30代から始めるYouTube入門

Nスぺ好きのためのYouTube視聴ガイド

Tsutomu Kawamura
9 min readMay 27, 2018

YouTube ≠ ヒカキン

たぶん、YouTubeは「ネタ動画」のイメージが強すぎる。「ヒカキン」に代表されるユーチューバーが、目立ってしまうせいだろうか。実際には、テクノロジー、旅行、料理、建築ほか、あらゆる分野の動画があるにも関わらず、この誤解が「大人の」ユーザを遠ざけているように思えてならない。

YouTubeのトップページがこれでは、手が出せないのも分かる。

「煩いTVから離れたのに、わざわざYouTubeなんか?」と切って捨ててしまうのは、あまりにもったいない。実は、YouTubeには30でも60代でも満足するコンテンツで溢れている。誇張なく、「Nスぺ」並みのコンテンツがごろごろ。

まずは一つ、(ちょっとNスペ路線ではないが) 私をYouTubeに引き込んでくれた動画を紹介しよう。Peaceful Cuisine (1.3M)は料理系のひとつ。日本人のチャネルながら、海外アクセスも多く、絵作りから、料理の音までこだわりが随所に見える。

Peaceful Cuisine

メモ: 以下、チャンネル名の横に、2018年現在のチャンネル購読者数を括弧書きする。1M = 1,000,000 ・ 1K = 1,000

英語コンテンツに絞る

ただ残念ながら、さきほどのPeaceful Cuisineは一種の例外だ。良いものを見たければ、一旦は英語のチャネルだけに限ってしまおう。それが手っ取り早い。日本語のコンテンツを避けたとたん、クオリティ(の平均値)がガラッと変わる。

ヒカキン (6M) の主チャネルの購読数は600万人。複数展開しているチャネルを合わせると10Mほどだが、15M近い購読数がないと英語圏のトップ100には入らない。世界と日本のトップ50を比較すると、ほぼ10倍の開きがある。(日本語の局所性を考えると十分に多い気もするが)

世界と日本のYouTubeチャネル購読数比較 (socialblade.comのデータから)

英語圏もトップは有名人やネタ系が占めるものの、そのあたりは気にしなくていい。大事なのは、そこより1~2桁低いニッチな領域だ。順位にして数百番台にこそ、面白いチャネルが隠れている。例えば「狭小住宅」というニッチに、どれだけの日本人が興味を惹かれるだろうか? Living Big in A Tiny House (755K)はまさにそこだけがターゲットだが、世界でなら75万人の購読者がいる。日本語チャネルには、こういったニッチなコンテンツの多様性が、まだ少し足りない。

Living Big in A Tiny House

YouTuber英語は聞きやすい

英語のできる知人から、「鍛えたいなら英語ニュースを見ろ」「TEDを見ろ」と言われてきた。しかし、ニュースもTEDも基本的にはネイティブ向けに話しているので、聞き取りはそれなりに難しい。よほど知りたい分野でないと集中力が続かない。

その点、YouTuberは万人向けの英語を話すプロだ。彼らの動画は、ニュースキャスターより聞きやすく、話題も豊富。そして何より短い。

Danny Winget (348K)はガジェット系の発信をしてるYouTuberだが、とにかく英語が聞きやすい。単に滑舌が良いのではなく、むしろメリハリが適度に押さえられている。早口なようで早くない。ニュースキャスターの喋りは大げさで、遅い速いの落差が激しいが、Dannyの喋りはちょうどいい。そして、特筆すべきは、Dannyに限らずこれがYouTuberにとって普通である点だ。彼らは、世界中の非ネイティブに対しても発信しているので、結果、自然とこの話し方になるのかもしれない。

Danny Winget

メモ: YouTubeは、ブラウザでもモバイルでも再生速度を変えられる。慣れないうちは、0.75倍速あたりで再生するのも手。

手始めに見るべきチャネルたち

万人向けにオススメしやすいのは、NYを本拠地にするGreat Big Story (2.4M)。世界100カ国以上を取材して回っている。各地の文化、建築、動物の生態ほかを3分程度の動画で、彼らの言葉を使うなら”cinematic storytelling”に紹介する。

Great Big Story

Nスペ好きなら、きっと「ナショジオ」でおなじみのNational Geographic (8.2M)は、YouTubeに限らずInstagramほかWebメディアの使い方が上手い。こんなに硬派なのに。

National Geographic

もし、科学系に興味があれば、MIT (341K)のチャネルはぜひ押さえたい。最早、いち大学というよりも世界的メディア。続けてnature (249K)と、SciFri (113K)の動画も貼っておく。前者は言わずと知れた論文雑誌、後者はYouTube発の市民向け科学ジャーナリズム (名前がいい)。

