プログラミング教育は割と大丈夫かもしれない — 但しChromeが入れられればね。

Tsutomu Kawamura
Feb 8 · 14 min read

先ほど、地元の小学校の6年生の全児童を対象に、プログラミングの「体験」授業をしてきた。受験シーズンで欠席がちらほらあったが、3クラスで合計90人ほどが参加した。放課後ではなく、正規の授業枠である。

CoderDojo仲間の田中さん。一緒に、授業してきた帰り道。

対象とした小学校

世田谷区の公立校で、今年度利用を開始した新校舎のため、インフラは恵まれている。渋谷区のように児童全員にPCがあるほどではないが、無線LANの速度などは十分と言えそうだ。

  • 世田谷区の公立小学校

実は私の母校でもある。’90年当時、FM TOWNSが2台放置されていて、よく遊んでいたのを覚えている。30年経ってタブレットに替わり、一般教室でも使えるようになった。今も、授業外で使う余地は残されているのだろうか。

スマートフォンについて、学校には持ち込みできないが、塾通いが始まると持たされるのが通例らしい。少なくとも、児童個人のスマートフォン普及率は、家庭のPC普及率を超えている

※スマートフォンと英語については、複数の父兄からの伝聞。鵜呑みにしてよいかは不明。

授業までの経緯

筆者は、大学で教壇に立つこともあるが、本職はプログラマであり、初等教育の専門家ではない。一方で、地域学校やコンピュータ教育との関わりは長く、今回お鉢が回ってきた。

  • 区立中学校のゲストティーチャー × 10年くらい

話自体は数年前からあったのだが、学校の統合にリソースを優先していたため、最終的に「今年度中に」ということになった。結果的には、インフラの整った後の実施になって、ちょうど良かった。

課外活動にしない

初回の取り組みとしては、教科との連携というところまでは考えず、CoderDojoの延長でできることを探るということになった。当初、放課後の課外活動からスタートするつもりだったが、2020年度の実施が差し迫っていることもあり、通常時程の中でということになった。6年生で様子をみて、次年度以降、他学年での対応を考えることになるだろう (考えるのは校長先生だけど)。

希望者のみとすると、興味のある児童しか集められないが、通常時程に組み込んだことで「全体像」がつかめるはずだ。この違いは大きい。


思いのほか、スムーズな授業

学校の先生やCoderDojoの面々との数回の相談を経て、簡単な指導案を用意し、授業に挑んだ。学校運営委員としては、月に1度足を運んでいるものの、「先生」として訪れるのは初めてだ。少々、緊張する。同行の田中さんと控室でそわそわ待つことしばし、6年生の女の子が迎えに来てくれた。「プログラミングの授業お願いします」と言うところ、「プロプラえーっとなんだっけ」になっていて、ほどよく気持ちが緩んだ。

教室につくと、30人がWindowsタブレットを開いて待っている。簡単な自己紹介の後「日直の号令」が入る。そうそう、小学校ってこういう感じ。

「それでは4時間目の授業を始めます。よろしくお願いします!」 「こ、こちらこそ、よろしくお願いします」

おっかなびっくり始めたこの授業も、蓋を開けてみれば非常にスムーズだった。最初に最低限「アンプラグド」な説明をして、Code.org 主体で進める計画だったが、ほぼ指導案に用意した時間配分でことが進んだ。

基本的にはアングリーバードの迷路を使い、進行具合や経験者の割合を見て、アナ雪ゾンビフラッピーあたりを投入する。CoderDojoでもよく見られるパターンだ。

指導案からの抜粋

アンプラグド

要は小芝居だが、実際やってみると必要性を感じる。Code.orgに触る前に、プログラミングとは何かを考えるきっかけとして挿入した。最初は「人間」の田中さんに、

「田中さん、こっち来てください」 「はい」(部屋の角から角まで歩く)

続けて、

「それでは、これからロボットモードに切り替えます。田中さん、こっち来てください」 「・・・」(無反応) 「動かないですね。今の田中さんは3つのお願い(命令)しか受け付けてくれません」(次のパネルを提示)

  • 前へ進む

「それじゃあ、前へ進む」(田中さん、移動) 「みんな、次はどうしようか?」 「(児童) 左へ曲がる!」(田中さん、回転)

…このような流れになった。2, 3分でできる範囲で、コンピュータに日常言語が伝わらない、という気付きができれば十分だろう。児童たちが、ちゃんとノッてくれてほっとした。(AlexaやSiriの影響があるので、「ロボット」の比喩がいつまで有効かは不安)

