人工肉はドイツの消費者に受け入れられるか?カールスルー工科大が調査

Chika Kietzmann
Dec 25, 2017 · 7 min read
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早いもので今年もクリスマスがやって来ました。ドイツではクリスマスイブよりも12月25日、26日の祝日にご馳走を食べる家庭が多いようです。クリスマスの食事といえば日本ではローストチキンやフライドチキンが定番ですね。ドイツでも、伝統的なクリスマスメニューはガチョウのローストなど、お肉がメインです。

しかし、近年、肉食について、畜産による環境への負荷、健康への影響、動物保護など様々な観点から議論が高まっています。2011年、国連食糧農業機関(FAO)は、世界の人口増加に伴って食肉需要は2050年までに73%も増大するだろうと発表しています。食糧危機を回避するため、急激な需要増大にどうのようにに対処すれば良いのかが問われる中、いくつかの国では人工肉の開発が進められています。

英オックスフォード大学とオランダ、アムステルダム大学の共同研究によると、実験室で人工肉を製造するようになれば、畜産に利用される農地の99%、水96%、そして温室効果ガスを最大96%削減できるそう。また、食肉生産に必要なエネルギーを大幅に削減し、また同時に肥料などによる土壌汚染も低減できるなど、多くの環境上のメリットが期待されます。さらに、人工肉には家畜からヒトへ移行する可能性のある病原菌汚染(鳥・豚インフルエンザ、BSEなど)や抗生物質の残留の心配もありません。実験室ではほぼ一定の条件を保てるため、従来の畜産業と違い、飼料や飼育条件のようなリスク要因に左右されないという利点も。そしてもちろん、肉を食べるために動物を殺す必要がありません。

2013年にはオランダのマーストリヒト大学が初めて牛から採取した細胞をもとに製造した人工肉ハンバーグを発表し、大きな注目を浴びました。筋肉細胞の中には筋肉の損傷を修復する幹細胞が含まれています。この幹細胞を筋肉細胞に分化させ、刺激を与えて組織の成長を促します。しかし、この時に発表された人工肉ハンバーグはまだパサパサとした食感で、自然の肉の美味しさには程遠いものでした。その後、マーストリヒト大のスピンアウト企業であるMosaMeat社は筋肉細胞だけでなく脂肪細胞も培養し、両者を結合させることで、より自然に近い味のハンバーグを作ることに成功しています。同社によると、細胞を取り出すための筋肉組織は有機農家で飼育された牛から痛みのない方法で採取します。

人工肉の製造にかかるコストは次第に下がっており、2017年現在、ハンバーグ1個の値段は約10ユーロだそう。MosaMeat社は約10年後に人工肉の市場流通を目指していますが、実現にはまだいくつかのハードルがあります。現在、細胞の培養の際には、培養液としてウシ胎児血清が使用されています。しかし、ウシ胎児血清の利用はコストが高く、また倫理的な問題も孕んでいるため、現在、その代わりとなる培養液の開発を進めている最中です。

また、米国のMenphisMeatも人工肉の開発に取り組んでおり、牛肉だけでなく鶏肉と鴨肉も発表しています。

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(©MenphisMeat)

イスラエルのSupermeat社は低脂肪肉、脂肪フリーの肉や栄養強化肉など、消費者のニーズに応じた製品開発を視野に入れており、長期ビジョンは家庭のキッチンで人工肉を製造できるようにすることだとのこと。そう聞くとちょっとびっくりしますが、輸送コストを抑え、食品廃棄を減らすことに繋がるのかもしれません。

このように、安価な人工肉製造が実現すれば多くの問題を解決できるかのように見えますが、果たして消費者には受け入れられるでしょうか。

ドイツ精肉業協会(DFV)によると、ドイツ国人が年間に消費する食肉の量は一人当たり約60kg。ドイツでは健康のためには年間15〜30kgの摂取に抑えるのが望ましいとされているので、明らかに食べ過ぎですね。近年はベジタリアンやヴィーガンなど、肉を食べない人が増えており、ミートフリー料理や代用肉の人気が高まっているとはいえ、やはり多くの人は肉食べを諦めたくはなさそうです。

現在のところ、ドイツ国内には人工肉を開発する企業はありません。ドイツでは有機農業・畜産業に対する関心が非常に高く、「不自然な」食品に対して多くの人は懐疑的です。ドイツ全国に事業を展開する有機農業協会、Biolandは、ウェブサイトに「誰も人工肉を必要としていない!(Fleisch aus dem Labor braucht kein Mensch!)」という記事を掲載しています。このような批判的スタンスに対して、有機畜産においてもでも人工授精が行われており、必ずしも「自然」であるとはいえないという指摘もありますが(ドイツ化学産業マネジメント協会、VAA-Magazine 2017年12月号の記事)。

今年、カールスルー工科大ITASは人工肉製造技術の社会への影響を評価するため、関連文献の分析、様々な産業分野の専門家へのインタビュー、そして国民の中から選定された「バーガー審査員」とのディスカッションを実施し、それらの結果をまとめた調査報告を発表しました。それによると、

  • 食品産業従事者らは人工肉を「健康的でエコロジカルで倫理的な、より良い肉」とポジティブに評価。
  • アニマルライツ活動家の中には、「人工肉は肉食から菜食への移行期のソリューションになる。食べるために動物を殺す必要があるのかを考えるきっかけとなるだろう」と、菜食へのソフトランディングの手段とみなす人もいる。
  • 環境保護活動家や有機農家は、「肉食をなるべく減らし、もし食べるならオーガニックな肉を食べることが望ましい。人工肉の普及は肉消費を増大させることになり、逆効果」と懸念を示している。
  • 人工肉開発研究者らは、「人工肉は農業の産業構造を変え、活性化をもたらすだろう。小規模の農家が競争力を高めるチャンスだ」と考えている。
  • 環境団体は、「人工肉は消費者の自然からの乖離を加速させ、食品産業の工業化をさらに進めることになる」と批判。

従事する分野により意見は様々であるものの、「食糧危機や環境問題の解決のためには複数のソリューションが必要である。菜食、昆虫食や海藻の活用、肉食を減らすなどいろいろな方法があり、人工肉もそのうちの一つとして見るべきだ」という点では皆の意見が一致していました。

また、18〜25歳までの国民12人による「バーガー審査員」らは、人工肉に問題解決のポテンシャルを認めるものの、そもそもの問題は「肉食が環境に与える影響や動物の苦しみ、健康的な食生活についての認識が人々に不足している」ことであり、まずは意識を高めることが重要である、人工肉は少なくとも万能な処方箋ではなく複数ある選択肢の一つとして捉えるべきだとの見解に達しました。

全体として、ドイツ国民は人工肉について慎重な見方をしているようです。皆さんはどう考えますか?

参考:

Lebensmittel Für Die Zukunft — Aus dem Labor in die Pfanne

In-vitro-Burger Das Fleisch aus dem Labor


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