さよなら日本語キーボード
USキーボードのための「三角かな配列」の提案
Tl;dr
日本語キーボードにお別れを。
かな打ちは「三角かな配列」で延命を。
学習指導要領にローマ字入力が採用されてて久しく、かな入力はすっかり異端になってしまった。たまに「かな打ち」に出会うと、それだけで意気投合できるほどには稀だ。かな打ちに悪人はいない。
その一方、一般的な国内向けPCのキーボードに、2019年現在もカナ刻印があるのは不思議でしかない。因襲に凝り固まった日本社会も、この点だけは「かな打ち」という多様性への優しさで満ちている。
しかし、そろそろそれも限界ではないだろうか? 以下の問題は、この数年特に顕著になってきた。
- ローマ字を打つのにカナ刻印が邪魔 (特に小学生の初学者にとって)
- 国産メーカーの後退と、日本語化されない海外ハードウェア
かな派のためにも、ローマ字派のためにも、もう我々はJISキーボードから卒業して、次を考えるべきときに来ている。
英字キーボードを使う
実際、JIS配列を避け、US配列を使っているプログラマは昔から多い。US配列は、プログラミングで多用する中括弧など記号の配置が自然だ。不要な刻印がないのも好まれる。しかし、かな打ちにとってはUS配列(101キー)への移行は鬼門だった。とにかくキーが足りない。JIS配列(106/109キー)と比べると少なくともキーが5つ不足する。
この問題への挑戦は古くからあり、新JIS配列や花配列などさまざまな提案がなされている。簡単にQWERTYの部分のキーを比較すると、
- JIS: た/て/い/す/か/ん
- 新JIS: そ/け/せ/て/ょ/つ
- 花配列: ょ/て/と/こ/は/ っ
となり、JIS配列とはまったくの別物だ。それぞれ、効率的な打鍵のために設計されている。しかし、使用者数は親指シフトと比較しても限定的だ。
筆者も新JISを数ヶ月に渡り試したが、常用に至らなかった。大多数を占めるだろう、私のような「ライトなカナ打ち」にとって、完全に新しい配列では(ローマ字配列同様に)なかなか手が出ないと思われる。非ガチ勢のための配列はないのだろうか?
三角かな配列
筆者の試行錯誤の中で見えてきたのは、次のような要請だった。
- カナについて、JIS配列をなるべく維持する
- 記号について、US配列との統一感を優先する
- 101キーに収める
これを満たすよう筆者が作成したのが、副題に挙げた「三角かな配列」(下図)だ。
JISからの変更を色のついたところのみにして、最低限の変更にとどめた。(つまり、大したことはしていない。見ての通り、ほぼほぼJIS配列)
US配列では「む」「ろ」にあたる物理キーがない。また、小型キーボードだと「へ」「け」にあたるキーも、省略されることが多い(その場合、ファンクションキーとの併用になり押しにくい)。そこで、これらのキーに絞ってシフト側に配置する。これらは左手側の三角形の範囲に割り振られるので、最低限これだけ覚えれば良い。字形の類似を優先した。
- Shift + す = む
- Shift + し = へ
- Shift + は = ほ
- Shift + さ = け
- Shift + そ = れ
- Shift + ひ = ろ
あわせて、右端の記号キーを調整する。
- [ = 濁点
- ] = 半濁点
- Shift + [ =「
- Shift + ] = 」
- - (ハイフン)= ー (長音記号)
JISでは縦に配置されていた鉤括弧だが、英字の中括弧にならい横配置とした。長音記号はハイフンに割り振ったが、ここは本来の「ほ」の位置なので、なれが必要かもしれない。
また、先程の図で緑のキー「,」「;」は 濁点・半濁点・小文字のトグルとした。
付記 : 近い研究に、JISかな+が挙げられるが、US配列との相性と、シフト側の変更が多い点で、(筆者の)ニーズからは少し外れる。
実際に使ってみる
まず、US配列のキーボードを用意しよう。この配列を使うのに、特別なソフトウェアやレジストリ変更は必要ない。Windows/Macともに、Google 日本語入力のキーマップ(正確にはローマ字配列)をカスタマイズするだけだ。簡単に試せるよう、設定データをGitHubに公開した。次のリンク先をダウンロードしてみてほしい。
- 設定データ: romantable-sankaku-jis.txt