机の配置が大事

事前にシミュレーションした際に、先生のお一人から「4人ずつ横並びで配置しましょうか? 普段の授業でも並び替えは良くやるので大丈夫ですよ」と、提案をいただいた。これがまさにアタリだった。下図のように配置した結果、次のような結果を得た。

  • 児童の横連携がとりやすく、互いに教え合う姿が見られる

横4つが、互いに画面の見やすい限界の距離だ。前後になってしまうと、後ろを振り向く児童が集中を乱しやすい。また、サポートで移動する動線が切られてしまう。さすが、現場の先生。横配置が最高でした。

なお、グループ内の協力(おしゃべり)をOKとしたせいか、長距離 (教室の端と端) のおしゃべりはそれほど発生しなかった。担任の先生の睨みが効いていただけかもしれないが。

経験者のラベル付け

普段、下北沢のCoderDojoでは6人に対して大人2人以上の体制で実施している。それが、今回は30人の児童に対して、教える側が3人しかいない。これで回せるか不安だったので、ひとつ策を弄する事にした。筆者が大学の授業でも使っている手で、得意な人を可視化するのである。

授業の初めに、プログラミング経験の有無(詳細は次節参照)を聞き、2,3割の児童の袖に、黄色いガムテープ(跡のつかないもの)を貼らせてもらった。これで、計算上は、1人あたりのサポート人数が3人ほどに減る。

このラベル付けは、進捗に差が生じる演習では効果的だと思う。

  • ラベル付された児童: 教える側に回ることで、深い理解に繋がる

「黄色いテープを貼っている人は、周りの人が困ってたら様子見てあげてね」と随時呼びかけると、進捗が速くて暇しかけた子が、ちょこちょこ隣の子を手伝っていた。途中からは、テープを貼っている子もいない子も互いに教えあっていたので、期待以上である。

プログラミング経験はどのくらい?

以下、記憶頼りのざっくりとした数値だが雰囲気を伝えるには十分だろう。定量的というよりは定性的に捉えてほしい。

  • クラスA: 継続的にプログラミングをやっている児童はほとんどいないが、Scratch経験者が一割。「スクラッチでゲーム作った」「ドローンを動かすプログラミングをやった」など。マインクラフトのレッドストーン回路を組んだことがある児童が1割。

いずれのクラスもScratch経験者が1割ほど。クラスBについては、おそらくHour of Codeと思われるがプログラミング体験の経験者が明らかに多い。

経験者対策の加減が難しい

クラスA, Cは経験者が少数派でコントロールしやすかったが、Bは半分くらい「経験者」という雰囲気になってしまった。個々の様子を細かく見ていると、「やったことがある = できる」でもなかったのだが、初めて体験する児童も含めて「わりと簡単そう」という意識が広がり、若干の浮つきを生じた。

たとえば「アングリーバードの迷路」で初学者が躓きがちなのは、繰り返しの登場と、グレーのブロックが出てくるあたりだ。ここを越えるには集中力がいるが、ここ次第で「アハ」体験の有無が決まってしまう。クラスの雰囲気が浮つくと、ここで躓いたときに、ふらふらっと別の課題に移る子が現れる。経験者なら、好きな課題をやる方が効率が良いので、基本的には構わないのだが、初めての子は最初の課題に集中したほうが望ましい。

クラスBについては、経験者の多さゆえに、その点ガードしきれなかった感があり、指導手順に改善の余地がありそうだ。

継続学習を促して、次回へ

各授業、最後は「もっとやりたい」という子をなだめるように終えた。クラスによっては、担任の先生が「画面ロック」を行使して「ぎゃーっ」という声が児童から上がっていた。

「みなさん、大事なお知らせがあります。Code.org は無料で家でも続きができます」と告げると、「え、まじで? すげー」とか素直な声が上がる。自宅にPCがあるとは限らないが、学校のPCを借りる手もある。参加した児童の何人かはきっと授業外でも触ってくれると思う。

次回の授業では、Scratchに挑戦する旨告げて、今日の授業は終了となった。なお、「どこからはじめよう? プログラミング!」と題した学習地図を作成し、授業中に配布した。

