英国オープン大学理学部自然科学科のカリキュラム

「オープン大学(オープンユニバーシティ)」の検索ワードでこのブログを訪れてくださる方がときどきいます。

海外のオンライン大学で学士号取得を目指して自然科学を学ぶというのは日本人にとって一般的な選択肢ではないので、関心のある方はそんなに多くないだろうと思うのですが、わりと最近海外のオンライン大学で修士課程に入学された方が、「自分が始めようと思ったときに情報を探したが、ほとんど見つからなかった」と仰っているのを聞き、もしかしたらどなたかの役に立つこともあるのではと考え、自分の例を公開することにします。

私が英国オープン大学理学部自然科学科に入学した経緯について、もしご興味がありましたら、こちらをお読みください。

現在、英オープン大学の理学部において取得できる学位には、以下の7つの種類があります。

  • BSc(Honours) Health Sciences (保健学科)
  • BSc(Honours) Natural Sciences (自然科学科)
  • BSc(Honours) Mathematics and Physics (数学・物理学科)
  • BSc(Honours) Environmental Science (環境学科)
  • BSc(Honours) Environmental Management & Technology (環境マネジメント&テクノロジー学科)
  • BSc(Honours) Open Degree (オープン学位)

BScというのはBachelor of science(理学士)の略で、Honoursというのは学士号の種類です。英国の大学の学士号には普通学位(ordinary degree)と優等学位 (honours degree)の2種類があり、取得に必要な単位数が違います。オープン大では普通学位は300クレジット、優等学位は360クレジットです。

それぞれの学科にカリキュラムがありますが、最後のOpen Degreeは自分で好きなようにカリキュラムを組むことのできる、カスタマイズド学位です。

私が取得を目指しているのはBSc(Honours) Natural Sciencesで、自然科学の様々な分野から幅広く学ぶ学科です。オープン大学は基本的に社会人を対象とした大学なので、仕事をしながらパートタイムで勉強する人が圧倒的で、学位取得までの学習期間の目安は6年間、タイムリミットは16年に設定されています。

BSc(Honours) Natural Sciencesの講座には、レベル1〜3の3つのレベルがあり、それぞれのレベルで必要なクレジットを取得します。必修科目以外はカリキュラムの枠組みの範囲内で自分の好きなモジュール(講座)を組み合わせることができます。私が入学したときから現在までの間にカリキュラムがかなり変わり、必須科目も現在では別のものになっているので以下は最新情報ではありませんが、これまでに私が履修した講座です。

