないこと、運賃やドライバーへのコミッションは買収前の水準を保つことなどを求めています。ただ、私自身、Uber買収以降、Grabの3ドルオフなどのプロモーションコードが発行されず、高くなった、と感じていますし、同じように感じて、公共交通機関を使う頻度が増えた市民もいるようです。Grabはプロモーションコードではなく使用量に応じたリワード方式に変えたからだ、と説明しているようですが、実感としては納得いきません・・・。

Go-Jek参入?

インドネシアのライドシェアリング事業者Go-Jekが、シンガポール、フィリピンなどに進出するのではないかと言われています。Go-Jekは2018年2月に、Google、シンガポールの政府系ファンドTemasek、ニューヨークの資産運用会社BlackRockなどから$1.5B以上を調達しています。多額の資金を手に、いよいよシンガポール進出、となれば、Grabにとって脅威となりえます。一ユーザーとしてはとても嬉しい展開ですけどね。

GrabPayとGrabFood

Grabはライドシェアリング企業から総合テクノロジー企業に変貌を遂げようとしています。ライドシェアのプロモーションコードは全然来なくなったのですが、GrabPayとGrabFoodのプロモーションコードは本当にしょっちゅう来るので、ユーザーから見てもGrabのやる気はばんばん伝わってきます。ただ、あくまでもシンガポール市場を見ている限りにおいては、ペイメント、フードケータリング、どちらも、プレイヤーが多く、後発のGrabがどこまで店舗とユーザーを獲得できるのかはまだ未知数です。

(左)GrabPay(右)GrabFoodのプロモーション。ライドのプロモーションコードが欲しいというのが本音。

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Chieko Tazuke

田附千絵子, 経営共創基盤シンガポール, シンガポール大学MBA, 経済産業省, PhD in Neuroscience, Master of Design Methods