MIT
nature
SciFri

旅行好きならAtaché (90K)にきっとはまるはず。いや、旅行好きでなくともスクリーンから伝わる都市の空気感に、見入ってしまう。観光名所ではなく「街」を伝えるチャネル。

音楽関連でVevoの名前をよく見かけると思う。日本ではサービス展開されていないのでピンと来ないが、Universal Music Group, Sony Music Entertainment, Warner Music Groupのジョイントベンチャーで、Alphabet(Google親会社)もオーナー会社のひとつというと、規模感が伝わるだろうか。実際、音楽系のトラフィックの多くをVevoが支えている。

一方で、NPRや独立系の音楽番組が面白い。Tiny Desk Concert (1.5M)は10年続く長寿番組。そういえば、先日は日本からコーネリアスが出ていた。Postmodern Jukebox (3.4M)は、地下室での録音から始まって、今やすっかりメジャーに。彼らは、楽曲をなんでもかんでも”postmodern”にアレンジしてしまうが、毎回、冗談のようにクオリティが高い。

NPR Music — Tiny Desk Concert
Postmodern Jukebox

最後に、YouTubeのジャーナリズムとして、Vox (4.1M)は見逃せない。ワシントンポストにいたメンバーが独立し、「説明するメディア」を標榜して始めたVox。図を多用して、短い時間にテンポよくまとめる技術は、他の追従を許さない。

Vox

切りがないので、一旦この辺で。実際はもっと無数にある。デザインや建築系、テック系については、また別途記事をまとめたい。

より良い動画に出会うために

玉石混交なコンテンツの中、自分の欲しい情報を継続的に摂取するには多少のコツが必要になる。基本は次の3つ:

  • 有用なチャネルを購読する
  • 自動再生をオフにする
  • 「人気」タブは基本見ない
より良い動画に出会うための、3つのコツ

メモ: もう一点「広告を消す」というのも重要になる。ただ、YouTube Red (今後YouTube Premiumに移行する) の国内展開はまだ発表がないため、ここでは省略する。
追記 (2018/11/14): 日本国内でも、YouTube Premiumサービスが開始され、広告非表示が正式に可能になった。

面白い動画があったら、同じチャネルでまた面白い動画に出会う確率が高い。迷わず、チャネルを購読しよう。目安として、100チャネルくらい購読していると、毎日、安定して情報が入ってくる。「自動再生」は便利なようで、不便な機能だ。だんだんと、人気のある(=再生数の多い)動画に収斂してしまい、つまらない。これは、必ずオフにしておく。長々と不要な動画を見ずに済む。

メモ: ニュース系だけは例外で、一日の発信数が多すぎて邪魔になる。購読せず、見たいときはそのチャネルに行けば十分。

タイムラインを鍛える

YouTubeの「ホーム」(タイムライン)には、オススメ動画が流れてくるが、これには3つの要素が影響している。

  • どの動画を見たか
  • どの動画に「いいね」したか
  • どのチャンネルを購読しているか

面白かったら 👍、興味なければ 👎。もし👎するのに忍びなければ、履歴から消してしまう手もある。動画を見るだけでも学習はされるので、基本的には見れば見るほど最適化される。

Chromecastを使う

ここまでの説明は、iPhoneやAndroidでのYouTube再生を前提にしている。おそらく、この記事をここまで読んでくれた人の大半も、スマートフォンから見ていると思う。小さい画面で見るのもいいけれど、自宅に大きなTVがあるならぜひChromecastを導入してほしい。YouTubeがずっと使いやすくなる。逆に、Apple TVや他のセットトップボックスはまったくオススメできない。(少なくともYouTubeを見るのには)

最後に

もう30代後半の筆者だが、習慣的にYouTubeを見始めたのはこの3年ほどだ。いわゆる「ユーチューバー」が苦手で、それまではずっと避けて来た。Peaceful Cuisine が良い意味でその固定観念を壊してくれたが、同様の質の日本語コンテンツにはなかなか出会えていない。一方で、あきらめて英語中心に切り替えてからは、非常に満足している。すっかりYouTubeっ子になってしまった。

「Nスペ」ことNHKスペシャルを見て育ったけれど、地上波から離れてもう20年が経つ。出張先のホテルでたまに開いても、ガチャガチャしていて見るのが辛い。なので、最近のNスペは見ていないけれど、往年のNスペを楽しんだように、今の私はYouTubeを見ている。

時代が変わって、TVがYouTubeになっても、家族や友人と一緒にコンテンツを楽しめるのは幸せなことだと思う。久しぶりに、アインシュタインロマンが見たい。

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Tsutomu Kawamura

A programmer. A product designer at Librize. I opened OpenSource Cafe in Shimokitazawa (Tokyo) in 2011. Now building the second place in Shiratori (Chiba).