Exploring science 60 credits レベル1(必修)
生物学・化学・物理学・地学の基礎を広くカバーした講座。約9ヶ月間に渡り、教科書8冊、全部で1800ページほどの分量とDVD教材2本の内容を学習します。
講座のレベルは、最初は中学校の理科と数学がわかっていれば問題のないレベルで始まりますが、教科書が進むにつれだんだん難しくなり、講座の終わりには日本の高校で習わなかったことがたくさん出てきました。私は日本の大学では文系だったので理系学部のレベルがわからないのですが、この講座では9ヶ月で日本の中学3年〜大学1年の生物学・化学・物理学・地学の内容を一気に学ぶ感じと考えてだいたい合っていると思います。
評価はオンラインクイズやオンラインでのグループディスカッションの他、6週間に1回の割合で筆記試験(問題はA4で8ページ分くらい)が全部で6回、それに講座修了試験( A4で17ページ分)でした。試験問題は物理の計算や化学の分子式 以外は、すべてエッセイ形式です。
Scientific investigations 10 credits レベル1(必修)
実験基礎講座。化学実験やフィールドワークの方法について学び、自宅またはその周辺でできる6つの実験を行いました。評価のための課題はその結果についてのレポート提出、および講座修了試験。
Molecules, medicines and drugs: a chemical story 10 credits レベル1(選択科目)
薬学基礎講座。3ヶ月のショートコース。
Understanding cancers 15 credits レベル1(選択科目)
癌講座。癌の発生の仕組みだけでなく、リスク要因や診断技術、疫学調査、様々な治療法や予防措置などについて幅広く学ぶ講座。
Inside nuclear energy 10 credits レベル1(選択科目)
原子力講座。核分裂と原子力発電の仕組みと原子炉の種類、放射線が生物に与える影響、核燃料サイクル、放射性廃棄物の処理技術、次世代原子炉、原子力利用のリスクとマネジメント等。最終試験では原子力の利用に賛成か反対かについてのエッセイ課題がありました。
Energy for a sustainable future 60 credits レベル2(選択科目)
再生可能エネルギー講座。この講座は熱力学を中心にした理学の他、 工学が半分くらい含まれていて、かなり大変でした。その他にそれぞれの再生可能エネルギー技術利用のコスト計算という経済学の内容や政策、リスク評価やその対策など政治的な要素も含んだ学際的講座で、最終試験では一定条件を提示された架空の企業や町について省エネプランを作成する課題が出ました。
Science in context 30 credits レベル2(選択科目)
社会における科学のあり方を考える講座で、サイエンスコミュニケーションの要素を含む、文系と理系の中間のような内容です。BSE/クロイツフェルト・ヤコブ病、隕石衝突、バングラデッシュの井戸水のヒ素汚染、地球温暖化、遺伝子組み替え技術、ナノテクノロジーのそれぞれの科学的背景を学んだ上で、社会はそれぞれの問題についてどのような判断を下し、リスク対策を行って行ったら良いかを考えます。この講座は多角的で非常に興味深く、私はそれまでなんとなく感覚的に「遺伝子組み換え反対!」と思っていたのを別の角度から考え直すきっかけになりました。
Practical science: Biology and Health 30 credits レベル2(必修科目)
実験講座。理学部ではレベル2で実験講座が必修科目です。実験講座はいくつかあり、私はこの生物学の実験講座を選択しました。主にラボで使われる様々な実験装置の使い方を学び、実際にデータを取って分析します。オンライン大学のため、実験は主にバーチャルラボで行います。この講座は難易度が高いというよりも、複数の実験をパラレルで行い、チームメンバーと頻繁にオンラインミーティングをしなければならないので、ものすごく忙しかったです。
Signals and perception: the sciences of senses 30 credits (選択科目)
神経学講座。科学の講座というよりも医学ですが、興味があったので履修しました。
Biological science: from genes to speices 60 credits (選択科目)
分子進化学講座。現在履修中。実際の様々なゲノムデータベースを使いながら学習します。
(こんな感じでパソコンで勉強しています)

(こんな感じでパソコンで勉強しています。 クリックで拡大します)

現在履修中の講座が終わったら、後はレベル1で取り残したショートコース1つ(15 credits)と卒業プロジェクト(30 credits)で学部カリキュラムは終了です。

上記は私個人の例で、組み合わせ方はいろいろなバリエーションがあるでしょう。私の場合、あまり重点を定めずに自分の興味の赴くままに様々な分野の講座を履修しているため、積み重ねというよりも毎回全く新しいことを勉強することになっているのですが、最初の60creditsの基礎講座のおかげでなんとかなっています。基礎というのは大事だとつくづく感じます。

オンラインで自然科学を学ぶって、どんな内容なの?と思う方の参考になれば幸いです。「オンライン大学なんて、たいしたこと学べないんじゃないの?」と感じる方もいるかもしれませんが、少なくとも私の場合、日本の大学の学部時代の10倍は勉強しているという実感があります。

そして、「英文を読むのにも書くのにも、苦労しなくなった」というオマケもあり、翻訳者として仕事をする上で大いに役立っています。

(2017年1月追記)

Understanding the autism spectrum 15 credits (選択科目) 自閉症講座。自閉症の科学的側面だけでなく、自閉症の子どもが日常生活・社会生活を送る上での困難やこれまでに発達したセラピー、家族をとりまく問題点など総合的に学びます。
Science Project Course 30 credits (必須科目) 卒業プロジェクト。自然科学科の学生は、Environmental Science、Geoscience、Researching Biology & Health、Frontiers in Chemistry、Science in Society、Radiation & Matterの6つのゼミのうち1つを選択します。私はScience in Societyを選択しました。

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Originally published at Sci-Tech-Germany.