授業中に配布した資料

1日目を終えて

ここまでを総括すると、以下のように言えるだろうか。

  • CoderDojoの知見は、そのまま小学校でも生きる

結果は非常にポジティブである。想定シナリオの中でも最善に近く、まだ2日目を残しているものの、ほっとしたのが正直なところだ。

教室の様子

大変だったのは、準備の方

当日が順調だった一方で、準備までが大変だった。6年生に2月実施、通常時程の中の2コマ、Code.org と Scratch を中心にするという基本路線が決まったのが昨年の10月頃だ。

それ以前から Google Chrome の環境整備を頼んでいて、それができたら実機シミュレーションをしましょう、という話をしていた。Windows 8 のタブレット端末にChromeが入っていないのは、事前調査で判明していたので、「Chrome入れないと授業にならないですよ」と口を酸っぱくして伝えた。しかし、10月はおろか、11月、12月になっても世田谷区の教育委員会 (の担当部署) からOKが来ない。

学校の端末に、教育委員会の許可なしに何もインストールできない「非常識」については、前々から認識していた 。だからこそ、実施の半年前から「Chromeを」と言っていたのだ。ご存知の通り、Internet Explorer はすでに開発が止まって久しく、Code.org も Scratch も動作しない。

実施できないかもしれない…

さすがに、年内に入らないと、準備に支障が出てしまう。学校の先生に非はないのだが、このままだと「実施できない。降りさせてもらう」という話をせざるをえなかった。幸い、先生とは問題の危機感を共有でき、教育委員会に働きかけを強めることができた。

年明け、やっと色よい返事が来た。これで授業で使える。しかし、噴飯ものなのは、Chromeをインストールできるのは授業の直前で、直後にはアンイストールするという。世田谷区は、本当にプログラミング教育を推進する気があるのか!?

それでは事前の環境チェックが間に合わない。なんとか、無理を通して1週間前までのインストールを確約してもらった。

  • 回線の速度確認

ほか、確認事項は多い。もし、授業で使えない状況だった場合は、何か次善策を考えなくては…。

良かった、動く!

しかし、幸いにして、インフラ面での問題もなく、実機での一通りの動作確認ができた。Chromeもインストールされている。自信を持って、授業になりそうだと思えたのは、実施1週間前の夜だった。やっと指導案づくりにとりかかれる。その後の当日の様子については、前述のとおりだ。

Chromeについては、学校の先生が予備機も含めて40台分を、1台1台、放課後の時間にインストールしてくれたのだそうだ。これをまた、再来週にアンインストールするとはなんとも悲しい。子どもたちにも、学校での継続学習の道が閉ざされてしまう。

今回、明らかに教育委員会側に「Internet Explorerでは、プログラミング授業が成り立たない」という認識がなかった。Code.orgほかを使うことも伝えていたが、IEで実施してくれの一点張りが長く続いた。他校でも、プログラミング授業の研究は進めているはずだが、おそらくWindowsアプリケーションを別途インストールするタイプでしか試行していなかったのではないだろうか。

全国の公立校でブラウザの確認を

この状況は、おそらく世田谷区に限った話ではないだろう。2020年度の実施まで、残すところ1年。全国の自治体で、最低限デフォルトブラウザをChromeないしFirefoxに変更し、環境を整える必要がある。このままでは、多分、いざやろうとして各地で悲鳴が上がる。

全国自治体の教育長さん、プログラミングが大事だと思うなら、予算かける前にまずはブラウザなんとかしてください。そして、できれば、PC環境の自治権を学校に与えてあげてください。

まとめ

子どもたちの適性であったり、本質的な部分では、今回「心配しなくて大丈夫だな」と思えた。短い時間でも、十分に楽しんでいたし、それぞれ何かを発見してくれたと信じている。

一方で、課題点もいくつか浮き彫りになった。

  1. ブラウザ問題 (Chromeほか、モダンブラウザが必要)

近年、自宅にPCがないケースは増えてきている。学校内で続きができる場所が必要だろう。コンピュータルームが全国から消えつつあるが、タブレットは児童が気軽に借りられる体制になっているだろうか? 学校図書館に、児童が随時使える端末は確保されているだろうか? あるいは、地域の図書館にその受け皿はあるだろうか。興味をもった子どもたちが、作業できる場所のリストアップが急務だ。

もちろん、教える人材の確保であったり、CoderDojoほかボランティアとの連携であったり、これからの一年でやるべきことは多い。でもね、とりあえず言わせてください。

「Chromeを入れろ! 話はそれからだ。」

Tsutomu Kawamura

Written by

リブライズの工場担当。下北沢オープンソースCafeのマスター。本当はプログラマーらしいです。