設定にあたり、入力モードとして「ローマ字(Romaji)」を選択するのがポイントだ。実際には「かな入力」だが…
設定画面の下の方にローマ字テーブルのカスタマイズボタンがあるので、そこをクリック。「編集(Edit)」ボタンから「インポート」を選び、先程ダウンロードした設定データ(romantable-sankaku-jis.txt)を指定する。設定を「適用(Apply)」したら、適当なテキストエディタで試してみよう。先程のキーマップの通り、入力ができると思う。
さあ、これでもう将来は安泰だ。今まで見送っていたUS配列の海外機種だって、選ぶことができる。
付記: 慣れるまで、キートップにシールを貼るなどの対策は考えても良いかもしれない。配列に慣れるより、カナ刻印のないキーボードに慣れる必要がある。ただ、この配列の対象者は「かな入力」が染み付いてしまった人たちなので、戸惑うとしても最初だけだろう。
JISキーボードに未来はない
小学生の初学者にとって、JISキーボードのUI/UXは凶悪である。「あ」と打ちたくて、「あ」と書かれたキーを押すと「3」が出てくる。ローマ字を覚えるまで日本語を入力できないのは、百歩譲って仕方ないとしても、カナ刻印は彼らの思考の妨げになるだろう。来年から小学校のプログラミング(的思考)が必修化されるが、教育現場に降り積もるストレスがまたひとつ増えてしまう。
また、この十年、国産メーカーPCは事業規模を縮小してきた。韓国(Samsung, LG)・台湾(Asus)・中国勢(Huawei, Lenovo)が台頭したことは言うまでもない。その結果、日本に投入されないモデルが非常に多くなった。日本語化されるのは、各社の機種のうち半分も行かないのではなかろうか。「技適」も障壁ではあるが、コストを押し上げているのはキーボードだ。本体とキーの金型を日本市場のために別に作るなら、それなりの売上が必要となる。この右肩下がりの市場でそれを期待するのは難しいし、そもそも必要なのだろうか。今までだって、ローマ字入力ならUS配列で十分だったのだから。
5年後、日本語キーボードを搭載したPCはどれだけ生き残っているだろう? かな打ちだからという理由で、PC選択の自由が奪われてしまって良いのだろうか?
まとめ
- JISキーボード(106/109キー)は、もう要らない子
- かな入力でもUS配列への移行は可能 → 三角かな入力
海外PCメーカーへの期待 — キーボードに余計なコストかけなくて良いし、海外通販でも構わないので、技適だけ通してもらえると助かります 🙇♂️
補足 (1) — IMEのオン/オフ
配列とともに問題になるのが、IMEのオン/オフ(半角全角切替)だ。Windows側の設定としては、言語切替には「Win + Space」や「左Alt + Shift」のショートカットを使うことになっている。しかし、日本語IMEは内部的に日本語と英語(直接入力)を切り替える方式を長年取ってきた。そのため、これとは別に、Google日本語入力のキーマップ設定に、次のような設定を加えている人が多い(多分)。
- [直接入力] Shift + Space → IME オン
- [入力文字なし] Shift + Space → IME オフ
標準でも、Alt + ~(チルダ) が半角全角キーとしてアサインされているので、それを使っても良いが、少々押しにくい。要レジストリ変更だが、シェアウェアを使って、Caps Lockや、右 Alt あたりに割り振っている人も見かける。筆者はCaps Lockの使用頻度が低いので、Caps Lock派だ。
補足 (2) — 小型キーボードへの展開
この配列は、小型キーボードで使うことも想定している。右端のキーは、省略されたり、変則的な場所に動かされることが多い。最近発売された、小型PCのOne Mix 3の場合はどうなるだろうか。下図にそれを示す。比較的、順当な配置に収まっているように思う。
補足 (3) — 他言語のキーボードは?
JIS配列は 106/109キーを必要とするが、他の言語はたいてい101/102キーに収まる。中国語にしても、ピンイン入力、注音輸入法、蒼頡輸入法のいずれも101キーで足りてしまう。例外は、韓国(103キー)、ブラジル(104キー)など。
※著者注: 初稿の「はんそくカナ配列」から改良版である「三角かな配列」に内容を改稿しました。「はんそく」についてはGitHubに記録を残しています。(2020年1月)